8月5日:釧路〜摩周湖〜網走


摩周湖まで

 昨夜の心地よい酔いも手伝ってぐっすり眠ったため、朝5時10分に目が醒める。外を見ると曇りである。ただ、昨日のような雨の心配は要らないようだ。
 取り敢えず荷物の整理にかかる。
 頭の中で、今日の行程を考える。『塘路(とうろ)湖→弟子屈(てしかが)→摩周湖→小清水→網走・・。屈斜路湖、津別峠はどうしようか、標津(しべつ)に出て知床まで行こうか・・・。』などと考えつつ、大体のところは、今夜の泊まりは網走と決めている。それならば、今日もゆっくり行程の網走終点と決めた。
 ホテルのチェックアウトは午前8時に終了。荷物を先ず車に整理して積み込む。そして車は駐車場に置いたままで、「和商市場」に出かける。
 朝飯を食べるためである。


 一番奥にあるところで250円のご飯を買う。おわん型の発泡スチロールの器に料金分のご飯がのる。あとは市場内にある各魚屋で、好きなものを買えば良い。ぐるりと回りながら、大とろ、烏賊、いくら丼にした。吸い物はご飯を買ったところで「蟹の味噌汁」、デザートは「夕張メロン」となった。

 もちろん妻も負けてはいない。ご飯こそ少し少なめの150円のものだったが、海胆と烏賊とマグロのとろの海鮮丼としている。味噌汁とデザートは同じである。
 場内にある椅子とテーブルを利用してゆっくりと朝食を楽しむ。われら同様の中年夫婦が若い人たちに、どうしたらそんな風に食事ができるのかを聞いている。

 食事の終了後は、市場内の見学である。あちこちの店を回った後、和商市場の裏手にある釧路朝市に行ってみる。こちらは野菜・果物が中心で農産物市場といったほうが良いのかもしれない。和商市場の海産物市場とは対照的である。
 ここでは、トマトとスグリ、それにプラムを購入した。途中で食べながらというアイデアである。

 そして、出発。
 釧路市街地を抜け、国道391号線にはいる。
 遠矢(とおや)市街を少し越えたあたりで左に折れる。ここから釧路湿原を展望すべく岩保木山に登るのである。岩保木山がだめでもその先に細岡(ほそおか)展望台がある。しかも途中は約9kmに渡るダートである。四輪駆動車である我が愛車をたまには四輪駆動車として使わなければ申し訳ない。そのためにはやっぱり石ころゴロゴロ、ぬかるみ、くぼみのたくさんあるダートを走る必要がある。
 岩保木山はほぼ頂上のところで雨が強くなりとても展望ができないと判断して、右に折れて、細岡方面に直行。
 こにきて急に天気が悪化してきたのである。朝などは雲の晴れ目に青空なども覗いていたのに、今は暗黒の低く垂れ込めた雲が空一面を覆っている。しかも、ポツリポツリと雨も降り始めている。当然、視界も悪く、本来なら見えるべき湿原が殆ど見えない。わずかにやることといえば、道端に可憐な姿で咲いている花々を撮影するくらいである。
 ダート道が終わったところが、細岡の展望台だった。車を良く整備された駐車場にいれたのだが、展望台近くの道端にやたらに車を駐車しているのが目立った。ルール違反はダメ!と思いつつ、細岡ビジターズラウンジで休憩。そしてわずか数百メートルのゆるいのぼり道を経て、展望台に。
 雨は殆どあがっているのだが、湿原は遠くまで見渡すことができない。ただ、比較的近いところに釧路川の蛇行している様子が見え、湿原が尽きるあたりはかすんで何も見えない。
 再びビジターズラウンジに戻り、再度休憩。このラウンジから道路ひとつ隔てたすぐ下のところにJR釧路本線の釧路湿原駅がある。5月〜11月に限っての営業なのだが、車でドーンと走り回るよりも、このあたりは鈍行列車に乗ってゆっくりと草原の風などを受けながら走るほうが良いのではないかと思う。
 細岡からと塘路に抜ける道で、マタタビの実と蔓を採取。これは我が家のドラ猫どもへのお土産とした。

 達古武から再び国道391号に入り、途中でJR塘路駅(駅の前で若い女性たち数人が自転車を組み立てており、今から道内観光を自転車でするようで、実にうらやましかった。また、駅の右手にカヌー教室があり、天気が良ければカヌー体験をしたかった。)、磯分内駅(駅前、といっても本当に駅前、駅から歩いて数十歩のところに温泉着き分譲地があった。この磯分内駅の周りはどこでも温泉を引いているようだ。)と寄り道をしながら、標茶をとおり道の駅「摩周温泉」に到着。ここでまだ11時過ぎである。道の駅ラリーのスタンプを押し、今度は摩周湖である。


 美留和を抜けて川湯温泉の手前で道道52号に入る。あとは道に従って走れば、一気に摩周湖第三展望台に到着するのである。つづら折れとなり始めたところで、キタキツネに遭う。
 登りの道だったものだからあまりスピードを出さずにトロトロ登っている道端に突然キツネが飛び出してきたのである。前後に車が来ないので、静かに車を止めてキタキツネを観察することにした。
 キタキツネは1匹ではなく、2匹いて後ろの盛り上がった熊笹の中から出てきてようである。われわれにつられて摩周湖から降りてきた車や、下から上がってきた車も道端に駐車してキタキツネを見ている。さすがに一番最初に駐車していたので、渋滞の原因作りをするわけにもいかず、われわれは早めにその場を逃れて、第三展望台へ登ることとした。


 第三展望台につくころには小雨が強くなってきた。これは殆ど期待できない状況である。霧もかなり濃く、フォグランプをつけての走行となった。
 第三展望台の一番奥の駐車場に車を止めて外に出ると寒い。わずかに小雨が当る。霧は深い。
 レインギアを着たあと、道を越えて展望台に登ってみる。湖から吹き上げてくる霧で寒いのである。風はかなり強く、湿気を含んでいて冷たい。湖は全面霧・霧・霧で、自分の立っている展望台の足元から湖に落ち込んでいる急坂の途中くらいまでしか見えない。まさに霧の摩周湖である。
 これで勝率(摩周湖を見にきて見ることができた回数)は更に低下することになる。過去5回摩周湖を見ている。何れも第一及び第三展望台から見ているので10回ということになる。最初の8回は完全勝利で、霧一つ、いや、雲一つない晴天の湖、全部を見渡して勝率10割ということだったが、一昨年訪れたときに、第一展望台にも第三にも振られてしまい、結局今までの成績は、10戦8勝2敗という状況である。

 そんなしょうがないことを考えつつ、霧の摩周湖をデジカメに撮り終えて、カメラをしまった直後に、なんと!!!!、あれだけ深い霧に包まれていた摩周湖が、一瞬(15秒ほど)ではあったが、スッキリと晴れ渡ったのである。しかも湖全部を見渡すことができたのである。急いでデジカメを出したのだが、撮影体制が整うまでに摩周湖は再び神秘の霧に覆われてしまった。さすがに傍で震えながら見ていた妻も感動の声をあげて「良かったね!!」を繰り返していた。
 第三展望台から、国道391号に戻る道を走りながら、ひそかに『これで11戦9勝2敗・・・勝率は8割2分と若干上がった』と思った。

 次に目指すのは小清水町の原生花園である。このまま391号線を北に向かえば、国道244号に出る。ここで左折をすれば良い訳だ。ただ、屈斜路湖や津別峠の展望も気になるのだが、今回は見送ることとして、一気に走りぬけることにした。
 ちょうど10年前も同じ道路を通って、知床半島を横断したことがある。ただ、そのときに比べると森が深くなったような気がする。そのときは391号から334号を通り斜里に出て、斜里からウトロ、そして知床峠を越えて羅臼に下る道を選んだわけだ。知床峠では、子供たちと知床5湖をハイキングして回ったのが未だに記憶に残っている。


 海岸沿いの道(海は見ることができない)を走り、JR釧網本線の原生花園駅傍にある小清水原生花園インフォメーションセンターの駐車場に車を止めて、早速散策開始。
 先ずJRの駅から登り、小さな展望台の「展覧の丘」で記念撮影。さらに、誘導柵に従って、しばらく散策し、最後はオホーツク海の浜辺に到達。柵内の道を通って戻ることとした。
 ここで実際に観察できたのは、ハマフウロ、ハマナス、カワラナデシコなどであった。パンフレットによれば、やはりここの見時は7月の上旬のようである。センダイハギ、ヒオウギアヤメ、エゾスカシユリ、エゾキスゲなどの花が咲き乱れる時期なのである。今回はやや時期を逸した感がある。

 最後にこの「展覧の丘」から全体の様子を撮影しようと思って、カメラを合わせたところ、どこかで見た風景であることに気がついた。左の写真と全く同じ景色を見たことがある。しばらく考えて、やっと分かった。
 昭和30年代(昭和33年〜39年)に父親が北海道に転勤したときに、あちこちで撮ってきた写真の1枚とまったく同じ場所なのである。当時の写真はモノクロで、写真の裏書に「原生花園」とだけあってそれだけではなんだか分からないものであった。ところが、いま、この場所に立ってみてはじめて、写真に撮っている場所とその写真の裏書が一致したのである。40年という年月が流れたにもかかわらず、この場所が昔と全く変わっていないこと、父親も同じ場所に立ったということにひどく感動したのである。

 そして、今日の最後のステージ、網走へ走ることとした。網走では、まだ泊まる場所を決めていない。国道244号を海岸沿いに一気に網走にはいる。右手にオホーツク海を見ての走りである。網走の市街地に入ったところで「北海道立オホーツク公園てんとらんど」への道路標識が目立つようなる。「てんとらんど」と言う言葉から「キャンプ場」があるのではないかと想像する。地図を見ると「天都山」というのがあってそのあたりの場所が公園となっているらしい。と言うことは「天都」と「てんと」を掛けてあって、それに「テント」まで引っかかっているとはどうしても思えない。
 しかし、今年新調した北海道の地図、スーパーロードマップの都市別の地図で再度確認すると「オートキャンプ・てんとらんど」となっている。これに勇気付けられ、地図に従って行ってみると山の頂上あたりにこのキャンプ場が広がっている。入り口は管理棟で許可を得たものしか入れないように、カードの抜き差しによるゲートの開閉を伴うもので、かなり管理がしっかりしたところである。

 管理棟の前に車を止め、中に入って、キャンプの許可を受けようとしたところ、「本日は、あいにくフリーサイトもプライベートサイトも満員」とのこと。残念・・・と思いつつ帰ろうとすると、奥の席に座っている男性が担当者に向かって
「今日○○のサイトはキャンセルになったんじゃないの?」
といっている。
受付の女性が急いで予約状況を再確認、
「大変申し訳ありません、プライベートサイトなら一つ空いていますがそれでよろしいでしょうか」
どこでもいのである。すぐに快諾して、諸手続きを済ませる。そしてキャンプを行うにあたっての注意事項の説明を受けた後に、サイトの案内図をもらって、ゲート開閉用のカードを受け取ってキャンプ場にはいった。自動車ではいると殆ど全て一方通行で安全にも配慮しているのがわかる。


 指定されたサイトを見つけて驚いてしまった。広いのである。このプライベートサイトなら、大型の六人用テントでも楽に4つは張れる。しかもそれでも充分に余裕のある広さである。地面はしっかり手入れが行き届いた芝生。ピチッと刈ってある。炊事場も各サイトに一つずつ付いていて、掃除が行き届き実に清潔である。また電源もついていて電気釜などを持ってくればいつでもご飯OKという状況である。もちろん焼肉器やトースターなどの電化製品OKということである。これは超A級のオートキャンプサイトである。
 車をサイトの指定された駐車スペースにいれ、テント、タープを運び出す。先ずは寝る場所の確保である。立ち上げたテントのなかに寝袋、エアマット、グランドシート等をぶち込む。そしてタープを張って食事場所とお酒呑み場所の確保だ。


 次にテーブル、イス、クーラー(このなかはお酒で満ちている)、調理器具、ガスランタン等々を取りだし・組み立て、万全のキャンプ体制を作る。
 全てが完成すれば、やることは一つである。ビールで乾杯ということになった。
 ビールを呑みながら、全体を見まわすと、テントを張るサイトとしては3段に分かれていて、一番下がフリーテントサイト、2段目と3段目がプラスベートサイトとなっている。
 たまたま今回は3段目に張れたことから、実に見晴らしがよい。遠くにオホーツク海を望み、更に右手の方には知床連山が見えるのである。
 風は、冷たくて実に気持ちがよい。最初のビールの500mlなど殆ど一気で呑んでしまう。
 もちろん食事もしなければならないので、ビールなどを片手にもちつつ、ご飯を炊き、カレーも作る。
 酒のおつまみは今朝ほど釧路の和商市場で仕入れてきた果物である。ツマミには、その後、できあがったカレーなども追加され、いつしか飲み物はビールからワインへと変わっていった。  結局、お喋りをしながら、そのあと2人でワインを2本あけてしまったのである。