8 月 9 日
宗谷〜宗谷岬〜浜頓別
−−− 宗谷岬まで −−−
午前3時15分起床。外はまだ暗い。
キュンキュンキュンと汽笛を鳴らしながら、宗谷港から次々に小さな漁船が出航していく。ウミネコの声が聞こえる。漁船のマストに着けた小さな明かりで、堤防を回りこんで外海に出て行くのが分かる。
6時近くには多くの漁船が港に戻ってきている。戻ってきた漁船を見に浜に出てみる。海岸からウインチで引き上げた船には幅広の茶色の昆布が山のように積んである。これを船から引き下ろしている最中であった。
あちこちの浜で同様の風景が展開しているが、何れも夫婦あるいは家族での作業である。船から一箇所におろされた昆布を、自分の干場の数カ所に分けて置く。これを今度は一本ずつ伸ばしていくのだ。天気が良いのでかなり早い時間で干しあがるようだ。そういえば昨日、宗谷に来るときにも、浜から干しあがった昆布を沢山持って倉庫に運んでいる子供達の姿を幾度も見た。
こんな風景を暫らく見ながら、朝の気持ち良い太陽の光と海からの潮風をたっぷりと体中に浴びて宿に戻る。布団をたたんだあとに、自転車で走るために荷物を整える。これが全て完了してまだ午前6時40分過ぎだ。一階に行って今から食事ができるかどうかを確かめたところ、
「用意は全部できているから良いですよ!!、じゃあ、今から味噌汁を温めるからネ」
ということで、当初予約していた7時30分からの朝食の予定を,6時45分からに早めてもらった。昨夜の夕食と同様にボリュームのある食事で、魚の煮付けが美味い。朝の味噌汁も最高だ。食事を終え、宿泊費の精算。
午前7時20分、宗谷出発。
先ずは今回の旅の基点となる宗谷岬を目指す。宗谷集落は、最北端の宗谷岬の南南西5Km程度のところにあり、宗谷岬の周りの集落を除けば、日本最北端の集落となる。
道は北上を続ける。昨日と違って走りは軽快である。Gパンからツーリング用のショートパンツになっている。汗をどんどん乾かすためにポリエステル系のTシャツを着ているのだ。今回の北海道縦断の旅の出発は、実質的に今日がスタートとなる日なのである。
走り始めて最初にSpirit of Middle‐Agers号を止めたのは、「間宮林蔵渡樺出港の地」であった。目立たないくらいの観光案内と、左に折れる小道があって、その先には20台程度が駐車できるスペースが設けられている。そして、渡樺出港の碑は海岸沿いに立っていた。ここで記念の写真を撮り再び北上。幾度か小さな岬を回りこみながらも、ついに日本最北端の地、宗谷岬に到着。北緯43度31分14秒。まさに最北端である。
到着は午前8時ちょうど。旅館からはわずか40分の距離である。時間が早いせいか観光客が少ない。樺太を見つめる間宮林蔵の銅像の前の駐車場はバイクが10台ほどと荷物を満載した自転車が全部で3台(このうちの1台はSpirit of Middle‐Agers号)だけである。今は車がとまっていない。
みんな一人ずつでゆっくり写真を撮っている。当然ここで写真を撮らねばならない。みんながいなくなったところでタイマーをセットして走っていってポーズをとる。「あれ?」と思ってカメラに向かって歩き始めたところでカシャッとシャッター。
「しまった!」と思いながらもモニターで確認するとそれほどおかしくない。「まぁ。、スナップ風でいいか」とかってに決めてカメラをしまった。
このあと、「シャッター押すだけでいいですから」との一言で、単独行の人や恋人どうしと思われる何人かの写真を撮った。自転車に戻り、自動販売機でジュースを飲んで出発。
−−− 道の駅「さるふつ公園」まで −−−
今回の北海道縦断旅行の基点(起点)となる宗谷岬は、午前8時15分に出発した。
今度はというよりもこれからはずっと南下を続けるのである。風は左手前から吹いている。海からの風だ。大岬の集落を抜けるともう家がない。左手はオホーツク海、右手は草原。これからずっーと国道238号線である。
海岸沿いに風を受けながら気持ち良く走っていると、突然後ろから,同じ自転車旅行者に抜かれてしまった。相手は若い。自転車もツーリングタイプのスポーツ車である。タイヤが細く、スピードが出るタイプだ。荷物の量は変わらない。思い切って後を追いかけようにも、脚力が弱くスピードが出ない。無念の涙を飲みつつ、徐々に離れていく後姿を眺めながら、「やっぱり中年はだめだ!!瞬発力がない!!」と普段の自分の運動不足,不摂生を全く棚に上げて、「中年」を悪者にしている。
そんなこんなで,道が次第に内陸に入っていく。しかも長〜い上り坂に捕まってしまった。これは辛かった。はじめは元気に登り始めたのだが、だんだん足に力がなくなってくる。止まる訳にはいかない。ギヤを落とす。落とした直後は楽なのだが、それもなれてくると再び足に負担がかかってきたような気がする。更にギヤを落とす。こんなことの繰り返しをしつつ、心の中で幾度も「クソッ!なんでこんな目にあわなきゃならないんだよ?」と叫びながらも、何とか坂の頂上まで辿り着いた。
自動車は、それまで一台も出会っていない。殆ど通らないのだ。頂上で自転車を道端に捨て、水筒を持って一休み。
草原にひっくり返って青空を見ていると気持ちがいい。
今まであれほど苦しめられた坂の向う側に海が涼しそうに見える。
体力を奪うしかなかった風が、今は汗を流した体に心地よい。
数分間の休憩で体力は回復,気力は充実し、さっき道端に捨てたつもりの自転車を立てて、南に向けて出発。
今度は下り坂である。ずっと先のほうまで見通せるので自動車が来ないのが確認できる。この坂道はブレーキをかけずに下り降りた。あとで速度計を調べてみるとこのときの最高時速は52.2Km/h。これが結局今回の北海道での最高速度記録となった。しかし、登りはあんなに苦労して時間をかけて登ったのに、下りはほんの2〜3分。もっともっーと長く続けばいいのにと何度思ったことか。
再び海岸コースを汗だくでツーリング。10時に知来別の集落に辿りつき、食料品店で昼食用の食料を買う。内容は、ジュース2本、りんご1個、カレーパン1個、アンパン1個である。今後食料品などを売っている店がなかったらどうしようと思って買ったもので、若干量が多い感じがした。
ここからさらに10Km程度走る。今日の走行予定コースの中間地点にある「道の駅 さるふつ」に到着。時間は午前11時ちょうどである。距離計を見ると40.8Kmも走っている。しかし、7時過ぎに出て11時までに40Kmだから、時速は10Km/hチョットということになる。当初の予定通りのスピードである。
早速、ここの名物となっている「風雪の塔」を見学・撮影。これは猿払村営牧場のシンボル的な存在で、隣の日露記念館と並んでこの道の駅の目印ともなっているものである。
ここからの風景はまさに北海道〜!!と叫びたくなるような雄大な風景で、かっての日本映画「人間の条件」のロケ地になったというのも納得できる。
しかし、ここでゆっくりしているわけには行かない。今日はまだ、あと40Km先まで行かねばならないのだ。
−−− 浜頓別・クッチャロ湖まで −−−
道の駅「さるふつ公園」を出発してから約1時間。新猿払橋のたもとに到着、特に休むような場所はないのだが、左手に川に降りる道が開かれていて、ここに自転車を止めて昼食。猿払川の下流であろうか、ゆったりとした流れを見ながらの食事である。午前に知来別で購入したアンパンと林檎とジュースで済ました。
橋のたもとに立て札があって「イトウを釣った方は必ず放流してください」とある。『ここは、幻の魚といわれているイトウがつれるのか』と感動する。今までは図鑑や水族館でしか見たことがない。そのイトウがこの川では釣れるのである。確かイトウは漢字で魚へんに鬼と書く(らしい)。本州では決して釣れない北海道特有種の魚で大きいものになると2メートルにもなるという。少なくとも釣り人の憧れの魚であることは間違いない。その魚がここでつれるのである。やっぱり北海道は偉大だ、と思いつつ、自転車をスタートさせる。
比較的順調に走ることができる。道路の状況がよいのだ。ところが逆に、長時間自転車に乗っているせいで、だんだんと体が辛くなってきた。お尻が痛いのだ。サドルに当る部分が特にきつく、あと、ハンドルを握る手の平がずきずき痛む。お尻を左から右へ、右から左へと順番にサドルに載せるようにして、なるべくズキンとこないところで体重を支えつつ、痛みと戦いながら走る。手はやむを得ず用意しておいたツーリング用のグラブをはめる。そんなこんなで、べとべと・ヘロヘロになりながら、やっとのことで浜頓別町に入る。町内なので自転車専用の路側帯はない。しかたなく車道から歩道(自転車用に路肩がスムースになっている)に乗り入れると、こまかなアップダウンがきつい。ズンズンと尾てい骨に響くのだ。道を聞きながらやっとクッチャロ湖キャンプ場に到着。これで自転車を降りられる。午後2時ピッタリの到着となった。
坂を降りたところの売店でキャンプの受付を済ませて場内へ。ここはクッチャロ湖の湖岸、正確に言えば東岸で、西にクッチャロ湖を望む。水辺まではほんの20メートルくらい。いや場所によっては2〜3メートルである。チョット奥まった木陰にテントを張った。すごい風である。湖のほうから吹いてくる。テントを張り終わるまでにやや手間どった。張り終わって、少し離れたところから見るとさすがに一人用のテントは小さい。隣のテントは家族で来ていて大型のドームテントである。これは風のため、設営するまで大分時間がかかっていた。
テントを張っている最中から虻が波状攻撃をし掛けて来た。これには本当に閉口した。それでも頑張ってテントを張り終わり、荷物を全部入れる。今度は自転車で、すぐ上のホテル(サイクリングターミナル)の温泉に入りに行く。
温泉というのだが、それほど実感がない。サウナは熱すぎて5分も持たない。5分じゃ汗も出ないなぁと思ったが,今日は昼間目一杯汗をかいているので、サウナはやめることとした。全身の埃を落とし、ジャグジーでじっくり体を休めて再びテントサイトへ。
まずい!! 太陽が真正面からテントに当っている。風は心地よいのだが、テントの中は灼熱地獄となっている。テントを張る場所を変えようかと思ったが、どこに逃げても真正面からの太陽はよけようがない。
あきらめて、食事の用意をする。コッフェルに湯を沸かしこの中に携帯用のインスタント鮭茶漬けを入れ良くかき混ぜる。これで完成である。意外に美味い。しかし、これだけでは腹が満たない。再び湯を沸かし、コーンスープを作り午前中に買っておいたカレーパンを取りだしスープと一緒にたべる。これで腹は十分に満ちた。
時間的にはまだ午後4時を回ったばかりである。しかし他にすることがない。冷たい水を持ってテントに入る。
明日,どのコースを走るのか地図を見ながら検討をする。しかし、走りたくない。今の尾てい骨の痛い状況であれば,明日はお休みにしたい。しかし走らねばならない。
選択は2つである。
ひとつはこのまま真っ直ぐ枝幸を通り興部から滝上に抜けて,上川に出るコース。上川までは少なくとも3日はかかる。
もうひとつは,山越えをして音威子府に出て旭川を目指すコースである。このコースも旭川までは最低3日は掛かる。
旭川と上川、距離的には近い。暫らく考えたが、最終結論は旭川とした。
その後の状況は旭川に着いて,体調等を確認しながら決めることにした。そうと決まると後は眠るだけである。
しかし、まだまだ暑い。2箇所ある出入り口を全部空けて、風通しを良くして持ってきた「地底旅行」を読む。汗をふきふき,水をのみのみしながら7時近くまで頑張る。7時ちょっと前にクッチャロ湖に沈む夕日を撮影して眠ることとした。
[本日の走行距離:75.0Km]
|