7月18日:サロンドプロヴァンス〜マルセイユ




 6時半起床。
 昨夜は美味しいビールとワインのおかげでゆっくり眠ることができた。
 7時過ぎに広場に出てみるとまだどこの店も開いていない。
 バゲットとコーヒーで軽く朝食を!と思ったがこれは期待はずれであった。
 部屋に戻るときにフロントで確認すると、7時30分から一人10ユーロでバイキング形式の朝食が用意できるという。
 ちょっと高いなぁと思ったが食べないよりはいいやと思い早速注文をした。
 用意のできるまで中庭のプールサイドで、帆布張の椅子に座りながらけだるい感じのする夏のアルルのホテルのプールサイドでしばらく時間を潰した。
 そうしているうちに、少年(多分13〜15歳程度?)がきてメニューを出すので、適当に頼んだところ、プールサイドまで食事を運んでくれたのである。
 中庭のプールサイドで、朝日を浴びての朝食であった。
 面白かったのは、我々がプールサイドで朝食を摂っているのを見て、今まで部屋の中で食事をしていた人たちも、なんとなく日の当たるプルサイドに移動して食事し始めたことであった。
 こんなに天気のいいときは外での食事が美味いということだ。
 これは万国共通らしい。を
写真上:SAVON DE MARSEILLEの石鹸製品
写真下:無造作に置かれた販売用の石鹸

 アルルのバスターミナルまで早足で歩き8時30分の高速バスに乗車、昨日から今朝にかけて十分楽しんだアルルを出発した。

 今日の第1番目の目的地であるサロンドプロヴァンスのバスターミナルには午前10時に到着。先ずは地図で位置を確認する。
 回りにある建物などを参考にして、地図で大体の街の様子を把握。
 最初に行くのはSavon de Marseilleである。これは石鹸工場を見学し、マルセイユ石鹸を購入するためである。
 街の中心から歩いてフランス国鉄の駅まで行き、そこから大きく左に折れる。そのまま大きな塀に沿って歩く。石鹸らしき芳香が香っている。がそこで完全に迷子状態となってしまった。地図では間違いなくこの高い塀の内側なのだが、何処まで行っても入り口がない。つまりSavon de Marseilleの入り口がわからないのである。
 それでもぐるっと一周したところで、やっと入り口を見つけてることができた。バスの停留所から間違えずに来ることができれば、僅か徒歩で5分の距離であった。それをぐるりと20分以上も歩いてしまったのである。朝の散歩にしてはキツイ距離であった。
 今回何故ここに来たかというと、オリーブオイルを72%も使った石鹸が唯一この地方で作られていると言うことで、事前に娘に調べておいてもらい、二つある工場の中でここが一番、ということでSavon de Marseilleに決めたわけである。実はこのSalon de Provenceのほかのもう1軒の石鹸工場にもマルシェの石鹸屋さんを通じて予約を入れていてもらっていたわけだが、結果的にこの工場見学だけで充分だった。

 工場に入るとすぐ左側が展示場と直売場となっいる。
 娘が事前に工場を見学させてもらいたい旨を確認したところ、ある程度、大体20名程度ということらしいのだが、人数が集まれば10時30分から見学ツアーがあるとの話であった。

 そこでさらに、直販所にいって今日の見学があるかどうか確認すると「これだけきていれば10時30分から見学ツアーをする予定である」とのこと、しばらく直販所の裏にある石鹸博物館(?)で待っていて欲しいという。そして時間がきたら声をかける、という回答が戻ってきた。
 時間を少し過ぎたあたりで、博物館にいた我々にも女性が声をかけてきた。
 これから工場見学に入るので、直販場の玄関に集合することと叫んでいるらしい。
 見学の参加者は20名位である。
 皆が集まったところで、そのまま玄関横で説明をはじめた。まず歴史からである。要するに、18〜19世紀に30〜40あったこの地方の石鹸工場は次第に減っていき、今は2つしか残っていないというのである。そしてそのひとつがこのSavon de Marseilleなのだが、この工場の石鹸を作る技術が伝統的製法として認められ、国から無形文化財に指定されていると言うことを強調して説明していた。ただ、実際の製造方法は、従来の原料の組み合わせではなく、いろいろな研究者がきて少しずつ変化を遂げて現在の配合となっているとの話しであった。

 説明の後、「カメラ撮影は禁止」という厳しいお達しのもと、その伝統製法で石鹸を作っている工場を見学した。
 工場に入るとすぐに階段で2階に上る。
 ここで大きなタンク(2階から見学しているのでタンクの深さは6メートルは優にある。)を見せてくれる。タンクというよりも直径が5メートルくらいの寸胴の釜といったほうが良い代物である。この釜にオリーブオイルを入れ、一定の温度で数十時間煮詰めることから始めるという。その後さらに24時間ほどそのままにして、オリーブオイルの中にある不純物を取り除くのである。取り除く方法は単に上澄み部分を掬って排出するだけといっていた。
 次にこのオリーブから取り出した石鹸の原液に各種成分を混合して加熱する。良く交じり合ったところで凝固室の床に熱いまま流し出すのである。
 凝固室に入ってみると、床の半分くらいが木の枠で仕切られており、この中に熱々の石鹸を流し出してある。約48時間そのままで冷めさせることで、それまでドロドロだった液状の石鹸がしっかりと固まるという。この時点で、石鹸としては完成ということらしい。
 そして床で固まったものを大体30cm四方のキューブに切り分ける。それを今度は、販売する石鹸の大きさに合わせて、600グラムとか400グラムとかの普通の大きさのキューブに切り分けるのである。
 最後の仕上げとして6面全てに刻印を押して完成となる(←写真の下は1個600グラム)。
 かってこの刻印は鉄で作り、それを石鹸の面に当ててハンマーで打ち、一個一個に型をつけていたそうだが、今は機械で一挙に押すことができるようになったといっていた。
クスクス

 至極簡単な製法なのだが説明には40分を要した。
 その後は工場から出て直売場に直行した。
 この工場ではオリーブオイルを使ったものとココナッツオイルを使ったものの2種類があったが、直販場で買ったのはオリーブオイル72%使用の石鹸とした。ここでの石鹸購入内訳は
600グラム2個
400グラム4個
20グラムの石鹸10個の袋入り2袋
であった。

 Savon de Marseilleの工場見学をを終えて、街の中心にある高速バス乗り場まで戻ることにした。
 そろそろ食事の時間である。重たい石鹸を持ちながら歩き回ると結構腹が空くのである。大きな時計台があるゲートを通りぬけ、l'Horloge通りに入るといくつかのカフェがある。その中で比較的静かで美味しそうな店を選んで入ってみた(後でわかったのだが、この時計台は1626年に作られた歴史的建造物で、3つの鐘が15分おきに鳴る仕組みとなっているようだ。)。
 店の名前は「Pizzassimo」、何故かイタリア的である。ここで頼んだのはクスクス。はじめて食べる料理なのだが以前から名前は知っていた。料理の本などで良く出てくる名前なのである。実際どんなものかわからなかったがこれを是非味わってみたいと思った。出てきたものは若干イメージが狂った。もう少しすっきりしたものかと考えていたのだがかなり重量感のある料理であった。チョット塩分が濃いかな?といった程度で、スパイスたっぷりのこれはフランス料理というよりは、アフリカ料理に近いものではないかと思った。ただ、このクスクスをバゲットに載せて食べれば、確かに美味いのである。ビールを飲みながらのクスクス初体験は「満足」の一言で終わった(ちなみに、このクスクスは14ユーロ、ビールは3.25ユーロであった。)。

 食後は、Le Chateau de l'Enperiのアーミー博物館を見学した。
 ここは10世紀から18世紀までアルルの大司教の宮殿として利用されていたもので、現在は「武器の博物館」となっいる。
 入っていくと先ず最初に受付があるのだが、ここで名前と国籍を書く。担当者が国籍を見て「先週からずっと日本人がきていなかったが、やっと来たよ!」と言っていた。武器の博物館といっても古い時代からのものではなく主に「鉄砲」ものが中心である。あまりにも鉄砲がありすぎてはじめは若干ビビッたほどである。
 わが国の「刀」も武器であっても素晴らしい芸術品である。が、軍隊が使っていたというこの鉄砲も計り知れないくらいの芸術性があって、特に銃剣をつけた鉄砲は実に見ごたえがあり素晴らしいものであった。ここも撮影が禁止されていたのは実に残念であった。

 そしてサロンドプロヴァンスでの最後の見学場所はノストラダムスの館となった。
 1547年から亡くなる1566年まで暮らした場所に建てられた博物館である。1階は受付とお土産売り場で、2階から4階までが見物できるようになってる。博物館というよりもわが国で言う歴史資料館といった感じで、等身大の人形とテープによる展示が中心であった。

 サロンドプロヴァンスを午後4時に建つ。
 マルセイユの丘の上にあるバスターミナルについてのは午後5時10分。そこから歩いて港まで行く。
 道順としては、まず、バス停から傍にある国鉄マルセイユ駅に向かう。
 駅からは長くて高さのある石段を下りて直線の広い道路を港方面に向かう。
 この道の雰囲気としては、かなりごみごみしていて、人口が多い町という印象である。外務省のホームページの海外情報や、旅行雑誌の情報でもマルセイユは治安が悪く犯罪が多いということだった。そんな情報が事前に入っていたせいか、この街を歩いている人間全てがそれなりに癖を持った人達に見えてくる。かなり緊張して港まで歩く。
 もちろんマルセイユは有名な港町である。そして地中海に面していることもあってかアフリカからの入り口にもなっている町である。そのせいもあってか人種の多さに驚く。フランスの他の都市では見られないくらいに多様な人種がいるのがわかる。港までの道々で、数えられないくらい多くの人たちが暮らしているのがわかるのである。そして狭い道にはいろいろな国の子供達が、友達同士となって、ストリートバスケットなどをしている。
 ところが、街中とは違って港の付近は実に広くて明るいのである。港の入り口の大きなカフェに席を取ったのが午後5時半。太陽は燦燦と輝き暑さでくらくらとする。当分食事などできそうにもないのだが、また、カフェは派手に道端までテーブルや椅子を出しているのだが、どこのレストランも今の時間は「準備中」である。
憧れのMIRAMAR

 コーラを飲みながらしばらくゆっくり港と街と人を眺める。自動車の交通量も多く、1時間に3回〜4回くらいパトカーのサイレンが聞こえる。
 そんな中で、カフェの親父さんに「この当たりで1番美味いブイヤベースを食べさせてくれる店はどこか?」と訪ねてみた。
親爺:「そりゃぁ、MIRAMARさ。この店で食っちゃうと、他の店のブイヤベースは食べられたものじゃない。」
娘:「でも値段が高いでしょう。どこか美味しくて値段が安い店はないの?」
親爺:「値段が安けりゃ!その分味が落ちるってことよ、やっぱ、MIRAMARが一番だな、俺はブイヤベースといったらMIRAMARでしか食べないことにしている。」
 ということで、今夜の夕食は当初の予定どおりMIRAMARでのブイヤベースに決定した。

マルセイユ港での釣り風景

 7時を過ぎたところでMIRAMARに行ってみる。
 先ほどのカフェからはゆっくり歩いて5分である。
 が、入ろうとしたところで店の人に止められてしまった。7時を過ぎているのにも拘わらず準備中というのだ。隣のレストランはもう客が何人か入っている。開店時間を確認すると7時30分だという。
 港をしばらく散歩をしながら時間を潰すことにした。港では何組もが釣りをしている。10分くらいじっと見ていたのだが、釣れる様子はなかった。
 7時25分に再度MIRAMARに行くとやはり入れてくれない。
 が、突然奥から上着を来た年配の人が出てきて、入っても良いという。店の奥に座ろうと思い中に入っていくと、
 「今夜は席は予約で一杯で、今空いているのは2テーブルだけだ。入り口の傍と隣の店の境だがどちらか気に入ったところに座ってくれ」
という。

 もちろん入り口のそばに陣取ることにした。

 メニューを聞かれたのだがもちろん「ブイヤベース」である。
 ワイン1本をとり、ビールを飲みつつ待つこと15分。
 最初に出てきたのは1cm程度の厚さに切ってカリカリに焼いたバゲットである。これにあわせてニンニクが1人前2かけ。
 さらにたっぷりのマスタード様なものが添えられる。
 食べ方がわからないので店の人に聞く。
店の人:「最初にバゲットにニンニクを良く摺り付けておくんだ。それから、スープが出されたらそのニンニクを擦りつけたバゲットをスープに浮かべて十分にスープを吸わせる。そのバゲットを先ず食べるんだよ。」
娘:「じゃあ、スープは飲まないの?」
店の人:「最初からスープを飲むことはしないよ」
 判り易い説明である。マスタードの様なものの使い方を聞くと
店の人:「それはスープ皿の横に塗りバゲットにそれをつけて食べてもよいし、バゲットにそのまま塗ってもいいんだよ。これは好みかな。」
 いわれた通りの作業をする。
 スープが来る。どうしても味が確かめたくて、バゲットを入れる隙を付いてスプーンでスープを飲んでみる。
 う〜ん!!、実に濃厚、実に美味、実に複雑で奥深い味がする。
 言われた通りに、バゲットをスープに浮かべ、スープが染み込むのを待つ。
 確かにバゲットにスープをしみ込ませると味がまろやかになるのと同時に、生のニンニクと香りとが相俟って実に美味い。この食べ方を発見した人に感謝したい。バゲットがなくなるころにはスープがなくなる。無くなったところで一端スープ皿が回収される。と、今度はそのスープ皿に魚介類が入ってくるのである。もちろんスープもたっぷりと入っている。この魚介類を一つ一つスープに浸して食べて行くわけである。
 店の入り口のそばに、顧客のブイヤベースの取り分けをするところがあるのだが、これはテーブル毎に管理されているようである。我々のテーブルの隣に男二人のアメリカ人が座ったのだが、彼らのために新たなブイヤベースの鍋を持ち込み、もうひとつの鍋(これは我々のもの)とは別の管理をしている。熱々を食べさせるためにガスコンロも使っている。さすがに美味しいだけに調理などにも気を使っている。
 魚介類を食べ終わったところでかなり満腹に近い状況になった。
 ところが、まだまだ魚があるという。これは勿体無いと思い更に一杯のオカワリをお願いする。
 それにしても美味い。今回の旅行で最も楽しみにしていたマルセイユのブイヤベースに大満足することができた夜だった。
 店で食べている最中に、店の人に魚の種類を聞いてみた。日本では採れない魚も多いらしい。ちなみに、その日に使っている魚は、カワメンタイ、カサゴ、ニシマトウダイ、ハチミシマ、アナゴ、カナガシラということであった。 

 MIRAMARを出たのは午後9時半過ぎ、満腹のお腹を抱えながら、近道を探しつつマルセイユ証券取引所の前を通り、凱旋門を抜けて高速バスターミナルへ。
 10時過ぎのバスでエクスに。
 2日振りにアパートへ帰りついたときには午後11時を過ぎていた。明日は日本に帰る日である。



まえへ つぎへ