7月14日:Aix−en−Provence




写真上:ベシャールの正面
写真下:フルーツケーキを作る課程
 今日はプロヴァンス地方で最高と言われているケーキ屋のBECHARD(ベシャール)に、ケーキやお菓子の製造工程の見学に行く日である。
 そのため、起床は午前4時過ぎ・・・ウ〜ン眠い。
 というのも店の横にある従業員の通用門前の集合時間は午前5時となっているためである。
 アパートを出たのは午前4時40分過ぎ。夜の名残が残る真っ暗な石畳の道を歩いてミラボー通りにある店の通用門前に到着、すでに4名ほど従業員が集まっており、誰だかわからなかったがとりあえず朝の挨拶。
「Bonjour!」
 握手をして店内に。
 ただ店内といってもケーキやお菓子が売られているところではなくて地下1階の菓子工房である。
 全員白衣に着替えている。
 清潔第一の職場だから当たり前と言えば当たり前の話である。
 地下1階は4室に別れている。メイン工房は中央に大理石の大きなテーブルがありここで4人が作業する。
 テープルの下は冷蔵庫になっていたり生地を寝かす場所となっていたりで無駄は無い。
 その周りに壁にそって3つのやはり大理石のテーブルがある。各々1名ずつがここでお菓子やケーキを作る作業をしている。
 このメインの部屋に隣接して乾燥室があり、水場そして焼き竃を設置している部屋がある。
 作業は最初に簡単なミーティングから始まる。
 今朝までに予約が入ったものをどの順序で作るのか、時間は大丈夫か等を確認し、その時間にあわせてケーキなどを作り上げるのである。
 一方、この作業と並行して毎日店で販売するお菓子類も作り上げていく。
 みんな実に作業が早い。分担する業務がピッチリと決っているせいもあるのだろうが、整然と速やかに動きに無駄が無く効率的に仕事が進んでいく。
 我々が見学していた2時間半の間に、アップルパイ大2、小20、ラズベリーパイ大2、フルーツケーキ大2、小10、パーティ用パンケーキ40程を作り上げ、更にクロワッサン等々パン類、店用の菓子類など夥しいものを作り上げていった。
 出来上がったものは次々にエレベータで1階に運ばれるシステムである。
 工房での素晴らしい手作業での技術と美味しいクロワッサンを堪能したあと、1階でオーナーに見学させていただけたことに対してお礼を述べてから外に出た。

 ミラボー通りは雨が降っていた。

 ミラボー通りのプラタナスの並木の下を歩くと木が大きく張り出していて、その下を歩けば、小雨程度なら、直接雨にあたらないで済む。そんな風に雨をよけながら取りあえず一旦アパートまで戻ることにした。

 そして、朝食のため再度外出。
 結局、雨のため室内は満員で、雨の中で朝食を食べることになった。
 とはいっても、上にはかさがかかっているので雨はよけることができる。
 朝食は写真のように焼きたてのパンが豊富で、ジャムやバターなどパン用のものが10種類くらい出てきてとても美味しく食べることができた。

 そして今日1日はエクスの街中の見学である。
 ある程度天気が悪くても問題はない。

 最初に行ったのはサントン人形の工房である。ミラボー通りから少し奥にはいった建物の2階にその工房はあった。
 階段を上り、ドアを開けて入ると正面に一人男性が座っていて、一生懸命サントン人形を作っている。
 この狭い部屋が工房であり、隣の部屋が展示場である。
 夥しい数のサントン人形が並んでいる。
写真上:棚に陳列されてる人形
写真下:購入した基本3体

 娘の説明によれば、何処の家庭でもこのサントン人形を置いてあるという。
 そして最初に買うべき人形があって、それは、イエス、聖処女と聖ヨセフだという。先ずそれから揃えて、徐々にいろいろな人形などを集めていくというのである。
 1体10ユーロ(1ユーロは120円程度)で基本の3体を購入した。  それ以外の人形は次回以降このエクスに来たときに、少しずつ買い揃えていくことにした。
 そして次回に来たときは、ロバと牛を買うことにした。(でも、あと何回、エクスに来れるのだろうか?来たとしてもこの店を探せるのだろうか?)

 展示場の奥には高さ30cmくらいの実にリアルに作られたプロヴァンスの人々をモデルにした人形が沢山展示されていた。
 みんな日に焼けていい色の顔をしており農夫鍛冶屋ワインを飲んでいるおっさん編み物をする女性などそれぞれ活き活きと表現されている。価格も1体40ユーロ前後から80ユーロ位までとお手ごろの値段なのだが、箱に入れても包んでもかなり大きな荷物となってしまい、とても持ち帰ることができない。
 一体だけでも買って日本に持ち帰りたいと思ったのだが、これは涙を飲んであきらめることにした。

写真上タペストリー博物館
写真下:サンソヴール大聖堂
 次に訪れたのは、「Musee des Tapisseries」、つまりタピスリー美術館。
 エクスの街の中心にあって、ごく行きやすい場所にあった。
 建物自体はかっての迎賓館的な使い方をされているので実に立派なものであった。
 美術品としてのタピスリーは17〜18世紀のものを中心に、ほとんど全部の部屋の壁一面に展示されていて、作られた当時の色彩が十分に残っているものが多い。
 制作地を確認したところボーヴェ(Beauvais:パリ北部のピカルディー地方)が多いという。
 残念ながら写真撮影禁止のため、タピスリーを撮影することができなかった。(建物は左写真上)

 時間的にはまだまだ早いので続けてプロヴァンスの町の発展を記憶した「古きエクス博物館」musee vieil aixに行ってみた。
 エクスの発展の歴史を地図で表した部屋があって、これは街の発展の様子が事細かに記載されていて、歴史的な発展の様子が良くわかって面白かった。
 博物館全体としては、かなりの展示品を擁しているのだが、我々に見せてくれる展示品はその中のごく一部のものだけで、全体としては展示品が少ないのが気になった。
 なお、1階左手の奥の部屋にはサントン人形の原型となったような、街の歴史を人形で表現しているところがあったが、実は1番興味がひかれたのがこれだった。
 しかしながら、写真撮影禁止の上に、展示室が非常に暗くかろうじて目で見ることができる程度であった。

 昼食は簡単に済ませて、「サンソヴール大聖堂」Cathedrale St-Sauveurの見学をした。
 エクスで1番歴史ある聖堂で外観(左写真下)も大きいのだが内部の広さにも驚いた。
 不思議なことに外で見るよりも天井が高く見える。前後に大きなステンドグラスの窓がありこれらの微かな明かりが大きなドームの唯一の明かりとなる。各所にある礼拝堂にはローソクが灯っているのだが、この暗闇に目が慣れるまでには時間がかかる。目が慣れれば内部の見学になるのだが、最初に驚くのはパイプオルガンの大きさである。そしていくつかの礼拝堂があって一周するのに小1時間はかかる。
 教会内部は賛美歌が低く流れ(多分テープで流している)、暗闇・ステンドグラス・蝋燭という仕掛けのためか荘厳な雰囲気がしていた。

 更に夕方になって1665年に建てられた「パヴィヨン・ド・ヴァンドーム」Pavillon de Vendomeを見学した。
 この建物は市の中心部からはずれた郊外にあったので、敷地が大きく前庭がとても広くのである。その前庭の可愛い噴水のある小さな池を中心にしてその一番奥にこの館が建っていた。
 説明書によれば「緑の木々に覆われひっそりと建つこの館は、街路から人々の目に触れないように、ヴァンドーム公爵(1652年当時、プロヴァンス地方の知事)が恋人のリュクレス・ドゥ・フォルバンソリエ未亡人との密会場所として建てたもの」となっているが、密会場所にこんなに広大で立派なものを建てる精力がすごいと感じた次第である

 これらを殆ど徒歩で歩ききり、歩き疲れてくたくたになってアパートに戻ってきた。
 久し振りにかなりの時間歩いたものだから、足は棒のようになっている。
 先ずはシャワー。
 夕食は部屋で食べるべく、午前中の博物館などの見学の合間を縫ってマルシェで買い揃えたものである。シャワーが終り部屋に戻るとかなり美味しそうな料理が出来上がっている。
 鶏一匹のロースト、トマトや新鮮な野菜、アボガドなどで作ったサラダ、それにバゲット。このバゲットにつけるソースはアボガドとマスタードとレモン汁を練り合わせたもので、それに若干…好み…の塩・胡椒が入っており、その緑色が食欲をそそる。これにチーズ3種(バノン、シェイブル、アペリチフ)が出ている。バノンとはクリの葉に包んで発酵させたチーズで、かなりの確率でクリ虫がチーズに巣くっているというものである。このクリ虫がチーズに穴をあけていくことから醗酵が進み、醗酵が進むことによって美味さが増すという。幸運に恵まれれば生きているクリ虫が入っているチーズに当たることがあるという。フランス人はこのクリ虫もチーズと一緒に「美味い、美味い」といって食べるそうである。まあ、残念というのか、幸いにもというのかクリ虫は入っていなかった。
 そして飲み物は、風呂上りにぴったりのビールとプロヴァンスの名品ワインののロゼである。
 乾杯のあとは、鶏を切り分けて、たっぷりと食べてしまった。

写真上:オペラ概要冊子+チケット
写真下:出演者名
 食事が終わって、ほんの一休みしたところで、午後9時過ぎから再度の外出となった。
 予約してあったオペラ「夏の夜の夢」A Night Dream of Summerを見に行くのである。
 公演時間は夜10時から11時45分まで。
 街の中心にあるホテルまで歩いて行く。このホテルの中庭を使っての公演だと言う。
 入り口にはもう沢山の人が集まっている。
 実はオペラなど見たことが無かったので服装を迷ったのだが、娘から「そんなに大げさでなくても良いし、みんなTシャツに半ズボンだよ」といわれ、それでもノーネクタイで半そでの綿のワイシャツに普通のズボンといった格好で行くことにした。
 ところがホテルの前についてみると正装した人こそ少なかったが、半ズボンなど誰もはいていない。ノーネクタイは当たり前のようだ。女性はショールをかけている人が多かった。

 オペラはシェークスピアの真夏の夜の夢をベースにオペラ劇(オペレッタと言ったほうが適切かもしれない。)にしたもので、この本の内容自体は以前読んだことがあるので大体理解することができた。
 開演時間が近づいてチケットを示してホテルに入ると、簡単な劇の粗筋と出演者を書いた小冊子をもらうことができる。そして中庭にある特設会場に案内される。座席番号を言うと座る席を指差して教えてくれる。
 全体で200名程度は入れる。舞台は大きなプラタナスの木と樅の木を両側に配置するように設けられている。オーケストラではなくピアノ、バイオリン、チェロとクラリネットだけである。
 全体の構成も面白く、1時間45分を充分に楽しむことができた。
 とても嬉しかったのはHermia役のソプラノがYuko Kakutaという日本人だったことである。素晴らしい声で体中を使って歌っており、この劇の中心にもなっていた。本当に素晴らしい心に残る声であった。






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