第一話 パスポート忘れた事件

もう2年も前(1994年)のことですが,ウィーンからブタペストへ鉄道を使った日帰り旅行を友だち 7人で計画していました。朝ホテルから予定通り出発し座席指定の国際列車に乗り込みました。

列車の中で座席を探しつつ雑談しているときに,私はパスポートをホテルに おいてきたことに気づきました。普段パスポートを持ち歩くのは、落としたら危ないと 持ち歩かなかったのが裏目にでたようです。この時には以外にも ことの重大さが把握できずあまり深刻には考えなかった様な気がします。

とっくに列車は出発しています。 すかさずトーマスクックの時刻表で列車が止まる駅を探すと,かろうじて オーストリアの国境をでる前に唯一1つだけ停車する駅がありました。 そこで,残りの人はブタペストへ私はホテルへパスポートを取りに行くことに し、その途中の駅で降りました。ブタペストへは,何時に戻れるか分からなかったので 先に行っている友人達の大方の行動予定を教えてもらい, 現地で合流するという強行策にでたのです。

降りた駅は,ウィーンから40kmほど離れており,降りたのはいいけれども ウィーン行きの列車がいつくるのかも分からない状態でした。 ドイツ語が話せないので,時刻表片手に片言の英語で駅員さんと 格闘しました。トーマスクックには残念ながらいわゆる鈍行列車が 載っていなかったので,何時間も待たないとウィーン行きの列車が来ないような 感じでしたが,しばらく駅でたたずんでいたときに,2両編成のおそらく ウィーン行きであろう鈍行列車がやってきました。

途中で特急にぬかされるのではと思いつつも1分でも早くホテルに戻りたかった 私は,飛び乗りました。乗ってからも本当にウィーン行きなのかと 心配でしたが,なんとかウィーンにたどり着くことができました。 あとは,タクシーをせかせてホテルに戻り, 朝とは違う駅始発の(ウィーンには東駅とか北駅とか3つぐらい 駅があると思った。)それも予定よりも1本早い ブタペスト行きのにのることができました。

ブタペストまでの3時間、6人がけのコンパートメントの中で 1人、景色を見ながら考えたってどうしようもないとは思いましたが これからのことを考えていました。

一人で旅行して居るんだなあという哀愁にも似た甘美な世界に酔ったりしていました。

初めて陸路で国境を越えたので、今まで体験できなかったことを 体験する貴重な瞬間でした。

ハンガリーの国境の駅で停車し(乗客の乗り降りはない) ハンガリーの税関の職員が乗り込んできて、コンパートメント1つ1つ パスポートと入国VISAを点検に来ます。

他のホームには(日本のようなホームを想像してはいけない。) ハンガリー国鉄の青色の列車が止まっており、ハンガリー人が こちらを見ていました。

ハンガリーに入国してからの景色は今までとはまったく変わっていました。 言い方は悪いけれども、どことなく寂れた感じがしました。 民家も遥か遠くに見えるきりで後は畑と宿り木のたくさん付いた 背の高い木が生えているきりでした。

民家が線路沿いに見えるようになるともう、首都ブタペストでした。

さて、3時間掛けてブタペストに着いたものの広い市外の中から 彼らを捜さなくてはなりません。困ったことに,ハンガリー人の しゃべっている言葉がさっぱり分からず。英語が話せる人と言ったら 怪しい両替商のブローカーぐらいです。 何はともあれ,駅の構内の銀行で両替して移動の軍資金を作りました。 タクシーを拾おうにも言葉が通じず何人かのドライバーに当たってみましたが どの人もダメでした。あきらめ掛けて,歩いて行こうかと思った矢先 路肩に車を止めてパンを食べている人の良さそうな運転手さんが居たので 地図を見せて目的地を指さし、どのくらいのお金でいけるのかとか,身振りと 日本語混じりの英語で交渉しました。その熱意が通じたのか 300フォリント(日本円で当時300円)ぐらいで乗せてくれることになり, あとは,仲間の行動予定を信じて,おそらく居るであろう 観光スポットであるハンガリーの王宮(確か漁夫の砦?)に向かいました。

目的地に着いてから運転手さんが,いろいろ説明をしてくれていたようですが まったく分かりませんでした,とにかく一応感謝し別れました。 着いては見たもの,地図といえば日本から持ってきた,ガイドを コピーした物だけしかなく(細かい地図ではない), どこから手を着けていい物やら分からず考えましたが, 基本的に悪い方のことは考えない性格なので、 度胸を決め、最悪会えなかったときのことを考えて,一人でその辺を観光し おみやげ屋を回り絵はがきを買って,郵便局で日本の友だちに 手紙を書いてから,探そうと大胆な計画を立てました。

それが,幸をそうしたのか偶然にもおみやげ屋で仲間の一人に会い 無事合流できました。会ってしまえば、何のことはないなあとおもいました。

注:ハンガリーへ入国するにはVisaが必要です。 東京のハンガリー大使館で発行してくれます。

教訓:ヨーロッパは国境が地続きなのでどこか出かけるときは 国境を越えることを想定してパスポートは携帯しましょう。