現場派馬券師の「駄買卿への道」


11月1日(土)、私の記憶では確かに目覚めのよい朝であった。「これはなに かいいことありそうだ」、そう予感させるに十分な秋晴れの空。横浜を出 ていざ向かうは京都...の前にちょっと寄り道。そう、後楽園で府中と福島 の馬券を購入するためである。これが後に大問題を引き起こすとは当然気 づいていない。(どうでもいいが、JR水道橋駅のそばにあるマクドナルド、 競馬客ばかりだった。客の9割が競馬新聞持参。)しかし、京都に行くのに 集合が後楽園というのもよく考えればすごい。スキーバスに乗るんじゃな いんだから。さらにいくら馬券を売っているからといっても全レース馬券 を買う必要はないのに、「とりあえず」とか言って全レース買ってしまう 私。何というか、「人間のクズ」といった感じがする。そういうのも嫌い じゃないが。(「人間のクズ」「おまえには金貸さない」なんて言葉は 勝負師である私にとっては賞賛の言葉である)


さて淀に着く。とりあえずいしまるさんに電話して場所を確認する。... 「あ、もしもし、いしまるさんですか?久賀ですけど......あ、ちょっと 待ってください」そう言い残すと、次の瞬間、「おばちゃん、スポニ チ!」何も電話しながら新聞を買わなくてもよいと思うのだが、この男、 勝負事となると回りが見えなくなるという特徴があるのであった。 で、いしまるさん、高柳御大(見た目も「御大」という感じですなぁ)と初 対面し、初日の馬券は適当に買い、適当にやられ、府中、福島の馬券が1 レースしか的中していなかったことを確認した。人がいないのを見計らっ て払い戻し機の前で1枚1枚馬券を入れる。「コノトウヒョウケンハテキ チュウシテオリマセン」を延々と繰り返す。途中で「こら、ちょっとは アドリブ入れんかい」とツッコんでみるが、所詮は機械、そうい う機転は利かない。あと特筆すべきは、アルゼンチン共和国杯で「4歳裏3 強((C)日没さん)」の一角を占めるタイキエルドラドからダイタクサージャ ンで勝負し、「はぁ、ダイタクサージャンなんか買ってちゃ駄目かぁ」と つぶやくと、えちごさんに一言「駄目です」といわれたことは印象に残っ ているけど。最終レース後、じゃ、軽く飲みましょか」ということで京都 市街へ。


これがねえ、軽くないんだわ。「前日だし、15-15くらいの軽目で」「前日 追いですから」という言葉(こういう言い方が競馬好きを物語る)とは裏腹 に、びっしり追い切ってしまった。いや、酒の量の話ではない。話題の盛 り上がり方である。結局、「栗東坂路50秒2という感じですかね」と いうくらいの猛烈な前日追い。


さて2日目、いよいよ本番の菊花賞である。またもや晴れ、目覚めて最初に 思ったことが「絶好の良馬場だな」。競馬場に向かう途中、中村さんが一 言。「今日の勝負レースは1Rですね。」しかし、時計を見ると1Rまでは時 間が無い。さて、間に合うのか?しかし淀駅からの道は大混雑。間に合う か、間に合わないか、ギリギリのところ。「馬群を捌かないと買えないで すね。」結局、買えずじまい。私の予想では買っていれば1着3着だったの だが、中村さん、見事仮想的中。中村さん、かとうさんと、「果たしてこ れはいいことなのか?」という議論になる。「買えば取れていたのだから アンラッキー」「いや、予想は当っていたのだからいいことなのではない か」さて、どちらが正しいのか?


人のことをどうこう言っている場合ではない。肝心の私の馬券であるが、 これが当らん。レースの合間はそこそこしゃべるのだが、いざレースが始 まるともう完全に「無口な人」。惜しいレースも無い。また、この日の参 加者には血統派の方が多かったのだが、私は血統はまるで知らない。タイ ム派でもないし、データ派というほどデータを活用していない。そこで私 が思い付いたのが、「私は現場派ですから」。現場派とは本来、 競馬評論家の中でも主にトレセンに赴き、調教や厩舎取材を中心にして予 想を立てる人のことを言うのだが、ここでの場合は競馬場、場外でおっさ んたちと語らい、その中で馬券を考えるという一派である。まあ単なる馬 券オヤジ、といえばそれまでなのだが。何やらちょっといい雰囲気で しょ?


それにしても、帰ってから新聞を見直して思ったのだが、「何でこんな馬を買ったの?」という馬 券が多い。たとえば6Rのかえで賞。前走野路菊S14着のトーホウタスクに 堂々と恥ずかしげも無く◎が打ってある。アインブライドに2秒5ちぎられ た馬である。レース翌日発売の週刊競馬ブックにコメントすら載らない 馬。
次の7R、タイキエンプレス◎。2番人気だし、まあそれはいい。ただ気にな るのは新聞のこの馬の前走、上がりタイムのところを私が丸で囲っている ということ。上がり34秒4。いい切れ味だ。しかし、隣の馬のダイワゴウ シュウ(2着、久賀無印)だって前走の上がりは34秒6である。その差0.2秒に どれだけの差を感じたのだろうか?今となってはわからない。ただ言える のは、この辺で私が完全に引っかかったということ。もう折り合いはつか ない。引っかかった私の横でガッツポーズをしているのは日没さん。「善 臣で万馬券取ったのははじめてだよ」、私は万馬券はおろか的中すらない というのにうらやましい限りだ。そういえば有芝さんも前日には8000円台 の馬券をゲットしていたなぁ。他の皆さんもそこそこには的中がある様 子。それに引き換え私は...。福沢さんが気風よく逃げていく。私はどんど ん千切れていく。


他の皆さんが8Rを予想している頃、私だけは何やらおかしなことをつぶや いている。「金田と古原で競り?」「本田が逃げて高谷が捲って...番手の 後閑が...」「よし、7-2一本!」ご存知とは思うが、中央 競馬に7-2などという馬券はない。2-7はあるが。古原なんていう騎手はい ない。小原ならいるが。そこでおもむろに携帯電話を取り出し、何やら電 話をかけ始める。そう、岸和田競輪開設48周年記念「岸和田キ ング争覇戦」の電話投票である。「いやあ、保険を掛けておこうと思っ て」、こういうのが保険にならないのは言うまでもないですな。さらにこ いつはその後一宮競輪の車券まで買っていた。夕方には四条大橋の上でテ レフォンサービスで結果を聞き、ガックリと肩を落とすことなど知らない で・・・。


いよいよメインの菊花賞、私はメジロブライトの頭で勝負。ここで私は久 しぶりの「無敵モード」に入ってしまった。「無 敵モード」とは、要するに「こんなもんブライトで鉄板。他の馬が勝つわ けない。もう菊花賞はもらったも同然」という、単なる自信過剰状態であ る。これが単なる自信過剰だということは皆さんご存知の通り。今までと 同じように外を回り、同じように差して届かず。まあ私の馬券下手を証明 するのには絶好のレースとなった訳だが。ブライトも今までよりは早めに 仕掛けたが、結果は一緒だったねぇ。ここでふと見ると私の前日からの外 れ馬券は厚さ1cmを超えている。ここからついた私の肩書きが「駄買卿」である。詳 細はいしまるさんの観戦記を読んで頂きたい。



淀駅から京阪電車に乗ろうとしたが駅は大混雑。切符を買うのも大変。そ んな中、私は目ざとく宝くじ売り場を発見する。回りには何やらコインで コシコシと紙切れをこする人々。そう、スピードくじである。ここは一発 大逆転を狙うしかない。...頭の中では「100万円!」コールがこだます る。10円玉を取り出し、コシコシ。結果は言うまでもない。紙屑を増やし ただけだった。


さて2次会である。競馬場では馬券に集中するあまり、他の人とはあまり話 ができなかった私であるが、ここはパワー全開。まるで外れ馬券の元を取 り返そうとするかのような張り切りよう。ほとんど「飲まなきゃやってら れるかい!」的なノリである。ただ困ったのは、このあたりで私の声が完 全に枯れてしまったことか。きっかけとしては菊花賞での「ブライト〜、 幹夫〜、差せ〜」という声援であろう。ただ、この飲み会があまりに楽し かったので、しゃべりすぎたという理由もある。それにしても、その後1週 間にわたって声がまともに出ないほど騒ぐとは。いい歳してこんなに楽し くお酒が飲めるというのも、競馬をやっていたおかげであろう、と感謝す る。



その後、3次会(ここではダンスパートナーについて熱く語るよださんが見 られた)、4次会...京都の夜は延々と続く。私は4次会まででホテルに帰っ たが、5次会は朝まで続いたそうだ。


ここで思い出したのが京都に出発する前日のこと。私は社内で「G1枠順速 報係」をやっている。枠順速報と一緒に簡単な予想文をつけてメールで配 信するのだが、その菊花賞の予想文の最後はこういう一文で締めくくられ ていた。「11月2日夜、京都の街は私のものになる。」ならな かったねぇ。でも楽しかったので、そういう意味では私のものになったの かもしれないが。

最後に、今回の幹事を務めてくださったいしまるさん、ゴール前絶好の 位置を確保してくださった高柳御大、私の拙文を公開する場を与えてくだ さったおおたさん、そしてこんな私を仲間に入れてくださった皆さんに感 謝しつつ締めさせて頂きます。


おまけ


菊花賞翌日の11月3日、私は戸谷さんと一緒に京都市のお隣、向日町市にい た。そこには京都向日町競輪場がある。最後の勝負。こちらは前日の淀と は違い堅いレースが続く。新幹線の時間も迫り、最後のレースと決めた第7 レース、この日は取って取られて収支トントンくらいだった私の頭の中を 「一発大逆転万車券大作戦」という言葉がよぎる。「配当がつく上位10通 りくらい買っておこうかなぁ。宝くじよりはよっぽど確率高いだろう し。」しかし、過去の経験則から言って、そういう時に都合よく万シュウ は出ない。よし、ここは手堅く「1週間の生活費を稼ごう。」という身近な 目標に切り替える。しかし、私の買った選手はあっという間に千切れてい く。結果、どう考えても来そうに無い選手が頭を取った。「あ〜あ」肩を 落として門を出ようとする私と戸谷さんに追い討ちをかけるアナウンス。 「決定!一着8番、二着4番」「車番単式 8番4番 8万9810円...」72通り中68番人気の車券である。買えたわ、コリャ (笑)。こうして私の京都での戦いは幕を閉じた。そういえばこの日、朝の 新幹線で帰って浦和競馬でもう一勝負してたつわものもいたそうですが。


それだけやられたにも関わらず、帰りの新幹線の中では、「よし、来週の エリザベス女王杯で取り返したる」「そういえば来週は花月園競輪記念菊 花賞もあったな、2週続けて菊花賞で勝負というのもいい な」などと考えながら横浜に帰ったのであった。まったく、懲りない奴っ ちゃなぁ。