身体に効く栄養成分・食材・調理方法
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南イタリア風食事療法。
◎地中海式ダイエットの源点
地中海沿岸諸国の食生活に欧米の人々の関心が集まりはじめたのは、1950年代にまで
さかのぼります。
当時、アメリカや北ヨーロッパの人々の間に、裕福であるための疾病が
目立ちはじめました。
それが、豊富な肉や動物性脂肪を摂取し過ぎた結果ということに気
づいたのです。
それでもアメリカや北ヨーロッパの多くの人たちは、穀類や魚、野菜を多
くとり、オリーブオイルを使う地中海沿岸諸国の食生活を、経済的に貧しいがためのもの
と認識し続けていました。
大きな注目を集めるきっかけになったのは、南イタリアの田舎
で生活した経験を持つ米国の生理学者アンセル・キース(Ancel Keys)教援が
、1975年、南イタリア料理の素晴らしさをまとめた『How to Eat Wel
l and Stay Well:the Mediterranean Way』とい
う本を出版したことによります。
肉や動物性脂肪を多量に摂取する危険性を説き、健康食
としての地中海料理を賛美したこの本は、全世界の栄養学者の間で注目を集めました。
地
中海式ダイエットという言葉が使われるようになったのも、この本からでした。キース教
授はこの本の出版に先立つこと20年前から、同僚らとともに7力国を対象とした大規模
な疫学調査を行っていました。
その結果の一つとして、飽和脂肪酸の摂取量が少ない地中
海沿岸の諸国では、北ヨーロッパやアメリカと比べて、当時から問題になっていだ心血管
障害(冠状動脈硬化症)の発症が3分の1以下となっている事実をレポートしました。
こ
の中で飽和脂肪酸のとり過ぎが、冠状動脈硬化症の大きな危険因子である血清総コレステ
ロール値を上昇させたと推定したのです。
実際のところ、北欧の人に地中海風食事を6週
間にわたって食べさせてみると、明らかに血清総コレステロール値が下がりました。
この
食事では脂肪量そのものは、北欧の食事と変わりがありませんでしたが、脂肪の質的な差
が顕著だったのです。
すなわち地中海風料理でとる脂肪は、オリーブオイルや魚の油が中
心で不飽和脂肪が多く、一方、北欧風料理でとる脂肪は、バターや肉の脂が中心で飽和脂
肪が多くを占めていたのです。
◎心血管障害を予防する。
さらに研究が進むと、地中海沿岸諸国の中でも特に南イタリアで心血管障害が少ないこと
も分かってきました。
南イタリアの人たちは、飽和脂肪の摂取量が少ないだけでなく、食
物繊維の豊富なパスタやパンといった複合糖質を充分量とっていること、背の青い魚をた
くさんとることによる多価不飽和脂肪酸の一種エイコサペンタエン酸の摂取量が多いこと
、オリーブオイルを油脂として使うことで、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸や抗酸化物を
より多く摂取すること。
これらのことがすべて協調して動脈硬化やそれにともなう心血管
障害を抑えることが医学的にも明らかにされてきたのです。
ここでもう一つ重要なことは
、動脈硬化の抑止といった面だけでなく、地中海風(特に南イタリア風)食事では各栄養
素のバランスが良く、またカルシウムをはじめミネラルの補給、ビタミンの摂取といった
面でもすぐれていることです。
ここでアメリカの糖尿病学会、心臓病学会、対ガン協会で
掲げている食事目標をみてみましょう。
多少の違いはあるにしても、摂取する各栄養素の
バランスとコレステロールや塩分の摂取量についてはおおむね一致しています。
●糖質……55〜60%(水溶性食物繊維の多い炭水化物としてなるべくとる)
●タンパク質……10〜15%
●脂質……30%以下(その内容は飽和脂肪10%以下、多価不飽和脂肪6〜10%、残
りを一価不飽和脂肪とする)
●コレステロール摂取量……1日300ミリグラム以下
●食物繊維摂取量……1日40グラム程度
●食塩摂取量・…l日8グラム以下
●アルコール飲量…少量であれば勧める
三大栄養素については脂質とくに飽和脂肪酸の多い動物性脂肪を抑え、さらに高タンパク
食を戒め、糖質の摂取量を増やすよう勧告しています。
糖質といっても、砂糖といったも
のでとるのではなく、穀類などで水溶性食物繊維を多く含有している炭水化物としてとる
ことを勧めています。
糖質は体のすべての構成組織のエネルギー源です。糖質を体でうま
く利用するためには、咀嚼、消化、吸収という一連の流れの中でゆっくりとすすむのが、
体に無理がかからないのです。
こうした点から糖質は穀類でとることがよいのです。
ブド
ウ糖の急激な吸収を抑えるためにも、また、コレステロールをはじめとして体にとってと
り過ぎると健康を損なうものの吸収を抑えるためにも、水溶性食物繊維が穀類に多ければ
さらによいのです。
タンパク質は必要以上にとり過ぎると、タンパク質は腎臓で処理され
るため腎臓に負担がかかり、腎臓の病気を悪化させます。
欧米科理の中にあって南イタリ
ア料理は、こうした目標を無理なく達成できる内容をもっています。
それでは実際に南イ
タリアの食習慣を追ってみることにしましょう。
南イタリアでは日中とても暑いため、午
後2時から4時までは昼休みをとるのが普通です。
そのために食事は昼食に重点が置かれ
ています。
朝食はパンにコーヒーで軽くすませ、昼食はまず第一の皿(Primo Pi
atto)としてパスタ料理、米料理、スープのいずれかが出されます。
続く第二の皿(
Secondo Piatto)は、肉または魚料理で、つけ合わせ(Contorno
)の温野菜や野菜サラダをいっしょに食べます。
こうした間にフルーツやワインを楽しみ
ながら、少なくとも1時間くらいかけてゆっくり食事をするのです、食事が終わると4時
過ぎから7時頃まで仕事をして、タ食は9時頃。パンとチーズ、サラダといった軽いメニ
ューですませています。
前菜(Antipasto)やデザート(Dolce)としての
ケーキは、特別の日でもない限り食卓には並びません。
本書で紹介したふだんの日の献立
てを昼の食事とし、朝、タの食事を加えて1日の総摂取カロリーを計算しても、2200
キロカロリー以下におさまってしまうのです。
各栄養素の配分も栄養学的に好ましいもの
で、南イタリアでの食生活がいかにへルシーであるかがわかります。
◎ヘルシー料理として広がる南イタリア料理
本書に紹介した南イタリアの家庭料理は、長い間、その地に根づいた伝統的な料理です。
おいしい、体によいと信じていたからこそ、世代をこえて伝承されているのです。
ひるが
えって現代のわれわれがおかれている状況は、飽食の時代を迎え、食べ物にも必要以上の
ものを求め、粗より精製されたもの、硬いものより軟らかく口あたりのよいもの、油を加
えた風味のあるものを求めるようになってきています。
一方、世の中はかなりの速いテン
ポで移り変わっているため、多忙な毎日を送っています。
早く料理ができて早く食べられ
、早く消化吸収できるファーストフード(fast food)好みとなっています。
し
かし、よく人間の体のしくみを考えてみると、古くから食べていた伝統的な食事は本来の
人間の体にやさしく、合っているのです。
人間の体は、食品や食事の急激な〃進化〃ほど
進化しないということです。
南イタリアの伝統的な家庭料理は早く料理できるという便利
性はあるものの、早く食べること、早く吸収することはできません。
硬質小麦粉をさらに
練って作ったパスタ。
それを固めにゆでて食べる。固いパンであるが、バターをつけずに
、口の中でよく味わって食べる習慣。
赤身の肉、豊富な緑黄色野菜。
ゆっくり消化され、
ゆっくり吸収するスローフード(slow food)といえます。
こうしたスローフー
ドは人間本来の特質に合った人間にやさしいフードなのです。
こうした南イタリアの伝統
的な家庭料理は、イタリア国内でも栄養学者を中心に、また北イタリアの健康志向の人々
にも注目され、食生活にとり入れられるようになってきました。
1970年後半から80
年にかけて北イタリアは急速な経済成長をとげ、人々は飽食を謳歌し、そのための成人病
が社会的な問題となってきた頃でした。
北イタリアの裕福な入びとは南イタリアの家庭料
理は貧しい人の食べるものとして捉えていましたが、米国のキース教授らの疫学調査で、
オリーブオイルを油脂として用いて素朴な伝統的な料理を食べている地中海沿岸の地方で
は、バターやクリームなど動物性脂肪を多くとる北ヨーロッパの地方と比べて、圧倒的に
心血管障害が少ないことがわかり、それまでバターを油脂として使っていた北イタリアの
人々にオリーブオイルのよさを認識させるに至ったのです。
北イタリアのミラノ出身の栄
養士ロベルタ・サルバドーリ(Roberta Salvadori)女史が南イタリア
料理をへルシーダイエットとして捉え『地中海式ダイエット:la Dieta Med
iterranea』という本を1983年に出版しました。
この本は北イタリアだけで
なく、ヨーロッパ全土、さらには米国にも紹介され、南イタリアのヘルシーな料理は地中
海式ダイエットとして世界に広まっています。
南イタリア料理は時代の試練に耐え、今や
西欧料理の原点としてよみがえっているのです。
米国においても栄養学者は、南イタリア
の伝統的料理の基本的原則をとり入れるよう勧めています。
これも現代の食事に求められ
ているものが、南イタリアにあることにほかなりません。