時効による取得

 

1)時効制度の種類

  • 民法は,時効制度として,取得時効と消滅時効の2つを定めている(民法144条以下)。
    1. 取得時効は,他人の物を一定期間あたかもその所有者のように占有することによって,その物の所有権を取得することを認める制度(民法162条以下)である。取得時効にかかる権利の代表格は所有権である。用益物権や賃借権も取得時効にかかる(民法163条)が債権は原則として取得時効になじまない。
    2. 消滅時効は,権利者が法律上行使することができる権利をなんら行使せずに放置して一定期間が経過すると,もはやその権利の行使を法律が保障しないという制度である。消滅時効にかかる権利の代表格は債権であり,弁済期到来後,原則として10年間の不行使によって消滅する(民法1671項)。弁済期の定めがない債権については,その発生の時から10年の消滅時効が進行する。民法は,例外として短期(15年)の消滅時効にかかる債権を定めている(民法169174条)が,それらの存在が確定判決で認められたのちは,消威時効の期間は10年となる(民法174条ノ2)。用益物権も消滅時効にかかる(民法1672項)が所有権は,消滅時効にかからない。
  • 取得時効も消滅時効も,時効期間が中断なしに経過することによって完成し,その結果,権利関係に変動が生ずる。この変動によって利益を受けるべき者がその利益(時効の利益)をあらかじめ放棄することはできない,とされている(民法146条)。しかし,時効完成後にあらためて放棄することは,自由である。時効によって債務が消滅し(消滅時効の場合),または権利を取得した(取得時効の場合)ことによって利益を受けるためには,債権者または権利者に対してその利益を受けることを主張する必要がある。これを時効の援用という。
  • 時効期間は,一定の中断事由が生ずると振出しに戻って新たに進行を開始する(民法157条)。中断事由となるのは,裁判上の請求や支払命令のような「請求」(民法1471号,148153条),「差押,仮差押又ハ仮処分」(民法1472号,154条,155条)及び「承認」(民法1473号,156条)である。裁判によらずに請求を行った場合には「催告」として取り扱われ,その時点で中断が生じるが6カ月以内にあらためて裁判上の請求等を行わないと,時効は中断されなかったものとなる(民法153条)。
  • 220年の取得時効

  • 他人の物を20年間平穏公然と所有者のように占有し続けると,その所有権を取得する(民法1621項)。動産であっても不動産であってもよい。占有をはじめるにあたって他人の物であることを知っていたとしても,その後あたかも自分の物であるかのように支配している場合には,20年の経過によって所有権を取得する。これに対して,賃借人のように,他人の物であることをつねに前提として占有している場合には,「所有ノ意思」がないことになるので,何年たっても時効は成立しない。
  • この20年の期間は,必ずしも1人の人が通して占有した期間である必要はない。相続によって相続人が占有を引き継いだ場合でも,また売買によって買主が売主から占有を引き継いだ場合でも,所有の意思をもって行われた占有が通算20年継続すれば、時効による取得が認められる。他方20年間に所有権者が交代しても、裁判上の明渡請求等、時効の中断自由(民法147条以下)がない限り時効は進行する。
  • 310年の取得時効

  • 占有をはじめるにあたって占有者が自己の所有物と信じ,かつ,そう信じたことに過失がなかった(善意無過失)場合には,時効期間は,10年に短縮される(民法1622項)(民法1622項では,1項で「物」といっているのに対して「不動産」といっているが,取引によらないで動産の占有をはじめた場合にも10年の取得時効を認めてよい。これに対して,取引によって動産の占有をはじめたときは,民法192条によって即時に所有権を取得する)。
  • 例えば,Aが他人の物であると知りながら占有を開始し,15年後にBAを所有者と信じて買い受け,さらに10年が経過したという場合には,Bは,Aの占有と自己の占有を通算して20年の時効を主張することもできるとともに,自己の占有のみをもって10年の時効を主張することができる。BAから相続によって占有を引き継いだ場合でも,同様の取扱いを認めるのが近年の判例である。善意無過失によって占有を開始したのち,目的物を第三者に賃貸したという場合でも占有は継続するので,貸主は,10年の時効を主張することができる。
  • 占有者は,10年の取得時効を主張するにあたって,占有の取得について無過失であったことを立証する必要があるが,所有の意思,平穏,公然,善意の要件については.本来の所有者の側で反証をあげない限り,それらを満たしているものとして取り扱われる(民法1861項)。
  • 4)取得時効の効果

  • 取得時効が完成してそれが援用されると、占有者は、時効期間の開始時(起算日)に遡って所有権を取得する。本来の権利者は、その結果として従来有していた権利を失う。また,当該物件上に設定されていた他人の権利もすべて消滅して,なんらの負担も制限もない所有権が占有者に帰属することになる。このような権利の取得を「原始取得」という。
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