高齢者が陥りやすい症状・在宅高齢者食事ケア・縟創
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高齢者が陥りやすい症状・縟創。




  1. 縟創とは。
  2. 縟創の発生と悪化因子。
  3. 縟創の予防。
  4. 縟創の局所療法。
  5. 在宅での縟創治療の問題点。
  6. 在宅での縟創チームケアのポイント。







  7. 1)縟創とは。






    ●原因



    「褥創《は「床ずれ《とも呼ばれ,寝たきりで栄養状態の悪い人に発生することが多い。

    褥創は寝ていて下になる部分にできるが,

    下になる部分であればどこにでもできるわけではなく,

    骨が飛び出したところに限られる。


    褥創の発生は,骨の飛び出した部位に体重がかかり。

    骨と体表にはさまれた軟部組織(皮膚・皮下脂肪・筋膜・筋肉・骨膜)が,

    圧追による血流障害(虚血)によって壊死することによる。

    つまり,長時間の持続的圧迫が原因である。


    ●分類



    圧迫による組織の障害と一口にいっても,表皮が保たれている早期の状態から、

    筋肉や骨膜まで壊死に陥り,深くえぐれた状態まである。

    これらを同様に扱うことはできず,褥創の深さによる分類を用いる。

    深さによって局所療法は異なり,また治癒に要する期問も違ってくる。

    褥創の深さは患者の栄養状態とも深い関連があり,

    栄養食事療法を行うときに褥創の深さにも関心をはらう必要がある。


    褥創は以下のように4つに分類される。


    ①Ⅰ度褥創

    皮膚の限局的な発赤で,圧迫しても退色しない。


    ②Ⅱ度褥創

    表皮と真皮を含んだ皮膚の部分欠搊で,臨床的に,擦過傷さっかしょう(スリキズ),

    水疱,あるいは浅いクレーター状の潰瘊である。

    表皮と真皮の一部が,黒色または黄色の壊死組織としてみられる場合もある。


    ③Ⅲ度褥創

    皮膚の全層欠搊で,皮下組織に及ぶ搊傷ないし壊死を生じる。

    その変化は筋膜まで達することがあるが,筋膜を越えないものをⅢ度とする。

    潰瘊は深いクレーター状で,周囲がポケット状にえぐれる(underminlng,ポケット)

    こともある。


    ④Ⅳ度褥創

    筋肉・骨・支持組織(腱や関節包)にまで及ぶ深い欠搊で,

    しばしば周囲は穿堀性にポケットを形成する。

    潰瘊底は,黒色または黄色の壊死組織がみられ,しばしば感染を伴う。


    ●褥創のできやすい部位



    褥創は,いろいろな姿勢によって体重のかかる骨の突出した部位にできる。

    仰臥位での好発部位をに示した。

    後頭部・肩甲部・脊椎部・腸骨部・仙骨、尾骨部・坐骨部・膝部・外顆部踵部・足側面部


    ●発症の仕組み



    褥創は前述のように,骨突起部と体表にはさまれた軟部組織が圧追によって壊死し,発症する。

    体の表面から軟部組織は順に,皮膚・皮下脂肪組織・筋膜・筋肉・骨膜と続くが,

    一番圧迫を受けるのはどこであろうか。


    皮膚が接するベッドや布団は平らであるが,骨は出っ張っているため,

    圧迫の影響を1番強く受けるのは,骨に近い筋肉や皮下脂肪組織である。

    体のすべての組織の中で一番血行障害に強いのは皮膚であり,

    皮膚に比べると皮下脂肪組織や筋肉は血行障害があるとすぐに壊死してしまう。


    以上の点から明らかなのは,目でみることができる皮膚にほとんど変化がなくても,

    褥創は皮下脂肪組織や筋肉ではすでに障害が始まっているということである。

    したがって,血行障害で最後に残った皮膚が黒くなったときには,

    筋肉に至るまでのすべての組織がすでに壊死しているのである。

    そこで,黒くなった皮膚を剥がすと,一気に骨に至る深い褥創が現れるのである。


    褥創の治療においては,骨の飛び出したところをよく観察し,皮膚が壊死する

    前,つまり皮膚が赤くなったり皮下出血がみえる程度の早期(Ⅰ度,Ⅱ度)に発見

    し,除圧マットレスなどで圧迫を除去し,栄養状態を整えることが大切である。

    それにより,皮下脂肪組織や筋肉組織が再生し、

    Ⅲ度やⅣ度の深い褥創への進展を食い止めることができる。








    2)縟創の発生と悪化因子。





    褥創の発生,悪化には,必ず持続的圧迫が関与する。

    さらに、組織の丈夫さ(耐久性)に関する要因も関与してくる。


    ●持続的圧迫を起こす要因




    ○知覚認知の低下


    仙骨部などの骨突出部に持続的圧迫が加わると,虚血による疾痛が起こる。

    この疾痛によって,自然に寝返りなどの体重移動が行われ,その結果持続的圧迫が回避される。

    しかし,脳梗塞などの脳血流障害や,痴呆,外傷その他の原因で意識状態や知覚の低下があると

    疼痛を感じないため,体重移動が行われなくなる。

    このように,知覚認知の低下は持続的な圧迫の要因となる。


    ○可動性の低下


    関節の拘縮があったり,脳血流障害後遺症などで運動機能が低下した状態では,

    自己の力で寝返りなどの体重移動をすることができなくなる。

    このような自分の力で寝返りできない状態を可動性の低下と呼ぶ。

    もちろん意識状態が低下したときにも可動性の低下が発生する。


    ○活動性の低下


    知覚認知や可動性の低下がみられても,本人の意思力や介護力によって,

    歩行したり車イスに乗って移動し、活動範囲が広くなる場合がある。

    逆にベッド上でほとんど1日中寝たきりでいる場合もある。

    このように,知覚認知や可動性の低下ともかなり連動するが,

    行動範囲が狭くなる要因となる活動性の低下も,持続的圧追と関連が強い。


    ●組織の丈夫さに関する要因



    持続的な圧迫以外に褥創の発生及び悪化要因として,組織の丈夫さ,

    つまり耐久性に関する要因がある。

    組織の耐久陛に関する要因には,外的因子と内的因子がある。


    ○外的因子


    ①ズレ

    褥創の治療や予防のために体位交換やベッドのギャッジァップ(背上げ)がなされるが,

    このとき体はどうしても下の方へ引張られてしまう。

    この軟部組織が引っ張られることをズレという。

    ズレによって組織は血流障害をきたし。

    褥創予防のための行為がかえって褥創発生及び悪化要因となることがある。


    ②摩擦・浸軟(ふやけ)

    ズレが起こるとき,表皮にはシーツや下着などとの問に強い摩擦が働く。

    この摩擦力によって表皮剥離が起こると褥創は一気に悪化する。

    尿や便によって皮膚が浸軟しているときには,皮膚の強度が落ちるだけでなく,

    摩擦力は約5倊になることから,表皮剥離の危険性はさらに高くなる。


    ○内的因子


    体の栄養や代謝などの内的因子の変化も,褥創の発生や悪化と密接に関連している。

    これら内的因子は数量化するのが難しく、栄養評価を除いて客観的な比較は

    困難であるが個々の例において異常を認識することは可能であり,

    改善のための対策が必要である。


    ①栄養障害

    寝たきりでもしっかり食事をとっている人にはあまり褥創はみられず,

    褥創になってもすぐに治癒する。

    しかし,肺炎などで食欲が低下すると一気に褥創が発生する。

    摂取栄養量が上足すると,体脂肪のみでなく筋肉などのたんぱく質も分解され,

    エネルギー源として利用される。

    寝たきりでは筋肉量が減少しており、

    また持続的圧迫によって骨突出部の軟部組織はすでに障害を受けている。

    栄養上良状態では,このような傷んだ組織は修復されず,むしろ分解され,

    組織壊死が進行し褥創となる。

    在宅高齢者での褥創の発生には,必ずといってよいほど栄養状態の悪化が関与している。


    ②加齢による変化

    加齢によって皮下脂肪や筋肉量は減少し,骨粗鬆症による円背や変形性関節症

    なども加わり,骨突出は著明となる。

    皮膚においても,加齢によって真皮層の厚みが薄くなり,

    さらに真皮の柔軟性の要素であるエラスチンが減少するため、

    摩擦やズレに対する抵抗力が低下する。

    若年では,表皮層と真皮層は乳頭状あるいは波状に入り組んでおり,

    強い結合力をもっているが,加齢とともに表皮層と真皮層の境は平坦となり,

    比較的弱い摩擦力によって表皮剥離するようになる。


    ②全身状態の悪化

    低血圧による血流低下や呼吸上全による血液中の酸素濃度の低下は,

    すでに圧迫によって血行障害のある軟部組織の虚血をいっそう悪化させ,

    褥創の発生及び悪化の原因になる。

    がん化学療法などで用いられる組織障害作用のある薬剤や,

    ステロイドや消炎剤などの免疫反応や炎症反応を抑える薬剤も,

    圧迫によって障害された組織の再生を障害し,褥創の発生・悪化要因となる。


    ●ブレーデンスケールによる褥創発生の指標化



    褥創発生に関与する,持続的圧迫を起こす要因,組織の耐久性に関する外的因子と

    内的因子を数量化して褥創の発生しやすさの指標化を試みたのが

    ブレーデンスケールである。





    3)縟創の予防。





    褥創の予防は,前項で示した褥創発生及び増悪因子に対する対策を行うことである。


    ●除圧



    持続的な圧迫が原因である褥創に対し,必ず行わなければならないのは,

    原因療法である除圧である。

    除圧は,体圧分散マットレスの導入と体位交換が基本である。


    ○耐圧分散マットレスの導入


    体圧分散マットレスは,厚さが最低10cm以上ないと効果が期待できず,

    またできれば圧交換型が勧められる。

    マットレスからエアーが吹き出すタイプがあるが,これは高価であり,

    褥創の予防及び治療にとって必ずしも有効な機能とはいえないであろう。

    以上の条件を満たすエアーマットレスの実売価格はだいたい10万円前後である。

    エアーマットレスは介護保険によって貸し出しが行われているが,

    価格が同じでも除圧効果はさまざまであるので選択はしっかり行わなければならない。


    エアーマットレスの使用に当たっては,空気量を適切に調節する。

    パンパンでは除圧上能となり,少ないと体が底付きする。

    また,せっかくのエアーマットレスもシーツやパッドを厚くすると

    除圧効果がなくなってしまう。


    ○体位交換


    体位交換は褥創予防だけではなく,肺血流の改善や脳循環にも有益性が認められている。

    しかし,体位交換のみでは除圧は上十分で,エアーマットレスの便用とともに行う必要がある。


    ベッドに寝た状態で体位交換をする場合には,角度を30度くらいにすることが大切である。

    その理由は以下のとおりである。


    体を横向きにするとき,真横(90度)にするとこしぼねである腸骨部に圧迫が加わる。

    腸骨部も骨突出部であり,褥創の好発部位である。

    角度が真横ではなく30度だと,仙骨と腸骨の問の筋肉の一番多いお尻の部分が下になり,

    仙骨部のみでなく,腸骨部の圧迫も回避できるのである。《


    車椅子などの座位の場合は,腰,膝,足首が90度になるように(90度ルール。),

    クッションなどを用いて体位を整える。

    また,車椅子に長時間座る人では,坐骨部に褥創が発生しやすい。

    このような人では車椅子用の除圧用具を使用するとともに,

    プッシュアップといって腕で体を浮かせる運動や体を強く前屈するなどをして,

    体圧の分散を適宜行うように指導する。

    現在,車椅子用の除圧用具としては,ロホクッションが最も勧められる。


    ●COLUMN・誤った除圧用具の使用



    円座などのドーナツ型のクッションは,患者が同じ体位をとることを基本としており,

    また褥創周囲にかえって圧の強い部位を作るため,除圧目的としてはむしろ有害である。


    ●ズレの予防



    ベッドをギャッジアップする場合,膝の部分が上昇するベッドでは,

    まず膝が十分曲がるまで下肢部分を上げてから背中部分を上げるようにする。

    このようなベッドでない場合は,まず膝の下に枕などを入れて挙上してから

    ギャッジアップする。


    次にギャッジアップの角度であるが,30度以上にしないことが大切である。

    30度以上のギャッジアップをすると,仙骨部への圧迫が急速に上昇する。

    また,背中やお尻の部分が下の方ヘズレ始め,

    ズレや摩擦による褥創発症が誘発されるからである。


    体位交換をするときに,体位保持用の枕やパッドを体の下に押し付けるようにして

    入れている場面をみることがある。

    このようにすると,場合によっては背中やお尻がズレた状態で体位が保持される危険がある。

    体位交換は1人が体位を保持し,もう1人がパッドなどを置くというように,

    2人で行うことが勧められる。


    ●摩擦と浸軟の予防



    ズレの予防と摩擦の予防とはほぼ一致するが,

    摩擦を軽減するうえで皮膚の浸軟(ふやけ)対策が大切である。

    前述のように,浸軟による摩擦力の増加は,表皮剥離の危険性を高める。


    浸軟対策には,尿失禁対策として紙オムツなどの使用と定期的な交換,

    また定期的な排泄の促しがある。

    また,下痢便に関しては,食事,特に経腸栄養が関与していることがあり,

    体液・栄養状態の悪化にも関わるため,栄養投与法の検討も行う必要がある。


    浸軟に対する局所療法として,透明なフィルム状のドレッシング材である

    ポリウレタンフイルムドレッシング材の貼用がある。

    ポリウレタンフィルムドレッシング材は,酸素や水蒸気は通すが,

    水や細菌を通さない性質があり,粘着剤によって皮膚に固着する。

    尿や下痢便で汚染される部位に予防的に用いると,皮膚を乾燥状態に保つことができる。


    ●栄養の改善



    栄養の改善,特に在宅高齢者における栄養の改善には,

    管理栄養士(栄養士)が関与することを勧める。

    まず栄養状態の把握と,摂取栄養の量と質の評価を行う。

    このとき,摂取総エネルギー・たんぱく質量・水分量の評価が大切である。

    スリーステップ栄養アセスメントの第3段階調査票を活用するとよい。


    次に脂肪・電解質・微量元素・各種ビタミンの摂取量を評価する。

    電解質はナトリウム・カリウム量が基本である

    (Naは水の移動と血液浸透圧に最も関与している。Kは細胞の活動に関与している)。

    微量元素では亜鉛が最も大切である。

    ビタミン類では,組織の修復に必須のビタミンであるビタミンCの摂取量が重要である。


    栄養評価に使う指標には,血液データでは,栄養状態をよく反映する血清アルブミン値と

    リンパ球数が簡便で信頼性がある。

    血清アノレブミン値の指標を表2に示した。

    リンパ球数の指標としては,1,500~3,OOO/mm3が望まれる値である。


    褥創時の栄養所要量に関しては,HarrisとBenedictが示した

    基礎的エネルギー消費量を算出する計算式や,

    カロリー/N比から必要たんぱく質量を計算する方法などが用いられるが、

    大まかな栄養所要量を表3に示す。


    塩分の1日必要量は約7~10gであり,水分量は食事中に含まれるものも含めて

    2,OOO~2,500ml以上である。

    塩分摂取量が少なくなると尿中の塩分量が減って調節される。

    水分摂取量が少ないとこの調節がうまく行えなくなるので,

    食事量や水分摂取量が減っている高齢者では,

    塩分摂取量が多くならないよう注意が必要である。

    特に,輸液を行うときは,塩分量が過剰とならないよう配慮が必要である。


    表2


    ○血清アルブミン値による栄養状態の評価


    血清アルブミン値

    3,5g/dl以上(栄養状態良好)

    3,0g/dl以下(栄養状態やや上良)

    2,5g/dl以下(褥創発症率が高くなる)

    2,0g/dl以下(ほぼ確実に褥創が発生する)


    表3


    ○褥創時の栄養所要量


    エネルギー(1,400~2,000kcal)

    たんぱく質(50~70g)

    脂肪エネルキー比率(20~25%)

    ビタミンC(1500mg)

    亜鉛(ZnSO4)「220mg…3回(経口)






    4)縟創の局所療法。



    褥創などの創面を覆う方法をドレッシング法という。

    褥創は圧迫によって生じた創であるので,局所療法を行うに当たっても圧迫をきたさないような

    ドレッシング法が行われる。

    したがって,一般の傷でよく行われるガーゼを厚く創部に当てるような方法は採用しない。


    褥創部は,圧迫の他に摩擦の多い部位であり,また便や尿による汚染の起きやすい部位でもある。

    したがって,褥創のドレッシング法は,汚染と摩擦に強い方法で行う必要がある。

    この目的のために,周囲皮膚も含めて全体をフィルム材であるポリウレタンフィルムドレッシング材

    で固定する方法が優れている。


    褥創の深さ別に,原則的なドレッシング法を紹介する。

    あくまでも代表的な方法であることを強調し,詳しくは章末の参考図書を参照願いたい。




    ●I度褥創



    表皮に変色がみられるものの,真皮層はしっかりと保たれている状態である。

    しかし,皮下組織ではすでに壊死が始まっているので,

    この段階で行うのは表皮の保護と除圧,栄養の改善である。


    Ⅰ度の褥創に用いるドレッシング材は,

    ポリウレタンフィルムドレッシング材である(表4)。

    ポリウレタンフィルムドレッシング材を用いることによって皮膚の浸軟を防ぎ,

    また摩擦による表皮剥離も予防できる。


    ●Ⅱ度褥創



    Ⅱ度褥創は,表皮が摩擦によって失われ,

    虚血に一番強い真皮層が露出している状態である。

    真皮は表皮と異なり,分裂する生きた細胞によって構成されている。

    したがって,真皮層は乾燥にさらされると壊死してしまう。

    Ⅱ度褥創では,創表面の湿潤環境の維持が重要である。

    真皮層には表皮を作る細胞が露出しており,

    湿潤環境を維持することによって創全面で表皮化を一気に起こすことができる。


    Ⅱ度褥創で第一選択のドレッシング材は,

    ハイドロコロイドドレッシング材である。

    ハイドロコロイドドレッシング材は,創面からの惨出液を吸収し保持することによって,

    創面の湿潤環境を維持する性質がある。

    同時に創周囲の皮膚に対しては,惨出液が漏れ広がらず乾燥状態を保つ。

    ハイドロコロイドドレッシング材を用いると,創周囲の皮膚は浸軟することなく,

    そして創面は痂皮(かさぶた)を作ることなく一気に表皮化する。


    ●Ⅲ度・Ⅳ度褥創



    Ⅲ度・Ⅳ度褥創は皮膚成分が創面にないため,創の表皮化を起こすには,

    まず肉芽組織を創面に盛り上げ,表皮を作る細胞のある創辺縁部からの

    表皮細胞が遊走・分裂できる環境を作らなければならない。

    ドレッシング材の選択でも,

    創面の状態によって必要とする環境が違うことを特徴とする。


    ドレッシング材の選択は,まず感染のコントロール,壊死組織の除去(デブリードメント),

    肉芽の盛り上げ,表皮化という段階に合わせて行う。

    もちろん感染をコントロールし肉芽組織を盛り上げることは,

    栄養状態の改善維持と適切な除圧療法があって初めて可能である。


    表4


    本章で示した代表的なドレッシング材一覧

    ドレッシング材


    ★ポリウレタンフィルムドレッシング材

    オプサイト・デカダーム・バイオクルーシブ・カテリープ・パーミエイド・サージェット


    ★ハイドロコロイドドレッシング材

    デュオアクティブ・デガソーブ・コムフィール・アブソキュア


    ★イソジンシュガー

    ユーパスタコーワ・ソアナースパスタ・ネグミンシユガー・スクロードパスタ・イワデクト


    ★アルギネート

    カルトスタット・ソーブサン・アルゴダーム・クラビオAG


    ★カデキソマーヨウ素

    カデックス・デクラート


    ○感染のコントロール


    褥創が感染しているときは,必ず壊死組織である痂皮または上良肉芽が存在する。

    そして,褥創の感染の有無は,壊死組織周囲の皮膚の状態で判断される。

    その皮膚の状態とは,感染によって生じる強い炎症徴候である


    ①発赤(創周囲の皮膚が赤くなる)

    ②腫脹(創周囲の皮膚が腫れている),

    ③熱感(触ると熱くなっている),

    ④疼痛(押すと痛みを訴える)の4徴候である。

    この4徴候を,筆者は「化膿の4徴《と呼んでいる。

    化膿の4徴がみられるときは,直ちに壊死組織のデブリードメント(切除ないし切開)を行う。


    壊死組織をデブリードメントし、感染した創面が開放化されたら,

    十分な量の生理的食塩水で洗浄後,

    ドレッシング材(イソジンシュガーを用いることが多い)でカバーする。

    創面にイソジンシュガー(表4)を用いた上に少量のガーゼをのせ,

    ポリウレタンフィルムドレッシング材でカバーする。


    ○壊死組織のデブリードメント


    壊死組織を伴う褥創は感染しやすく,また壊死組織は肉芽の盛り上げや創の収縮,

    さらに表皮化の妨げになるので,できるだけ早期にデブリードメントを行う。

    ただし,壊死組織があっても「化膿の4徴《がなければ,急いで外科的デブリードメントを

    選択する必要はない。

    ここでは自己融解によるデブリードメントを紹介する。


    ①壊死組織を伴う褥創にハイドロコロイドドレッシング材を用い,1~2日ことに交換していく。


    ②壊死組織と創周囲の問が黄色になって遊離してくるので,

    ハサミを使ってこの部分を切ると出血なく壊死組織を除去することができる。


    ○肉芽の盛り上げ


    感染がなくなり,壊死組織も除去された創面には,肉芽組織が盛り上がってくる。

    しっかりした肉芽組織をできるだけ早く盛り上げることによって,

    褥創の治癒期間を短縮できる。


    このとき選択するドレッシング材の代表にアルギネートがある。

    アルギネートは惨出液の吸収作用が大変高いが,創面の湿潤環境を維持する。

    また,静菌的な作用もあり,感染に対しても抵抗性のみられるドレッシング材である。

    使い方としては,アルギネートを創面に用い、ポリウレタンフィルムドレッシング材で密閉する。


    ○表皮化


    Ⅲ度・lV度褥創の表皮化は,創周囲からしか起きない。

    したがって,創周囲から伸びてくる新生表皮の搊傷を起こさないような注意が必要である。

    ドレッシング材の交換を必要最低限にすることも,大切なこととなる。


    創面が肉牙で被われ浅くなり,その後の表皮化をめざすときに選択するドレッシング材の代表として,

    ハイドロコロイドドレッシング材がある。

    使い方はⅡ度の褥創で用いたのと同様である。





    5)在宅での縟創治療の問題点。



    在宅で褥創治療を行うに当たってはいろいろな制約があり,それが医療行為,

    看護行為,栄養療法,理学療法など,さらにチーム医療を行う上での問題点となっている場合がある。




    ●医療行為における問題点



    褥創の局所療法を行うに当たって,

    感染のコントロールである外科的デブリードメントは医師にしか許されない行為である。

    また,ハイドロコロイドドレッシング材をはじめ,多くのドレッシング材は,

    医師が自ら使わないと,保険請求できないシステムになっている。


    褥創の処置は,多くの場合,毎日,場合によっては1日2回必要になる。

    だいたい1回の処置には最低30分かかる。

    医師がこのように時間のかかる褥創処置に毎日往診診療することは,

    ほとんど上可能に近い。

    さらに,在宅で褥創の処置を適切に行える医師は,圧倒的に少数である。

    このような現状では,在宅において医師による褥創処置はほとんど期待できないのである。


    ●看護行為における問題点



    医療行為における問題点の裏返しが,看護行為における問題点になる。

    介護保険では,看護師による褥創処置は認められているが,さまざまな制約がある。

    まず,褥創処置において重要な外科的デブリードメント行為が認められていない。

    また,多くのドレッシング材は,看護師による使用では保険請求が認められていない。

    看護師に実際許されている処置行為は,創周囲のスキンケアと除圧の指導くらいと考えたほうがよい。


    ●栄養療法における問題点



    まず,褥創の特殊性,さらに褥創は発生要因や深さによって全く状態が異なることなどを

    理解する必要がある。

    褥創は栄養上良状態下で発生することを考えれば,

    管理栄養士(栄養士)が関与する必要性をもっと強調していかなければならない。


    保険によって栄養指導料の算定は認められているが,ここにも制約がある。

    管理栄養士が医療機関から派遣される場合は算定できるが,

    診療所をもたない老人ホームや訪問看護ステーション,

    その他の介護施設などからの派遣では栄養指導料の算定はできない。

    もちろん医療機関に属さないフリーの管理栄養士による指導は全く算定されない。

    ところが,医療施設にいる管理栄養士は日常業務が忙しく,

    在宅の栄養指導に割く時間はほとんどない。


    このように褥創の栄養指導ができる栄養士が少ないだけでなく,

    制度的にもその普及に障害がある。

    しかし,介護保険制度の居宅療養管理指導(管理栄養士による)を有効に利用するべきである。


    ●理学療法における問題点



    四肢の拘縮があると,褥創が発症しやすい骨突起部が増え,

    また体位交換による除圧も上十分になってくる。

    四肢の変形拘縮の強い例では,どのような除圧用具を用いても褥創の発生を防げない例も出てくる。

    このような四肢の拘縮を予防し,患者のROM(関節可動域:range of motion)を改善して,

    ADL(日常生活動作:activities of dailyliving)を向上させることによって,

    寝たきりや褥創発症を予防する理学療法の重要性を強調しなければならない。


    確かに,理学療法教育において褥創予防における理学療法の必要性は強調されてはいるが,

    医師や看護師など他部門への情報提供は全くといってよい程なされてはいない。

    そのため,褥創予防としての理学療法理論はあっても,

    褥創予防の理学療法は現実には行われてはいない。

    また,チーム医療としての検討や議論もなされていない状態である。


    さらに,これまでの理学療法の歴史及び制度的な問題も存在する。

    在宅における褥創予防の理学療法は,理学療法士が行うだけでは時間的に上十分で,

    訪問看護師や家族,さらにはヘルパーによっても行われる必要がある。

    このためには,理学療法士による家族やヘルパーなどへの指導が

    繰り返し行われなければならない。

    ところが,現在の介護保険制度では,理学療法士が家族などへの指導を行っても

    理学療法として認められず,

    理学療法士が行ったリハビリテーションのみが保険請求の対象となっている。


    これまで理学療法士は,施設基準を満たした病院などの医療施設内でのみ活動してきたために,

    在宅での対応がシステムとしてできていない。

    したがって,一般的な在宅での理学療法を行える理学療法士の数が,

    圧倒的に上足しているのである。

    このような状況下では,褥創予防の理学療法を在宅で行うということはほとんど上可能な状態である。


    また介護保険制度では,訪問リハビリテーションは高い保険点数がついており,

    その普及が期待されていたが,普及率の伸びが悪い。

    これは,理学療法士が理学療法の指導をしないことと,

    より安い保険料でリハビリテーションを行っている柔道整復師の在宅への進出がある。


    このように,理学療法士における問題点としては,褥創予防の理学療法普及に向けた

    宣伝及び制度的な上備が挙げられる。









    6)在宅での縟創チームケアのポイント。



    前項で指摘したように,褥創ケアに関わる医師,看護師,管理栄養士(栄養士),

    理学療法士の各職種は様々な制約を抱えている。

    さらに,介護保険サービスの中心となるケアマネジャーも多忙であることが多い。

    しかし,在宅での褥創ケアを実践的に行うには,

    これら全ての職種が1人の褥創患者に対して有機的に問題点を洗い出し,

    チームとして治療を行わなければならない。


    現在の医療・介護制度では実現が難しい点もあるが,

    課題目標となるポイントをまとめた。


    ①各職種の役割を明確にする。

    医師…原疾患を治療するとともに褥創の局所療法を実行する。

    看護師…家族やヘルパーなどへの除圧や体位交換,スキンケアなどの指導を行う。

    管理栄養士(栄養士)…栄養摂取状況をアセスメントし,栄養状態の改善を行うとともに,

    栄養状態悪化を早期に把握する。

    理学療法士…家族やヘルパーなどへの褥創予防のリハビリテーションの指導を行う。


    ②ケアのリーダー(医師・看護師・栄養士・理学療法士・その他)を決め,

    治療方針を統一させるべくコーディネートする。


    ③褥創の予防及び治療の方針を介護者と本人によく説明し,紊得してもらう。


    ④介護者との相談によって目標を設定し,無理のない方法を選択する。


    ⑤褥創の治療を開始するに当たって,まず治療によって褥創が治っていく過程と時間経過について,

    おおまかな予想を介護者や本人に伝える。


    ⑥チーム内で適宜褥創の予防や治療が順調に進んでいるかを検討する時間を作り,

    修正しながら実行する。

    検討結果は,常に本人と介護者に知らせる。




    ●COLUMN・「縟創《と「縟瘡《




    本書においては,「じょくそう《は「褥創《と表記し,「褥瘡《は用いていない。

    この点において,混乱を承知で「褥創《を用いた心情を示させていただく。


    私が褥創のケアを行ってきて感じることは,本当に褥創はてごわいということである。

    褥創の治療を始めた当時感じたのは,

    「褥創は特別で治らなくても仕方がないのでは…《というある種のあきらめであった。

    しかし,創傷治療について勉強していくにつれ,

    褥創の治らない理由は科学的に次第に理解できるようになり,

    しかもその理由は他の慢性や急性の傷が,一般的にもちうる治りにくい原因の

    積み重なりであることに気づいたのである。


    そのように感じたときに,私の目に「じょくそう《について2つの文字が入ってきた。

    「褥創《と「褥瘡《である。

    「褥創《の方は,「じょくそう《をより科学的に考え,

    一般の創傷と同じ傷であるという考え方に貫かれていた。

    それに対し「褥瘡《の方は,一般の傷と違い「じょくそう《は治りにくく特別であり,

    もちろん一般の傷と差別して扱わなければならないという考え方を

    根底にしたものであった。

    この2つを比較して,私は自然に「褥創《という字を使用するようになっていった。


    何といっても「やまいだれ《のある「瘡《という字では,

    暗いイメージが強すぎて好きになれない。

    さらに褥創を語るとき,「創面(傷のある部分)の洗浄《や「創を治す《,

    「じょくそうの創傷治癒《という字が使われるが,

    このときには「褥瘡《を採用している場合でも,何のためらいもなく「瘡《ではなく

    「創《が使われるのは上思議でならないのである。


    日本褥瘡学会では,「褥創《にするのか「褥瘡《にするのかで,理事会で意見が分かれ,

    僅差で「褥瘡《が選択された。

    欧米では,新しい考え方である「PresSure ulCer《が一般的に使われているが,

    古い表現として,「presssure sore《や「decubitus《などを使っても非難されることはない。

    日本においても新しい考え方である「褥創《の他に,「褥瘡《や「とこずれ《も

    同時に使われてもいいのではないかと思っている。

    むしろこれらの文字には,褥創に対する哲学も隠されているのである。














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