高齢者に多い疾患・在宅高齢者食事ケア・脱水
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高齢言が陥りやすい症状(脱水)。




  1. 脱水の危険性への正しい理解の大切さ。
  2. 脱水を理解するための基礎知識。
  3. 高齢者の脱水。
  4. 脱水への対応。







  5. 1)脱水の危険性への正しい理解の大切さ。





    脱水とは,体液量(特に細胞外液量)が欠乏した状態をいう。

    高齢者は脱水を起こしやすく,水の補給が大切であるということは,広く知られている。

    しかしながら,介護老人福祉施設の利用者への食事介助の状況をみると,

    普通に水を飲むことが非常に難しい人が多いという現実にぶつかる。


    特別養護老人ホーム愛全園(東京都昭島市)の

    110人の利用者の中で健常食(常食)を食べられる人は約20%であり,

    その他は何らかの摂食・嚥下障害のため,

    各種の考慮食を必要としている。

    たった10mlの水を飲むのにも,むせ込み予防のため,

    飲みやすい濃度(個人によって異なる)にトロミをつけ,慎重に時間をかけて飲んでもらうしかない。


    このような人達は,介護者が機会をみつけてこまめに水分の補給を行わないと,

    簡単に脱水に陥ってしまう。

    脱水の初期の段階では,高齢者は何の訴えもしないことから,

    周囲は脱水状態の危険にあることに気づかないことが多い。

    しかし,本格的な脱水症になれば,突然意識が失われ,死の危険にさらされることは,

    真夏の熱中症で簡単に命を落とす高齢者がいることからもその危険性は明らかであり,

    決してあなどれない。


    脱水の早期発見と適切な水分補給のためには,

    水分摂取量の把握が必要となる。

    水分摂取量の合計は,食事と,食事以外の飲み物の摂取量から求める。

    多くの人は「食事からとれる水分」という概念がなく,

    脱水の予防といえば食事の摂取量を確認することなしに,ただ飲水量を増やせばよいと考えがちである。

    しかし,あくまでも食事が基本であり,食事からとれる水がどのくらいであるのかを知らなければならない。


    介護や看護スタッフなどを含め,高齢者ケアに関わる人は,脱水に関する正しい知識をもつ必要がある。

    科学的な介護を目標にするならば,少なくとも脱水症や低栄養で高齢者を衰弱させないように,

    最低限の人体の生理について知った上で,食事介助を行うべきである。


    高齢者の低栄養の予防は重大な課題ではあるが,

    その前にまず高齢者の脱水状態を早期に発見して生命の危険を救い,

    次いで低栄養の原因と治療に力を注ぐべきである。







    2)脱水を理解するための基礎知識。




    ●体液とは




    ○体液の構成成分


    体液とは体の中の水分を体液という。

    体液内には電解質(ミネラル)と非電解質(たんぱく質,糖質,脂質,尿素など)が含まれている。

    体液は,成人では体重の約60%を占めるが,加齢により減少し,70歳以上では約50%となる。

    つまり,高齢者になると体液量(体内水分量)が少なくなる。


    @体液中の電解質

    電解質とは,水などに溶かしたとき,十または一の電気を帯びた粒子(イオン)に分かれる物質をいう。

    ナトリウム(Na+)のように十の電気を帯ぴた粒子を陽イオン,

    クロール(C1一)のように一の電気を帯びた粒子を陰イオンという。

    イオンに分かれることを「解離する」といい,多くの場合,

    電解質はイオンに解離してはじめて作用を発揮する。

    例えば,神経や筋肉の興奮性を抑えるカルシウム(Ca)の働きは,

    イオン化(Ca2+)してはじめて発揮されるのである。

    体液中に含まれる電解質には,ナトリウム(Na+),クロール(C1一),カルシウム(Ca2+)のほか,

    重炭酸イオン(HCO3-),カリウム(K+),マグネシウム(Mg2+)などがある。

    細胞内液の電解質としては,Kイオン(K+)が最も多く,

    細胞外液にはNaイオン(Na+)が最も多い。


    電解質は身体の働きを正常に保ち,生命を維持する上で重要な働きをしている。

    体液内の電解質はいつもほぼ一定に保たれており,

    自由に飲んでも食べても体液や電解質はほとんど変化しない仕組みになっている。

    これは,腎臓を中心とした臓器が協力して水や電解質の出入りを調節しているからであり,

    この仕組みをホメオスターシス(恒常性)という。


    各種の病気により,このホメオスターシスの機能が低下すると,体液,電解質の

    濃度が乱れ,生命の危険を招きかねない事態に至る。


    高齢者は,体液,電解質のホメオスターシス機能(恒常性維持機能)

    が弱くなっているため,水,電解質異常が起こりやすい。

    これらの異常事態に対して中心に働くのが腎臓であり,

    腎臓の予備力のあるうちに適切な治療が行われれば早期に改善するが,

    時期を逸すると生命の危険がある。

    高齢者の水,電解質の乱れは,一刻も早く発見して対応することが必要である。


    そのためには,脱水状態によって起こる各種の兆候や症状が,

    はっきりと目に見える前に予測することが重要であり,

    その最適な方法は,実際に摂取した食事や飲み物の量を観察,あるいは記録することである。


    A体液中の非電解質

    体液中の有機物の大部分で,代謝に必要な物質としては,

    たんぱく質,脂肪または脂肪類似物質,ブドウ糖,乳酸などがあり,

    代謝終末産物としては,尿素,尿酸,クレアチニン,胆汁色素,胆汁酸がある。


    ○体液の浸透圧とPH


    浸透圧とは,半透膜(水は自由に通すが,水の中に溶けている粒子は通さない膜)を介して,

    濃度の高い液が,濃度の低い液から水を引き寄せる力をいう。


    浸透圧は体液内に溶けている粒子の総数,つまりモル(mol)濃度の総和によって決まり,

    1ミリモル(mmol)の粒子が生み出す浸透圧の大きさを1ミリオスモル(mosm)と呼ぶ。


    体液(細胞内液+細胞外液)はいろいろな物質を含むが,

    中でも最も多く含まれている電解質の量によって浸透圧が決まる。

    細胞内液,細胞外液(血液と細胞間液)のいずれも,

    溶質は異なっても浸透圧が同じならば体液の移動は起こらない。

    細胞内,外どちらか一方の浸透圧が変化すると,浸透圧が同じになるまで水の移動が起こる。

    体液の浸透圧は,水の量を加減することで調節されている。


    また,体液内のpHは常に約7.4に保たれている。


    ●脱水のパターン



    脱水には,主に


    @水分が不足するものと,

    ANaが不足するものの2つのパターンがある。


    細胞外液にはNaが多く,このNaが細胞外液の浸透圧を決定している。

    水とNaは一緒に動くので,水分の欠乏があれば同時にNaの欠乏も起こる。

    したがって,水分とNaの欠乏の割合によって,脱水症のパターンが決まってくる。

    実際の臨床では,純粋な水分欠乏と純粋なNa欠乏の両方の症状が混ざったもの

    が多いため,脱水症とは,水分の欠乏とNa欠乏の組み合わせで起こる状態と理解すればよい。



    ★COLUMN




    ●浸透圧の働き


    例1:

    発汗や塩辛い食事をとったような場合

    細胞外液(血液)の浸透圧が高くなり,のどの渇きが起こり,水を飲む。

    一方,脳下垂体からの抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が多くなり,腎臓で作られる尿の量が少なくなる。

    つまり,尿は濃縮され,水分の排泄が抑えられ,飲んだ水の量と合わせて水分の不足が改善される。


    例2:

    水の飲みすぎや過剰な補液などで体内の水が増えすぎた場合

    細胞外液(血液)の浸透圧が低くなる。すると口渇は減り,ADHの分泌が抑えられ,

    薄い尿を多く排泄することで余分な水を排出する。

    これを水利尿という。




    ●腎臓の役割




    腎臓は,水,電解質代謝の主役を担っている。


    ○排泄機能


    腎臓には心臓から血液が送り込まれ,

    腎の糸球体で濾過されて1日約140?もの尿が作られている(糸球体濾過量)。

    このうちの約99%が尿細管で再吸収されて再び血管内に戻され,

    残りの約1%が尿(1,000〜1,500ml)として排泄される。

    これにより老廃物が処理される。


    ○体液の恒常性の維持


    腎臓は,血液を介して体液の浸透圧の調整,体液量の調整,pHの維持など,

    体液の恒常性の維持に深く関わっている。

    体内の細胞を取り囲む細胞外液の状態が安定し,恒常性が維持されていれば,細胞は生命活動が維持できる。

    腎臓は,この細胞外液の状態を常にバランスのよい状態に保つという働きを担っている。


    @細胞外液の浸透圧の維持

    基本的には水の摂取量と排泄量(尿量)を調節することによって行われる。

    腎臓は,抗利尿ホルモン(ADH。脳下垂体ホルモンで水の再吸収を促す作用があり,体内に水分が回収される)

    を介して,尿の濃縮,希釈により尿の排泄量を増減することで浸透圧を調節する。


    A細胞外液量の調節Naの排泄や再吸収を調節することで,細胞外液量の調節をしている。

    Naが不足すれば腎臓からのNa排泄を抑制し,Naが増加すれば腎臓からの排泄を多くする。

    Naは水とともに動くので,結果として尿量の変化が起こり,細胞外液量を調節できる。


    B体液のpHの維持

    腎臓は体内の余分な酸を尿中に排泄することで,体液のpHを適正に維持している。

    逆にアンモニアなどのアルカリは,尿素窒素に変化されて尿中に排泄される。

    このような働きを生体に備わる緩衝作用といい,この作用が弱まるとアシドーシス(酸血症)や

    アルカローシス(アルカリ血症)と呼ばれる体液pHの異常が起こる。


    ○内分泌機能


    腎臓は,次のような酵素やホルモンを産生,分泌するなど内分泌機能を有し,血圧の調節にも関わっている。


    @レニン: 腎皮質内で産生するたんぱく質分解酵素の一種。血圧,体液量の調節。


    Aカリクレイン:

    末梢血管拡張作用により血圧を下げる。


    Bプロスタグランジン:

    腎において産生される生理活性物質で,血管拡張作用によりNa吸収を阻害し,Na利尿に働く。


    Cエリスロポエチン:

    造血機能。赤血球の生成を促進する体液性因子の1つとして,骨髄を刺激して造血機能を高める。


    ★COLUMN




    ●毛細血管を介した水の移動


    毛細血管内の浸透圧は,組織間液内の浸透圧よりも高い。

    つまり,毛細血管内と組織間液では浸透圧が異なり,

    この差によって組織間液の水分は常に毛細血管内の引き込もうとする力を受けている。

    健康であれぱ,毛細血管と細胞内液の間には全体として浸透圧のバランスが保たれており,

    血漿浸透圧は,ほぼ一定に保たれている。

    しかし,低たんぱく血症などによって血漿浸透圧が低くなると,

    血液から組織間液へ水の移動が起こり,組織間液が増加して浮腫(むくみ)が生じることになる。







    3)高齢者の脱水。




    ●脱水の原因




    健康であれば,体液と電解質のバランスが崩れることはまずない。

    水を多く飲めば余分な分は尿として排泄され,不足が起こればのどが渇いて水を飲んだり,

    尿の量を減らしてバランスをとっている。

    しかし,何らかの異常でこのバランスが崩れると脱水や浮腫という病態が起こる。


    @水分摂取の不足(入る水の不足)

    入る水が不足する一番の原因は,食欲不振による食事量や飲み物の不足である。

    口から全く水分をとらなくても,体内の老廃物を排出するために最小限500mlの尿量は必要である。

    しかし,入る水が不足すると十分な尿量を得ることができなくなる。

    このような場合,輸液中に最小限100gのブドウ糖を補給すると,これがエネルギー源として利用され,

    体内のたんぱく質の分解が抑えられて尿中の老廃物が少なくなり,尿量はさらに少なくてすむ。

    これをブドウ糖のたんぱく節約効果という。


    また,最小限必要な尿量は,腎の濃縮力によっても変わる。

    例えば,腎機能の低下のある高齢者や腎不全の患者では腎の濃縮力が弱いので,

    体内の老廃物を排泄するためにより多くの尿量が必要である。

    そのためにも,より多くの水分が必要となる。


    A水分排泄の増加(出る水の過剰)

    発汗,発熱,嘔吐,下痢,大出血,腎臓疾患,

    内分泌疾患(低アルドステロン症,アジソン病)などによって水分排泄が増加する。


    しかし,入る水と出る水が同じでも,水分の代謝がうまくいっているとはいえない場合がある。

    例えば,むくみがある場合には,治療によって入る水より出る水の方が多くなければならず,

    また脱水症の改善の場合は,入る水が出る水より多くならなければならない。


    ●高齢者に脱水が起こりやすい理由




    @体液量の減少:

    加齢による細胞数の減少により,

    細胞内液が減少するため(成人:体重の約42%,高齢者:体重の約33%),水の貯蔵が少ない。


    A腎機能の低下:

    加齢による糸球体濾過量、腎血流量の低下,腎の尿の濃縮力の低下により,

    低張多尿状態が維持され,水分の相対的排出過多となる。


    B渇中枢の反応性の低下:

    口渇を感じにくいので,適切な水分補給ができない。


    C体内の水分貯蔵場所の減少:

    水分は綱胞肉外に含まれている。

    加齢に伴い,細胞内水分の最大貯蔵部位である筋肉量が減少する。

    脂肪の増加がみられるが,脂肪組織は水分を貯蔵しにくい。


    D基礎代謝量が減少し,代謝水が減る。


    E水分摂取量の減少:

    ADLの低下,摂食・.嚥下障害,多種の病態による

    食欲の低下・意識障害などによって、水分がとれない。


    F頻尿や失禁,誤嚥を恐れて水分摂取を控える傾向がある。


    G熱・多汗・下痢・嘔吐など,水分喪失の機会が多い。


    H利尿剤の使用。







    4)脱水への対応。




    ●生命を維持する最低限の水分量・・命の水・・




    人は,何もせずに寝ているだけでも,

    肺と皮膚の呼吸で約20ml/kg/日(成人)の水を失っており,体重50sの人では約1000ml/日となる。

    これは,皮膚や呼気で(気道の粘膜から)目に見えない水蒸気として蒸発しているもので,

    不感蒸泄という。

    その量は,体温,体表面積,外界の温度,湿度及び換気量によって影響される。

    また,咳や痰が多くなれば,気道粘膜からの蒸発も多くなる。


    さらに,絶食状態で口から全く食べ物,飲み物が入らなくても,

    体は代謝に必要なエネルギーを作らなければならない。

    そして,その結果生じた体内の代謝産物を排泄するため,少なくとも500lの尿量が必要である(不可避尿)。

    絶食の場合,尿として500ml,不感蒸泄として約1,OOOmlの水が失われ,

    体内で作られる水(代謝水という)の200〜300mlを差し引くと,体重によって異なるが,

    最低でも1日1,OOOml以上の水が必要となる。そこで,命を守るために最低限必要な水「命の水」は,

    成人(高齢者を含む)の場合1日1,OOOmlとなり,これを確保することが重要となる。


    ●脱水の予測




    ○食事及びその他の飲み物の摂取観察、記録


    前日3食の摂取量と,食事以外からとった水分量を合計してその人の

    不感蒸泄(約20ml/kg.50kgの人では約1000ml/日)に満たないときは,

    脱水予備群と考え,積極的な水分補給に努める。口からの補給が十分できないならば医師に報告し,

    補液が必要となる。

    絶食でも生命維持のためには少なくとも1,OOOml以上の水が必要であることを,

    本人や周囲の人に伝える必要がある。


    高齢者は,脱水の初期には何の訴えも苦痛もない場合が多いが,発熱,発汗,下痢,嘔吐などが加われば,

    たちまち本格的な脱水となり,急変する危険がある。

    脱水の初期には腎の予備力もあり,最小限の補液によって改善することや,

    補液がきっかけで元気になって食欲が出てくることも少なくない。


    一方で,食事摂取量の減少の原因の究明が必要であり,その原因への対応も並行して行うべきである。

    また,顕著な体重の減少があれば,悪性腫瘍などの存在を疑って全身の検査が必要となる。


    ○脱水を疑う基準


    Weinbergらによる老人ホーム居住者などにおける脱水を疑う基準を表1に示す。

    その他,次のような場合では脱水の危険が高くなる。


    表1


    ○脱水,補液実行を考慮する指標


    @最近90日で認識能,動作,行動能力の低下がある。

    A食事摂取,服薬が確実でない。

    B最近30日で尿路感染症があった。

    C最近脱水症と診断されたことがある。

    D下痢がある。

    E眩量(めまい)がある。

    F発熱がある。

    G体内で出血がある。

    H嘔吐がある。

    I体重減少(最近30日で5%以上,または最近180日で10%以上)がある。

    J水分摂取が不十分である。

    K経静脈的補液を希望する。


    その他,次のような場合では脱水の危険が高くなる。


    @手を動かすのが不自由である。

    A利尿薬を服用中である。

    B下剤を大量に使用している。

    C糖尿病のコントロールが不良である。

    D嚥下機能運動に障害がある。

    E意図的に水分摂取を控えている。

    F経管栄養を施行中である。

    G既往症に脱水症がある。

    H意思疎通がとりにくい。


    ●水・電解質異常に関わる主な指標




    ●ナトリウム(Na)

    ○基準値135〜145mEq/l


    @低Na血症

    血清Na値恒が134mEq/l以下をいう。

    検査結果で血清Na値が低い場合,すぐさま体にNaが少ないと考え,安易に塩分を補給することは危険である。

    細胞外液にNaが多くて浮腫があるのに,血清Na値が低い場合もある。

    あくまでもNaと水との割合から考えなければならず,

    真のNaの欠乏は水の欠乏を上回るNaの欠乏がある場合のみであり,

    実際には少ない(しかし,血清Na低値はよくみられる)。


    血清Na値が低くなるのには,水分摂取が多い場合,つまり水が多くてNa濃度が薄められる場合と,

    大量発汗や下痢などによってNaを失う場合の2つがある。

    心不全の患者では,Naをとりすぎて浮腫があるが,その場合に水分をとりすぎると,

    水でNa濃度が薄められて一見低Na血症にみえる場合が多いので注意が必要である(見せかけの低Na血症)。


    血清Na低値は,前述のように臨床的に最も頻度が高く,

    加齢の影響を最も受ける水・電解質異常でもある。

    しかし健常者で,腎臓を中心とした調節が正常に機能している場合は起こりえない。


    a.原因

    @細胞外液量が増加する場合:

    心不全,ネフローゼ症候群,肝硬変,急性腎不全,慢性腎不全,誤った輸液。


    A細胞外液量が減少する場合:

    腎性Naの喪失(アジソン病,利尿剤),

    腎外性Naの喪失〔消化管からの喪失(嘔吐,下痢,叶血,下血などによる脱水),高度の火傷〕。


    b.症状

    低Na血症の症状は,中枢神経症状である。

    急性に起こった場合には痙撃,昏睡などの重篤な症状を現すが,徐々に起こる場合には,

    血清Na値125mEq/lぐらいまでは症状を現さないことが多い。

    やがて,全身倦怠感,悪心,乏尿,痙撃,せん妄,意識障害がみられる。


    C.治療


    @急性低Na血症:

    急なNaの補給は危険なので,ゆっくり治療する必要がある。

    原因疾患の治療を第一に考え,心不全や浮腫のある場合は,まず利尿を図ってからNaの調整を行うべきである。


    A慢性低Na血症:

    症状のない場合は,まず飲み水の制限を指示する。

    守れない場合は,利尿剤を用いて排尿量を増やす。


    A高Na血症

    血清Na値146mEq/l以上のものをいう。

    血清Na値が高いとは,水分の摂取量が不足している状態かNaが過剰な状態を意味する。

    Naと水は一緒に動くので,簡単には高Na血症にはならない。

    ごく稀に起こる場合は,高度の水不足が原因(Na以上に水を失う状態)であることが多いので,

    血清Na値が高いからといってNaが過剰とは考えないことである。

    Naがたまる浮腫性疾患でも高Na血症にはならない。

    つまり,浮腫とは,Naの過剰で水の不足ではないので,高Na血症にはならないのである。


    a.原因


    @水の不足:

    口渇の低下による飲水量の減少,意識障害で水が飲めない,

    過剰な発汗,下痢,発熱,高温環境,火傷,利尿剤の過剰などによる腎からの水分喪失。


    ANaの過剰投与:

    高張食塩水の点滴,Naの過剰摂取があるのに水が飲めない場合。


    BNaの貯留:

    原発性アルドステロン症,クッシング症候群。


    b.症状

    高血圧,息切れ,興奮など。


    C.治療

    水分の補給を行い,排尿量を確認する。


    ●カリウム(K)


    基準値3.5〜4.5mEq/l

    生体のKの98%は細胞内にある。

    残り2%が細胞外に漏れ出てくる。

    1日のK必要量はKClで3g=40mEq/lである。

    脱水などで細胞外液が失われると細胞外液中のKが失われ,やがて細胞内のKまで失われることになる。


    @低K血症血

    血清K値が3.5mEq/l未満をいう。

    大部分がKの摂取不足によるものである。


    a.原因

    高齢者では,食事摂取量の不足,加齢に伴う細胞内Kの減少,腎臓のK保持能の低下,利尿剤,

    あるいは嘔吐,下痢などで容易に低K血症になる。

    高齢者の食欲不振では,臨床上低K血症が非常に起こりやすく,

    普段からKの多い野菜や果物などを献立に加えるなど,バランスを考えることが重要である。


    b.症状


    @筋力の減退(脱力),反射の減退。

    A食欲不振,腸管麻痺。

    Bジギタリス(強心剤)服用患者では中毒症状が現れやすい。

    C心筋への影響から心電図異常が起こる。


    c.アルドステロンとK


    アルドステロンは副腎皮質で分泌され,腎でのNa再吸収の促進と,

    それに伴ったKの排泄を促す。

    アルドステロンの分泌過剰では,かんぞうKの排泄を促す結果,低K血症を招きやすくなる。

    漢方薬の甘草(かんぞう)に含まれるグリチルリチンにはアルドステロン様作用があるため,

    甘草の多量摂取には注意が必要である。

    抗アルドステロン剤は,アルドステロンの作用を抑制し,Naの貯留,Kの排泄阻止,浮腫の除去に奏功する。

    K保持性の利尿剤である。


    A高K血症血清


    K値が5.5mEq/l以上をいう。

    主に腎臓からの排泄障害によって起こる。

    腎機能障害ではKの尿への排泄ができなくなり,血清のK値が増加する。

    また,細胞代謝障害があれば細胞へのKの取り込みが不十分となり、いっそう高K血症が起こりやすくなる。

    Kを過剰摂取しても腎機能が正常ならば高K血症は起こらない。


    a.原因

    @腎からのK排泄障害:

    腎不全。


    AKの細胞内から外への移動:

    溶血,組織障害,アシドーシス。


    b.症状

    筋力低下,知覚障害,悪心,嘔吐。高K血症では,最も危険なのは心停止である。

    最も顕著に心筋に影響するため,心電図の異常として現れ,緊急性の高い事態が多く,治療も難しい。


    ●血清尿素窒素(BUN)


    基準値10〜26mg/dl

    腎機能が低下すると,原因にかかわらず,BUNと血清クレアチニン値が上昇し,高窒素血症となる。

    BUNはたんぱく質の代謝産物なので,脱水のほか,高たんぱく食の摂取などでも高値となる。

    そのため,腎機能低下の判断には,食事の影響を受けないクレアチニンの値もあわせてみる必要がある。

    血清クレアチニン値の上昇は,腎の障害を意味する。


    ●血清クレアチニン


    基準値O.7〜1.5mg/dl

    筋細胞内のクレアチンの最終産物であり,腎障害で上昇する。

    @3mg/dl以上:

    腎機能の50%以上が障害されていると考えられる。

    A7mg/d/以上:

    さらにBUN70mg/dl以上であれば,症状がなくても透析療法の適応となる。


    ●ヘマトクリット(Ht)


    基準値男性45(39〜52)%,女性40(35〜48)%

    Htとは、赤血球の血球容積値をいう。赤血球数の減少によりHt値は低下し,貧血が疑われる。

    一方,Ht値の上昇は,血漿量の減少(血液の濃縮)を示し,

    大きくHt値が上昇した場合には体液が減少している状態(脱水)が考えられる。

    Ht値の上昇値より体液の欠乏量が推定できることから,体液異常の発症する可能性のある高齢者では,

    Ht値のチェックも必要である。


    ●尿量


    基準値、表2参照。

    尿量の減少では脱水や心不全,腎不全を考える。

    生理的な尿量では,時間尿(1時問当たりの尿量)は30〜60m/である。

    時間尿がO.5ml/体重kg以下であれば、腎血液量の減少により腎不全に移行する恐れがある。

    多尿の代表的疾患としては,尿崩症がある(抗利尿ホルモンの分泌不足による)。


    表2

    尿量の異常(成人)


    正常(800〜1,600ml/日)

    多尿(3,000ml/日以上)

    頻尿(500ml/日以下)

    無尿(300ml/日以下)

    頻尿(10回/日以上)


    ●尿の浸透圧

    基準値200〜800mOsm/s

    尿の浸透圧は,体内水分の過不足,腎の濃縮力を知る指標である。

    尿の浸透圧は,血清の3倍(約900mOsm/kg)の濃度まで老廃物を濃縮する力をもっているが,

    900mOsm/kgという状態が続くと腎不全となる。


    @尿量減少が,脱水によると判断できる場合:

    尿の浸透圧は血清の浸透圧(ほぼ290mOsm/kg)の2倍以上(600mOsm/kg以上)に上がる。

    900mOsm/kg以上では,半日放置すると腎不全に移行する。


    A尿量減少が腎機能低下によると判断できる場合:

    腎の濃縮力低下のため,尿の浸透圧は血清の浸透圧とほぼ同等の300mOsm/kg近辺に固定される。

    尿の浸透圧は,簡易な検査機器によってベッドサイドで数分で測定できる。


    ●尿のPH

    基準値6.O(5.O〜7.4)

    体液の酸塩基平衡の異常とそれを調節する腎機能の異常を反映する。











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