- 個人差が大きい。
- 典型的な症状を示しにくい。
- 複数の病気をもっている人が多い。
- 記銘力・記憶力が低下する。
- 摂食・嚥下障害が起こりやすい。
- 排泄障害が起こりやすい。
- 肛門体操(骨盤底筋群訓練)。
- 不眠傾向になりやすい。
- 骨が脆くなり転倒や骨折を起こしやすい。
- 食欲不振から脱水、低栄養に陥りやすい。
- 精神状態が不安定になりやすい。
- 意識障害(せん妄)を起こしやすい。
- 薬物の副作用が出やすい。
- 「元気」と食事。
高齢者では身体機能の低下をはじめ,さまざまな特徴がみられる。
しかし,高齢者になるとすべての機能が低下するわけではなく,総合的な判断力や知恵,専門的知識,
経験から獲得した勘や技術,人をみる目やあらゆる刺激に対する感受性,
直感力などは非常に優れている場合が多い。
高齢者の優れたところを介護者や周囲の人々は大いに吸収し,学ぶべきである。
また,歳をとっても気持ちの若い人たちはいつまでも元気を保つことができる。
低下してくる機能を認めつつ,自分に合った生活のリズムを作りたいものである。
80歳を越えると,老化の個人差が大きくなる。
臓器の中では特に脳と血管の老化の個人差が大きい。
したがって「もう歳だから」,「歳に不足はない」などという言葉は必ずしも適当ではない。
100歳の人でも「病気ではない」,「身体機能が良好である(歩ける)」,「痴呆がない」の3拍子が揃っていると,
仮に大腿骨頸部骨折を起こしても早期に手術し,リハビリテーションを行えば歩けるようになる例があるように,
単純に年齢だけでは判断できない。
高齢者では,重大な病気が起こっても典型的な症状が現れないことがある。
例えば,痴呆のある高齢者などでは心筋梗塞が起こっていても,
ただ普段より元気がないように見えるだけであったり,
腸閉塞でおなかがパンパンに張っていても何の苦痛も訴えない場合がある。
逆に「痛い,痛い」と激しく泣き叫んでいても重大な痛みの原因が見つからず,
さするだけで治ってしまう場合もある。
重度の痴呆高齢者の場合,嘔吐をしながら笑っていることなどがあり,
常識では考えられない行動に驚かされることも多い。
特に,痴呆高齢者は適切な表現ができないので,自覚症状だけを当てにせず,日々の客観的観察が大切である。
高齢者では,高血圧症,糖尿病,心臓病,リウマチなどの病気を複数もっている場合が多い。
さらに,老眼や白内障,難聴,義歯,飲み込み困難など様々な障害が起こってくる。
そのため,複数の医療機関から薬が処方されていることが多く,きちんと管理し,適切に服用することが重要である。
新しいことを覚える能力を記銘力といい,過去のことを思い出す能力を記憶力という。
加齢によりこの2つの能力はともに低下し,ことに最近の記憶から衰える傾向が強い。
例えば,昔覚えた歌などはスラスラ歌えるのに,
ついさっき食べたものについてははっきり思い出せないというようなことがある。
痴呆の初期の症状として多いのは、物忘れを取りつくろうための作話である。
例えば,自分の財布をしまった場所を忘れて「嫁に盗られた」などと言い,
よく探すと発見されるといったことがある。
正月の度に「餅で窒息死」という事故のニュースがあるが,ほとんどが健康な高齢者である。
飲み込み困難は,本人も家族も気づいていないことが多い。
程度の差はあるものの加齢にしたがって、
飲み込み反射や咳で物を出そうとする反射が弱くなることを認識しておく必要がある。
食事中のむせ,食事時間の延長,摂食量の減少などが見られる場合には,飲み込み困難を疑い,
ご飯をお粥にする,水分にトロミをつけるなど,食事形態の変更が必要な場合がある。
頻尿,夜間頻尿,排尿困難,失禁,便秘などが起こりやすくなるが。
それぞれ原因を究明できれば治療によって改善できるものもある。
例えば,女性は尿道が男性より短いため,加齢や肥満により失禁しやすくなる(腹圧性尿失禁)が,
尿道括約筋を強くする肛門体操(骨盤底筋群訓練。下記参照)で治ることがある。
排尿障害の原因をはっきりさせるアセスメントが大切である。
正常に膀胱に尿がたまるが,咳をしたり笑ったり,重いものを持ち上げるときなど,
腹圧がかかると少量の尿をもらすことを「腹圧性尿失禁」という。
男性では前立腺肥大症の初期や手術後,女性では加齢や肥満による骨盤底筋の弛緩が原因で起こることが多い。
腹圧性尿失禁の治療には,肛門周囲の筋肉を5秒間息を止めて締め付ける体操が効果的である。
1日50回以上毎日続けると,1〜3か月で効果が現れる。これを行うことで,
軽症〜中等症の腹圧性尿失禁の多くは治るといわれる。
寝つきが悪い(入眠障害),眠りが浅く,目覚めやすい(分断睡眠),早寝早起きなどの傾向がみられる。
「歳をとったら睡眠時間が短くなるのは止むをえない」という思い込みは間違っており,
効率の悪い睡眠パターンであるからこそ,夜間の快眠は身体的・精神的健康のための重要な条件である。
睡眠導入剤を安易に用いるのを恐れるあまり,毎晩の不眠に苦しんでいる人もいるが,
医師に相談の上,適切に用いれば問題ない。
漢方薬の中には睡眠障害に効果的なもの
「酸秦仁湯(さんそうにんとう),黄連解毒湯(おうれんげどくとう),温胆湯(うんたんとう)など」
があるので,専門家に相談し,“証"に従って用いる。
足腰が弱くなっているので,運動不足が加わると,歩行が不安定になり転びやすくなる。
若いときから運動して筋力をつけておくことが望ましいが,歳をとってからでもあきらめずに,
毎日ストレッチングや体操など,可能な範囲で運動をすることによって,筋力の低下を防ぐことができる。
無為な生活や運動不足が長引くと,頭や体を使わないことにより機能が低下してしまう廃用症候群になりやすく。
寝たきり,失禁,痴呆,褥創(床ずれ)などを起こしやすくなる。
歳をとると食が細くなり,あっさりしたものを好むようになる。また,病気や機能低下により,
バランスのよい食事をとれない状況も起こってくる。
さらに,加齢による体内細胞の減少に伴い体内水分量も減ってくるため,たやすく脱水や低栄養に陥る状況にある。
健康なうちからバランスのよい食事がとれるよう,助言が必要である。
環境の変化や精神的ストレスはもとより,些細な病気でもそれが誘因となって精神状態が不安定となり,
鬱(うつ),心気症,意欲低下,妄想,執着心などを起こしやすくなる。
不眠があれば,余計にこれらの症状が悪化することになる。
新しいことや,慣れない環境などに接するときには,事前緊張が強くなり,
疲労しやすく情緒が不安定になることが多い。
生活のリズムが大きく変化するようなときは,体調の管理に努め,無理のないよう心がける。
せん妄とは意識のくもりをいう。
高齢者では,体調の悪化(脱水,高熱,低血糖,薬物など)や不眠により,
目は開いて起きているように見えても意識レベノレが低下しているようなことがある。
朝はボーッとしていて午後から意識がはっきりしてきたり,夕方から興奮し錯乱状態になる(夜間せん妄)など,
日内変動もある。
痴呆のある高齢者にも多くみられる状態なので、窒息予防のためにも,
食事介助の際は覚醒していることを確認してから食事を供するようにする。
肝臓や腎臓の機能低下に伴い,薬物の副作用が出やすくなる。
また,副作用は,薬物の数が多いほど出やすい。
高齢者は,複数の医療機関から多くの薬をもらっている場合が多い。
ときには胃薬などが重複していることもある。
副作用で胃痛や食欲不振が起こることもあるので,本当に必要な薬を適切に服用できるよう,
薬の内容のチェックには薬剤師や医師,看護師との連携が大切である。
東洋医学的に解釈する「元気」とは,遺伝的に両親からもらう先天の”気”(腎に蓄えられると考えられている)
と後天的に空気(肺)と食事(脾胃=消化器)から取り込む“気''の合体したものを指している。
つまり,生まれたときに親からもらった“気''(エネルギー)に,
絶えず空気と食事から”気”を補充することで元気が保たれるわけである。
そこで,新鮮な空気(呼吸)と体によい食事が非常に大切になってくる。
とりわけ,不適切な食事はすぐさま元気を損なうことになる。
昔から「医食同源」という言葉があるように,薬を飲む前にまず日常の食事のとり方や内容について学び,
自分の消化器の許容量を超えない食べ方(自分なりの腹八分目)と、
自分の体質や病気を知った上での食事のとり方が大切である。
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