高齢期の病気と食事。
Welcome
Welcome
老化に伴う

  1. 胃・十二指腸潰瘍
  2. 肝臓・胆のう・膵臓疾患
  3. 便秘
  4. 糖尿病
  5. 肥満
  6. 高脂血症
  7. やせ,低栄養状態
  8. 心不全
  9. 虚血性心疾患
  10. 高血圧
  11. 脳血管障害
  12. 貧血
  13. 腎疾患
  14. 骨粗鬆症







  15. 1)★胃・十二指腸潰瘍



    ●【病気の概要】

     胃・十二指腸潰瘍とは,胃・十二指腸に生 じ 治癒と再発を繰り返し,慢性的に経過す る潰瘍を指します.アルコール,香辛料・塩 辛い食品あるいは甘味の強い食品の過剰摂取 や,不規則なストレスの多い生活が発症要因 となります.



    ●【食事療法の目的】  

     食事療法は,潰瘍の治癒,再発防止に必須 のみでなく,生活パターンの改善にもつなが り,潰瘍の治療にきわめて有用です.



    ●【食事療法の実際  

    ○栄養のバランスがとれた高エネルギー食にします。

    潰瘍の治癒を促進するように,栄養のバランスのよい高エネルギー食(1,800 〜2,200kcal)にします.



    ○胃粘膜への刺激が少ない食品をとります。



      硬い食品、辛い食品,塩分の多い食品、熱 すぎるもの,冷たすぎるものは避けます.ま た酸味の強い食品も避けましょう.  タバコ,アルコール,コーヒー,炭酸飲料 など,刺激の強い嗜好品は避けます.



    ○ゆったりとした食事を心がけます。

     

    ゆったりした気持でゆっくり,よく噛んで食べま  しょう.

    ●【高齢者への配慮】  

      ○味付けが濃くならないようにします。 

     

    潰瘍食は,煮物,蒸し物などが主体となります. 和食を好む高齢者には適したものといえます. 味付けが濃くならないように十分に注意して ください.その他,“高齢者の食事のポイント” の項を参照してください.






    2)★肝臓・胆のう・膵臓疾患



    ●【病気の概要】

     すべての概要をここで述べることは紙面の 都合上不可能です.ここでは不適切な食事で 生じる疾患についてのみ述べます.  脂肪肝,肝炎,肝硬変,膵炎などが過量の アルコール摂取により引き起こされます.ま た,脂質,糖質に偏った食事、過食,不規則 な食事などは脂肪肝,胆石の発症要因となり ます.



    ●【食事療法の目的】  

     病気の発症,悪化要因を取り除くこと,胆 石疝痛発作や膵炎の再燃を防ぐこと,かつ壊 死した組織の修復や肝、胆,膵の機能に負担 をかけないことが目的です.

     

    ●【食事療法の実際】  

    栄養のバランスをとります。 

     食事療法の詳細は病気の種類やその病期により異なりま すが,共通点は適正エネルギー量をバランス よくとるようにすることです.



    ○アルコールは制限します。 

    これはどの疾患にも共通しています.



    ●【高齢者への配慮】  

    ○本人の好みに合わせた食事を工夫します。 

     肝炎や肝硬変代償期には,比較的高たんば く食となりますが,肉,乳製品より魚,大豆 製品を喜ぶ人も多く,よく本人の好みをきき とることが大切です.若い人と同居している 場合,スナック類が多かったり,調理上の工 夫が足りず脂質過多となっていることがあり ますので注意が必要です.また,薄味では食 思不振に陥る場合がありますので工夫が必要 です(「心不全」の項参照,その 他“高齢者の食事のポイント”の項を参照してください.



    3)★便秘



    ●【病気の概要】

     数日以上排便がなく,腹部膨満感や腹痛を 伴うものを便秘といいます.便秘は種々の原 因で生じますが,高齢者の便秘の大半は大腸 の運動機能の低下による弛緩性便秘で,食事 量の低下や低残渣,低繊維で消化のよい食事, あるいは運動不足により助長されます.



    ●【食事療法の実際】  

    ○食物繊維を多く含む食品をとります。

    食物繊維の多いいも類,果物,野菜,海藻,き のこ類を多くし,脂質も十分にとります.



    ○規則正しい食習慣,排便習慣を身につけま す。

      とくに朝食は必ず十分にとるようにします. 冷たい牛乳や起床時にコップ1杯の水をと ります。  水分補給とともに,腸管の動きが 刺激されることが期待できます.



    ●【高齢者への配慮】  

    ○運動不足にならないようにします。 



      運動不足が引き金になりますので,食事とともに 生活の改善を行うようにします.加齢により 腹圧がかかりにくい状態となりますので,腹 部マッサージもすすめましょう.その他は, “高齢者の食事のポイント”の項を参照してください.



    4)★糖尿病



    ●【病気の概要】



     糖尿病とは,インスリン作用不足による糖 質,脂質およびたんばく質の代謝異常で,高 血糖を主要所見とする病気と定義されていま す.また糖尿病は糖尿病性網膜症,糖尿病性 腎症をはじめとする糖尿病性細小血管症,心 筋梗塞,脳梗塞などの動脈硬化性血管障害な ど,多種多様な合併症を多発する病気でもあ ります.過食による栄養過剰,とくに動物性 たんばく質や脂質摂取の過剰,アルコールの 過飲,不規則な食事などが糖尿病の発症,悪 化要因となります.



    ●【食事療法の目的】



     エネルギー摂取量,栄養のバランスを適正 化することにより,より良好な血糖コント ロール状態とし,合併症の発症,進展を防止 することが目的です.また,薬物療法を安全 に行うためにも食事療法は重要です.  なお,糟尿病の食事療法にあたっては,「糖 尿病食事療法のための食品交換表」(日本糖尿 病学会編,文光堂)が普及しています.



    ●【食事療法の実際】



    ○総摂取エネルギーを制限します。

    患者の日常生活活動量,肥満度を考慮して,標準体 重1kg当たり25〜35kcalとします.



    ○栄養のバランスをとります。

    三大栄養素のエネルギー比はたんばく質15%,脂質 25%,糖質60%程度とします.

    ○ビタミン,ミネラルを十分にとります。

     野菜,とくに緑黄色野菜(1日300g程度), 海藻類を十分にとります.また,牛乳を1日 1本とるようにします.



    ○食物繊維も十分にとります。

    食物繊維は糖質や脂質の腸管からの吸収を遅らせ,血糖 や血清総コレステロール値を低下させる作用 があります.また食物のかさが多くなり,満 腹感も強くなり,食事制限による不満感が緩 和され,便秘の改善にもなります.



    ○アルコールは原則として禁止します。

    どうしてもやめられない場合には,2単位(食 品交換表による)を上限として許可します.



    ○1日3回ゆっくり,よく噛んで食べます。

    とくにインスリンや経口血糖降下剤を服薬 している人には,低血糖を防ぐため,この点 に関しては十分に留意します.

     

    ○合併症のある場合は種々の制限をします。

     肥満,高血圧,高脂血症あるいは糖尿病性 腎症を伴う場合は,それぞれより強いエネル ギー制限,食塩制限,コレステロールまたは 糖質制限,食塩制限やたんばく質制限などを 考慮する必要があります.



    ●【高齢者への配慮】

    ○生涯続けられるような無理のない食事療法 を工夫します。

    糖尿病の療養生活は生涯に わたるものです.したがって,個人の嗜好や 生活習慣を加味しながら,生涯続けることが 可能な無理のない内容にしましょう.家族, 調理担当者と本人の関係にも十分に注意を払 い,食べさせてもらえないといった不満をも たせないようにする必要があります.知的能 力の低下や視力の低下で,文字を通しての理 解や『糖尿病食事療法のための食品交換表』 の使用が困難な場合が少なくありません.こ の場合にはフードモデル,教育入院などでで きるだけ具体的な指導を心がけてください.



    ○保存食,缶詰,冷凍食品などをうまく使い ます。

    前述したように,一人暮らしや老夫 婦のみの世帯では,食品数を多くすることが 困難ですので,保存食,缶詰,冷凍食品など のじょうずな使用法を工夫してみるのも一つ の方法です.その他“高齢者の食事のポイン ト”の項を参照してください.








    5)★肥満



    ●【病気の概要】

     体構成に占める脂肪組織量の過剰状態を肥 満といいますが,脂肪組織量は簡単には測定 できませんので,一般的には身長に基づいて 決めた標準体重に対し,現体重が20%以上の 過剰体重である場合を肥満としています.肥 満の原因の大半は,運動不足と過食であり, とくに夜食,どか食い,むら食いなどの誤っ た食習慣が原因となることが多いものです.



    ●【食事療法の目的】  

     体重を減らし肥満による活動力の低下や, 肥満に伴う種々の合併症の発症を防ぐことが 目的です.



    ●【食事療法の実際】

    ○摂取エネルギーを制限します。

      〈標準体重(kg)×20〜25kcal/日〉を目標とします.そ れが1,200kcalを下回る場合は,一応1,200 kcalを下限とし,それ以下に制限する場合は 栄養のバランスを十分に保てるよう緻密な工 夫が必要です.



    ○栄養のバランスをとります。

     1日に最低〈標準体重(kg)×1.0〜1.2g〉のたんばく質, 十分なビタミン,ミネラルの補給が必要です. 脂質の摂取量は減らし,最小量を植物油でと ります.また糖質も少なめがよいでしょう.



    ○誤った食習慣を是正します。

    夜食,どか食い,1日2回食,過剰な間食などの肥満の 原因となる食習慣を是正します.一般に肥満 者は早食いですので,ゆっくりよく噛んで食 べるようにします.



    ○アルコールはできるだけ減らします。

    肥満は種々の病気のもとでもあります.どのよ うな病気の場合にもアルコールは制限されて いますので,できるだけ減らします.



    ●【高齢者への配慮】

    ○食事以外にも楽しみをもたせます。

     高齢者では,基礎代謝量の低下や運動量の低下の ため,食事療法の効果が出にくい傾向があり ます.適切な運動を組み合わせ,食事だけが 楽しみである生活から,他のことにも楽しみ が見出せるよう,根気よく習慣づけていくこ とが大切です.その他,“高齢者の食事のポイ ント”の項を参照してください.








    6)★高脂血症



    ●【病気の概要】

     空腹時の血清総コレステロール値が220 mg/dl以上、低比重リボたんばく(LDL)コ レステロールが150mg/dl以上または中性 脂肪値が150mg/dl/以上の場合を高脂血症 といいます.また高比重リボたんばく(HDL) コレステロールが40mg/dl以下の場合も, 脂質代謝異常として治療対象となります.



    ●【食事療法の目的】  

     血清脂質を低下させ,虚血性心疾患 下肢 動脈閉塞,脳梗塞などの動脈硬化性血管障害 の発症を防ぐことが目的です.



    ●【食事療法の実際】

    @血清総コレステロールか220mg/dl以上, または低比重リボたんばく(LDL)コレステ ロールが150mg/dl以上の場合  エネルギー,コレステロールを制限します。  総摂取エネルギーを標準体重1kg当たり 20〜30kcalに制限し,脂質量を総摂取エネル ギーの25%程度とし,かつ1日コレステロー ル摂取量を300mg以下とします.

    A中性脂肪が150mg/dl以上の場合  エネルギー,糖質およびアルコールを制限 します。 総摂取エネルギーを制限するとと もに,糖質(とくに砂糖類,果物類,菓子類) およびアルコールの摂取量を減らします.そ の分,脂質量を多少多くし30%前後とします.

    BHDL−コレステロールか40mg/dl以下 の場合  中性脂肪が高い場合に準じます.

    Cコレステロールと中性脂肪がともに高い 場合。

      エネルギー,コレステロール,糖質および アルコールを制限します。 コレステロール が高い場合に準じますが,糖質とアルコール の摂取は減らす必要があります.

    ●【高齢者への配慮】

    ○一人一人の状況を考慮して実行可能な方法 を工夫します。

    摂食量が少なくなると栄養のバランスが狂いがちですから十分に注意し ましょう.個人の食習慣,家族構成,経済状 態などを十分に考慮しながら,実行可能な方 法を工夫するよう心がけてください.その他 “高齢者の食事のポイント”の項を参照してください.








    7)★やせ,低栄養状態



    ●【病気の概要】

     やせ,低栄養状態とは  からだに占める 脂肪組織の比率が異常に低い状態を指します. やせあるいは低栄養状態では,一般に筋肉な ど活性組織量の減少も伴いますので,体重が 異常に減少した状態と定義しても差し支えあ りません.ただし,低栄養状態で血清アルブ ミン値が低下した場合は,浮腫のため見かけ 上,体重は低下しない場合がありますので注 意が必要です.



    ○食欲があってやせる場合と,食欲がなくて やせる場合。

    甲状腺機能亢進症,糖尿病な どで食欲があるのに生じたやせと,食欲不振 によるエネルギー摂取不足で生じたやせに大 別されます.高齢者のやせ,低栄養の大半は 後者,すなわち食事の摂取不足が原因で生じ たものです.



    ●【食事療法の目的】  

     やせ,低栄養状態をきたした原疾患(悪性 腫瘍,感染症,吸収障害,副腎不全などの内 分泌疾患,肝疾患,腎疾患,呼吸器疾患,う つ病,種々の原因によるえん下障害など)の 治療が原則です.しかし,原疾患の治療が困 難な場合にも食事療法で栄養状態を改善する ことにより,患者のQuality of Life(生活の 質)を高めることができます.



    ●【食事療法の実際】

    ○摂取エネルギーを多くします。

    そのためには,糖質,脂質,十分な量のたんばく質の 摂取がすすめられますが,栄養のバランスを大きく崩さないようにしてください.



    ○食欲を刺激するような工夫をします。

     スープ,汁物を多くする,香辛料や香味野菜 を取り入れる,嗜好に合わせた味付けをする, 酢を併用して油脂類をとりやすくする(マリ ネ,酢豚など),脂ののった旬の魚を選ぶ,適 温での食事供給,などの工夫が必要です.



    ○ときには経管食や経静脈栄養が適応となり ます。

    えん下障害や強度の食思不振で経口 摂取がむずかしい場合は,経管食や経静脈栄 養の適応となります.



    ●【高齢者への配慮】

     好みに合った食品を少しでもとります。

     高齢者のやせの原因は多岐にわたります. なにが原因かを見きわめることが大切です. 意外と薬物による食思不振も多いものです. いつ頃から食思不振に陥ったか,経過はどう であったかをよく確認してみることが大切で す.食べないよりも,少しでも食べるほうが ましであると考え,好みに合った食品をまず とり,それから少しずつ多くとるようにしま しょう.その他,“高齢者の食事のポイント” の項を参照してください.










    8)★心不全



    ●【病気の概要】

     心不全は心臓の機能低下により,安静時あ るいは運動時に全身の各臓器が必要とする血 液量を心臓が十分に拍出できなくなった状態 をいいます.心不全は,虚血性心疾患や不整 脈が原因となりますが,塩分の過剰摂取が一 つの誘因となることもあります.



    ●【食事療法の目的】  

     循環血液量の増加をきたす食塩の過剰摂取 を抑制することにより,心不全の悪化を防止 することが目的です.



    ●【食事療法の実際】

     病気の程度により塩分摂取量を制限します。

     一般に軽症では1日8〜10g,中等症では 5〜8g,重症では3〜5g程度とします.



    ○適正なエネルギー.十分量のたんばく質を とります。

    過食は心臓に負担となりますの で,摂取エネルギー量は適正にとりましょう. また,たんばく質は1目標準体重1kg当たり 1.0〜1.2gです.同時に,ビタミン,ミネラ ルの補給が必要です.  食事はゆっくりと,1回にとる食事量は少 なめにします  心臓への負担を少なくする ため,食事はゆっくりとるようにして,1回 にとる量も少なめにしてください.場合に よっては,分食も考慮してください.



    ○減塩食でも食欲が落ちない工夫をしましょう。

    減塩食は,食思不振につながることが あります.無塩しようゆ,酢,レモン,香辛 料など塩分の少ない調味料の活用とともに, 新鮮な食品,香りのある野菜などを用いる工 夫が必要です.その他,昆布,かつおなどの 旨味を強くする,油の風味を生かす(ごま油 など),一品重点的に濃い味のものをつくる, 汁物を少なくする,適温で食べる,などの工 夫も必要です.



    ●【高齢者への配慮】

    ○減塩食で食思不振に陥る場合は食事量を制 限します。

    高齢者は,塩分に対する味覚の 低下や長年にわたる高塩分嗜好のため,減塩 しているつもりでも塩分摂取量が少なくなっ ていないことがあります.十分なききとりと, 調理上の工夫の積み重ねが必要です.また減 塩食ではどうしても食思不振に陥る場合は, 食事の味付けは通常どおりとして食事量を制 限する,利尿剤を強化する,などの柔軟な対 処が必要です.その他,“高齢者の食事のポイ ント”の項を参照してください.






    9)★虚血性心疾患



    ●【病気の概要】

     心臓を養う冠状動脈に,コレステロールが 沈着することによって生じた動脈硬化(アテ ローム硬化)により,内腔が狭められ,必要 な冠血流量が維持できなくなって発症する狭心症と, 動脈硬化を基盤に血栓が生じ,冠血 流が途絶えて灌流領域の心筋が壊死した心筋 梗塞を虚血性心疾患といいます.  虚血性心疾患は,高脂血症,高血圧,糖尿 病,肥満,高尿酸血症,喫煙などを基盤に発 症します.したがって,これらの病態の原因 となる過食,とくに脂身の多い肉やバター, 卵黄,塩分の過剰摂取などの食習慣がその発 症に重要な役割を果たしています.



    ●【食事療法の目的】  

     高脂血症,高血圧,糖尿病,肥満などを解 消し,虚血性心疾患の発症,進展を防ぐこと が目的です.



    ●【食事療法の実際】

     高脂血症,高血圧,糖尿病あるいは肥満が ある場合は,本書のそれぞれの項目に準じて 食事をしてください.



    ○コレステロールを制限します。

    高脂血症,なかでも高コレステロール血症は虚血性心疾 患の最も重要な発症要因なので,コレステ ロールの摂取は1日300mg以下,できれば 200mg程度とするようにしてください.



    ●【高齢者への配慮】

     高脂血症,高血圧,糖尿病,肥満などの項, および“高齢者の食事のポイント”の項を参照してください.

     

    10)★高血圧



    ●【病気の概要】

     日を変えて2回以上測定した拡張期血圧お よび収縮期血圧の平均が,それぞれ95mmHg および160mmHg以上のときを高血圧とし ます.高血圧の発症原因として,遺伝,スト レスと並び,不適切な食生活,とくに塩分の 過剰摂取があげられています.



    ●【食事療法の目的】  

     塩分を制限することにより血圧を下げ,か つ降圧剤に対する感受性をよくして,高血圧 による種々の合併症(脳,心,腎などの血管 障害)の発症を防ぐことが目的です.



    ●【食事療法の実際】

     病気の程度に応じて塩分摂取量を制限しま す。

    軽症では1日7g,中等症では5〜6g, 重症では5g以下とします.



    ○ 適正なエネルギー,十分量のたんばく質を とります。

    摂取エネルギー量を適切にとる ことにより,食塩摂取量も少なくなります. またたんばく質は最低,標準体重1kg当たり 1.0〜1.2gはとるようにしましょう.高たん ばく食は,尿中へのナトリウム排泄を促進し, 降圧効果が出現します.同時に高たんばく食 には脳出血予防効果もあります.

     

    ○ビタミン,ミネラルは十分にとります。

     がカリウムにはナトリウム排泄促進作用 カ ルシウムには降圧作用があることが明らかに なっています.したがってこれらの栄養素を 十分にとるように工夫することが大切です・  なお,減塩にまつわる食思不振の対策は, 「心不全」の項を参照してくださ い.



    ●【高齢者への配慮】

    「心不全」の項,および“高齢 者の食事のポイント”の項照してください.  

     

    11)★脳血管障害



    ●【病気の概要】

    ○ 脳血管障害の分類

     脳血管障害は,脳出血クモ膜下出血, 一過性脳虚血性発作,高血圧性脳症に分類され ます.高齢者には,圧倒的に脳血栓症が多発 します.その頻度は脳血栓症ほどではありま せんが,脳出血脳塞栓症,一過性脳虚血性 発作もよくみられます.

     

    ○脳血管障害の発症要因 

    脳血栓症は動脈 硬化症を基盤に発症しますので,高血圧,高 脂血症、糖尿病、肥満など動脈硬化をきたす 疾患の存在が発症要因となります.一方,脳 出血は高血圧ときわめて密接に関連して発症 します.したがって,これらの病気の原因と なる過食,とくに脂身の多い肉やバターの過 剰摂取食塩の過剰摂取などが脳血管障害の 誘因となります.



    ●【食事療法の目的】  

     高血圧,高脂血症,糖尿病、肥満などを是 正することにより,脳血管障害の発症再発 を防止することが目的です.



    ●【食事療法の実際】

     まずなにが,より重要な発症要因になった かを見きわめます  それぞれの人により, なにがその人にとってより重要な脳血管障害 の発症要因になったかは異なります.高血圧 高脂血症,糟尿病,肥満などのうちどれがよ り重要な発症要因であるかを見きわめ,その 食事療法を実施します(それぞれの項目を参 照してください).



    ○各種栄養素の適正化を図ります。

    そのうえで,できれば総摂取エネルギーの適正化 たんばく質,ビタミン,ミネラル,食塩(高 血圧がなくてもその予防のため1日10g以 下),食物繊維摂取の適正化を図ります.



    ●【高齢者への配慮】

     高血圧、高脂血症,糖尿病,肥満などの項, および“高齢者の食事のポイント”の項)を参照してください.

     

    ○低コレステロール血症の場合.エネルギー, たんばく質の補給を十分に行います。

     摂取エネルギー不足に伴う低コレステロール血症 は,脳出血の発症要因となりますので,それ が認められた場合は摂取エネルギーの増加とくにたんばく質の補給を十分に行えるよう 工夫してください.

     

     

    12)★貧血



    ●【病気の概要】

     貧血は,末梢血液中のヘモグロビンの低下した状態を指しますが, その原因はさまざま です.このうち高齢者に多く,食事療法が有 効なものに鉄欠乏性貧血があります.鉄欠乏 性貧血は,高齢者では食事中の鉄の不足,胃 切除後や消化管の疾患による鉄の吸収障害, 消化管の潰瘍,悪性腫瘍,痔などの出血によ り生じます.食事療法を始める前に,これら の疾患の有無を確認することが大切なことは いうまでもありません.



    ●【食事療法の目的】  

     鉄分を補給し,貧血を解消することがその 目的となります.通常,鉄剤の投与で十分で すが,胃腸障害などが強く,鉄剤投与が困難 な場合は食事療法はより重要となります.



    ●【食事療法の実際】

    ○造血に関係する栄養素を十分にとります。

     鉄,たんばく質,ビタミンB6,葉酸,ビタ ミンB12,ビタミンC,鋼などを十分とるよう にします.

     

    ○ヘム鉄の多く含まれる食品を多くとります。

     肉類,貝類には吸収効率のよい鉄分(ヘム 鉄)が多く含まれます.また牛,豚,鶏ある いは魚介類の内臓にはとくにヘム鉄が多く含 まれますので,それらの摂取量を多くします.

     

    ○動物性たんばく質やビタミンCの多い果物 をとります。

    緑黄色野菜や海藻類にも鉄分 が多く含まれますが,吸収効率の悪い鉄分(非 ヘム鉄)ですので,吸収効率をよくするため に,動物性たんばく質やビタミンCの多い果 物を同時に摂取するようにします.



    ○ 柑橘顆.酢.香辛料を利用します。

    胃液の分泌を完進し,鉄の吸収をよくする柑橘顆, 酢あるいは香辛料をすすめます.

     

    ○嗜好飲料は控えめにします。

    食事中の コーヒー,紅茶,緑茶は,これらに含まれる タンニンの作用により鉄分の吸収を悪くしま すので控えめにしましょう.



    ●【高齢者への配慮】

    ○胃液の分泌を促すような工夫をします。

    高齢者は胃液の分泌が低下し,鉄の吸収が 悪くなります.ゆっくり,時間をかけてよく 阻しゃくすることにより胃液の作用を高める ようにします.また,おいしいと思えば,そ れだけ胃液の分泌も亢進しますので,好物を 適温で,よい香りをつけて食べるように工夫 しましよう.その他,“高齢者の食事のポイン ト”の項を参照してください.

     

     

    13)★腎疾患



    ●【病気の概要】

     腎臓病はいろいろに分類されますが,大き くは腎炎様症候群,ネフローゼ症候群,腎不 全およびその他に分類できます.一部の腎臓 病,たとえば糖尿病性腎症,痛風腎あるいは 高血圧によるネフローゼ症候群や腎不全は, 不適切な食事が発症要因の一つになりえます. しかし,腎臓病と食事との関係で重要なこと は,適切な食事と栄養の管理により発症した 腎臓病の増悪,進展を防止することです.



    ●【食事療法の目的】  

    腎機能を可能なかぎり保護し,末期腎不全 への進行を予防することが目的です.



    ★腎炎様症候群



    ○ 食塩を制限します。

     浮腫、高血圧のない ときは1日5〜10gとしますが,それを認め る場合は5g以下に制限します.



    ★ネフローゼ症候群



    ○たんばく質は栄養所要量程度とします

     高たんばく質食が久しく用いられてきまし た.しかし最近では,むしろたんばく質過剰 摂取による腎障害が問題となっています.し たがって,ネフローゼ症候群でもたんばく質 は栄養所要量程度(1.0〜1.2g/kg/日)とし, 塩分制限は腎炎様症候群と同程度に厳格に行 うようにします.



    ★急性腎不全



    ○厳重な水分管理、栄養管理が必要です。

    病態や,透析療法を行うかどうかで大きく 異なります.主治医とよく相談し,1日1日 細かく食事管理を行うことが大切です.



    ★慢性腎不全



    ○たんばく質を制限し,高エネルギーとしま す。

     たんばく質の制限と同時に栄養状態を よくして,からだのたんばく質の異化を防ぐ ために高エネルギー(できれば1,800〜2,000 kcal)にすることが必要です.エネルギーは, おもに糖質および脂質からとることになりま すので,低甘味ブドウ糖重合体(粉あめ,カ ロライナー),中鎖脂肪酸製品(マクトン粉 末,マクトンオイル)などの治療用特別食品 の使用も考えてよいでしょう.



    ○食塩は原則的に1日10g以下とします。

     症状に応じてさらに厳格にする必要があり ます.



    ★高カリウム血症,高リン血症。



    ○カリウムやリンの制限をします。

    カリウムは,野菜,果物 いも類,豆類に多く含ま れますので,それらの摂取を制限するとか, それらをとる場合には大量の水で茹でる(野 菜,果物では80〜90%のがカリウムが溶出、豆 類は溶出しにくいので2〜3度の茹でこぼし が必要)などの工夫が必要です.リンは牛乳, 卵、肉,魚,缶詰,練り製品に多く含まれま すので,それらの摂取を制限します.



    ●【高齢者への配慮】  

    ○塩分制限には配慮が必要です。 

     高齢者は塩分に対する感受性が低下しているため,塩 分制限はとくにつらいものです.「心不全」の 項および“高齢者の食事のポイント”の項を参照して,実行可 能なプランを立てるようにしてください.

     

     

    14)★骨粗鬆症



    ●【病気の概要】

     骨の構成分は大きく骨基質と骨塩に分けら れます.骨粗鬆症とは,この骨基質と骨塩の 比が変わらないままに,骨の量(骨量)が減少 した状態を指します.骨粗鬆症は,とくに老 年女性に多い疾患で,腰背痛や骨折の原因と なります.牛乳をよく飲む人には本症が少な いというデータが示すとおり,多くの研究が カルシウム摂取不足が一つの発症要因である ことを明らかにしています.



    ●【食事療法の目的】  

     カルシウムを十分に含み,かつカルシウム を吸収しやすいような食事をとり,骨粗軽症 の発症,進展を防止することが目的です.



    ●【食事療法の実際】

    ○カルシウムを十分にとります。

    最低,栄養所要量で定められている1日600mg以上 骨粗鬆症の治療や積極的な発症予防のために は800〜1,000mgを目標とします.  牛乳100mlには100mgのカルシウムが含 まれ,カルシウムの吸収率も高く,カルシウ ム補給には理想的な食品です.ヨーグルト, チーズ,脱脂粉乳などの乳製品もうまく利用 してください.小魚,大豆製品(豆腐,凍り 豆腐,生揚げ,がんもどき,きな粉,大豆煮 豆など),海藻類(ひじき,わかめ,昆布,の りなど),また緑黄色野菜(しゅんぎく,に ら,きょうな,こまつな,ほうれんそう,ブ ロッコリーなど)にもカルシウムが多く含ま れますが,吸収率が劣ること,同時に塩分摂 取が多くなりがち(ナトリウムを多くとると 尿中へのカルシウム排泄が増えます)ですの で注意が必要です.

     

    ○カルシウムの吸収をよくする食品を同時に とります。

    ビタミンDはカルシウムの吸収効率をよくしますから, ビタミンDを豊富に 含む魚や肉の肝臓,バター,卵黄 魚肉など を支障がないかぎり積極的にとるようにしま す.日光浴で紫外線に当たると皮膚でビタミ ンDがつくられますので,1日1時間程度の 日光浴もすすめましょう.またリジン,アル ギニンなどのアミノ酸はカルシウムの吸収を 促進しますので,これらのアミノ酸を含んだ 良質のたんばく質を一緒にとるようにしま しょう.



    ○ マグネシウムも十分にとります。

    骨の形成にはカルシウムだけでなくマグネシウムも 必要です.マグネシウムは,海藻,ごま,抹 茶,インスタントコーヒー,大豆,貝類,魚 類に多く含まれています.マグネシウムの1 日の目標摂取量は300mgです.

     

    ○リン,ナトリウムを含む食品は控えます

      骨にとってマイナスとなるリン(炭酸飲料,練り製品, インスタント食品に多く含まれま す),ナトリウムの摂取は控えるようにしま す.塩分は1日10g以下を目標とします.



    ●【高齢者への配慮】

    ○牛乳の飲めない人には一工夫をします。

     牛乳を飲むと下痢をする高齢者が少なくあ りません.牛乳に含まれる乳糖を分解できな い人に起こる症状ですが,この場合は乳糖を 除去した牛乳 あるいはチーズ,ヨーグルト を用いるとよいでしょう.乳糖分解酵素が薬 品になっていますので,それを服用すること も一つの方法です.また牛乳の味の嫌いな人 には,シチュー,グラタン,プリン,ババロ ア,ゼリー,抹茶ミルクなどを用いたり,茶 碗蒸し,みそ汁などに牛乳を用いてもよいで しょう.

     

    ○硬い小魚類は軟らかくしてとります。

    小魚も,そのままでは硬いので,酢で調理して 軟らかくするなどの工夫が必要です.



    ○たんばく質は十分にとります 

    高齢者では,たんばく質の摂取量の少ない人が多いの で,乳製品のみでなく,魚介類,卵 肉類, 大豆製品を十分にとるようにしましょう.















    高齢期の病気と食事。へ戻る。