高齢者の病気と食事
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老化に伴う

  1. 老化とは
  2. 身体および精神機能の変化
  3. 老化と食事
  4. 高齢期の心
  5. 高齢者の多様性と疾患との関わり







  6. 1)★老化とは

    老化の定義





    ●加齢に伴う機能の減退を老化といいます

    人間を含めた動物は,成熟期以後, たとえ病気らしい病気がなくても,種々の機能が自然に失われていきます. このような“加齢に伴う機能の減退”を老化と定義します。 老化は,すべての人にみられる普遍的な現象で,おもに遺伝因子により規定された過程と考え られています。このことは,たとえば人には人の,また犬には犬の寿命があることを考え てみればよくわかることと思います。   詳細なことはわかっていません

    老化の仕組み





    ●詳細なことはわかっていません  

     老化の仕組みに関しては,いろいろな説が唱えられていますが, まだまだ詳細なことはわかって いません.老化が遺伝的に規定されているということを手がかりに, 老化遺伝子を見出すような努力もなされていますが,今のところ成功していません。 今後,老化の仕組みが徐々に明らかになり,いろいろの対策を講じることが可能になることを期待したいものです。




    2)★身体および精神機能の変化

    身体および精神機能の衰退 





    ●新陳代謝の衰退 

     ストラッツは,人間の身体機能の発達と衰退,および精神機能の発達と衰退を次頁図1のようにまとめています. これをみますと,人間の新陳代謝は生後すぐから20歳頃まで直線的に急速に衰えます.20歳くらいでほぼ下限に達し,以後は非常にゆるやかに衰退していきます.

     ●身体機能の衰退

     身体機能は,出生時より20歳頃まで直線的に発達していきます.20歳以降40歳頃まではきわめてゆるやかに,40歳以降は緩除に,しかし確実に衰退していきます.

     ●生殖機能の衰退 

    生殖機能は,10歳台前半より急に出現し(思春期),20歳頃まで急速にかつ直線的に発達します.それ以後もゆる やかに上昇し,30歳頃がピークとなります. その後は40歳くらいまでゆるやかに下降し, 40歳以降は急速に衰退していきます.

     ●精神機能の衰退

     身体機能に比べて精神機能は,出生後10歳くらいまで直線的に発達 し,10歳から20歳にかけてより急速に発達し ます.その後も40歳くらいまではゆるやかに, また60歳くらいまではよりゆるやかではありますが発達を続け,60歳頃がピークになりま す.その後,精神機能は衰え始めますが,80歳くらいまではゆるやかに衰退します.しか し80歳を超えますと,急速に衰退していくことになります.

    食事に関係する機能の衰遇





    ●身体機能の変化と同様に変化します。

    加齢に伴って身体の種々の機能は発達し,そし て衰退していきますが,それぞれの機能の衰 退の仕方はまったく同じではなく,多少のず れがあります.さらに身体機能,精神機能の なかにはさまざまのものが含まれていますが, そのそれぞれの発達と衰退にもそれぞれの特 徴があることも事実です.ここで,そのすべ てを述べる余裕はありませんが,食事に関係 する岨しゃく機能。消化・吸収機能,腸管の 嬬動運動機能,栄養素の代謝機能などの種々 の機能は,多少のずれはあっても多かれ少な かれ,図1で示した身体機能の変化に準ずる と考えられています




    3)★老化と食事

    各種調査結果からみた長寿の条件





     ●老化に関する10原則

     アメリカの有名な 老化学者のショックは,老化に関する10原則 をまとめています.本書 を読まれる人にとって重要な原則は,寿命は 食事に影響されるという項目でしょう.  

    ●高エネルギー食をとり続けることは長寿に つながりません

      動物を使った有名な実験 の一つに,自由に食事を食べさせた場合と, 種々の方法で低エネルギー食を与えた場合の 寿命を比較したものがあります.結果は,低 エネルギー食群のほうが,自由摂食群より明 らかに長生きしたとのことです.このような 結果をすぐに人にあてはめるわけにはいきま せんが,少なくとも高エネルギー食をとり続 けることが長寿につながらないことだけは確 かなようです.  

    ●米の偏食,大食を避け,魚・大豆・野菜・ 海藻を十分にとります

      近藤は,日本人に おける長寿と食習慣との関係について調査し, 長寿者の食習慣を次のようにまとめています. (1)米の偏食,大食をしない. (2)魚か大豆を十分に食べる. (3)野菜を豊富に食べる. (4)海藻を常食している.  また松崎は,日本国内における寿命と栄養 摂取の地域差を調査し,その結果から十分量 のたんばく質の摂取が長寿の必須条件である としています.  

    ●長寿者の多いグルジア共和国の食習慣

     世界的にみて長寿者の多い地域の一つにグ ルジア共和国があります.グルジアに本当に 長寿者が多いかどうかという問題に関しては 疑問を呈する人もいますが,健康な老年者が 多いことは事実です.そこで同地方の長寿者 の食習慣を調査した葛谷は,その特徴を次の ようにまとめています. (1)定時に食事をする(1日3〜4回). (2)過食をしない. (3)新鮮な食品を食べる.とくに柑橘類,り んご,なし,ぶどうなどの新鮮な果物を豊富 に食べる. (4)食欲を増進させ,消化を促進するとされ る非常に辛い香辛料を好む. (5)はちみつをよく食べる. (6)乳製品をよく食べる. (7)主食としては白パンでなく繊維の多い黒 パンを食べる. (8)コップ2杯程度のぶどう酒を飲む. (9)食後,散歩や歌を歌ったり,踊ったりす る習慣がある.

    長寿の秘訣は



     以上のような結果から,長生きするための 食生活のあり方がうかがえます.すなわち, 野菜,果物,海藻およびたんばく質を十分に, しかし過量にならないようにとる,しかも規 則正しく,心楽しく食事をすることが長寿の 秘訣ということになります.  一万,長寿のための食事はないとする意見 もあります.いずれにしましても,食事と寿 命の問題は生活環境や習慣などが複雑に関連 しますから,今後もより科学的な調査を積み




    4)★高齢期の心

    老化に伴う心の変化






    ●高齢期の心の特徴は特定できません


    古今東西,高齢期の心の特徴として,頑固,怒りっぽい,保守的,自己中心的,疑い深い,融通性がない,依存的,愚痴っぽい,孤独感が強い,抑うつ的,意欲がないなど,否定的なものが多くあげられています.このような傾向を老化に伴う変化としてよいでしょうか. もしそれらが老化に伴う心の変化であれば,高齢になれば誰もが上記のような心の特性を示すはずです. しかし,実際にはこのような特性を示さない高齢者も少なくありません.

    たとえば,ペプローは”独居老人は孤独である”という考え方は、必ずしも妥当ではなく、独居老人の中には独居を自立の証として誇りに思っている物も少なくないと指摘しています。




    ●高齢者の誰もが不安や抑うつ傾向が強くなるとはいえません


    高齢期には,老いることへの不安,死への不安,自分の思いどおりにことが運ばない不安など,一般的に考えて不安や抑うつ傾向が強くなってもおかしくない状況が存在します しかしながら,ショルツらは青年と老人の不安を比較し,青年のほうがより高い不安を示すこと,高齢者は誰でも不安が高まるわけではないことを明らかにしています.死への不安すら,自分の過去や人生に満足している高齢者のほうが,気がかりなことが多く残っている若年者より,死を自然の成りゆきとして受け入れることができるといわれています.




    ●高齢期に特微的とされる否定的な心の多くは,身体的・精神的疾病が原困です。

    人の心の加齢変化について調査した最近の多くの研究は,正常な加齢においては否定的な方向への心の変化は認められないとする報告が多くなってきています.高齢期に特徴的とされていた否定的な心の多くは,身体的疾病あるいは痴呆などの精神的疾病がもたらしたものと考えられるようになってきました.したがって,心の問題を抱えた高齢者には,その高齢者に特有の,心の問題を引き起こす原因があると考えるべきで,それを高齢のためという一言で片づけてしまわないことが必要でしょう.









    5)★高齢者の多様性と疾患との関わり

    高齢者の多様性と疾患との関わり





    ●老化に伴う身体の機能低下は,身体を死の危険にさらすほど激しいものではありません

    高齢者の身体機能や精神機能は,老化により確かに減退してはいます.しかし,老化に伴う機能低下の程度は,人を死の危険にさらすほど激しいものではありません.昔はよく高齢者の死を“老衰”と表現しました.この老衰という言葉には,老化による機能低下による死亡という意味が含まれています.しかし,実際には“老衰死”の多くは,詳しく調べますと,なんらかの病気による死亡であることが明らかになってきました.




    ●高齢者の身体・精神機能の多様性には病気が絡んでいます


    老化のみが高齢者の間題点であるなら,高齢者は一様に同じような身体的・精神的特徴を備えるはずです.しかし,現実に私たちがみる高齢者の身体機能や精神機能は,実にさまざまです.老化過程のみで,このような高齢者の多様性は説明できません.このような高齢者の多様性は,高齢者にさまざまの病気が多発することにより生じてきます.すなわち,高齢者は老化による機能低下という共通基盤を背景にもちつつも,そのそれぞれに固有に発症した疾患により,それぞれが特徴的な身体・精神状態をもつことになるわけです したがって,食事療法の実施にあたっても,個人個人の情況を十分に把握し,個人に合った食事療法を指導していく努力が必要であるといえましょう.いつも,それぞれの人に合った食事を,創意,工夫する必要があります.











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