介護予防
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はじめに・・・







このところ摂食・嚥下障害に対する関心が急速に高まっています。

優れた内容の教科書や雑誌の特集号も多くみられ,

10年前と比べて「たいへん勉強しやすくなったな」と思います。

それでは,摂食・嚥下障害の患者さんがどんどん食べられるようになったかというと,

実際はそれほど単純ではありません。

患者さんの障害はそれぞれ微妙に違います。

やはり今でも一例一例が真剣勝負です。

本当にぎりぎりのところで食べられるようになったり,ダメだったりの連続です。

特殊な技術というものはあまりなくて,患者さんごとにきめ細かい配慮を行いながら,

ちょっとした工夫を積み重ねている毎日です。

ですから時間と労力がたいへんかかります。これは仕方のないことかもしれません。

今まで勉強食などでいろいろ質問を受けましたが,

「嚥下障害の治療は採算が合いません」といわれたときほど悲しかったことはありませんでした。

採算のためにやっていることではないからです。もちろん医療経済は避けて通れない重要な問題で,

今後の大きな課題です。しかしどんなに大変でも,

患者さんの「食べたい」という欲求と介護者,医療者側の「食べてもらいたい」という願いがあれば,

摂食・嚥下障害にとりくまなければなりません。

真剣にとりくめば必ず道はあるように思います。

逆に簡単にあきらめてしまえば,食べられる可能性を自ら放棄しているといえるでしょう。



さて,現場でいちばん頭を悩ませるのが,患者さんに「食べたい」という欲求がない場合です。

どうして食べたくないのか?その原因はどこにあるのか?

食べたくない患者さんにむりやり食べさせても苦痛は増すばかり,

しばらく静観して,患者さんの生活全体を見直す必要があるようです。

医療や施設の環境,スタッフの接し方に問題のある場合もありそうです。

もう一つの問題点はスタッフの側の考え方です。あまりにも早くあきらめていないでしょうか。

あの手この手で工夫をする努力を忘れてはいないでしょうか。

時間をかけて少しずつアプローチすればなんとかなる可能性はないでしょうか。

あくなきチャレンジ精神が道を開くものと考えます。

痴果患者さんの摂食・嚥下障害も大問題です。

どうしても口を開いてくれない患者さん,

むせてむせて肺炎を繰り返しながらもどんどん食べてしまう患者さん,

いくら注意しても注意が守れない患者さんなど,

痴呆を伴った患者さんはなかなか一筋縄ではいきません。

痴呆患者さんは,便失禁,尿失禁,徘徊,せん妄など,

食べること以外にも難しい問題をかかえていることが多く,

総合的に取り組まなければなりません。ほんとうに難しい問題です。

摂食・嚥下だけでなく,高齢者は次第にいろいろな機能が落ちてきます。

一度食べられるようになっても,暑い夏を迎えたりインフルエンザのシーズンになると体調を崩し,

それらをきっかけに歩けなくなったり失禁がみられるようになるなど,

身体と精神の両面の機能低下が進みます。そして何度か繰り返すうちに,

ついにどうしても改善しないところまで落ちてしまいます。

人間いつかはこうなると知りながらも,たいへんつらい思いでその日を迎えなければなりません。

いよいよ口から食べられなくなった日にどのように対処することが患者さんにとって最も良いのでしょうか。

私たちの力の限界を目の前にするとき,10年前とは違ったレベルではありますが,

やはりまた,悩みながら苦闘する毎日です。癌の末期については多くが語られますが,

高齢者の夕一ミナルについては人のつねとして素直に受け入れなければいけないのでしょうか。

ほんとうに難しい問題であると思います。

それでも,「あ一,食べられてよかった」という患者さんの笑顔に助けられております。




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