古事記関係データ
T吉備の八岐大蛇
吉備の八岐大蛇
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備中神楽
V古事記神名へのアプローチ ー資料篇ー 【正誤表】2001.8
- 以下のデータ《古事記神名語構成表》は、ノートルダム清心女子大学紀要国語国文学編通巻27号1994年3月に掲載した二つの表を統合したものであり、
拙稿「古事記神名へのアプローチ序説ー神名表記の考察を中心にー」(神田秀夫先生喜寿記念『古事記・日本書紀論集』1989年12月所収)の資料篇である。但し今【正誤表】2001.8を付す。 【奥津日売→奥津比売 速秋津日売→速秋津比売 形態素表記 日売削除】
データの配列は以下の通りである。
語基,表記,語構成,神名,神核接尾辞,逆引き,神名表記,備考,西宮1979の神番号,桜楓社古事記新訂版の初出頁
【参考】あかる,阿加流,明,あかる-ひめ,あかるひめノかミ,ひめ,めひるかあ,阿加流比売神,,316,160
神名総数は、321柱で、形態素のべ総数1372語であるから、平均4〜5語程度の形態素で一神名が形成されていることになる。また、形態素の語形・表記・意味別異なり語数は479語であるが、表記を無視し、語形・意味別の異なり語数は390語となり、同一形態素が相当数の神名に用いられていることがわかる。
- 以下、表についての説明を付す。
- 1 神名の認定と釈義
原則として、西宮一民氏の「神名の釈義」の321神に拠った。神名番号も整備され、検索の便もはかられているからである。釈義がこれに拠らぬ場合は、【備考欄】に人名+発行年「例:神野志1993」の形で示した。
- 2 解釈の方向
古事記神名の解釈の方法については、拙稿1989.12を参照されたいが、古事記編纂時代にどう理解されていたかという観点からの形態素分類であって、中には、古事記編纂時代に再解釈されたものも含まれる。たとえば、国之常立神は、トコ(床)-た(連体格)-ち(〜霊)、国之狭土神は、さ(神聖〜)-つ(連体格)-ち(〜霊)、水蛭子は、ひ(日)-る(連体格)-こ(子)が、神名発生時の原義であった可能性も指摘されるが、これらも古事記という作品世界の中で解釈した。
- 3 神名尊称辞
拙稿1987で「命・神・大神・大御神」を神名尊称辞と呼称したが、この神名尊称辞は、日本書紀・風土記等とは異なる古事記独特の世界観の中で用いられており、その使い分けも法則性が見られる。したがって、神名の語構成を考える上で、原則として、これを神名から切り放すことにした。溝口1973・1974の説かれるように、〜神を切り放しても神名として成立するものは、古く成立したと考えられ、〜神・〜大神・〜大御神を切り放すことのできない神名は後代的であると思われる。
- 4 神格接尾辞
拙稿1989.12で、溝口氏の言うところの「〜神」を取った後の語尾「チ・ミ・ネ・ノ・ヒコ・ヒメ・ヲ・メ・ヒ・ヌシ・タマ・モチ・キ」を神格接尾辞と仮称した。すなはち、神格を付与する接尾辞といった意味である。これらについては、表中「≡ち」「≡み」など「≡○」の形で示した。
- 5 略号
○〜 ○は接頭辞・美称【形態素欄】
〜○ ○は接尾辞【形態素欄】
○)△□ ○は脱落した音節【形態素欄】
(○) ○は脱落した音節【語構成欄】
÷ 複数の形態素を一漢字が表す場合【表記欄】
- 6 上代特殊仮名遣
上代特殊仮名遣の表記法については、拙編『古事記音訓索引』(桜楓社)に準じた。
- 7 主要参考文献
古事記の註釈書の他、以下の通りである。
寺田恵子 天之御中主神の神名をめぐって 古事記年報251983.1
中村啓信 タカミムスヒの神格 古事記年報221980.1
神野志隆光 ムスヒの神の名義をめぐって 東京大学人文科学科紀要851987.3
山口佳紀 古代日本語文法の成立の研究 有精堂1985.1
神野志隆光・山口佳紀 古事記注解2 笠間書院1993.6
井手至 上代における道祖神の呼称について 万葉951977.8
井手至 鑑賞日本古典文学1古事記 角川書店1978.2
井手至 『古事記』冒頭対偶神の正確 論集日本文学日本語11978.3
井手至 『古事記』みそぎの條前半に現われる神々について 人文研究31−91980.3
村山七郎 しなてる・てるしの考 国語学821970.9
溝口睦子 記紀神話解釈の一つのこころみ 文学1973.10・11・1974.2・4
溝口睦子 記紀神話をとらえる視点 古典と現代341971.5
西宮一民 神名の釈義 新潮日本古典集成古事記1979.6
稲岡耕二編 神名事典 別冊国文学日本神話必携1982.10
尾畑喜一郎編 古事記事典(三語句解説1神名) 桜楓社1988.6
金井清一 スクナヒコナの名義と本質 東京女子大学比較文化研究所紀要311971.9
坂元宗和 上代日本語のe甲,o甲の来源 言語研究981990.12
拙稿 『粟鹿大明神元記』は上代語資料となり得るか 古典研究第161989.7
拙稿 古事記神名へのアプローチ序説 古事記・日本書紀論集1989.12
拙稿 古事記表記論Vー神名尊称辞の考察ー 上智大学国文学論集201987.1
- 7 注1 大香山戸臣神の「戸」について、西宮1979は、呪物や呪的行為につける接尾語とされる。伊斯許理度売命の「度」については、西宮1979に従ったが、これは「祝詞」の「〜と」のように、用言について、それを呪的行為として名詞化する機能があると考えられる。ここでは、「山」という体言につくから、連体格の「つ」の音変化「と」と見なした。連体格の「つ」は、「くだもの」「けだもの」の「た」、「蛟(みとち)新撰字鏡」の「と」のように、[たーつーと]の間で揺れていたと考えられる。
注2 刺国大上神については、西宮1979では「さしくにノおほノかミ」とする。拙稿1987でも、「大神」という神名尊称辞を有する神の中で、この神のみが体系に当てはまらないことを指摘した。拙稿1989.7で、『粟鹿大明神元記』では、「以上榛氏之神宅之印」以前に見られる神(人)名は、上代特殊仮名遣に一致し、これ以前の神(人)名は、上代語資料と成り得ることを説いた。「以上榛氏之神宅之印」以前に「佐志久斯布刀比賣・佐志久斯和可比奴賣」と見えることに注目すれば、「太」−「若」の対応で神名が作られたという想定が許される。また、古事記の声注「上」は、上の語が被覆形であることを明示するものであり、「大=神」の結合は揺るがない。とすれば、「大」が「太」の誤写であることも考えられるが、「大」でも「ふと」と読めないことはない。他の文献の神名表記によって古事記の神名を解釈することの危険性については拙稿1989.12で述べたが、ここでは参考までに、「ふとかミ」の可能性を考慮し、形態素を「おほ[ふと]」と示した。
- 注3 古来未詳とされていたが、1991年度ノートルダム清心女子大学国語国文学科卒業生・門脇順子氏が、『神名成立論』(1991年度卒論)で、この語構成を指摘した。八嶋牟遅神・八嶋士奴美神から、鳥取神・大国主神、さらに多比理岐志麻流美神に至る出雲系の神々の系譜中には、神格接尾辞「≡み」を有する神が多いこと、「島」を神名に含む祖先が多いこと、母神「比那良志毘売」の「比」は「日」の意、父神は「〜日子」、また祖先「日名照額田毘道男伊許知邇神」も「日」を含むこと等から、「多(接頭語)−比(日)−理(入)−岐(来)−志麻(島)−流(連体格)−美(神格接尾辞)」説を展開した。「しまるみ」の「る」は「かみるみ」等の「る」である。他に好説もないので、ここではこの語構成に従った。
- 注4 西宮1979では、名義未詳としながらも、「ふの」を「曲」、「づの」を「葛」の意か、とされる。『粟鹿大明神元記』では「布努都弥美」とあり、「布努−都(連体格)−弥美(神格接尾辞)」の語構成が想定される。他の文献の神名理解を古事記に齎す危険性は否めないが、ここでは仮に「つ(連体格)−の(神格接尾辞)」と分類した。「の」は「ぬ(主)」の交替形である。オ列甲類とウ列の母音交替の例は多い。坂元1990は、u〜o甲のダブレットを枚挙し、o甲の来源はuであると説明する。
古事記神名語構成表
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