ANTLERS Diary Ant-mark



1999.11.23  2nd.ステージ 第14節 


ベルマーレ平塚 vs
       鹿島アントラーズ

     終わりの始まり
        





相手は二部落ちが決定したベルマーレ平塚。運営しているクラブ財政の悪化から
もう一度やり直しに近いところまで戻ってしまった。再び一部に復帰する日は
あるのか、クラブの財源のため、有能な若手を売り歩くのか、じっと我慢して
原石を磨き上げ経験を積ませることができるのか、本当の意味での入替えチーム。
興味は尽きない。

もうしばらくくることはないだろう、関東の最果て(!)平塚。今日は平塚最後の
ホームゲーム。鹿島が7点取られて負けたこともあった。平塚の優勝を増田の五人
抜きで粉砕した事もあった。レオナルドの退場で怒るサポーターが乱入した事も。
今はユースコーチの石井が左サイドバックとしてプレーして、五人抜きをかまし
た事もあった。もう来年はここにこないと考えると感慨深い。

今日の鹿島は、リカルドが入り、本田が出れないこと以外はベストメンバー。
ツートップはマジと平瀬。中盤はビス、増田、中田と熊谷のWコウジ。

試合開始。最近はスロースターターがすっかり定着した鹿島。この日もがっぷり
と四つに組んだ状態で試合は始まる。相手の平塚はビスと増田にしつかりとマー
クを貼り付け、中盤での仕事をさせない。攻撃となればサイドからボールを運び、
中央の西本がダイレクトで叩き、チャンスを作っていく。

西本、今日注目の一人だった。ずんぐりむっくりな体型。丸い頭。日本人離れし
たドリブルスタイル、柔らかい、しかしキレのあるフェイント。湘南のロマーリ
オと勝手に呼んでしまおう。この試合を見るまでは、活きのいいドリブラーかと
思っていたが、この日はゴール手前中央でボールを受けてはダイレクトで叩き、
味方へのいいパスを連発。バネ仕掛けのようなフェイントで鹿島DFを集め、サイ
ドのオーバーラップを引き立たせていた。

鹿島で一番危険な香りのする男リカルドが彼につくが、足元勝負ではどうにか頑
張れてもスピードに乗ってこられると、着いて行けない。クリスマスは是非母国
で親孝行して欲しい。

しかし、その西本も秋田にかかると吹っ飛ばされておしまい。サイドからの突破
も名良橋や相馬が的確なプレッシャーで押さえていく。いい物は持っているし、
若い選手ばかりなのに、しっかりと迷わず的確にプレーしている。しかし鹿島の
経験深いディフェンス陣には通じない。攻めてはこられるが点は取られる気が
しない。

鹿島の攻撃は平塚のプレッシャーにより、前線へボールが運べない状態が続いた
が、この前のヴィッセル戦よりはずっとましだった。特にそのパススピード。今
日は本田も阿部もいない。熊谷と中田、ビスと増田、そして名良橋と相馬。彼ら
はダイレクトで次々とパスを出しまくる。名良橋がビスに入れたかと思えば、ビ
スやんは瞬時に熊谷へ。熊谷もダイレクトで前線の増田へ。増田はワンフェイン
トを入れてビスやんへすぐリターン。そしてビスは相馬のオーバーラップを引き
出す。

崩しのパスはないが、速く正確な鹿島のパスが続いた。今までの簡単なパスのオ
ンパレードが嘘のように今日はつないでいく。だめであれば戻す。しかし戻して
もその先は探さない。必ず誰がボールを引き出しに動いて、すぐに次の攻撃を組
み立てていく。いい感じだ。これで御大マジがもっと動くか、ポストプレーで前
線に拠点を作れる柳沢(98年バージョン)が要れば、もっと早くゴールショーは
始まっていただろう。

鹿島優位のまま、しかし点が取れないまま終わるかと思われた前半40分。平瀬と
相手DFが絡みながらボールは外に出る。副審は堂々とゴールキックを示す。しか
し主審はコーナーを指している。副審一瞬のうちに旗を下げる。

ビスやんの蹴ったボールはゴール前へ。秋田、平瀬、マジらがターゲットとなっ
て走る。しかしボールを当てたのはほぼ正面で何故かフリーになっていた中田。
中田のヘディングがゴールへ突き刺さる。ゴォォォォォーーール。1-0。中田の
ヘディングは本当に突っ立っていたら顔にあたってしまった、というような感じ
を醸し出す。気合で突っ込んでゴールを狙う秋田とはまったく違う。

事件はこのゴール後に起こった。主審ノコーナーキックへの判定に平塚猛抗議。
GK本田はやり切れないのか、わざとなのかボールを中央へ返すのではなく、前方
へ叩きつけてしまう。彼の前方には主審の背中が。レッドカード。退場。

GKを入れなくてはいけないため、ここまで攻撃に活躍してきた小松原を交代。小
松原もユニを叩きつけて帰っていく。ロッカールームで二人喧嘩してなければい
いのだが。

こうなれば鹿島ゴールショーの始まり。その二分後、名良橋の速いクロスを点で
合わせた平瀬のゴールで2点目。

後半になって、熊谷がゴール前ギリギリまで持ち込んで中央へ、中央では増田が
ボールをトラップ。1秒ゆっくり止まる。相手GKはもう動けなくなる。増田ゆっ
くりとループシュート。ゴォォーーーーーール。3-0。

そして、相馬のセンタリングをマジが決める。4-0。疲れの見える増田と交代で入
った柳沢、すばやいカウンターで三対三の状態から、逆サイドのビスやんへ絶妙な
センタリング。ビスやんはもう足に当てるだけ。ゴオオオーーール。5-0。

最後は何故かゴール前に積めていたリカルドが決めて6-0。リベンジには一点足り
ないが、今日はこの辺で許しておいてやる。

この試合、相手ゴールキーパーが退場した時点でゲームとしては終了してしまった。
相手は中盤で、できるだけマンマークを引いてきたが、一人少ない状態では必ず
誰か余ってしまう。後半には中田や熊谷などのボランチがフリーで前線に上がって
いった。そしてスカスカになったサイドには相馬が狂ったようにオーバーラップを
繰り返し、最後にはもう切り返せないほどヘトヘトになっていた。

後半の鹿島は、ビスとマジと増田が出て、柳沢と小笠原と本山が入った。後ろはハ
ンデのリカルドを除けば日本代表クラス。前はオリンピック代表で固めている。こ
の中盤に入ると熊谷が一番雑に見えてしまうのだから恐ろしい。

小笠原は中央で起点となり、ゴール前まできてはギャップを見つけてパスを狙って
いく。本山はサイドにも慣れたのか、相馬のオーバーラップを引き出し、相手をか
わし分け入ってサイドから自分もシュートを狙っていく。

そして柳沢。最近はつまらないミスで自分のリズムを失い、ボールを持ちすぎて相
手に絡まれて足を傷めて、運動量が落ちる、さらにリズムを失って交代というのが
多かったが、今日は後半の早いカウンターの最初の起点としてサイドに開く動きを
見せていた。シュートこそ決まらなかったが、ドリブルで強引に相手陣に突っ込ん
で行って、突破できても出来なくても、しっかり顔を上げて次のプレーへ走ってい
った。自信、気迫、思い、何かが帰ってきたのかも知れない。

鹿島は前節5点。今節6点。オリンピック代表とベテランが融合もしつつある。少し
づつパススピードが上がっていく。一対一で負けることもなくなっていくだろう。
そして、次々と油断のならないカウンター攻撃を作り出していくはずだ。相手がも
うついて行けないというほどのフリーランニングも復活するのだろう。そして全員
が高いレベルで持つ勝負根性も。少しづつ鹿島に何かが帰ってきている。

この秋の日は、今年の低迷した鹿島の、その終わりの始まりなのかもしれない。



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