ANTLERS Diary Ant-mark



1999.09.29 ナビスコカップ 準決勝 1st.Leg 


鹿島アントラーズ vs
       ガス東京

     そして鹿島は
        復活の鍵を手にした





今日の相手はガス東京改め飛田給FC。その実力は充分J1レベル。少なくともレッズ
よりは強いだろう。大熊監督のもと、シンプルな戦術、しっかりとしたキープレイヤー、
何よりも長い間をかけて熟成されたコンビネーションがある。ある意味、今のJでは
不可能なのが「ゆっくりとした熟成」だ。すぐに結果を求められてしまう。ジェフも
二部からのスタートであれば、素晴らしいチームだって創れるだろう。おそらく若い
歴史のJリーグでは、そういう熟成された昇格チームがいきなり優勝。というシーン
もやがて誕生するのではないだろうか?

たしかにガス東京は強い。勝負からにげたレッズよりも。しかし地獄を見たアビスパや
見ているベルマーレなどよりも強いかは不明だ。半分は楽に勝てる相手と戦い、昇格と
いった強烈なプレッシャーと戦う事も無くここまできた。Jの中でギリギリの戦いを
してきたチームや選手とは、サッカーにたいする厳しさが違う。彼らの最大の弱点は
そこだろう。

試合開始。試合はカズ東京のペースではじまった。怪我の残るアマラオをベンチにおき
横浜マリノスをどん底に叩き落した男、鏑木がFWとして走り回る。鏑木は岡野以上の
ドリブルと岡野なみの俊足で鹿島陣を駆巡る。東京のシンプルな攻撃パターン、サイド
への展開と速く高い位置からの積極的なクロス、それに飛込んで勝負するFWという
戦術もあり、彼は生きる。

鏑木。高校選手権の時から注目していた。大学に進学した時はもうトップでは無理と
思っていたが、スーパーカブという愛称も継承され、カス東京のスターとなりつつあ
る。まだ22歳。この歳にして日本代表GKをもてあそんだという。いいのか代表?

しかし今日の鹿島はあいかわらずのリカルドを除き、おちついて守備をしていく。
もっとも警戒すべき佐藤ユキヒコには相馬がしっかりとマークに付き、オーバーラッ
プを控えてまで守備をして左から攻撃を押え、中盤では、そろそろ本調子に戻ってき
た本田が縦横無尽に走り回って、相手の攻撃の芽を潰していく。熊谷はいつもの上が
りすぎをセーブして、相手の中盤でのキープレイヤー・アウミールをマーク。

テクニックの差、経験の差もあり、段々と東京はボールを失いだし、鹿島は逆にチャ
ンスを作り出す。鹿島も怪我の残るビスやんの動きが悪く、また東京側のマークもき
ついため、中々いい形が創れない。

しかし東京はさすがにもう一人の中盤阿部を無視しすぎた。阿部は判断も遅く、左足
だけ、左はほとんど見えていない男だが、鹿島の一員であり、フリーになって充分な
視界さえ得られれば、恐ろしく柔らかいやさしいボールを蹴り出せる。

その阿部が中心となって攻撃の形を徐々に作っていく。この試合が今季初スタメンと
なったサンバとビーチが似合う男・鈴木隆行も残り少ないチャンスをモノにするため、
走り回る。以前の時は「白いマジーニョ」という感じでドリブルはうまいが遅い、ク
ネクネと迂回して前になかなか進まない、ボールは持てるがなぁという印象を受けた。
この試合でもそれは感じたが、以前にもまし泥臭さが漂っている。ジェフで武田に教
わったのだろうか。中山やガンツのようなしっかりとした泥臭さがあれば、あの身体
が充分に生きる。

そして前半25分。相手左サイドからのビスやんのFK。鈴木がファーで相手を躱しフ
リーでトラップ。そのままゴール前へグラウンダーのボールを蹴り込む。これを倒れ
込みながらも熊谷がボレーで叩き込む。ゴォォォォォーーーーーール。1−0。鹿島
先制。

以後前半は鹿島が余裕を持って相手からボールを奪い、チンタラとボールを回す。
相手がプレスを掛け続けてもボールを回して躱していく。そして隙が出来れば
そこを突破口にして一気に攻撃モードに。ボールを継続させて攻め続けていく。

相馬が引く分、名良橋が元気に攻込んでいく。阿部と鈴木と熊谷が相手を崩し、長谷
川や相馬らがうまく顔を出して、ボールを動かしていく。シュートシーンはなかなか
創れないが、段々と鹿島らしい形がでてくる。

しかし大声監督、いや大熊監督が堪えきれずにアマラオを投入すると再び試合展開は
五分五分へ。さすが都知事。しっかりとした胸板。秋田をも恐れない強さはレベルが
高い。

後半突入。試合はジリジリと進んでいく。鹿島はホームなのに、攻撃の姿勢が足りな
い。このままでいいというな戦いかた。相手の攻撃のミスを突いて、自分の流れを創
る事はできるが、自分からは強引に形は作っていけない。

しかし鹿島にはジーコがいて、そして彼がいた。

タッチラインの外に立つ14番。タッチラインの外で飛跳ねてボールデッドを待ちきれ
ない14番。フィールドの外にはボールを出せだせとコール仕出すサポーター。スタジ
アムはガスサポ、インファイトを無視して自然な14番へのコールに包まれてしまう。

彼の名前は増田忠俊。鹿島アントラーズの14番。その昔、あるジャーナリストをして
和製サビチェビッチと呼ばれたドリブルスター。この自然な声援は彼の歩んできた過
去のプレーへの賞賛であり、彼の歩んできた信じられないような苦しいリハビリへの
祝福だった。

そしてフィールドに一年半の長きを経て増田が帰ってきた。

その増田いきなり右サイドをドリブルで突破。相手のプレッシャーを弾き飛ばして
センタリング。左でも右でも真中へ切れ込んでも、増田のドリブルは誰にも止められ
ない。そういえばタッチラインに立った増田の身体は信じられないくらい太っていた。
まだリハビリなのか、とその時は思った。しかし、それは違った。増田の身体は負傷
前とは人間が違うかのように筋肉の鎧がついていた。

その筋肉の鎧を纏っても、カズのように鈍くなるのではなく、より流れるようなドリ
ブルをみせてくれる。増田が復帰したことで、相手のDFはマークすべきFWを失い
混乱する。そして、増田のボールキープは両サイドバックの上りを誘発する。

そして増田は一年半のブランクを感じさせないようなタイミングで、相馬へピタリと
パスを送る。後半30分過ぎ。中央でボールを持った名良橋が左へスルーパス。これに
増田が対応。増田は相手を二人も引付けつつ、相馬へパス。相馬は追いかける相手に
一歩完全に勝った形でセンタリング。これを中央に飛込んだビスマルクがヘディング
で叩き込む。ゴォォォォォーーーーーール。2−0。鹿島貴重な追加点。

増田の加入は鹿島の攻撃に活力とリズムを生出した。増田がボールを持つ事で、味方
に信頼感が出てくる。あの動かないビスやんがゴール前まで上がる。決定的な仕事が
できずにいた相馬が何度もクリティカルなセンタリングを叩き込んでいく。

本田、熊谷、ビスやん、そして増田(今日は阿部も)。ジョルジ無き後、私が夢見た
中盤がついに出現した。本田の守備。指令塔ビスやんのロングパス。理想的な中盤熊
谷。そしてペネットレイター増田。これらの個性がFWやSBと融合しつつ、鹿島の
攻撃を作っていく。98年の1stステージで停止していた鹿島の時計は再び進み出し
たのだ。その空白期間に次代の主力であるオリンピック代表も成長。熊谷と中田、小
笠原の対決、そして本山と増田の戦いが鹿島で繰広げられる。

あの、紅白戦で勝つ方が試合で勝つよりも難しいと言われた、あの時代が帰ってくる
のかもしれない。

試合終了。この試合はナビスコの単なる準決勝1stLEGでしかない。この試合で勝った
からといって単に有利になるだけだ。しかし、それらを全てを超えた意味がこの試合
にはあった。

増田の復帰。彼が帰ってきた。広島のあの日。あれが彼の頂点だと思った自分の不明
が愚かしい。きっと増田はもっと素晴らしいプレーを私達に見せてくれるに違いない。







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