暑い。暑い。本当にこんな時間にサッカーをやっていいのか?気温は36度。フィールド では40度を超えているだろう。こんな熱い日にレッドダービー。更に熱い。 後のインタビューでは、中盤の代えがいないため、熊谷、阿部、小笠原らはわざと セーブして前半を流したという。そのとおり前半は圧倒的なテクニックの差で鹿島が 攻めるが、軽いプレーと細かいパスばかり。対して浦和は足元にガシガシとやって くるアグレッシブな守備でフィフティーボールを奪っていく。 前線の核になるはずの柳沢もなぜか動きに切れが無い。ザッペラ程度の相手も振切れ ず、前も向けずにポストプレーが精一杯。かき回し役のマジは早々に負傷で退場。 長谷川に代っている。 ゲームが動いたのは25分すぎ。相馬の絶妙なスルーパスを柳沢がミスった後。ジョジョ からのパスをダイレクトで蹴った福田。無理矢理合わせたため、ボールには絶妙な回転 が発生。ゴールポストギリギリに飛込む。0−1。 あの一年前の悪夢が蘇る。ここから鹿島は無理攻めして逆にカウンターを食らって破れ た1−4の悪夢。小野と福永にやられたあの試合。 しかし浦和はこのゴールで死んだ。福田に代えてDFを投入。そしてその後目を疑った のは、田北のゴールキック。ターゲットはわずかに大柴のみ。いや違った。前日練習を 重ねたという彼のゴールキック。狙う先は鹿島エリアのサイドライン。ただ単にスロー インを与えるだけのキック。しかしそれほどまでにして攻撃のリスクを放棄した。 そして鹿島ボールを奪ってのカウンター。大柴が走る。サポートにレッズの選手も・・ 走らない。途中でベンチに止められて戻っていく。大柴は一人飛込んで潰される。 浦和は死んだ。浦和のサッカーは死んだ。彼らはプロだ。勝つことが彼らの評価基準だ。 しかしそれは唯一無二の物ではない。プロだからこそ「魅せて」勝つことが重要なのだ。 常人には出来ないスーパーなプレーを見せてこそのプロなのだ。バルサの監督である クライフは言った。「1−0よりも4−3の試合の方が私は好きだ。勝つことよりも 勝ちかたのほうが大切だ」と。 翌日見たJFLホーリーホック。相手は鹿島ユース。どうみても鹿島ユースの方がうまい。 しかしホーリーホックは一点を取った後、しっかりと引いて、しかし一瞬の隙を逃さず カウンターを決めて完勝。ボールをどうにかしてゴール前まで持ってくると、彼らは攻撃 の仕方を知っていた。シンプルながらストロングなゴールを決めてくる。うまいのは鹿島。 しかし強いのはホーリーホックだった。 そんな試合と比べると、浦和の壊滅ぶりは目を覆いがたい。こんなサッカーをやってい てはJ2を勝ち残る事も出来まい。彼らは自らの首を締めて今日の勝ちを拾おうとした。 しかし、相手は鹿島。ここは鹿島スタジアム。そして今日のフィールドには熊谷いた。 前半は死んでいたフリをした熊谷。しかし後半になればなるほどイキイキしてくる。 レッズが下がりすぎて中盤にスペースが出来ると、熊谷が積極的にボールを持って上が ってくる。熊谷はその細い足と、小刻みなステップを踏むドリブルから、軍鶏と呼びた くなってしまう。そう、ジーコは若いとき、ガウショデオーロ(金鶏)と呼ばれていた。 鹿島はなんでそんなにボールを繋ぐのだというほど中盤をつくって攻めてくる。けっして 放り込まない。右左からパスを繋いで最終ラインに綻びを作ろうとする。阿部、熊谷、小 笠原らの縦横無尽な動き、ゲームメーカーのような相馬のスルーパスとセンタリング。 苦しいながらも耐えてボールを繋ぐ柳沢のポストプレー。 マンマークしていたはずの浦和が激しいボールの行き来に、だんだんとボールを見るよ うになっていく。時間は残り3分。しかし鹿島は奇跡を起こした。いやレッズの引きかた を考えれば、それは当然の帰結かもしれない。ここは鹿島。相手はアントラーズなのだ。 一度は跳ね返されたボール。拾ったのは上がっていた相馬。相馬は左サイドライン沿いに グラウンダーのパス。これに平瀬が反応。相手も急いでやってくるが平瀬は冷静に一発め のトラップで躱してしまう。そしてDFとゴールキーパーの間にセンタリング。 ボールの先には、頭が金色に光り輝いた熊谷が待っていた。熊谷は高く高く飛翔し、そし てボール目掛けて渾身のヘッド。全ての力をボールにぶつけるように身体が捻じ曲がって いる。ボールは鹿島サポの歓声の中、ゴールネットに吸込まれていく。ゴオオーーーール。 1−1。骨折から復活した熊谷。その熊谷が跳び、ゴールを決めたのだ。 試合は延長へ。後半終了前にペトロを退場で欠いた浦和に勝目はない。延長7分。柳沢が 前線でボールをトラップ。ゴールから逃げるようにターン。ドリブルで中央へ。中央のD Fが柳沢を追う。そのエアポケットに吸込まれるように熊谷が飛込む。熊谷は一試合動き まわってまだ戦う。相手DF必死に熊谷に迫る。しかし黄金の軍鶏はまた飛んだ。 熊谷のヒールパスから放たれたボールは。しっかりと反応していた小笠原の元へ。小笠原 はワントラップ。落着いてシュート。ゴォォォォーーーーーーール。2−1。鹿島Vゴール。 熊谷1ゴール1アシスト。存在感を見せた熊谷。オリンピック代表に世代交代したかの ような鹿島だが、本当の実力者はまだまだ若い。 浦和サポは30分動けなかったらしい。無理も無い。しかし優勝劣敗の言葉をしっかりと 思い出せばいい。優れていなければどんなにサポーターが多くともJ1には残る必要は ない。日本のサッカーのために観客が多いチームがJ1に残るより、本当に強いチーム だけが残るべきなのだ。本当に強いチームだけが見せる危険な攻撃とギリギリの守備に ファンは魅せられていくのだから。