ANTLERS Diary Ant-mark



1999.09.11 2nd.ステージ 第 7節 


鹿島アントラーズ vs
       浦和レッズ

     熊谷復活
        浦和消滅?





暑い。暑い。本当にこんな時間にサッカーをやっていいのか?気温は36度。フィールド
では40度を超えているだろう。こんな熱い日にレッドダービー。更に熱い。

後のインタビューでは、中盤の代えがいないため、熊谷、阿部、小笠原らはわざと
セーブして前半を流したという。そのとおり前半は圧倒的なテクニックの差で鹿島が
攻めるが、軽いプレーと細かいパスばかり。対して浦和は足元にガシガシとやって
くるアグレッシブな守備でフィフティーボールを奪っていく。

前線の核になるはずの柳沢もなぜか動きに切れが無い。ザッペラ程度の相手も振切れ
ず、前も向けずにポストプレーが精一杯。かき回し役のマジは早々に負傷で退場。
長谷川に代っている。

ゲームが動いたのは25分すぎ。相馬の絶妙なスルーパスを柳沢がミスった後。ジョジョ
からのパスをダイレクトで蹴った福田。無理矢理合わせたため、ボールには絶妙な回転
が発生。ゴールポストギリギリに飛込む。0−1。

あの一年前の悪夢が蘇る。ここから鹿島は無理攻めして逆にカウンターを食らって破れ
た1−4の悪夢。小野と福永にやられたあの試合。

しかし浦和はこのゴールで死んだ。福田に代えてDFを投入。そしてその後目を疑った
のは、田北のゴールキック。ターゲットはわずかに大柴のみ。いや違った。前日練習を
重ねたという彼のゴールキック。狙う先は鹿島エリアのサイドライン。ただ単にスロー
インを与えるだけのキック。しかしそれほどまでにして攻撃のリスクを放棄した。

そして鹿島ボールを奪ってのカウンター。大柴が走る。サポートにレッズの選手も・・
走らない。途中でベンチに止められて戻っていく。大柴は一人飛込んで潰される。

浦和は死んだ。浦和のサッカーは死んだ。彼らはプロだ。勝つことが彼らの評価基準だ。
しかしそれは唯一無二の物ではない。プロだからこそ「魅せて」勝つことが重要なのだ。
常人には出来ないスーパーなプレーを見せてこそのプロなのだ。バルサの監督である
クライフは言った。「1−0よりも4−3の試合の方が私は好きだ。勝つことよりも
勝ちかたのほうが大切だ」と。

翌日見たJFLホーリーホック。相手は鹿島ユース。どうみても鹿島ユースの方がうまい。
しかしホーリーホックは一点を取った後、しっかりと引いて、しかし一瞬の隙を逃さず
カウンターを決めて完勝。ボールをどうにかしてゴール前まで持ってくると、彼らは攻撃
の仕方を知っていた。シンプルながらストロングなゴールを決めてくる。うまいのは鹿島。
しかし強いのはホーリーホックだった。

そんな試合と比べると、浦和の壊滅ぶりは目を覆いがたい。こんなサッカーをやってい
てはJ2を勝ち残る事も出来まい。彼らは自らの首を締めて今日の勝ちを拾おうとした。

しかし、相手は鹿島。ここは鹿島スタジアム。そして今日のフィールドには熊谷いた。
前半は死んでいたフリをした熊谷。しかし後半になればなるほどイキイキしてくる。
レッズが下がりすぎて中盤にスペースが出来ると、熊谷が積極的にボールを持って上が
ってくる。熊谷はその細い足と、小刻みなステップを踏むドリブルから、軍鶏と呼びた
くなってしまう。そう、ジーコは若いとき、ガウショデオーロ(金鶏)と呼ばれていた。

鹿島はなんでそんなにボールを繋ぐのだというほど中盤をつくって攻めてくる。けっして
放り込まない。右左からパスを繋いで最終ラインに綻びを作ろうとする。阿部、熊谷、小
笠原らの縦横無尽な動き、ゲームメーカーのような相馬のスルーパスとセンタリング。
苦しいながらも耐えてボールを繋ぐ柳沢のポストプレー。

マンマークしていたはずの浦和が激しいボールの行き来に、だんだんとボールを見るよ
うになっていく。時間は残り3分。しかし鹿島は奇跡を起こした。いやレッズの引きかた
を考えれば、それは当然の帰結かもしれない。ここは鹿島。相手はアントラーズなのだ。

一度は跳ね返されたボール。拾ったのは上がっていた相馬。相馬は左サイドライン沿いに
グラウンダーのパス。これに平瀬が反応。相手も急いでやってくるが平瀬は冷静に一発め
のトラップで躱してしまう。そしてDFとゴールキーパーの間にセンタリング。

ボールの先には、頭が金色に光り輝いた熊谷が待っていた。熊谷は高く高く飛翔し、そし
てボール目掛けて渾身のヘッド。全ての力をボールにぶつけるように身体が捻じ曲がって
いる。ボールは鹿島サポの歓声の中、ゴールネットに吸込まれていく。ゴオオーーーール。
1−1。骨折から復活した熊谷。その熊谷が跳び、ゴールを決めたのだ。

試合は延長へ。後半終了前にペトロを退場で欠いた浦和に勝目はない。延長7分。柳沢が
前線でボールをトラップ。ゴールから逃げるようにターン。ドリブルで中央へ。中央のD
Fが柳沢を追う。そのエアポケットに吸込まれるように熊谷が飛込む。熊谷は一試合動き
まわってまだ戦う。相手DF必死に熊谷に迫る。しかし黄金の軍鶏はまた飛んだ。

熊谷のヒールパスから放たれたボールは。しっかりと反応していた小笠原の元へ。小笠原
はワントラップ。落着いてシュート。ゴォォォォーーーーーーール。2−1。鹿島Vゴール。
熊谷1ゴール1アシスト。存在感を見せた熊谷。オリンピック代表に世代交代したかの
ような鹿島だが、本当の実力者はまだまだ若い。

浦和サポは30分動けなかったらしい。無理も無い。しかし優勝劣敗の言葉をしっかりと
思い出せばいい。優れていなければどんなにサポーターが多くともJ1には残る必要は
ない。日本のサッカーのために観客が多いチームがJ1に残るより、本当に強いチーム
だけが残るべきなのだ。本当に強いチームだけが見せる危険な攻撃とギリギリの守備に
ファンは魅せられていくのだから。



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