ANTLERS Diary Ant-mark



1999.08.28 2nd.ステージ 第 5節 


ジュビロ磐田 vs
       鹿島アントラーズ

     悪逆なる守り
        至高なる攻め





多くの人が前節の負けを見た瞬間、この磐田行きを決めた。もう磐田行きはお金や時間の
問題ではなかった。

五時半、六時、六時半。普段ならファンサービスにやってくる選手達がいつまでたっても
やってこない。フィールドではゲームを開催する事に意義があるというような下らない
ゲームが延々続けられていた。

選手達がやってきたのは結局練習開始の時間帯だった。誰もがそう予想したとおり、ジー
コの熱い熱いミーティングが続いたためだった。選手達の目には何か期するものが感じら
れる。選手達を送出した後、この試合からやってきた監督代行が姿を表した。
アウェー自由席は驚喜し、フィールドには厳粛なる空気がやってきた。

先発は何故かリカルドがDFに入り、中盤は内藤、阿部、ビスやん、本山。FWには
ひさしぶりに揃った柳沢とマジーニョ。ベンチには曾ヶ端、奥野、中田、小笠原、
長谷川。

鹿島"ジーコ"アントラーズの第一戦が始った。

試合は鹿島の激しいチャージで始った。ゴールエリアに入ってくる磐田FWに厳しい
チャージと抉るようなタックルが飛ぶ。強く深く当れ、はラグビーで使われる言葉だが、
この試合の鹿島にはもっともぴったりとくる言葉だった。フィールドに倒れているのは
磐田の選手ばかり。鹿島の選手はボールが活きている限り、次の相手を探して突っ込ん
で行く。

今までは相手にボールを持たせていた、無理に飛込まない、だからドリブルでズンズン
と抜かれていた鹿島が、この試合は相手よりも一歩早く当たり、五分のボールならば
無理矢理足に引っかけても自分の方へ転がしていく。

そしてボールを奪うと迷う事無く前線のスペースへ送込む。本山がマジが、そして柳沢が
走り込んで一瞬でシュートを狙っていく。逡巡が無い。久しぶりにスピード感のある
鹿島の攻撃が見れそうな予感がした。

しかし相手は磐田。細かなパスが多いとはいえ、一人一人の動きは流れるようで捕まえる
のは難しい。中盤では福西が、前では藤田と中山がタレントを発揮して徐々にジュビロの
流れを創っていく。

鹿島のDFはギリギリのところで持ちこたえていた。リカルドは通常の試合ではお目にか
かれない粘りで高原とマッチアップしていたが、日本語が通じないのか、動きを理解して
いないのか、相手がスイッチ等を使い出すとすぐマークを外してボーと立ってしまう。
相馬とぶつかりそうな位置にたって、自分のスペースに侵入を許していた。動き的には
普段よりもずっと良かったが、今後も使い続けたいかと言われれば、言葉と仲間を理解
していないDFはいらない。鹿島の危機の半分は彼のマークのズレから起こっていた。

この鹿島のピンチを救ったのは、高桑、いや福西だった。FKのこぼれ球に飛込んだのは
高桑。しかしそこに名良橋と福西も飛込む。福西の足が高桑の顔に激突。高桑はあごから
鼻までをしたたかにぶつけ、あわや交代かと思われた。

しかしサポーターの声援を受け、立ち上る。これ以後の高桑は何がが違った。福西が与え
たショックにより、何がが目覚めたのか、ゾフでも乗移ったのか、信じられないような
セービングを連発する。彼がいなければこの試合、熱戦と呼ばれていたかもしれない。
しかし彼のおかげでゲームは恐ろしく一方的なスコアとなった。

高桑の奮闘にチームメイトが奮起したのか、鹿島の攻撃のスピードに加速がかかる。名良橋
が鋭くサイドをついて逆サイドに素早いサイドチェンジ。相馬やビスやんがフリーで受け、
ゴールを狙っていく。今日の鹿島はシンプルでありダイナミックであった。一つ一つの
パスが、スピードもはやく、早く蹴られていく。無駄な動きを排除してボールがゴールに
近づいていく。

普段の鹿島のボールまわしならば磐田は追いつけたかもしれない。しかし、このシンプル
な攻撃は確実に磐田DFに焦りを産んでいった。その焦りがミスに繋がったのか。

ビスやんが左サイドからアーリークロスを送込む。マジがファーサイドで田中と競合う。
田中はクリア。しかしボールは真横へ流れていく。このボールに反応したのはサイドを
埋めるべく前に出ていた阿部。阿部はペナルティエリアでボールをトラップするや、
まったくの躊躇なくシュート。ボールは大神の手に弾かれながら、ニァサイドに突き刺
さる。ゴォォォォォォォォォーーーール。新生鹿島を象徴するようなゴール。そして
この試合を象徴するようなゴールだった。

阿部には迷いが無く、ゴールが見えた瞬間シュートを選択した。シュートはほとんど
角度が無かったにも関らず、そしてGKが近づいているにも関らずニアへ蹴り込んだ。
センタリングや切り返しという選択肢を感じさせないスピード感。阿部にはなかった
ものだ。そして素早い判断こそ阿部に最も必要だったものだ。

試合はしかし磐田ペースになっていく。より磐田が攻撃的になっていく。反対に鹿島は
本山が消えていった。押込まれる展開になり、サイドにはる本山の良さはボールが出な
いために役立っていかなくなる。

磐田の攻撃。しかし細かいミス。鹿島のファール。磐田の連続攻撃。そしてPK。
マジがセットプレー中に相手の福西にラグビータックルをかましてしまった。気負いが
そのまま空転してしまったようだった。

もう一度一からやりなおしかと諦めた。チャンピオンシップ第一戦。あの反応できない
ような速いPKが頭をよぎった。高桑にもよぎっていた。

ビスやんは中山のシャツを直してあげ、ストッキングの乱れを指摘してあげる。そして
気合をいれてあげるためか、拍手して中山にエールを送っていた。

インファイトといえば、暴虐といえる行為、ゴールネットを直接揺らして邪魔をする。

そして中山のキック。

そして高桑はあの日とは逆に飛び、ボールを弾き返した。インファイトが揺らしている
ゴールネットはボールを入っていないのに更に大きく揺れた。鹿島サポーターの雄たけ
びがスタジアムに響き渡る。

終了直前にも中山のシュートを一対一になりながら、肩に当てて防ぐ。高桑はサポータ
ーの前で、復活もしくはブレイクをまざまざを見せ付けて帰っていく。血染のタオルを
持って。

ハーフタイム終了。後半が開始した。

磐田は一点を失っている事もあり、果敢に攻込んでくる。鹿島はだんだんと守備に追込
まれ守備では役に立たない本山は益々消えていく。形勢不利。しかし監督はゼマリオで
はなかった。すぐに本山は中田と交代。中田は左サイドのフリーマンとして、自由に
ボールを持ち、トレスボランチの一員として志指にも顔を出す。

名良橋が自身のタックルで打撲。急遽右サイドバックに奥野が行く。この交代、奥野の
プライドに火をつけたのか、奥野の尻に火をつけたのか、右サイドの守備はより一層
厳しくなった。この交代から試合の支配権は一気に鹿島へ傾く。

中田は自由がよく似合う。その恵まれたフィジカルを活かして懐の深いプレーをする。
相手がどんなに中田に近づいても中田は余裕を持って対応する。相手がすぐ近くにい
るのに気にしないで正確なロングパスを送出し、しっかりとボールをキープする。
和製ファルカン、守備をしない攻撃ボランチ。高校時代の呼名が蘇ってきたようだ。
U22代表でDFをやっていることで、守備をやろうと思えば出来るという自信が
そうさせたのかもしれない。

そしてこの日のクライマックス。その中田から痺れるような縦パスが出る。
田中が後ろ向きに必死にクリア。しかしボールはコントロールされずにこぼれる。
飛出す大神。ボールに走り込む柳沢。角度はない。柳沢はここで切り返してセンタリ
ングを狙う。

・・・・今日の柳沢はセンタリングをしない。

柳沢の蹴ったボールはサポーターの目の前をゆっくりとゆっくりと楕円軌道を描いて
進んでいく。そのボールがファーサイドのネットにかかるまでの時間は呼吸を忘れ、
瞬きを忘れた。そしてWCアジア最終予選。対韓国戦で山口が放った美しい軌道が
思い出された。

ボールが美しい軌道を描いてネットに当る。しかしネットに当る音も何も聞えない。
何もみえない。周囲は爆発した喜びで真赤に染まってしまっている。柳沢の復活、
シンプルで、しなやかで美しい軌道を持つシュートが帰ってきた。そこには散々
ポストとキーパーに当て続けた柳沢はいない。柳沢のシュートは誰にも邪魔されない。

磐田は気落ちすることなく攻めようとした。しかし再び小さなミスをおかした。
相手ボールを右サイドで奪い、中田、阿部、ビスと繋いでサイドを帰る。ビスのスル
ーパス。マジーニョはボールを呼込んでおいて反転。再び田中がつくが大神も動いて
いる。マジーニョ、もうそのラインしかないという、田中の隙と大神の手の先とポス
トの間をすり抜けるシュート。ボールは再びゆっくりとゴールへと進んでいく。
ゴーーーーーーール。3対0。賢い磐田のファンはまるでナイジェリア人のように歩き
出して帰っていく。磐田の選手は一層気落ちしただろう。もう磐田のDFラインは
ただの糸のようになってしまった。そこを超えれば点になる。

中田が自由自在に動いてDFラインを突破。ショボいシュートを打って柳沢に怒られ
るが、その失敗を返すように強烈なそれでいて余裕のあるヘディングを見舞う。大神
は三度ボールを行方を見守る事になった。

フィナーレは2度目のPK。中山が大きく吹かし、磐田サポの溜息を更に重くして終了
した。鹿島4−0。97年のナビスコ以来の大勝で磐田を下す。

試合の内容自体を取ってみれば、鹿島があざとく勝ったという感じで、けっして相手を
圧倒したわけではなかった。しかし、鹿島は執念深く激しく守備を行い、抜目無く素早
くシンプルな攻撃を見せた。天皇杯で優勝した時のベストの鹿島は汚さと同時にスピー
ドとシンプルな強さを持っていた。

鹿島の根本は、去年見せた堅い守備ではない。スピードと激しい攻撃にある。初年度に
ジーコが仕込んで他チームを圧倒した攻撃力。スピードと何点でも取りに行く精神。
鹿島に再びそのスピリットが仕込まれつつある。

磐田スタジアムには、ジーコのラストゲームのように「ジーコ」コールが響き渡って
いた。



Back