ANTLERS Diary Ant-mark



1999.05.22 1st.ステージ 第14節 


鹿島アントラーズ vs
       名古屋グランパス

     負けた事は悔しい
        でも堂々と頭を上げて





アントラーズとグランパス。まさか開幕前に8位と9位の対決になるとは誰も予想は
していなかったろう。グランパスの不調は田中監督がいる事もあり予想はしていた
が、ここまで酷くなるとは想像していなかった。

鹿島についてはまったく考えにも無かった。アジアと前期を優勝して後期はニュー
アントラーズのために増田や熊谷らと本山、小笠原らの中盤をじっくり創っていき、
1月の世界クラブ選手権を目指すプランだったんだけど。(当然天皇杯を取りチャン
ピオンシップは中止に追込む)

その不調の鹿島。アル・カシマの監督ゼはついに念願の3バックを実現。これで思い
残すことはないだろう。サウジアラビアオリンピック代表監督なんかどうだ?ジーコ
推薦してあげないのか?(アル・カシマとは中東系のチームが大抵アルではじまるの
で中東みたいなチームがつくりたいゼ指揮のアントラーズの事)

3バックは室井、奥野、秋田。中盤は中田、本田の帝京ボランチとビスやん、本山、
ウィングバックの相馬と名良橋。FWは柳沢のワントップである。いやほんとクウェ
ート監督なんかどうだ?

実際は3バックでのカシマの闘いは悪くはなかった。秋田、奥野、室井のディフェ
ンスラインは堅い守備を作り上げ、ロペス、福田のチャンスを何度も潰していた。
室井が再三FWに振切られそうになり手を使うシーンがあったが、それでも安心し
てみていられる3バックだった。

最初の19分の失点はあきらかに曾ヶ端のミス。飛出したら何があってもボールに
ふれなくてはならないのに、誰かに遠慮したのか、ボールを見送ってしまい折返し
を福田に押込まれてしまう。最後のVゴールは室井が振切られてフリーになったの
が原因だがあれはしょうがない。2点取られて負けたのではあるが、正確にいえば
2点めが取れないから、相手に点を取られて負けたというのが正しい。

今回の目玉の中盤とワントップ。ゼの采配はすでにまったく信じていないが、それ
でもカシマの選手のベースが高いのだろう。急造とはいえ素晴らしい攻撃を披露し
てくれた。

ワントップの柳沢。普段のようにサイドに逃れてもうひとりのFWにパスを出すと
言う仕事はない。ワントップになりスペースが増大したため、自由にウェーズをか
まし、次々とフリーランニングを見せていた。

またゼの指示だろうか? FWのポストに当ててというプレーは激減し、ビスやん
や中田から次々とDFを飛越えるパスが出て行く。そのボールを柳沢がオンサイド
の位置から急ターン、DFラインを突破して抜出すシーンがあった。かなりスキル
の低い線審が一人いたが、彼がいなければもっといいアタックも可能だったろう。

ポストは必要なくなり、サイドに逃げる事も出来ない。パスを出すFWもいない。
柳沢はもう点を取るしかない環境におかれた。ゼなりの親心なのか?柳沢はいつに
なくアグレッシブだった。しかし後ひとつ足りない。

柳沢は再三飛出してシュートを撃つ体制に入っていた。しかしGKとの接触を恐れ
たり、DFの足が出ている時にシュートを撃つ事をためらっていた。きれいにきれ
いに決めようとしすぎるのではないか?長谷川だったらGKをぶち飛ばしてもシュ
ートをしていただろう。相手の福田はDFの足ごとシュートする根性がある。

柳沢はイタリアでインザーギの動きに感銘を受けたといっていた。しかしインザー
ギはインザーギの動きだけで点を取っているわけではない。それよりも強い強い得
点感覚と得点を奪うという覚悟でFWを努めているのだ。柳沢にはそれが見たい。

しかし柳沢、チーム唯一の得点はやはり柳沢のセンスを表すもの。オフサイドライ
ンぎりぎりでセンタリングを胸でトラップ。ボールを浮かせつつ左足で逆サイドの
サイドネットに突き刺さるボレーシュート。ボディバランスとトラップの正確さ。
柳沢の技術は疑う必要はない。後は覚悟だけなのだ。

柳沢以上に今日の試合を見せたのはその中盤。相手の中盤にはピクシー、岡山、望月
という代表クラスの選手がいるが、まったく苦にする事も無く主導権を取り続けた。

本田、ビスやんという選手のコンスタントなプレー。それがチームを支え、中田、本
山らが攻撃を主導していった。そして守備から開放された名良橋と相馬は狂ったよう
に攻撃に参加していった。

中田。ボランチに入ると思ったいたが「後ろが三人になるので安心して上がれる」と
いうコメントを新聞紙上に発表。何度読返しても本山のコメントじゃない。いったい
中田は何をやろうとしているのか?と疑問に思っていたが、中田は有言実行の男だっ
た。

中田はバランス上は後ろに位置しているが、ボールを持つとスルスルとドリブルして
あがっていく。そしてその左足から芸術的なロングパス、スルーパスが何度とも無く
蹴りだされていく。通常カシマのパスの出所はビスやんだけと思っていた名古屋は
すっかり中田をフリーにしている。中田は左サイドから自由にゲームを作っていく。

ドリブルを始めれば、その身体の大きさと幅を使ってなかなか取られない。そして柳
沢や本山の位置を確認し、前にいればアウトサイドにかけたスルーパスを、逆サイド
にいればコントロールされてロングパスを送込む。そしてチャンスみればペナルティ
エリアに飛込んでくる。延長では中央かなりの距離をダッシュ、ゴール前相手DFを
躱しつつトラップ。GKを躱すシュートまで叩き込む。惜しくもポストに当ったが、
とてもボランチとは思えないプレーで観客を沸せてくれた。

そう中田は帝京のボランチだった。ボランチとは名ばかり。後ろのゲームメーカーと
して、後ろからゲームをつくるロングパスを繰出し、チャンスとみてはペナルティエ
リアに侵入し何度となくヘディングを叩き込んでいた。中田がもっとも得意とするス
タイルだったのだ。中田は水を得た魚のように自由にボールを持ってプレーしていた。

ボランチとしての完成度はまだまだで、守備では甘いところを見せていたが、左サイ
ドのDFを経験したことがよかったのか、相馬が上がって左サイドのスペースができ
るとしっかり戻ってラインの一部として守っていた。少しづつ成長している。

そして本山。今日はワントップで自分の前方には巨大なスペースが開いている。左サ
イドに張り付けば相馬が上がってフォローしてくれる。中田以上にいかせてくれる環
境にある。その特性を活かして本山、ドリブル、ドリブル、ドリブル、ドリブル。
もう本山何も考えていないかのごとくドリブルで攻めてくる。対面は石川や大岩らに
なるのだが、彼は本山がドリブルで来るとわかっていて止められない。一人めがかわ
され二人が躱されやっとボールとの間に身体を入れて止めるという感じ。

再三のアタック、後一人躱せればDFラインを突破できるというところで止められる
が、いつもは消える時間帯があるのが今日は常にフリーで動いてボールを受ける体制
を創っていた。今日の試合で失いかけた自信を取戻しつつあるのではないか。

これで左サイドを縦に突破していく等のオプションを増やす事、スピードがあるため
ボールから足が離れやすい一歩目を速くする事(本山はここで考えているように見え
てしまう)、そして横にドリブルで切れ込んでスピードに乗ったまま、柳沢へスルー
パスを出せるようになれば。本山のプレーの選択肢が増えれば増えるほど、本山のド
リブルが光る。特に精度の高いパスが速いスピードで出せればカシマの危険度は更に
増す。

そして両サイド。相馬と名良橋は前方に開いている巨大なスペースを利用してガンガン
上がってきた。前半は相馬、後半は名良橋がサイドを完全に制圧し、センタリングを上
げ続けた。あいかわらず正確性に欠けてはいるが、名良橋が見せた鬼気迫るオーバーラ
ップとセンタリングが失敗した後の自分自身に対しての怒りかたは尋常ではない。

相馬もサイドを駆け上がり、止められても止められてもこぼれ球の弾道までも計算して
いるのか、ぴったりと相馬の足に張り付いて相馬が抜出してくる。チームは勝てていな
いが、相変らず相馬やビスやん、柳沢らのプレーはリーグを代表するプレーだ。

それでも鹿島は勝てない。先取点を奪われ前半に追いつき、そして後半はほぼゲームを
支配していたが、それでも勝てない。ポストに当って弾かれたシュートは数えられない。
ここ数試合全てそうだが、いいプレーはするがそれが結果に結びつかない。アントラー
ズよりも上の順位にいるチームで復調しつつある鹿島以上のサッカーをしているチーム
は少ない。それでも鹿島は勝てない。

この試合だけ見れば、延長に入り確実に中田と本山の活動量が減ったにもかかわらず、
ゼが放置しすぎたためだ。本山に代えてFWか中田に代えて内藤を入れて組織力を保
っていれればもう少しチャンスがあったばすなのに。動かないとはいえ、なにも見て
いないのか?

鹿島アントラーズがVゴール負けした後、選手が観客席に挨拶にきた。もうここまで負
ければ、ブーイングして奮起をという感じではない。もう選手の士気に期待してがんば
ってもらうしかない。それに悪いサッカーをしているわけではない。ただ点を取るとい
う集中力が足りないだけなのだ。選手が次々とやってきて深々と頭を下げて帰っていく。

しかし最後の曾ヶ端と本山は、誰が見てもわかるくらい消沈して帰っていった。曾ヶ端
は鹿島三敗の法則があるのであれば、スタメンから外されてしまうだろう。本山は自身
に与えられたチャンスを活かせなかった事を悔いているに違いない。

それでも頭を垂れたまま帰る必要はない。負けた事に消沈する必要はない。負けた自分
にもっともっと怒ればいい。そしてその怒りをエネルギーに代えて次の試合を戦って
欲しい。自分に対するブーイングをしっかりと睨み付ければいい。自分に対して拍手や
声援を送る顔を一つ一つ見つめて欲しい。みんな期待して期待するしかない顔なのだ。
自分に対する期待の大きさをいつもいつも感じていて欲しい。本山、怒れ怒れ、名良橋
のように。不甲斐ない自分自身に怒って欲しい。








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