ANTLERS Diary Ant-mark



1999.05.05 1st.ステージ 第11節 


鹿島アントラーズ vs
       ジュビロ磐田

     そしてまた踏み止まり
        前進をはじめろ





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ゴールデンウィーク最後の日。鹿島は最強の敵・磐田とアウェーで対決する。
前節平塚に勝ち、やっと調子を取戻しつつあるが、相手は強い。しかし今
日の試合を負ける事は優勝が不可能になることと同じである。何がなんでも
勝つ必要がある。
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去年の5/5の日記の書出しだ。そういう昔の試合も思い出せることが、このHPを
作っている理由のひとつだが、一年後の同日再びジュビロと当るとは本当に因縁深い
ものを感じる。去年と同じなのは、ジョルジがいないこと、この試合を落せば確実に
優勝がなくなること。去年とは違うのは前節負けてトンネルの出口が無い事、そして
増田がいないこと、ナイジェリアで輝きを見せた本山、小笠原がいること。

日替り鹿島の今日のスタメンは、高桑、鬼木、秋田、奥野、相馬、本田、阿部、
ビスやん、小笠原、柳沢、平瀬。3バックにするという恐ろしい噂もあり、びびって
いたが、鬼木が右サイドに入った以外はスタンダードな4バック。

試合開始。試合は予想に反して攻める鹿島で始った。平瀬、柳沢が面白いようにサイド
に広がってボールをもらい、センタリングをあげていく。ジュビロは明らかに疲れて
いる。

なによりも鬼木が素晴らしい。ハーフライン付近の高い位置で待機していたかと思うと、
ボールを足元にもらいドリブルを開始する。スピードはない、増田のように華麗なテク
ニックがあるわけではない。しかし足からボールが離れない。猿が我子を懐に抱いて
木々の間を疾走するように、しっかりとボールを抱き相手の隙を伺い何度と無くチャン
スをつくる。ひさしぶりにみる鹿島の右サイド攻撃だ。

攻撃を量産させているのはもちろんFWと鬼木のためだけではない。ボランチの阿部、
本田、そしてビスやんらの献身的な動きによる守備や繋ぎのプレーがアタッカンテに
フリーなボールを供給している。

特にビスやんは攻撃の全局面に顔を出し、どんなに削られてもボールを放さない。守備
に戻ってはとても神様には見せられないプレーで相手を遅らせている。その隙にサイド
バックと両ボランチが近寄ってくる。一人のジュビロの選手に蟻が群がるように赤が取
り囲む。そしてゴツゴツと汚くボールを奪っていく。

とても去年の後期や一昨年のような洗練された守備には見れない。しかしこんな守備は
今年も見ていなかった。洗練されていなくったっていい。蟻のようでいいではないか。
いまや顔で選手を採用しているのかと思うほど、ジャニーズ系の多い鹿島。しかし初年
度などヤクザの組織かと思うような極悪な顔が揃っていた頃の鹿島は、ドロくさく、い
なかもので洗練されていなく、身体を投出してやっと防ぐような不格好。しかし、その
守備一回一回が見ているファンの心を捉えていったのだ。だからこそ鹿島アントラーズ
なのだ。

阿部も今日は生きている。普段は単に左サイドを窮屈にさせているだけだったが、ボラ
ンチに下がって、自分の役割が守備と相馬を活かす事、はやいパス出しにと限定される
と俄然動きがよくなる。その目からは危機感が感じられる。ふと時々見せる遠くを見て
呆けているような感じはない。個人的には今日帰るジーコに「今日しゃきんと出来なか
ったら、一緒にブラジルに連れて行くぞ!」と脅されたのではないかと思っていたが。

しかし鹿島は点が取れない。平瀬も柳沢もフリーでヘディング、シュートも撃ったのだ
が、ゴールには届かない。大神が当っている。確かに当っている。しかしそれ以上に鹿
島のシュートには勢いがない。まるでシュートを撃つ一瞬前まで逡巡しているかのよう
にシュートに力が無く、迷いがある。

前半22分。相手コーナーキックをクリア。ペナルティエリア外に位置していたビス
やんがクリアボールをトラップ。反転して小笠原へ。小笠原は相手に詰められる一瞬前、
鬼木へ。鬼木はドリブルで駆け上がる。FWはニアに柳沢、ファーに平瀬。磐田は完全
にラインを作り損ね、柳沢が完全なフリーの状態で待つ。鬼木は斜めのラインをつくる
相手の間にスルーパス。柳沢、完璧なトラップでゴールへむく。

去年の5/5、柳沢はマシーンのような正確さと冷徹な判断でハットトリックを達成
した。しかし今年の5/5、柳沢は相手GKの前で一瞬動きが停止。シュートはGKに
弾かれてもゴールへ向かったが戻ってきたDFにクリアされる。もし、ノートラップで
シュートを撃つか、GKを躱そうとドリブルシュートを狙えば相手DFよりも速くボー
ルは走ったに違いない。一瞬の判断。一瞬の迷い。柳沢はFWとしての大事な何かをここ
数試合失っている。自信と闘争本能。はやくアイオブザダイガーがみたい。

そんな無得点時間が続いても試合のペースは鹿島のまま。磐田は確かに強い。ボールを
奪ってからゴール前にまで展開されるスピードを見れば分かる。奥、名波、中山らが奏
でる危険なリズムが一気にゴールに襲い掛かる。しかし今日の磐田はそれだけだった。
普段ならば徹底的にゲームを支配するパスワーク、それでいて一人一人の激しいタック
ルとプレッシャーがあるはずなのに、今日は自分達のボールになるまでは寝ているよう
に動けない。

パスを鹿島に分断され、プレッシャーをかけにいっても個々の動きに終始し、チーム
として動けていない。もっと早く得点が奪えれば疲れも忘れただろう。しかし鹿島は
それを許さず、この時間完全にゲームを支配した。

ビスやんが獅子奮迅の働きでFWへボールを供給する。ビスやんは本当に倒れない。
どんなに相手に詰寄られてもハンドオフで近寄らせず、二人ぐらいの間ならば無理矢
理こじ開けている。そして相手との身体の向きに半身でもギャップができればそこから
正確なラストパスを展開していく。

その存在感はやはりチーム一。いないといるとではゲームの組立てかたが違う。彼の
ようなプレイヤーがもう一人鹿島で生れれば。去年ジョルジに感じたような焦燥感が
生れる。彼が凄ければ凄いほど、頼りすぎるチームに感じる焦り。

ゲームは鹿島ペースのまま前半も残り10分を切る。鹿島のコーナーキック。GKと奥
野が激しく交錯。こぼれ球は柳沢のもとへ。柳沢反転してシュート、しかし大神ここ
でも身体を投出して防ぐ。そのこぼれ球もビスやん、平瀬が押込もうとするが惜しく
もクリア。

ボールはハーフライン付近で鹿島がキープ。しかし相手ゴール前でGKと交錯した奥
野が倒れている。一度出すかと思うと、ライン際で小笠原がボールを要求。出すよう
に見えてスイスイと上がってくる。そのボールをビスやんへ。奥野痛みながらも慌て
て立つ。ビスやん一度中央の阿部へ返す。

阿部、まったくのフリー。視界も身体もフリーな状態であれば阿部は魔法のようなパス
を出す。とその瞬間。一番外からラインの内側へ回り込んだ小笠原は、DFとDFの間
にスペースを発見。スタート。阿部それを確認した瞬間、誰も触れないようなループの
パスを出す。小笠原は誰も追いつけないように、それでいて流れるように落着いて走り
込み、ヘッドで押込み。ゴォォォォォォォォォーーーーール。鹿島1−0。

小笠原のゴールで鹿島は先制した。小笠原、喜びもせず淡々とハーフラインに戻ってく
る。凄い奴だ。ニュースステーションで落着いてインタビューに答えていたが、むしろ
無感情で答えていたという感じ。かと思えばカメルーン戦の国歌斉唱でニタニタ笑って
いるし。いや本当に謎な奴だ。

後半開始。前半シュート数7対1と圧倒していたが後半になってもかわらない。鹿島が
いきなりシュートを3発狙う。ここで追加点が取れれば去年の余裕を持った守備が復活
するはずなのだが。国立をひさしぶりに満員に埋めた鹿島サポ(そしてジュビギャル)
は大声援と大歓声、そして大きな悲鳴でゲームをヒートアップさせていく。鹿島が
ホームを離れて以来、ひさしく味わっていなかった感覚だ。

攻めぎあうお互い。しかしここから小笠原が輝き出す。消える前のろうそくのように。
ビスやんのドリブルが中盤で止められてフリーキック。蹴ったボールはカーブがかかり、
ゴールラインと平行に外へ向かって出て行く。ジュビロの選手がクリアに走る。その前
に小笠原が立ふさがる。

小笠原ゴールライン脇でボールをキープ。後ろから名波がやってくる。名波が後ろから
奪おうとプレッシャーをかけてくる。小笠原はボールを他人に繋げない。しかしプレッ
シャーに負ける事無く、身体を使って相手から一番遠い位置にボールをキープ。段々と
コーナーフラッグに近づく。1・・2・・3、小笠原は蹴れない。4・・5・・6、ざわ
めきだす観客席。小笠原は蹴れないのではなく、蹴らないのだ。後半まだ10分すぎだと
いうのに、相手を嘲笑うかのようにボールキープをはじめたのだ。なんという男!

ジュビロはたまらずもう一人が奪いにきた。しかし小笠原たった一人で身体を張ってキ
ープする。9・・10・・11、12、13・・。やっと奪ったジュビロしかしボール
は足に当ってコーナーキックに。たった20歳の小笠原はたった一人でジュビロをもてあ
そんだのだ。こんな時間にあんなことをするよりも名波の足に当ててコーナーをとれば
いいのだ。しかし小笠原はやった。相手からもニラまれるだろうし(事実このあとタッ
クルで負傷退場)、こんな時間にボールキープを始めても意味はない。

しかし、彼はみつお。ニュースステーションで中田が大汗かいていた時、一人でにやけて
いた男。インタビューが真面目でよいと代表サポからは好評だが、なんか一人でウケてい
て心では笑っていそうな目の男。大観衆に動じたり興奮したりするのではなく、なんか
やってやろうと思う男なのだ。恐るべしミツオ。

小笠原はこの後も攻守に活躍。いや活躍というだけではない。ふてぶてしくも活躍する
という感じか。中盤の選手がカウンターに、戻っての守備に活躍すれば、ペースは自然
と鹿島のものに。ビスやんが引いてボールを持つ。福西が川口に代ったこともあり、小
笠原がフリーになる。その小笠原の足元へボールが渡れば、相手はファールで止めるし
かない。とめなければしっかりとキープされ、鬼木、相馬がどんどんあがってくる。

試合はこのままかと思われた。鹿島ひさしぶり、そして大きな勝利に。30分相馬が完璧
に抜出しシュートを撃つ。この時間帯、完璧に鹿島はゲームを支配した。これほどまで
にジュビロを圧倒し、これほどまでに美しい攻撃を連続して見せたのはいつ以来か。
相手が疲れているとはいえジュビロ。鹿島は大きな自信を手にするはずだった。

鹿島は平瀬に代えて本山を投入。本山はあいかわらず足元にパスを入れてしまうが、
ドリブルがはじまれば、ジュビロの選手には止められない。そして、小笠原から本山へ。
鹿島の未来を感じさせるパスもあった。あとたった6分だった。

ゴール前で本田痛恨のファール。前で止める事が出来なくなっていたために危険なゾーン
でのファールになってしまったのか。結果論からいえば鹿島は自身の力の凄さに驚いて
しまい好き勝手にやりすぎた。自分達の力を知りつくしリアリズムに徹した去年ならば
こんなに攻めなかっただろう。結果論なのだが。いやそういうサッカーが見たかったのだ。
これでいいんだろう。

名波、見事な見事なフリーキックを決め同点に追いつく。さっさと欧州いって下さい。

後、ビデオを見直しながら書いているのだが、あれだけは本当にムカつく。ジュビギャル
の歓声じゃない。名波や藤田の喜びかたじゃない。桑原元監督代行、あの好々爺とした
じしいの喜び顔だけが許せない。あの顔見ると本当に悔しい。去年はなんと幸せだった
ことか。頼む、あの笑顔だけはもう見せないでくれ。

残り時間必死に鹿島は攻める。鹿島の選手がセンタリングの時に相手ゴールエリアに4人
も入るのはいつ以来か。それだけ鹿島の攻撃は分厚く素晴らしいものだった。ひさびさに
身体を熱くさせる。鹿島らしい魂を感じさせる猛攻だ。しかし勢いの復活したジュビロも
ゴールを割らせない。試合は延長に入り、鹿島の優勝の可能性はほぼ消えた。

それだけではない。小笠原が相手の当たりで靭帯を傷めてしまい負傷退場。全治三週間。
小笠原を負傷させたのは、さきほど小笠原を囲んでボールを取れなかった名波ともう一人
の男。工藤。もてあそんだ代償なのか。そうでないのか。去年柳沢のアジア大会を潰し、
今年小笠原と鹿島のファーストステージを奪った。

延長に入っても鹿島の猛攻は続く。この時間帯になっても鬼木や相馬は上がりまくる。
次から次へと決定的なシーンを創り続ける。大神さえいなければこの試合はもっと早く
終っていただろう。今日の大神は凄すぎた。鹿島の攻撃陣はまったく悪くない。相手が
凄すぎた。こんなに凄い男なのになんであんなにキックが下手なのだろう。

磐田も戻れなくなった鹿島の隙をついてカウンターをしかける。自分達のボールになれば
磐田は強い。お互いの中盤にもう守る力は残っていない。まるでバスケの試合を見ている
ように互いのゴール前に一瞬でボールが運ばれ、決定的なシュートが続く。

本山が走り、ビスやんが決定的なパスを出す。鬼木は走り回る。秋田は中山を削り弾き飛
ばし、高桑は必死に飛出す。この試合が全世界に放送されればJリーグのファンは確実に
増えるだろう。下手とかうまいとかいうことは関係ない。赤と青が身体を削りあって火花
が飛散るようなプレーをしているのだ。

私は延長前半の終了後、脇にいる友達の肩を叩きながら「こんなにドキドキした試合なん
かしないでいいから勝ってくれよーー。いや、駄目なんだな。駄目だよな。こういう試合
が見たくて、ドキドキしたくて応援しているんだからな。今までのボロボロな試合に比べ
れば、こんな試合をみれて幸せなんだよな。フーーー」

心臓の激しい鼓動がおさまらないまま後半に突入し、そしてそれは後半6分に終った。

ジュビロvsアントラーズ。2−1。ジュビロVゴール。

鹿島は再び負けた。この試合を戦った事で失ったものもある。選手の疲労は極に達した
だろう。我々は小笠原も失った。それでもこの試合を戦った事で鹿島は踏み止まった。
自信を失いかけ、単なるJチームに落ちかけた鹿島。しかしこの試合でのプレーが
再び発揮されれば勝てる。美しく熱い鹿島のサッカーを取戻す事もできるばすだ。

勝てなかったとはいえ、小笠原、鬼木、本山、ビスやん、柳沢らの攻撃陣の輝きを私は
忘れない。きっともう一度、そしてもっと大きく本物の輝きを見せてくれると信じて
スタジアムに行ける。



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