ANTLERS Diary Ant-mark



1999.04.18 ACWC 3位決定戦 


鹿島アントラーズ vs
       アル・タラバ


     剛・速・厳





一敗地にまみれた鹿島、ゼはどんな布陣で来るのかと思っていた。なにか新しい事をやる
のではないかと期待していた。新しいといえば新しいがゼらしいリアリズムに満ちた布陣
だった。

GK高桑、DF中村/秋田/室井/相馬、MF内藤/鬼木/阿部/マジ、FW柳沢/平瀬

主力の名良橋、奥野、本田は休ませ、それでいて柳沢、秋田の両エースと軸の相馬は使う。
勝利を目指してギリギリのラインで望んできた。相変らず冒険をしない男だ。

試合開始。中盤の非力さは被いがたく鹿島がゲームを支配してというわけにはいかなかっ
たが、審判が東南アジアセットという事もあり、この前ほど押込まれない。また阿部、鬼
木、内藤が出来るだけコンパクトに中盤を保とうと近づいている。それでいてディフェン
スラインには戻らないようにしていたので、この試合では中盤からのロングシュートとい
うシーンは少なかった。

戻らないボランチの代りなのか、FWをずっとマークするように指示があったか、ゼのイ
ンタビューがなければ分からないが、この試合では相馬が中央で守備をして、サイドに開
いたDFを室井がマークするシーンが前半しばしば目に付いた。背が無いだけに相馬のリ
ベロはかなり危険だったが、よく頑張ったと思う。

室井もラインをコントロールし出来るだけ高い位置に保とうと努力していた。そしてゼか
らは好きにやってよいというお許しをもらっているか、室井と秋田がオーバーラップする
シーンがしばしば目に付いた。これはこれで面白いがいかにも即興すぎた。弱小相手で
練習して欲しい。

しかしこの試合、前半の話題をさらったのはなんといっても中村。

あれほど中村を右サイドで使ってはいけないと言っているのにナビスコカップを見ていな
いゼはそれがわからない。前回は「ボールがこないようにわざと相手に近づいた」と言っ
ていた中村、この試合はややマシだったが、やはりポジショニングが良く分かっていない
ようで、秋田に怒られ観客に野次られスゴスゴと移動していく。

そんな中村だが一度ボールを持つと人格が入れ替るようで、超高速超剛健なドリブルを開
始する。相手がプレッシャーをかけにきているにも関らずブッチギッて抜出していく。左
サイドバックが本職なだけにセンタリングには期待できなかったが、そのドリブルは観客
を魅了せずにはいられない。

ところがボールがなくなると、へんなところで真ん中にプレッシャーを掛けにいって、自
分のサイドを衝かれてしまう。観客にまた怒られて後ろから追抜いて渾身のタックル、奪
ってまたドリブル開始という事をやったり、前が塞がれてドリブルが出来ないと、突然腰
がひけたような姿勢になって、なんじゃそりゃというようなミスパスをする。でもドリブ
ルするとブッチぎる。

正直、岡野ファンの気持ちが良く分かる。セールスポイントが単純で、弱点が多いのがま
たカワイイのだ。そしてそのドリブルはかなり魅力的なのだ。相馬が海外にいってしまう
と彼が左を担当することになるのだろう。恐くもあり楽しくもあり。

試合は双方潰し合いで終始する。鹿島も昨日のようにラインが低くなくスペースもない
ため、相手を速い段階で潰せる。しかしタラバも中東らしい深いタックルと献身的な動き
で鹿島の攻撃を潰す。鹿島の攻撃は阿部、鬼木らに展開力が無いため、やはり狭いスペー
スに終始する。狭いスペースでも正確で速いパスワークならば突破していけるだろうが、
雨と不慣れなフォーメーションを考えると難しい。結局、マジや柳沢のドリブルで局面を
打開して、一旦戻してセンタリングという展開が多くなるが、崩しきれていないだけに
得点には結びつかない。

しかし前半も終ろうとした43分。右のファールで中村のFK。鋭いセンタリングが飛ぶ。
それを平瀬が押込む。鹿島、待望の先制点。ここ三試合で取ったのがセットプレーだけと
いうのが頭が痛いが、なにはともあれ、勝利に近づく先取点だった。

後半開始。ゼはまったく動かない。ばかりかサブメンバーはまったくアップしていない。
恐らく追加点が入ってゲームが決まれば相馬を降ろして、中村を左に。右に松島竜太を試
してみるというところで、それ以外は動きそうに無い。

後半に入る少しづつ鹿島のペースになってくる。中盤でボールを奪うとFWにスペースが
与えられだした。柳沢が大きく広がりサイドを破れば、マジは中央からドリブル突破で
相手ゴールまで侵入してくる。

雨が効いているのか、土曜日に観光しすぎたのか。(そうだ3チームにディズニーランド
直行をサービスしてあげれば良かったのに。韓国にだってないんだから)

鹿島の選手が一昨日と一番違うのはプレーをする厳しさと強さだろう。”あの”柳沢が
汚いプレーをするDFに対してヒジを入れる報復行為でイエローをもらい、ゴール前で
ファールを犯し、プレーを遅くするため自分でボールを隠す相手を蹴り飛ばしてボール
を奪い取ろうとする。柳沢の退場が見れるかと開場は色めきたった。

また中盤の阿部や鬼木は五分五分のフリーのボールだけでなく、明らかに追いつかない
という相手のボールにも積極的にチャレンジし、相手を転ばしてもボールを奪おうとし
ていた。

こういうプレーは汚いプレーだと言われるだろう。フェアプレー賞常連の日本としては
教育上好ましくないプレーだと言われるだろう。(鹿島を汚いプレーばかりするチーム
でそんなチームを勝たせているわけにはいかないと言った敵監督はクビになったが)

鹿島に充分な実力があればそれも必要ないだろう。しかし自分達実力が足りないのなら
ば、自分達の持てる限りの力を出してプレーすべきだ。そして持てる限りという言葉に
はファールなプレーだって含まれてもいい。それだけに頼っていては強く離れない。が
勝たなくては強くなれない事があるはずだ。

秋田のプレーは時々汚いというかファールなプレーをする。相手を吹飛ばすようなスラ
イディングで自分の闘志を見せているのだ。そのプレーが沈滞しかかる味方を鼓舞し、
サポーターを高揚させるのだ。闘う姿勢とはファールをすることではない。が、ファー
ルを恐れずに立ち向っていく事こそ闘う姿勢なのだ。

恐らく金曜の晩、土曜の練習で、ジーコはそう語った事だろう。

鹿島は何度と無く攻込むが決定的な形が創れない。それでも90分、平瀬を見れたのは
嬉しかった。平瀬はトラップは真中並みだが、スピードがあり、それを自分で使い切れ
ている。もっとポストプレーが出来てくれば、まわりのフォローも得やすくなり、自身
の得意なスピードにのった流し込むようなシュートも出せるだろう。

1−0。鹿島は勝った。ちょっとだけの新鮮味と闘う心を見せて今日は勝った。


今日の鹿島を見て、今日のナイジェリアを見ると、鹿島の将来が見えてくる。柳沢と平瀬
の超高速なツートップ。増田、本山らの斬れのあるドリブラー、中田、小笠原、熊谷らの
万能でテクニカルなゲームメイク。中村のアニマルなドリブル。野沢だっている。室井、
阿部ももっともっと自分の特性を磨いていけるだろう。鹿島の将来はあんな惨敗の後だと
しても、サブのメンバーを見れば明るい。

問題はあんな敗戦の後の評価が切り替るチャンスにどのくらいサブ組が頑張れるかだ。
ナイジェリアから帰ってきた彼らがどのくらい飢えて帰ってくるのか、そしてレギュラ
ー組がどのくらい危機感を持って自己鍛練に励み、フロントはそのレギュラー組をどの
くらい高値で売飛ばせるのか、ゼらの首脳はどのくらいのレベルを目指して鹿島を立直
せるのかにかかっている。

今日や明日の勝利ではなく、4月16日の敗戦をいつまで記憶に留めていられるかで
鹿島の強さが決まるのだ。

最後に屋根席で応援していただけに大きな事は言えないし、よく分からないのだが、
旗が一本しかなく、女性の姿がやけに目に付いた今日のサポシー。インファイトは
謹慎したのかボイコットしたのか。鹿島の試合を見にくるのが楽しくはないのだろ
うか? どんな酷い試合だって10年立てばいい思い出だろうに。

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