ANTLERS Diary Ant-mark



1999.04.16 ACWC 準決勝 


鹿島アントラーズ vs
       全南ドラゴンズ


いつの日か、あの時の負けが財産になったと





ついに準決勝がやってきた。鹿島は勝利のために私の旅行プランを潰して、日本開催を
招致し、相手チームを招待し、サポーターには割引きチケット販売までして、この日を
迎えた。

金曜の夜・国立には、鹿島の勝利を願う人達だけが集っていた。

鹿島に死角があるとすれば、ビスやんの欠場、名良橋の負傷、そしてサブメンバーが
ユースで抜けていることだった。今日の鹿島は、内藤を右サイドバックに、リカルド、
本田がボランチ、阿部がゲームメイカーとして左サイドハーフに位置している。

キックオフ。相手の全南は黄色のユニフォーム。レイソル戦が一日早まったような感じ
だ。

試合は静かな滑り出しでお互いに慎重にいくのか、と思っていたが、鹿島がいきなり先
制点を取ってしまった。右コーナーキックを阿部が蹴り込み、それに秋田が飛込む。相
手のブロックを粉砕してボールはゴールに飛込む。ゴーーーーール。鹿島先制。

開始6分。こんな早い先制に相手はレイソルではなく、ジェフだったのかと思ってしまっ
た。が、相手はレイソルでもなく、ジェフでもなく、韓国のチームだった。

鹿島はここでいつものように手抜モードに移行。中盤が限りなく薄くなり、最終ライン
でのきっちりとした守備と、FWへの一気のカウンター、相手に攻めさせて、攻めさせ
れば攻めるほどカウンターの切味が増すいつものスタイルだった。

鹿島の敗戦はここから始った。

今日はロングパスを出せるビスやんがいない。溜めをつくるプレーヤーがいない。そし
て全南はJではめったに見れないような激しく強引な守備をする。カウンターを狙って
も前線でFWは潰されまくる。中盤がいないため、FWがボールをキープできないと
すぐに相手に拾われ、空いた中盤を自在に使って攻めてくる。

いつものJリーグならば、FWが潰された時点で笛がなり、鹿島は相手ゴール近くにポ
イントがつくれる。そこからまた攻撃を組立て、守備を立直せる。しかし今日の審判は
国際審判、しかもイランだ。日本の審判とは違い、ほとんどのチャージを流していた。
目の前のトリッピング(ひっかけ)以外はほとんど流していく。

荒く力任せな韓国のスタイルはこれに合い、Jですぐファールを取ってくれる事に慣れ
ていた鹿島のサッカーは合わない。恐らく国際標準ではもう少しファールを取っただろ
う。Jでは鹿島はファールをきちんともらって韓国はイエローの嵐だったろう、しかし
ここはアジアなのだ。アジアのフィールドなのだ。

名良橋のような深いタックルもほとんどファールにならない。相手のファールを期待し
て倒れても駄目なのだ。パススピードを上げて相手を躱すサッカーをするのか、どんな
止めかたをされても吹っ飛ばして突進むサッカーをするのか、鹿島はアジアの闘い方に
なっていなかった。(主審がイラン人になった時点で予想すべきだった。口だけ川渕が
AFC理事にきちんとなっていれば、マレーシアなり、もっとやさしい審判も選べたろ
うに)

相手の怒涛の攻撃の前に鹿島のラインは下がりまくる。特に本田とリカルドが下がって
しまうため、6バックのような形で守るのが精一杯。普段本田がディフェンスラインに
はいるのは、両サイドの上りを有効にするために3バックに移行するためだ。そうして
ジョルジが前方で網を張り、両サイドに長いパスを出すというのがスタイルだった。

Jならば下がって守っても充分だったろう。しかしロングパスが得意な韓国相手では
6バックは陣形を整える暇はない。押込まれ、押込まれ、ついにゴール前でのこぼれ球
をヘディングで決められる(スタジアムではオウンゴールだと思っていた)。1−1。

試合は後半に。相手は例えば相馬がボールを持つと3人がかりで一斉にサイドのスペー
スを潰しに来る。後半は絶対にバテルと思っていた。最後の10分で勝負を決めさえす
ればいい、そう思っていた。

しかし、それを嘲笑うかのように全南の追加点が入る。完全に空いた中盤からミドルシ
ュート。高桑弾き返すもののこぼれ球を詰められてゴールを割られる。1−2。

鹿島はここで名良橋を投入。リカルドを下ろし内藤をボランチへ。名良橋は最後まで
相手を破壊してでもボールを奪い、センタリングをあげる気を見せていたが、なんせ
負傷上りで片足を引きずっていた。更にこの試合で悪化させてしまったようだった。

鹿島はもう攻めなくてはならないのに、攻める形が創れない。リカルドの軽すぎる守
備とあいまいなポジショニングのせいもあるだろうが、なによりもゲームをつくる役
割を任せられた阿部の責任だろう。

もっとも象徴的だったのは、相馬がボールをもらい一気に駆け上がろうかとするシーン。
ビスやんならば真ん中へ入り、相手を相馬から引き剥がし中央でボールを受けようとす
るか、出来るだ高い位置でフォローしようと縦に走るだろう。

しかし阿部は相馬の後ろで相馬の上がったスペースを埋めているだけ。フォローのない
相馬はバックパスかアーリークロスだけ。相馬のアーリークロスのボールスピードは段
々と上がっていて期待させるものがあるが、それだけの単純攻撃では破れない。

阿部は自分をボランチだと誤解しているのか、ゲームメイカーならば自分でボールを配
球し、指示し、マークを集められても破ってパスを出すしかない。しかし阿部は左サイ
ドに固定し、出すパスはショートパスばかり、まわりに指示しているようにも感じられ
ない。視野が狭いのか、単機能しかないのか、今季の始めのアグレッシブなプレーに成
長を感じたのだが、この試合はまったくいい所無し。来年残っているのか真剣に心配す
る。

しかし悪いのは阿部ばかりではない、柳沢はいつものスピードだけの勝負で負け続けて
も勝負を挑みすぎた。馬鹿正直に。相手のいやがるところを突く事が出来なかった。そ
れ以上に馬鹿正直に勝負しすぎて、首と足を傷めたようだった。この後、長谷川に代え
平瀬を、阿部に代え鬼木を投入した鹿島は柳沢がどんな状態だろうと代える事が出来な
かった。柳沢がアジアのエースになるためには、世界に通用する技術も大切だが、アジ
アを戦い抜ける強さが必要だと痛感した。

しかし、この試合では個々人のパフォーマンスも悪かったが、それよりも責められるの
は、やはりゼの怠慢だろう。Jレベルではマジを下げ薄い中盤でも勝てることから、無
理をせずセーフティファーストで闘ってきた。組織よりも個人、システムよりも一瞬の
集中力で勝ってきただけだった。

だから自分達の力が出せない相手と当ると、どうしようもなくなる。マジはますます前
線へ張り付き、中がないため、サイドからは単純なセンタリング。こぼれても誰も拾え
ず、相手の攻撃へ。そして中盤での詰めがないため、フリーでミドルシュートを放たれ
てしまう。Jならば威力がなく不正確だから打たしても良かっただろう。しかし韓国に
は打たしてはまずかったようだ。結局まったく同じようなロングシュートで2点も失っ
てしまう。1−4。鹿島の惨敗である。

ゼは今勝つことに力を注ぎ込みすぎたのだろう。そうでなくてはならないが、それだけ
だけでは駄目だった。「ここをどう乗り切るかで鹿島の真価が問われる」と自分でも
理解しているようだ。もう一度中盤を構築しなおし、強く強固な中盤を作る必要がある。

日本のサッカーはフィジカルではどこにも勝てない。技術では先進国に勝てない。日本
が勝つには、狂ったようなスピードでサッカーをし続ける事、ショートパスだけで相手
を崩せるようスペースを小さく保つ事、組織的な守備をすること。それしかない。相手
が付いてこれないレベルまでプレーのスピードを上げ、正確なショートパスで闘ってい
くしかないのだ。

だからこそゼはJで勝てるレベルではなく、世界に通用するレベルを常に目指すべきだ。
今の勝利を優先するあまりの2−1とか、1−0ではなく、弱小は90分全力で粉砕し、
ジュビロやエスパルスにも攻撃的に闘って勝つくらいのレベルが必要なのだ。

そのためにも、攻撃的で組織力のある中盤が必要なのだ。全員がサボらず走り、FWの
ように飛出し、DFのように守備が出来る中盤が必要なのだ。

試合中、何度「増田がいれば、熊谷がいれば、ジョルジがいれば」と思ってしまった事か。
そう思ってしまう事が何よりも悔しい。


「鹿島赤っ恥」翌日のニッカンスポーツの見出しだった。大言壮語してこの結果、赤字
を出してまで招致してこの結果だから、そう言われてもいいだろう。しかし本当に大切
なのはこの敗戦からなのだ。敗戦に懲りて大言壮語をなくせば夢を無くしてしまう。何
度失敗しても恥をかいても決して夢と努力をなくさない、その姿勢を持ち続けなくては
ならない。ここで止めれば本当に「赤っ恥」だろう。

しかし、来年のACC決勝大会で同じ事を実現し、そして勝つことが出来たならば、そ
れは「試練だった」と呼ぶことが出来る。そしてそうなる事を信じている。

鹿島アントラーズは97年チャンピオンシップにてジュビロ磐田に敗退。リーグ優勝を
逃す。しかし翌年執念で雪辱を果し、98年リーグチャンピオンとなる。

鹿島アントラーズは98年ACWCにて全南に敗退。アジア制覇を逃す。しかし・・。











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