ANTLERS Diary Ant-mark



1997.12.13 チャンピオンシップ 2nd LEG.


鹿島アントラーズ vs
        ジュビロ磐田

2nd Leg : 屈辱
      (The last insult)



		1997年12月13日21:00 JST。鹿島アントラーズは1−0で試合を落し、今年度のチャンピ
		オンの称号をジュビロ磐田に奪われた。苦しみぬいた敗戦であり、苦い敗戦後だった。

		前半は全て鹿島の思惑通り。ジュビロ磐田は相変らずのカウンター狙い、鹿島の攻撃を
		激しいプレッシャーで潰す作戦を取ってきた。対する鹿島は前の試合の教訓を活かして
		慎重に試合を進める。中山をジョルジ、本田、秋田のトライアングルで押えつつ、カウ
		ンターパスをカットする。

		開始10分を過ぎて失点をしなかったため、鹿島の攻勢が開始される。しかし、磐田の
		守備は激しい。鹿島の前線は分厚い壁にしっかりマークされ消えてしまう。鹿島の選手は
		前を向いてプレーが出来ない。足元へのパスは通っても、その瞬間に磐田のプレスに
		合い、次の展開が遅い。鹿島のいい時のリズムである、次から次へ湧いて出てくるように
		上がってくるスピードと重厚さを持った攻撃が発揮できない。

		それでも鹿島の思惑どおりの展開といえた。磐田は鹿島を止めるためにファールを繰返した。
		この日の主審のレスリーモットラムは、そうしてプレーを止める磐田を許さない。次々と
		イエローが出されていく。鹿島の選手はオーバーアクションやわざと突っ込んでいく事で
		より相手がファールしやすい環境を作っていった。レスリーの基準はほぼ確かで、その
		プレーが意図のあるファールかどうかで躊躇なくカードを出していく。
	
		日本の審判との違いは「公平」な事だ。日本の審判は、見えない基準に対して「公平」を守る
		という原点を見失い易い。しばしば「相手に3枚出したのだから、もう一方にも出すべき
		では」と考えて、つまらないファールでイエローを出してしまう。「公平」と「平等」を
		履違えているのだ。その基準のブレ、情実なあいまいさが、より選手の怒りを買っているのだ。
		
		前半残りわずかになって、古賀が長谷川に肘打ちをしてしまった、正確にはしてしまった
		ように見えたため、レスリーは一発退場を宣告する。長谷川の行為はかなり演技が入って
		いたが、レスリーにレッドを出させたのは、磐田の反則で止めるというプレーが積重なって
		いたせいでもある。

		磐田は藤田をサイドバックに下げて対応する。中盤が薄くなった磐田を鹿島の攻撃陣が攻める。
		しかし、効果的な攻撃が出来ず、そのまま前半終了。前半を0点で逃げてしまった磐田は
		後半はより守備的にならざる得ない。もし鹿島が勝っていたら、マジはこう言ったかも
		しれない。「ゲームを静めるために、点を取るのを遅らせたんだ。」一点を取れば勝てる
		試合。点を取るのは、それほど急がなくていい、そう思っていた。(実際はガンガン取りに
		来ていた。このへんがイタリアとの差か。若さなのか。)

		後半開始、鹿島の猛攻が始った・・・と書きたいところだが、何か違う。ボールキープ率
		68%が示すように鹿島はほとんどボールを持っていた。しかし鹿島の選手がフリーで
		ボールを持つシーンは終ぞなかった。一人退場になったこともあり、更に守備を固めた
		磐田を、鹿島はこじ開ける事は出来ない。

		今日の鹿島で目立ったのは名良橋くらいか、高速オーバーラップを繰返し、鋭いシュートや
		逆サイドへの展開と、懸命に動いていた。しかし、彼の前にはつねに水色の壁があり、彼の
		ターゲットには常に水色のマークが張り付いている。

		逆サイドの相馬も何度も上り、ゴール前で何度もセンタリングを上げた。しかし、代表の時と
		は、彼が受けるパスが違う。彼が最高のパフォーマンスを見せた韓国、カザフスタン戦では、
		左サイドハーフだった名波が、前方のスペースへ絶妙なタイミングでパスを出した。それを
		全速力でスペースへ走った相馬が受け、ラストパスを出す。その瞬間の相馬は完全に相手を
		振切り、ゴール前のDFも相馬のオーバーラップに、ゴールを向いて対処しなければならない。

		しかし、鹿島での相馬は足元へのパスしか来ない。本田から相馬の足元へ、相馬が運び、
		ビスやんへ。ビスやんから中央のマジへ。マジが一度切り返し、上がりきった左サイドの相馬へ
		絶好のパス。相馬はこの瞬間フリーでセンタリングを上げられる。このスペースだけならば、
		代表の時と変わらないが、ゴール前には既に相手DFが充満している。相馬がもっとセンタ
		リングが上手かったとしても、アジウソンを初めとする壁を突抜ける事は出来ない。

		相馬のいいところは、スペースへの飛出しと、斬れる事のないスタミナだ。それを鹿島では
		活かせていないから、「相馬は青いユニの時だけ活躍する」と言われてしまう。

		それでも、鹿島は両サイドを徹底的に使うべきだった。相手の右サイドバックは藤田。当然
		服部などもカバーしなくてはいけないし、DFもカバーするためにバランスが悪くなる。
		そのため、左で攻めて、右に展開して攻める。これを繰返せばいつかこじ開けられたと思う。

		しかし、鹿島は焦りか、自分が決めてやるという自負からか、ジョルジ、ビスやんから積極的に
		ロングボールが飛び、ボールは中へ中へと集っていく。彼らのボールは正確にFWを捉えるが
		ゴールへは結びつかない。この日の長谷川は存在感がない。やはり長谷川にはスペースが必要
		なのか。マジは何度も決定的なシーンをつくるが、後一歩遅くシュートを撃てずにパスを出すと
		いうシーンが目に付いた。それだけ磐田の守備が厚かったのだと思う。全体的に今日の鹿島は
		流れるようなパスワークがなく、ボールを受けては次の相手を探すというシーンばかりだった。

		後半10分すぎ。ジョアンカルロスは、この状態を打破するために長谷川にかわり柳沢を投入した。
		これほど速い柳沢の投入は無かった。ここで点を取れれば柳沢はまさにエースとなれるだろう。
		しかし、磐田の反応も速い。負傷を抱える名波を降ろして、スピードのある鈴木を投入してきた。
		柳沢をマークするために、攻撃のオプションを降ろして、攻撃を完全に中山に任せてしまった。
		この采配に柳沢は押え込まれてしまった。5バックに近い守備に、柳沢のフリーランニングは
		徹底的に押えられてしまう。

		ここまで徹底的に守られると磐田を褒めるしかない。鹿島の攻撃は、時間と共に鋭さを増して
		いるはずだが、ジュビロゴールを割れない。ゴールキーパーの大神もキックは、怪我でもして
		いるのか、本当に洋平よりも下手だが、シュートへの反応は中々いい。ゴール前センタリング
		に後一歩というシーンが続出したが、飛出した大神に押えられてしまう。

		後半23分、鹿島はついに最後のカードを切ってきた。増田に変えて真中。場内は恐ろしい
		ばかりの真中コールが怒る。前期の磐田戦、途中交代からわずか数分で一点をゲットして
		連勝の磐田を撃沈した。あの光景をもう一度見れると信じて。
		しかし、真中は目立たない。磐田の引いた守備が真中へ攻撃のためのスペースを空けない。
		また、トラップが荒い真中では、密着マークされてしまうとボールを奪われてしまう。

		鹿島は焦りからか、ジョルジやビスやんのロングのセンタリングばかりが目立つ。その荒い
		センタリングは、アジウソンの恰好の餌となる。ボールは奪われて磐田の攻撃となる。そして
		鹿島の焦りはますます募る。

		その焦りが決定的なシーンを産んでしまう。藤田の攻めあがり、磐田のワンツーから、
		ディフェンスの裏へパスを通されてしまう。4人いた鹿島のディフェンス陣は一瞬棒立ちに
		なり、パスを受けに走った藤田に気づき、懸命に追う。その藤田と奥野が縺れ、藤田が倒れて
		しまう。決定的なシーンを止めたとして、レッドカード。チャンピオンシップに呪われた男、
		奥野の戦いは終った。奥野は呆然としながら、しかし毅然として退場していった。

		鹿島は本田を下げてセンターバックとして、ジョルジが本田の位置へ入った。この日の本田は
		というより、この予選終了後の本田はまったく精彩がない。判断の遅さ、苦し紛れの守備
		ばかり目立つ。彼ほど「楽観主義者」といっている人間でも、やはり代表を外された事はショッ
		クだったのかもしれない。たしかにワンボランチでは、本田は山口に劣っているだろう。
		しかし、攻撃的なジョルジの相棒として、そして、ディフェンスラインに入ってはリベロとして
		働く鹿島の守備では、本田はまだ活躍できるはずだ。柳沢を励ましている場合ではない、鉄人
		と呼ばれた意地を見せて欲しい。

		後半35分すぎ。ジュビロのクリアボールはタッチラインを割らずに、鹿島ゴール側へ。
		本来なら名良橋が処理するボールのはずだが、名良橋は既に遠くまで上がっている。このボール
		は真中を空けて本田がカバーに走る。中山が猛烈な勢いでプレッシャーをかけにやってくる。
		本田はこういう場合、ちょっと間を外して近くの人間に預けるのだが、秋田は遠く左サイドに
		いる。そこで唯一のフリーなGKの佐藤へ。

		ここでGKがファンデルサールならば、文句のない処置だったろう。川口でもそうだ。いや
		通常のゴールキーパーならば問題がなかった。いやいや、相手FWが服部@フリエか、この
		中山でなければ、洋平でも問題なかったかもしれない。

		しかし、GKは洋平で、ボールを追ってきたFWは中山だった。ボールを受けた洋平は、
		一瞬蹴ろうとするもの、パスを出す先の秋田の近くに奥が見えたため躊躇してしまう。そこへ
		中山がやってくる。ゴールエリアを出てペナルティエリアだったため、少々の接触はファール	
		とならない。足技の下手な洋平からボールを奪った中山は、無人のゴールへボールを蹴り込んだ。
		0−1。こうして鹿島の一年に渡る全冠制覇の野望は費えた。

		レスリーの笛を聞き、悔しい哀しいという感情の前に「鹿島は更に強くならなければならない」
		という感慨が襲ってきた。負惜しみでなく、磐田のサッカーは誰がどうみても、自分達の
		積上げてきたサッカーを捨てて、チャレンジャーとして戦い、運に頼った(しっかりとした守備
		には支えられているが)サッカーでしかなかった。磐田はプライドをかなぐり捨てて勝負に
		徹した。
		
		鹿島は強くなったとはいえ、磐田ほどのチーム、中山ほどのFWを持ったチームに、このような
		カウンターサッカーをやられると、それを打破できるほど強くない。どんな引いた相手でも、
		ボディブローのように執拗な攻撃を繰り返し、疲れて空いてしまった弱点を突き崩し、実力で
		相手を倒す。そういうサッカーを身につけなくてはならない。

		いつの日か、そういうレベルまで強くなって欲しい。それでなくて何が世界チャンピオンか。
		そして、いつの日か、いつの日にか、この日の悔しさを返す。臥薪嘗胆という言葉がある。
		私もこの赤いビブスを見るたび、今日の日の事を思い出し、悔しさをつくり、戦う気持ちを
		思い出すだろう。

		鹿島の長い長い戦いは、この瞬間から、また始った。








		この日の試合を見ることの出来たものとして、乱入者達の事も書いて置かなければならないと
		思う。以下に状況を簡単に記す。

		選手がサポシーに挨拶に来た時にフィールドにおり、深々と挨拶をした奥野にとびかかった
		人間がいた。鹿島ゴール左サイドで発煙筒が炊かれ、何本もの発煙筒がフィールドに投込まれた。
		スポンサーの看板は蹴飛ばされて、スタンドから落ちてしまった。そして、10人ほどの人間が
		フィールドに降り、磐田サイドへ走っていく。それはあっと言う間に50人にまで膨れ上がった。
		磐田側でモミクチャに成りながら暴れていた。

		スタンドで呆然と見るサポーターからは、乱入者に向けた罵声や怒号が飛ぶ。「ヤメロ」
		「カエレ」コール、ブーイングが飛ぶ。

		乱入者は段々と帰っていく。真ん中のサントリーのフラッグ上でスライディングする者もいる。

		スタンドのサポーターからは「ジュビロ磐田」コールが。磐田も「鹿島アントラーズ」コールが。

		乱入者達は逮捕や隔離される事無く、スタンドをよじ登り、帰っていった。スタンドのサポ
		には「おまえらは鹿島サポーターじゃない、戻ってくるな」という声もあった。同時に
		「よくやった」「彼らを理解してほしい」という声もあった。(この部分だけ伝聞)



		以上が顛末である。その光景は、わずかな時間とはいえ、全てを台無しにするには充分な
		ものだった。赤いビブスを着ている自分が惨めになってしまった。

		鹿島は全力で戦い、そして、勝負として磐田に負けた。しかし、その迫力あるプレーと応援は
		多くの人間に誇ってもいいものだった。秋田は試合終了後、1分以上もフィールドにひざまずき、
		動けなかった。その姿は鹿島の悔しさを象徴していた。声を枯らしての「秋田」コールが飛ぶ。
		鹿島は「美しい敗者」となることができた。今年のチャンピオンズリーグ決勝。ユーベ対ドルト
		ムント。美しく精緻なユーベは、力と魂でドルトムントに敗れてしまった。しかし、世界の
		誰もが「強いのはユーベ」と見とめる試合をした。「美しい敗者」には、単に勝負にかった勝者
		以上の価値がある。だが、一部の乱入者は、それら全てを破壊して、否定した。鹿島には異様な
		後味の悪さだけが残ってしまった。

		彼らは何故に飛込んだのか。磐田は反則まみれの守備をしたが、それはレスリーモットラム
		の公平なジャッジメントによって正当に捌かれた。彼らは、引きまくった情けないサッカー
		を展開したが、卑怯ではなかった。磐田やそのサポーターは、鹿島のホームで大騒ぎをして
		いたが、我々も長居でビールかけや飛降りまでやった。何が不満なのか。

		彼ら乱入者は、飛降りる事で全てを侮辱した。懸命に90分戦いつづけた選手たちを侮辱した。
		退場になってしまったとはいえ、毅然とフィールドを去り、自分の不甲斐なさをサポーターに
		詫びた奥野を侮辱した。鹿島を作り上げるために努力したジーコやジョアンカルロスを侮辱
		した。今日の試合のためにビブスチケットやクローズトサーキットを企画してくれたクラブを
		侮辱した。鹿カチューシャをつけ、我々のために骨を追ってくれたスポーツボランティアの人
		の熱意を侮辱した。私たちが聖地にしたいと願っている鹿島スタジアムのフィールドを侮辱した。

		スタジアムには入れなくとも鹿島にやってきて、クローズドサーキットで応援を続けた人達を
		侮辱した。鹿島に来れなくて、テレビの前で鹿島を応援し続けたサポーターを侮辱した。なに
		よりも、早くから列を作り、今日の日のために紙ふぶきを用意し、鹿島の勝利を信じて紙テープ
		を用意して、感動的な応援を続けた、熱心な熱心な同じスタンドにいたサポーター達を侮辱した。

		私は飛込んでいった彼らを許す事は決して出来ない。

		彼らは自分の気持ちの赴くままにフィールドに乱入した。それはある意味では彼らの自由かも
		しれない。しかし、どんな自由にも責任が存在する。彼らは自分の仕出かした重大な事件の
		責任を取るべきである。自分の行動に責任も取れない人間には、個人の自由など存在しない。

		今回の乱入者のために皆泣きたいような気持ちになっていると思う。もうインファイトとは
		応援したくないという人もいると思う。だが、こういう時だからこそ、自分が鹿島アントラーズ
		のサポーターだという事を思い出して欲しい。選手もフロントも、そして他のサポーターも
		動揺している今だからこそ、自分が愛している鹿島アントラーズのために何が出来るか、考えて
		欲しい。こんな時だからこそ、鹿島の試合を見に行って、選手を応援してあげたい。

		
		鹿島が日本リーグ2部の時代、神様は地上に舞い下りた。神様は鹿島の地のために働き、
		何度も怒り、挫け、弱音を吐きそうになったが、決して逃げず、前進するために戦い続けた。
		神様は鹿島の地を愛し、鹿島の地のために真剣に働いてくれた。神様の作ってくれた鹿島は
		何度も何度も私を感動させてくれた。身が震えるような感動を与えてくれた。そして泣かせ
		てくれた。

		私達はまだ神様に何の恩返しも出来ていない。だからこそ、今....

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