代表が抜けた第一戦。思えば2年前。レオとジョルジがコパ・アメリカに 出場するために抜けた緒戦。鹿島は最高の試合をしたにも関らず、横浜Fに 逆転負けを喫してしまった(しかもその時も山口に準ハットトリックを 決められた)。そこで自分達に不信感をもったのか、あれよあれよと落ちて いき、差のないとはいえ8位に落ちてしまった。今回の試合は、自信という 言葉のためだけでも大変な試合である。 それ以上に前期に味わった、0−4というゴールデンウィークの悪夢の借りを 返さなくてはならない。あの優等生の柳沢が「今度はうちが4−0で勝って みせます」という気負った発言をするくらい、鹿島には気合が入っていた。 スタメンは、GK佐藤。DFは右から内藤、室井、奥野、石井。ボランチは ジョルジと栗田。オフェンシブには、ビスやんと怪我から復帰した増田、 FWは黒崎とマジだ。 相手は、あの悪夢を見せたエジウソンとジャメーリの2トップ、加藤望の オフェンシブハーフである。下平と渡辺がいないがその破壊力には、まったく 変化のない。恐らくJ最高の2トップである。 試合開始。試合は攻めようとする鹿島、カウンターから一気になだれ込む 柏という展開で始った。鹿島は攻めようとボールを前に回すが、柏の強烈な プレスと早い出足の前に、シュートの形にまで進めない。いつもなら軽々と 競り勝っている50:50なボールも、この日は柏のトレスボランチに拾われて しまう。拾った柏は、一気に前線の二人に。この二人と加藤で、急造の鹿島 ラインをズタズタにしようと攻撃してくる。 開始わずか4分の相手CK。ボールはファアのDF石川のヘッドで弾かれて、 ゴールに突き刺さってしまう。いつもなら考えられないゴール前で相手を フリーにしてしまった失点だった。0−1。 あの悪夢の萩村のヘッドが脳みそをチラチラするが、気を取直して鹿島は 攻める。一点を奪った事でやや引きぎみになったのか、やっと鹿島の攻撃が はじまりそうな雰囲気だ。しかし、それが逆効果となった。左サイドを担当 している石井が攻撃参加をしようとするが、度々ボールをカットされてしまう。 その時、石井に対するフォローはまったくなく、取られたボールはエジウソンに そのまま渡され、速いドリブルとジャメーリとのコンビが、鹿島のペナルティ エリア付近を支配する。ファールでも中々潰せないくらいの鋭い攻撃だ。 そして、再びCK。今度は中央のエジウソンのマクがフリーとなって しまい、ボールを押込む。ゴール。0−2。相手に取られたというよりは ミスを衝かれたという形の失点が続いてしまう。 室井、栗田、石井の三人は、波にのれていないのか、動きがかなり悪かった。 室井はエジウソンを止めることも、押える事も出来ない。彼の身長とリーチを 考えれば、エジウソンにボールが渡る前に弾き返せるはずだが、それが 出来ない。 栗田は、たびたび目に付いたが、それは最も危険な位置でのパスミスと、 守備の時、ジョルジと重なるような位置にして、守備ではジョルジの邪魔を して、パスが貰えるような位置でもない。中盤から相手が攻撃をしかける 際でも、後ろからきちんと追っているが、本田のような立ちはだかって しつこく絡み、相手の攻撃を遅らせるというものではなかった。 もっとも狙われていたのは石井だった。相手ゴールエリア付近では、元 MFらしい、いいパス回しを見せていたが、そこまでにやって来る前に ほとんど潰されていた。石井の対面は沢田。レイソルではややレベルが 高い選手だけに、何度もボールを奪われカウンターの起点となっていた。 また、エジウソンが左からドリブルで侵入しようとしても、殆どスピート で振切られてしまい、危険を招いていた。 このような弱点から何度無く相手にきわどいシュートを撃たれていたが、 必死に防いでいたのは、GK佐藤だった。あの悪夢の日は、古川から正GKを 奪った次の試合だったか、佐藤は何度無く不安定な飛出しを見せ、エジウソン とジャメーリに嘲笑うかのようなゴールを奪われていた。その佐藤がギリギリ のところでボールを弾き返し、決定的なシュートを止めていた。 鹿島にとってもそうだが、何よりもこの試合、佐藤にとっての「復讐」だった。 CKから失点してしまったとはいえ、エジウソンとジャメーリに対する 復讐に燃えていた佐藤は、止めて止めて止めまくった。ここで0−3になれば 悪夢の再来だった。それを佐藤はまさに一人で振り払い、味方の攻撃を まっていた。 ジョルジとビスやんがマークされ、苦しい鹿島の中盤以降を支えたのは、 この日復帰した増田だった。故障の影響を感じさせない激しい活動量で、 フィールドの両サイドを走り回り、サイドバックを助け、前線へボールを 供給していた。増田の動きにだけは、相手もついてこれない。増田のおかげで 鹿島は段々とチャンスを作れるようになってきた。 そして、増田はルーズになった柏の守備陣の穴をついて、ミドルシュートを 撃つ。相手GKが弾いたところを飛込んでマジが掻っ攫う。ゴールライン ギリギリのところでキーパーを躱し、シュート。そこへ飛込んできた黒崎が 難なくゴール。1−2。反撃の開始だ。 このところの黒崎は、往年の武田のようなごっつぁんゴールが多い。これは 以前とは違い、一瞬のチャンスを見逃さず、飛込んでこれるからだ。ボールの 取られないポストプレーも力強いパスも、全て集中力が上がっているせいだ。 この後、明神にミドルシュート(ここを捕まえきれないのは、ビスやんが サボっているせいか)で1−3にされてしまい絶望的になったが、ビスやんの パスを受けたマジがDF3人の隙をついてゴォーール。2−3で前半を折返す。 後半開始。石井に変えて大森を出すかと思っていたが、ジョアンカルロスは 静観。いや選手は変えなかったが戦術は変えてきた。石井のオーバーラップを 止めて、右サイドからだけの攻撃として、変則の3バックで対抗し、特に エジウソンに対しては、石井に追いかけさせるようにした。 柏は、前半のプレスでの疲労とリードして逃げ切ろうとしたせいで、すっかりと 引いてしまい、中盤は完全に鹿島が制圧してしまう。右サイドの内藤の上りが 機能しはじめて、黒崎やマジにも何度となくいいボールが渡るようになる。 ここで黒崎のドリブル突破からのシュートを撃とうとするが、萩村が苦し紛れの ファールで止める。PKだ。 同点だと喜んでいたが、ボールをセットしたのはマジ。うっ。チーム内の 得点王だし、実績からは何といっても彼。しかし、この前のPKを外した シーンが頭に残っているので信頼できない。 不安は適中。マジが左すみに蹴ったボールに柏GKの加藤はしっかりと反応し パンチング。PK失敗である。 柏はここで息を吹返そうと攻撃を仕掛けるが、中盤のサポートもなく、ジャメ ーリとの二人での攻めでは、そうそう点を取れない。一度だけ、佐藤が躊躇して しまい、ペナルティエリア内で躱されてしまうシーンか゛あったが、石井が 今日の不調を取消すようなクリアを見せる。 これ以外のシーンでは、鹿島はペナルティエリア前に縦列陣を引き、エジウソン とジャメーリを封じ込める。ジョルジから奥野まで何重にも張巡らせれた赤い 守備陣。それでもエジウソンは参加して侵入してくるが、ついぞシュートを 撃つ事はできない。柏はサイド攻撃が皆無となったため、全ての守備を中央に 集中させることが出来たのだ。 後半20分すぎ。一点ビハインドの鹿島は増田に変えて、ついに柳沢を 投入。マジが中盤にさがり、柳沢と黒崎の2トップとなった。ここからが 真の「復讐」の始りだった。 代表クラスもいなく、外国人DFもいない柏守備陣に、今の柳沢は止められ ない。右や左に走り回り、フリーでボールを受け、一瞬後には反転。後は 強烈なドリブルで相手DFを躱してゴールを目指す。鹿島がボールを持つと フリーランニングを開始。相手DFを引付けて、自分のいた場所に大きな スペースを空けて味方攻撃陣を呼込む。追いつかないボールをサイドライン まで追っていた柳沢には、単なるアクティビリィ以上の、そう「意志の光」 というかオーラを感じた。絶対に逆転する。その意志によって、弾かれた ように柳沢は走る。 ついにそれは実る。左サイドでボールを受けた柳沢は、DF萩村がユニを 掴んで止めようとするのを強引に振り払ってキープ、しっかりと周囲をみて、 上がってきた石井にパス。石井からビスやん、ビスやんからマジ、マジは 来たボールを何とスルー。そこへ走り込んできたジョルジが豪快なミドル シュート。信じられないくらい美しい弾道を描いてゴォォォォール。ついに 同点3−3。 後20分残っての振出し。この瞬間に鹿島の勝利を確信したが、それは 想像以上に凄いものだった。 ビスやんが柏陣地に侵入し、一瞬前を確認した後、滞空時間の長いパスが DFの裏に出る。鋭く反応した柳沢は、左足にピタリとくっつくようなト ラップ。DF二人とGKが飛込んでくるが、冷静にゴールへのパスコースを 発見し、半身を捻じって右足アウトサイドでシュート。完璧なゴーールだ。 4−3。ついに逆転。柳沢が再び勝利のゴールを叩き込んだ。 柳沢は止まらない。自らが呼込んだ右CK。ビスやんのピンポイントの センタリングにニアの柳沢が合わせて、コースを帰る。ボールをキーパーを 超えてファアのサイドネットへ。ゴォォォーーール。5−3。 そのゴール裏を埋めた真赤なサポーターはもう狂喜乱舞だ。柳沢に抱き着いて 喜び合っている鹿島の選手もサポーターに向けてガッツポースをしている。 得点をとった選手以外がこれほど、サポーターに喜びを見せるのは珍しい。 それほど、このゴールは嬉しい、貴重ななものだった。 たった20分弱の出場で2点。後半戦、満足な出場時間も無いのに6点。 それ以上に柳沢の活躍は凄い。うまさとかではなく、破壊力が凄い。もう 彼には、最初のころのうまいプレーをしているルーキーの姿はない。単なる 日本で一番質の高いポストプレーヤーではなかった。ゴールに飢えた、ゲーム を支配する事も可能なストライカーに成長している。そう、94年W杯決勝 トーナメント。もう駄目かと思った時に信じられないゴールを叩き込み、イ タリアを決勝にまで導いた男。ロベルト・バッジォ。柳沢に彼の姿がダブった。 試合は残り5分で長谷川を投入。たった5分で結果を求められる長谷川ほど 大変な選手はいないだろう。ジョアンカルロスは、心理学もやっているのだ ろうか。柳沢の飢えや長谷川の危機感を見るたびに、ジョアンカルロスは 知的な監督というよりも、猛獣使いなんじゃないだけろうかと思ってしまう。 実は室井の2枚目のイエローというピンチがあったが、ジャメーリの猛烈な 抗議のおかげで、ジャメーリにイエローが出て見逃し。試合はそのまま終了。 前半不安定だった守備陣も、最後はしっくりくるようになった。これ以後、 これ以上の攻撃をおこなえるFWはいない。そう考えれば、ちょうどいい 調整になったはずだ。 現在の鹿島の攻撃陣は確実に点を取ってくれる。あとは守備陣が支えるだけだ。 代表4人(それだけはすまないだろう)を取られたこの状態は、実は鹿島のため に最高の状態だ。室井、栗田、そして阿部、熊谷という才能はあるが、舞台が ない若手を本物に出来るチャンスである。もしかしたら、本田を秋田を超える 才能が開花するかもしれない。そして、彼らに自らの手で優勝をもぎ取るチャ ンスなのかもしれない。 '97 Kashima ANTLERS.. Please Show Me... Strong Football, Spectacle Game, Spiritial Players. and..Dreams Come TRUE.!!!