ANTLERS Diary Ant-mark



2001.05.19  2001 J1 1st 第10節  


鹿島アントラーズ vs
         柏レイソル

   コロッセオ・デ・ジーコ
        夢の空間





車の窓からは白い鯨のような姿が見えてくる。もうまわりには工事中を表す黄色と黒の帯
は存在しない。異様なほど巨大なクレーンは存在しない。カシマスタジアム"コロッセオ"
は完全にその姿をあらわした。鹿島アンラーズはついに98年からの長い長い彷徨の末、
ホームに戻ってきたのだ。もうどこにいく必要もない。

県のお偉いさん達の挨拶が続く。そんなのは前日に偉い人達だけでやればいいのに。戦う
という前から気勢が削がれてしまう。そんなイライラはこの偉いサン達の自己満足な時間
だけが原因ではない。

今日の鹿島は、いや今日の鹿島も満身創痍。高桑、ファビ、相馬、中田、ビスマルクが欠
場。しかもセレーゾは、ビスマルクのかわりに野沢を入れるのではなく、青木を入れてス
リーボランチ。来年度鹿島に入って来る選手はボランチに転向しておこう。セレーゾのボ
ランチ好きは異常だ。何のタメに同世代最高のゲームメーカーを持っているのか。
今日のスタメンは曽ヶ端、名良橋、秋田、池内、中村、青木、本田、熊谷、小笠原、平瀬、
柳沢。

試合開始。開始前に大量にまかれたチャフはピッチを白く覆い尽くす。今までなら風向き
により、サポシー側に吹きだまるだけだが、新カシマスタジアムはメインとバックが逆転
したため、サポシーの位置も入れ替わってしまった。そのため、チャフは今までとは逆に
全てピッチに流れだし、とんでもないことになってしまった。2年ぶりじゃしょうがない
ということか。

試合はチャフにより何が何だかわからない状態。そんな時、先制点を奪われた。自陣から
のフリーキック。ファーまでとんだボール。中村がヘディングで競りにいくが目測が狂っ
たのか、被ってしまう。後で待っていたファンソンホンは楽々とトラップ、シュートはゴ
ールに突き刺さっていった。0-1。

一点取られた鹿島は落ち着いていたのか、だらけていたのか。攻めに急ぐわけではなく、
それでいて攻められるシーンは多々発生した。ボールがトップに入ってもそれ以降が繋が
らない。小笠原一人ではフォローしきれていない。かといってボランチの一人が上がって
くるわけではない。中盤が薄すぎた。セレーゾはベンチに野沢を入れていない愚をすぐに
でも悟ったのではないか。

小笠原からの素晴らしいパスを柳沢が抜け出してトラップ。完璧なトラップから流しこむ
がポストに当たった。前半唯一の決定的なシーン。それ以外は全て柏のプレッシャーに悩
まされつづけた。それでも点が取られないのは、必死に守っているというよりは、レイソ
ルの攻撃が単調すぎて、シュートは撃てるが決定的に危険ではない、というところか。

去年も同じように一本調子な攻めがあったが、それでも正確でスピードに乗った攻撃とな
ると止められない。だがこの日の柏からはそんな感じは受けない。慣れ、そんなことを感
じられた。それが成熟に到るには何かが必要なのだろう。

とはいえ柏に攻められる時間帯が多いのは変わらない。突破されていないがシュートは撃
たれる。曽ヶ端も必死でパンチングしていく。とても柿落としとはいえない。このまま負
けたらトラウマになりそうな前半だった。攻めてこのまま終わってくれ。そうすればまだ
挽回のチャンスがある、そんな前半終了間際、鹿島の唯一のゲームメーカー小笠原がファ
ンソンホンに壊されて退場していく。だから言っただろうセレーゾ。鹿島は鈴木を投入。
4-3-3。柿落としは悲劇的と呼びたくなるような様相を呈してきた。

ボランティアによる大清掃作戦が終了しキレイなピッチで後半開始。しかし今度は雨粒が
見えるほどの大雨。つくづく劇的に誰かがしている。

鹿島がスリートップにしたため、柏の萩村が下がり気味になったのか、鹿島のボール回し
がよくなる。平瀬や柳沢がワイドに開いてボールを貰い、中盤の上がるスペースを作って
いく。ツートップの場合、一人が開きすぎると中が一人になってしまうが、スリートップ
の場合、ターゲットは充分にある。

そういえばセレーゾが来日当時はスリートップを試行していた。平瀬と柳沢という動ける
FWに鈴木という持ち駒を得て、もしかして以前から暖めていたのでだろうか。

後半15分、青木に変えて内田を投入。お得意の名良橋を上げる作戦だ。しかしバックラ
インは内田、秋田、池内、中村。・・・鹿島の窮状がうかがえる。5-2-3。

後半23分、鹿島自陣からのスローイン。平瀬がサイドで受け鈴木に、鈴木は振り向かず
にヒールでサイドへ。平瀬がそこに走りこむ。平瀬は余裕を持ってルックアップ。そして
センタリング。ファーの柳沢は完全にフリーで受ける、受けたはずだったが、トラップミ
ス。

しかしここで南が発動。このトラップミスのボールに猛然と飛び込む。前半の柳沢の角度
の無いところから流しこむシュートが頭に残っていたのであろうか。柳沢がボールに振れ
なんとした瞬間、南の手が出てくる。柳沢は当然のように飛ぶ。PK!!!。レイソルは猛烈
に抗議するが無駄。自分達のキーパーの軽率さを恨むべきだ。

柳沢、鹿島では初のPKではないか。これをおちついて決める。ゴォォーーーール。1-1。
同点に追いつく。

ここから俄然鹿島ペースに。スリートップとスリーバック。マークに付こうとすると、FW
の一人は中盤へ下がる。ここでディフェンスラインが付いていくとラインにギャップが発
生する。そこを柳沢が利用する、この繰り返しが柏の混乱を誘った。

そして30分過ぎ。またも平瀬がサイドで抜け出す。ゴールライン手前から低いセンタリ
ング。キーパーとDFの間。南は飛び出せず、見送る。ここにファーに柳沢。枯れた金髪を
低くしてヘディングで丁寧にコーナーをつく。ゴーーーーーーーーーールルルルルル。2-1。
鹿島ついに勝ち越し。いつもはゴール前で余計な動きをするか、パックドリブル専門の平
瀬だが、サイドでは生きる生きる。そういえば99年の平瀬も平瀬ゾーンと呼べるような
サイドからの入っていく攻撃が良かった。オフサイドに苦しむ抜け出しよりも、スピード
とテクニックのある平瀬にはウィングが似合っているのか。

しかし誰かはこのままでは終わらせない。コーナーキックからのこぼれダマを大野が押し
込み同点に。2-2。しかしもう悲劇的ではない。誰も予想し得ない劇的な戦いとなってい
った。

大雨の中両チームの攻撃が続く。鹿島のボールの流れはスムーズで何度も決定的なシーン
をつくる。前半柏は燃えすぎたのだろうか? もう鹿島のカウンターについてこれない。

それに追い討ちをかけたのはセレーゾの采配。長谷川を投入。交代は疲れの見えた熊谷。
セレーゾは冷静に延長になれば4人目の交代を認めるというルールを利用する。鹿島はこ
れで5-1-4。もう西野にはついてこれない。ミョンボヒョンもついてこれない。フォートッ
プにスリーバック。柏DFは、鹿島FWが広がったり、下がったりした事についていけば自然
とフリーなFWが生まれてしまう。もうバックラインでは押さえきれない。

中盤に君臨する名良橋は次々とロングパスを繰り出す。名良橋の強く低い弾道がこの雨の
中で生きる。たった二人しかいない中盤は、名良橋の無尽蔵の運動量とスピード、そして
攻撃センスによってカバーされ、本田の影のようなフォローによって保たれている。

長谷川は積極的にヘディング勝負にいく。そのこぼれダマを鹿島FW全員に狙いに行く。前
半の攻撃が嘘のようにシンプルで美しく、スペクタルな攻撃が展開されていく。しかし後
一歩が踏み込めず。後半終了。延長となる。

スピードとテクニックの平瀬、フィジカルと運動量の鈴木、まさに全方位対応ヘッドの長
谷川、そして鹿島のエース、スペースメイカーの柳沢。それぞれ個性の違ったFWがハーモ
ニーを奏で、名良橋や本田、そしてディフェンス陣がそれを支え託していく。これほど攻
撃的で危険な闘争心溢れる鹿島は久しぶりだ。

延長開始。劇場的な試合展開はクライマックスを迎えた。延長に入り、柏に元気が戻った。
柏の攻撃が増える中、曽ヶ端がペナルティエリアでファンを止めてしまう。PK。決定的な
PKを与えてしまう。

鹿島サポーターを背に曽ヶ端が長い手を広げる。後ろの暴虐サポーターは紅いものを何で
もいいから振りまわす、喚き散らす。磐田のように紐があればゴールネットは飛び回って
いただろう。ミョンボヒョンが飛び出してきて、審判に後ろのサポーターが煩いと泣き言
を言う。

曽ヶ端の長い顔が大きく膨らみ、息を吐き出す。ファンソンホンが蹴る。しかし角度がな
い。曽ヶ端が飛びつく、弾く、秋田が大きくクリアする。PK阻止。鹿島はまだ死んでいな
い。まだ終わらない。

柏の元気が無くなった。中村がドリブルでペナルティエリアに近づく。サイドへパス、平
瀬が受ける。そして得意のバックドリブル。ここで中を見て迷い無くセンタリング。鈴木、
柳沢、長谷川が待っている。ボールはファーまで伸びる。柳沢に二人のマークがつく。柳
沢少しニアへ逃げる。長谷川はこの瞬間完全にフリーに。フォートップにスリーバック。
ボランチが必死で戻るがクロスするように中へ切れこむ。長谷川が飛び込む。もう誰も邪
魔も出来ない。長谷川は体をひねりながらジャンプ。長谷川の頭によって角度が変えられ
たボールは南を脇をぶち抜き、ゴールへと転がり込んでいった。ゴォォォーーール、ゴー
ーールだ。ゴーーーーールだ。鹿島Vゴール勝ち。3-2。

身の毛のよだつという表現が在る。また、サッカーを見つづけていると体が感動体質になっ
てしまい、ちょっとした事で心の底が揺れてしまうのかもしれない。何が何だかわからな
いが長谷川のゴールが決まった瞬間、私の肌には鳥肌が立ち、体中に何かが走っていった。
血は上り、視野は狭くなり、外部の音はゆっくりと遠くで聞こえるようになる。そんな一
瞬後、全て正常に戻る。喜びと感動に神経がショートしたようだった。もう少し追い詰め
られていたらまた泣いていただろう。そういえばこの前泣いたのは98年チャンピオンシ
ップ第一戦、長谷川のゴールが決まった瞬間だった。長谷川はそういう男なのかもしれな
い。

歓喜、歓喜の大爆発。全てが幸せに感じてしまう。先制点も紙ふぶきも、暑さも雨も。た
だ勝つだけではない。鹿島のホームで、鹿島らしいスペクタクル溢れた勝利を手にしたの
だ。自分達のほんの目の前で。国立やその他の場所では味わえない喜び。選手の喜びも戦
いも全て共有できるほど近い空間。これほどの舞台を持てた私達は幸せだ。これほどの空
間で勝利を体感できた私達は本当に幸せだ。

たった勝ち点2。未来にはおそらく繋がらないだろうフォートップ。小笠原の怪我。下位の
ままの順位。それでも、今日の鹿島はそれ以上のものを得た。これからの戦いの糧となり、
今までの鹿島を取り戻すキッカケとなる何かを得たはずだ。

「ハ!セ!ガ!ワ!」と「ヤナギサワ」コールが渦巻く中、コロッセオはその火を落とし始め
た。この壮大な劇を見せつづけた誰かも充分に満足して一日を終えることができたのでは
ないかと思う。そしてサポーター達は幸せな夢を見るために眠りにつくだろう。

この試合は93年の開幕戦、96年の優勝を決めた名古屋戦、98年のCS、それと同じよ
うに鹿島スタジアムの歴史として語り継がれることだろう。ありがとうハセガワ。ありが
とう鹿島スタジアム。



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