ANTLERS Diary Ant-mark



2001.03.03  ゼロックススーパーカップ  


鹿島アントラーズ vs
         清水エスパルス

   Over The TREBLE
        -三冠を乗り越えて-






国立競技場では今日ゼロックススーパーカップと呼ばれた"練習試合"が開催され、鹿島は
0-3というスコアで清水エスパルスに粉砕されてしまった。

そう言いたくなるような試合の展開だった。鹿島の選手のモチベーションが低かったわけ
ではないが、二点目を強引といえるPKで失うと戦う気持ちが切れたのか、トニーニョセレ
ーゾの繰り出す交代選手のカバーで四苦八苦しだしたのか、淡々とした時間だけがすぎて
いった。


清水エスパルスはサントスを失い、真田を病気で欠場させた。サントスの穴は"縄文人"戸
田が、真田の代わりで黒河が出場。対する鹿島は熊谷、ファビアーノ、相馬を怪我で欠き、
本田、金古、中村祥朗が交代選手として出場した。人数では11対11だったが、ゲームが始
まってみると、9.5人対11.5人の試合だった事に気がつかされた。

鹿島9.5人の不足分はビスマルクと呼ばれる男と、中村祥朗だった。ビスマルクと呼ばれる
男、確かに10番のユニフォームを着た選手はいたのだが、ついぞそれがビスマルクだと確
認できる事はなかった。試合が始まるとまるでフィールドに存在していないかように姿を
消したのだ。消えることが仕事のFWの選手ではない。守備や攻撃の要となる中盤の選手が
だ。

誰がどうみてもフィジカルコンディションが悪すぎた。動かない、守らない、ダイブは今
日の主審の岡田が観ていない。鹿島というチームは11人が有機的に動くことで守備に余裕
を、攻撃にスピードを生み出している。その中心たる中盤の選手が存在していない状態で
はどうしようもない。

鹿島は彼と再契約をすべきではなかったのではないか。代表で度々抜かれるとはいえ、本
山がいる、野沢がいる、そして小笠原がいる。彼らに対する育成期間としてファーストス
テージを与えるべきだった。厚い選手層が必要なACCはセカンドステージから。足りない
ようであれば7月の世界的な移籍期間に大物を獲得し、新鹿島スタジアムの目玉とすべきだ
ったのだ。もし今後も彼があの状態で出続けるのであれば、ベベットやマジがチームに与
えた倦怠感をまた倦むことになるだろう。

そして中村祥朗。相馬の長期離脱によって得たチャンス、いやラストチャンス。後には怪
我さえなければ出場していた根本がいる。このチャンスを生かすべく果敢なプレーをする
のだろうと思われた。一回や二回のポヨーーン(ナビスコカップで途中出場した彼が最初に
あげたセンタリングはこのような音を立ててゴール裏上段に消えた)は勘弁しようと、みな
思っていたはずだ。

しかし中村は消えた。思いっきりのよい突破力と強気な性格が売りだったと思い込んでい
たが、そんな彼は皆無だった。サッカーマガジンが調査しているパスのパターン分析があ
れば完璧だが、この試合鹿島で最もホットだったラインは、中村-金古のパスラインだった
はずだ。それも金古→中村ではない。中村→バックパス→金古だった。

ボールを得れば前方がどんなに空いていても下げる。下げる。下げる。下げられた金古の
準備が出来ていなくても下げる。対面の市川が罠かと思い、攻撃を自重したほど下げる。
守備でも貢献無し、攻撃次には鹿島左サイドスペースを壊滅状態に。この日の中村ほど許
せない選手はいない。鹿島の7つ星とスターマークのヤタガラスは彼には不要だ。現時点で
の彼は鹿島アントラーズのレベルに達していない。

後半当然の如く交代し、中田が下がるために。そのために鹿島の中盤はますますスカスカ
になり失点を生み出し、ペースを失っていった。中村がこのままであれば鹿島はベンチ要
員として他チームで干されている選手を探してくるべきだ。若い根本では90分は無理だろ
うから。

そして、最後の0.5人は、清水へ多いに加担した岡田主審。試合前には「岡田さーん」と
声援を送るとにこやかに応えてくれたのだが、試合中は明らかにソレとわかる清水びいき。
いや岡田さんの名誉のためにいうと鹿島にだけは異常に厳しい判定というところか。

試合を決定したPKは不可解だし(アドバンテージ?)、鹿島のノーゴールも納得はいかない。
"汚い"鹿島がやられたファールは、多くは流された。全サッカーファンが感染している被
害妄想病も含まれているだろうが、やはりオレンジ色のシャツが中に入っていたと思いた
くなる。

だがこれはある意味当然の帰結だ。鹿島は去年勝つためにプロフッショルナルなプレー、
ファールを多く行った。"どんなことをしても勝つ""少々汚い事をしても勝つ"というイメ
ージを自分達から形成していった。

小笠原や鈴木、秋田らのフィジカルなプレー、ビスマルクや本山らのダイブと呼ぶにはあ
まりにも芸術的な合気道のような倒れこみ。「今年の鹿島には容赦しない(正確には「厳し
く判定し審判の権威を見せてやる」)」と思われもするだろう。そういう心理的アドバンテ
ージ、運/不運、不公平な条件を背負って戦うのがサッカーだ。この敗戦を糧にして、静岡
の某チームのようにナイーブに叫ぶのではなく、心して戦っていくべきだ。


もちろん鹿島の敗戦の理由はこの三人に帰するものではない。鹿島のツートップはミスを
連発しチャンスを決めることが出来なかったし、アレックスや森岡、縄文人は最高のパフ
ォーマンスを見せたし、パロンは市原時代よりも機能していた。中盤でボールを回すこと
に執着していた清水がバロンというターゲットを前線に得たことでその先のゴールを見え
るようになったのだ。3-0というスコアはともかく、この試合は実力で負けた。


しかし、鹿島にも得るものが多い試合だった。

中田と小笠原が見せたプレーは、とても3ヶ月ぶりとは思えないものだった。久しぶりと
いう意味ではない。たった3ヶ月しか経過していないとは思えないほど成長しているよう
に感じるプレーだった。中田の体の幅を使ったボールキープ、長い手足を見事に使って
自分の優位な位置にボールをコントロールしている。その安定度は正に現日本代表様。
あの立っているだけ。誰かに横パスするのがやっとだった中田とは思えない、真のボラン
チとして存在した。

小笠原。後半はバテたり全体の切れ具合にパフォーマンスを下げていたが、それまでの小
笠原は完璧なトレクワトリスタ(でいいのか)。攻撃一辺倒ではない、守備もする、走る、
パスする、シュートする。全てにおいて素晴らしいプレーをしていた。守備時に見せたス
ライディングタックルはそれだけで痺れた。相手のカウンターで速いドリブルを仕掛ける
市川に対して、中央から飛び込んできた小笠原は完璧なタイミングでスライディング。

相手の足を傷つける事無くボールを奪い、そのまま立ちあがり前線ヘパス。言い過ぎなの
は承知しているがジョルジーニョのようだった。また中村が上がらないため出来た左スペ
ースにはいってゲームメークも良かった。

小笠原も中田もオフに素晴らしい体験をしたわけではない。ただチャンピオンという自信
が彼らを一段上に引き上げたのだ。自信は自分自身の可能性を広げる。自分を信じられる
ようになり、より大胆により正確なプレーを生む。強引なまでに取りに行った鹿島の三冠
は彼らを見ただけでも無駄ではなかった事がわかる。

そして青木。線が細い。しかしそのボディシェイプはさすがに日本サッカーが10年をかけ
て地道に全国で活動してきた集大成。トラップ一回で相手のいないところへボールをコン
トロールして次のプレーを開始していく。そしてロングパス。そのパス、全てがスルーパ
スのように小さな間を通して、前線へ正確なパスが通っていく。地を這うように繰り出さ
れるパスは清水の守備を破り本山らに渡っていった。

青木のプレーを見たのは実は初めて。ここまで素晴らしいパス能力を持っているとは思わ
なかった。曽ヶ端、根本、青木、中田、野沢が全員レギュラーになれば、鹿島は本当にロ
ングパスだけで勝てるチームになってしまう。それぐらい素晴らしいロングパッサーが集
結している。

若い選手だけではない。何度も一対一を防いだ高桑の集中力も素晴らしい。一点目以外は
彼には責任はない(一点目も沢登をマークしていた中田のミスだが)。一時期負けが込んだ
時、曽ヶ端の成長のために代えるべきだと思っていたが、今の高桑にはそんな隙はない。
ライバルは曽ヶ端ではなく、楢崎だろう(キャプテン自薦者は既に超えている)。曽ヶ端の
出番は今年もなさそうだ。

しかし何よりも感動したのは秋田だ。失点の多くは秋田と金古のバランスの悪さに起因す
る。その自分自身に対する怒りと、切れ掛けたチームへの怒りがそうさせたのだろうか。
バロンと接触後、ペットボトルを蹴っ飛ばす、そして岡田に止血のために外に出されると
治療なんか待っていられるか、と自分でテーピングを顔に巻き出した。鼻が切れたらしい
その出血。秋田は顔中を白と赤に変えて、戦線に復帰してきた。怒りとともに。

その怒りがある限り、鹿島は三冠に溺れないだろうし、敗戦で全てを失っていく事もない
だろう。今年の鹿島の課題はだた一つ。「OverTheTREBLE」

三冠を取ったという過去の栄光を乗り越えて、未来に進む意志を見せて欲しい。三冠を取
った事で鹿島の環境は大きく変わったし、厳しくもなった。ベルディが自分達の優勝に溺
れて過去の栄光に浸るチームになってしまったような環境になりつつある。それらを超え
て、より強いチーム。世界に戦えるチームになるために、三冠を超えて欲しい。

今日のこの敗戦はそれを思い出させるには充分な一撃となったはずだ。




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