ANTLERS Diary Ant-mark



2000.12.09  サントリーチャンピオンシップ 2ndLeg 


鹿島アントラーズ vs
         横浜マリノス

     The Load-BackV
        未来のチャンピオン






12/03 横浜Fマリノス 0-0 鹿島。両者にとって予想外の引分けだったのかもしれない。
鹿島としては、小笠原の激しくスキルフルなプレーで最初にラッシュをかけて、一気に
先制点を取って鹿島ペースで運ぶはずだったが、後半になると飛ばしすぎとこれまでの
激闘からの疲れでバタバタになってしまう。終盤には引分けを目指してのゲームとなっ
てしまった。

だが、より不利になってしまったのは横浜かもしれない。中村を引かせて後からゲーム
を創らせて、上野や遠藤の飛び出しからのゴール、城やユサンチョルのFW陣で攻めると
いうゲームプランは、鹿島のアグレッシブな守備によりズタズタにされた。

中村は引いてフリーになったが、その中村からのパスは弾き返され、後ろでボールを持
っても小笠原やビスマルクといった攻撃陣からのプレッシャーを受けて、プレーがまま
ならない。攻める力が尽きた鹿島と攻める手立てが無くなった横浜だった。

ゲームプランだけではない。マリノスの松田は試合後「国立はホームのようなもの」と
言ったが、それは当てはまらない。芝やグラウンド、前日の待機や移動、ロッカールー
ム、気候、まわりの看板(ジーコは看板の位置で自分の位置を常に判断していた)、そう
いったものを含めてのホーム。だからこそ同じ場所で普段と同じように慣れた環境で戦
えるホームはどこも強いのである。鹿島は2000年の半分を国立で戦い、横浜は僅か1,2
試合。そして鹿島からは高速バスで一本。それもある。


迎えた12/09。第二戦。この試合で全てがきまる。両チームともベストメンバー。千年紀
期最後のチャンピオン、サッカーの世紀最後のチャンピオン。譲れない、譲らない。


試合は横浜の猛攻から始まった。この試合の中村は前の試合から一転、鹿島陣内深く入
って攻めてくる。そして速いパス回しから鹿島のゴールへ襲い掛かる。秋田らがクリア
してもハーフライン前でプレッシャーをかけて奪い、またも攻めてくる。

エジミウソンの速いドリブル、ユサンチョルの幅のあるプレー、木島のサイドアタック
らが一気に鹿島へ襲い掛かる。相手を止める事が出来ない。ディフェンダーが体を張っ
てコースを限定するのがやっとだった。

アルディレスが有能な監督であること、そして攻撃パターンを創ってきていること、中
村、三浦、エジミウソン、ユサンチョルらの才能には疑いが無いことを示していた。

しかし、鹿島はこの攻撃を耐えきった。流れが変わるまでの間、走りまわり次々とドリ
ブルで飛び込んでくる相手をビスマルクや鈴木が戻ってきて何人もで押さえ込む、空い
たスペースに出されて再び攻撃が始まっても、自分のポジションを捨ててでもプレッシ
ャーをかけにくる。相馬や名良橋が中央に行くことも。熊谷が中村について左サイド奥
深くまで行くこともある。そうやって11人を12人のように見せかけて守りつづけた。

そして一旦ボールを奪うと、迷い無くパスが走る。小笠原が奪えばビスマルクが、ビス
マルクが持てば小笠原がスペースへ走っている。そして躊躇することなくパスが出る。
受けたほうもドリブルで一気に突き進み、引き絞るようにタイミングを計り、鈴木と柳
沢へラストハスを送る。速い、速い攻撃だ。

マリノスが個人ベースのドリブルと技術の組み合わせて攻めてくるとすれば、鹿島はオ
ートマティズムと呼びたくなる躊躇なきパスワークから攻撃を創っている。特に小笠原
のプレーは得点にこそ繋がらなかったが、鹿島陣内で自分でボールを奪い、一気にFWを
走らせるパスを出したり、ビスマルクからボールを受け、ビスマルクにボールを返すの
ではなく、ビスマルクを走らせてフリーなスペースに移動した所で高速リターンで次の
攻撃に繋げていく。

小笠原はどちらかというとソフトなパッサーだ。色々な種類のキックを持っている。相
手の意表を突くようなパスが好きだ。しかしこの試合では中田ヒデばりの高速パスを次
々と出していく。まるで人が変わったように。そう、本人が語ったようにあの日のジョ
ルジのような気迫速いプレーでチームを引っ張っていた。ビスマルクと見せた鹿島の両
輪。一方を止めても一方が決める。この試合、小笠原はビスマルクと並び立ち、鹿島の
ゲームの中心だった。

そして前半24分。鹿島陣内で中村が左サイドから横パスを送る。これを小笠原がカット。
一気にドリブル。ハーフラインで相手のタックルを受けるがボールを失わない。川口に
背を向けた姿勢のままヒールパス。これを鈴木が反転しながら受ける。後ろからタック
ルに来ていた小村はこの反転に巻き込まれ弾き飛ばされる。

鈴木のドリブル。鈴木のドリブル。グイグイ音がするよう。ゴール前の柳沢へパス。こ
のとき柳沢には二人ものDFがへばりつく。柳沢はしかししっかりと体を張って、このボ
ールをリターン。走りこんできた鈴木の足元へピタリ。鈴木左サイドから迷い無くシュ
ート。弾丸のようなスピード。釜本のようなシュートというのは誉め言葉なのか。

川口コースを切っているが止められない。川口の手を弾くようにボールはゴールへ突き
刺さる。ゴォォーーーーーーーーーーーーーーーーーール。黄金の髪を輝かしながら鈴
木は吼える。ゴールだ、ゴーール。小笠原がボールを奪ってから僅か数秒。そのスピー
ドを殺すことなく一気に攻めかけた。その攻撃のスピードが乗り移ったようなシュート
だった。1-0。鹿島決定的な先制。日本のバティステュータ炸裂、という事に今日のとこ
ろはしておこう。

トニーニョセレーゾ、ベンチでコーチと胸をぶつけて喜びまくる。奴は本当に監督とい
うより、6人目のベンチメンバーのようだ。イタリア人のような厳格な守備をやらせるく
せに、試合では誰よりも熱い血を滾らせている。新生鹿島の監督は若く厳しく熱い。

この先制点がマリノスの動揺を誘ったのか、焦りを誘ったのか、試合は鹿島ペースに切
り替わる。ビスマルク、小笠原らがボールを走らせる。そして名良橋や相馬がオーバー
ラップしてやってくる。鈴木と柳沢はボールを待つことなく、縦や斜めに走りマリノス
の守備の目を破って川口と相対する。

スピード、それが鹿島の攻撃だ。柏のように決められた攻撃パターンというのではない。
一人が受けた時、必ず誰が走っている。右で受ければ、FWと一人のゲームメイカー、そ
して逆サイドの相馬が。もう一人のゲームメイカーはフォローの位置にやってくるため
孤立しない。

誰が走るからパスコースが出来る。そして受けたらパスコースを一瞬で判断するよう訓
練されている。だから鹿島がボールを持つと突然ボールは走り出す。柳沢と鈴木はフリ
ーランニングの鬼と化し、小笠原とビスマルクはサイドチェンジを繰り返す。誰かが攻
めるではなく、紅い一群が突風のように一気にゴールを狙うのだ。

そして相手の弱点が右サイドの木島の守備だと既に研究していたのか、相馬のオーバー
ラップが繰り返される。木島が相手ではほぼフリーも同然の相馬、何本ものセンタリン
グをニア、ファーへ飛ばす。そしてゴールエリアにはかならず四人近いターゲット。
ダイナミックな攻撃が続いていく。

前半34分。ファビアーノが自陣でボールを奪った後、クリアボールを受けた小笠原が前
線の柳沢へ。柳沢はオーバーラップの時間を稼ぐ。小笠原、熊谷、ビスマルクまでが一
気に駆け上がる。柳沢が小笠原へ預けゴール前へ。小笠原は中央の熊谷へ。熊谷はこれ
をスルー、ビスマルクが受けて速いロングパスを左サイドへ。鈴木は相手DFを引き付け
つつ、これをスルー。相馬はまったくのフリーでボールを受けてセンタリング。ニアに
飛び込んだ柳沢がヘディングでコースを変える。惜しくもポストの脇をすり抜けていく
が、攻撃の連続性とスピード、そしてスペースメイキング、サッカーの芸術性を如何無
く発揮したプレー。

ここでマリノス、木島に変えて永山。永山の持つ自分の下手さに対面の相手までも同化
させてしまう下手下手空間発生にかけたようだ(ナビスコカップの鹿島戦では本当に下手
下手空間が発生してしまい、相馬が城定並に下手なプレーを連発していた!)

小笠原の見事なフリーキックはまたもポストに嫌われるが、その後に右サイドで得たフリ
ーキック。これをビスマルクがゴール前へ上げる。マリノスがクリアするがここに秋田。

秋田はゴールエリアの外に居た。・・・なぜに? 本来の秋田なら大外からゴール前へ飛
び込んでファーにいるばすなのだが・・・。まさか待っていたのか、それであんな素晴
らしいセンタリングをあげられたのか、そう疑いたくなるほど完璧なタイミングのセン
タリングが逆サイドへ飛ぶ。そこへは秋田がパスを出した後にDFラインを突き破り、完
全にノーマークになった名良橋が。名良橋も完璧な胸トラップ、そして完璧なシュート
を2mも離れていない川口の真上にぶち込む。ぶち込んだ。

ゴォォォーーーーーーーーーーーーーール。鹿島2-0。完璧なゴール、美しいゴール。
本当に偶然なのだろうか。秋田と名良橋。ベテランの落ち着いた、そして決定的な二点目。

2-0となって死んでしまったマリノス。中央でエジミウソンが受けても誰もフォローに走
らない。エジミウソンも切れてドリブルの途中だというのに手をぶるんぶるん振って味
方に上がりを叱咤する。個人個人のひらめきと技術で攻めるマリノス。シンクロしてい
る時やハイになっている時は強いが、バラバラにもなりやすい。

そして44分。左サイドを駆け上がった中田。第一戦では上がりを自重していた中田がこ
こであがる。タッチラインギリギリからの「はいセンタリングです」と言い張ったセン
タリングは前に出すぎた川口を慌てさす「はいセンタリングです」だった。

下がりながらキャッチした川口だが、キャッチした瞬間バーに接触してしまいファンブ
ル。そのままボールと一緒にゴールネット突き刺さる。川口捕獲完了。ゴーォォーール
の大声もでない、鹿島サポには笑顔を超えて失笑が出てしまうほどのゴールだった。3-0。
ゲームは川口の凡ミスで完全に決まってしまった。銅像シュートなみの快感。マリノス
贔屓のスーパーサッカーではみられないだろうが、今年のベスト10ゴールに入れたい。

その後も小笠原がミドルシュートを狙ったり、高桑が同じようなボールに同じようにキ
ャッチし、身長差と冷静さを見せ付けて余裕でキャッチしてみせたりした。鹿島余裕の
プレーで前半終了。そしてゲームプラン完了。あとは45分を待つだけだ。

後半開始。鹿島サポーターからは熱烈なヨシカツコール。そりゃそうだ。崇高なチャン
ピオンシップでやってしまったんだから。磐田との心臓の痛くなるようなゲーム、もう
遠い記憶となってしまってはいるが、闘志溢れるベルディとのゲーム、そういうものが
今日の試合にはない。ありがとうヨシカツ。くそったれヨシカツ。

後半になっても鹿島の攻撃が冴える。鈴木のシュート、柳沢がペナルティエリア内で完
璧なコントロール、反転、そして何故かパス。柳沢らしい素晴らしいプレー。鹿島のツ
ートップ、鈴木と柳沢は素晴らしい出来だ。ポストプレー、動き出し、パス、シュート
以外何もいう事はない。DVDで98年のところを検索して観てもらいたい。

そして鈴木。ドリブルはパワプル。相手が詰めてきていても体を生かしてしっかりと
ガードする。足元に来られてもボールをチョイと浮かし押し出して抜け出す。そして普
段よりも速い状況判断。柳沢と分担できるもうひとつのターゲット、ポストプレー。あ
の破壊力があるシュート。

何よりも評価されるべきはその守備とスタミナ。鈴木が自陣深く戻って守るシーンが何
度も見える。それだけでなく、味方が一旦ボールを奪うとそのターゲットになるべく、
ゴールとスペースを生み出すために一目散に走る、走る。走りつづける。さきほど日本
のバティステュータといったが、より言うべきは日本のラバネッリだろう。彼は銀狐と
言われた。鈴木こそ鹿島の金狼と呼ばれるべきだろう。

時間が経過する。しかし鹿島は衰えも驕りもしない。ただ実直に攻め、相手ボールにな
れば瞬時に自陣へ戻り守備態勢を取る。ビスマルクや小笠原もかわりない。むしろ、ボ
ランチやディフェンダーが押さえたところを後からボールを奪いに行く役目をきっちり
こなしていく。一旦ボールを持つと味方のあがりを待つため、しっかりとゆっくりタメ
をつくる。そして相手のプレッシャーがきつくなれば、一瞬でフィールドに転げまくる。

ビスマルクは合気道の家に生まれれば、後世に名を残す名人となっただろう。鹿島は
守るところ攻めるところがしっかりとわかっている、と言われるが、ビスマルクも倒れ
るところと耐えるところを良くわかっている。小笠原が激しく前へ行けるのも、後に
横にビスマルクがフォローに入っているからだ。

来年ビスマルクはいなくなるかもしれない。鹿島が10年後を考えるならば、今の成功パ
ターンを常に捨てていかなくてはならない。ビスマルクが中心となっている事に安住は
できない。鹿島はサントスを、ジョルジを切ったチームだ。自分達が成功していると思
った時、ビスマルクを切るだろう。さびしいとも新しい力に期待できるとも言える。確
実に言えることはひとつの時代だったという事だ。

横浜が攻める時間が多くなった。城や外池を投入するが、外から長いボールを入れるの
み、下手にゴール前でパスを回していくと、鹿島のハーフコートディフェンスの餌食に
なる。この後半何度ターンオーバー(スティール)が発生したことだろう。中田浩二や浩
二の隣の人が走り回る。殆どのボールは彼らのプレッシャーから小笠原や両サイドが奪
ったものだ。中田は大きな体と長い手足を使ったディフェンス、熊谷は無尽蔵なスタミ
ナとクイックネスを活かしきって自陣に入ってきた相手に前を向かせない。

そして鹿島の恐ろしいところは中盤での守備と連動してバランスとマークを崩さずに
守りきる4バックがいる事だ。秋田、ファビアーノという高いレベルのディフェンダー
がいるが、それが個々の力で守るのではなく、二人のボランチと四人のディフェンダー
が一体となって守っている。イタリア人が指揮をしているのだ、カテナチオだ。

去年から散々味わってきた終盤での失点、その悔しさが彼らを強くしたのだろうか。三
点差でも気を抜かない。今の彼らにはまぎれがない。守れと言われればどこまでも守る。
秋田の剛さと自信が、今の鹿島のディフェンスラインを象徴している。決して負けない、
決して譲らない、走り止めない、常に怒りと意志を持っている。秋田は前から好きな選
手だが、ここ数試合の正に鬼神という姿にはまた感動してしまう。

時間は進む。試合は消化されていく。鹿島は攻撃は淡々と守備は激烈に。トニーニョセ
レーゾ、相手が交代選手を使い切るのを見て、本山投入。カウンターで完全に相手を沈
めるつもりだ。・・・・と思ったらそっくりな羽田。3-0のこの後に及んで5バックを選
択してきた。そして、相馬に代えて本田、トドメに柳沢に代えて本山。徹底的に闘うと
いう事はこういう事か。本当に彼はブラジル人なのだろうか。ベンチ前での激情ぶりと
取る戦術との落差は計り知れない。

ロスタイム四分が表示されてもマリノスの選手は点を取る自信はなかっただろう。もし
かしたら早く試合が終わって欲しいと思っていたのではないだろうか。



中田が相手のこぼれ球をサイドラインへ出す。岡田主審の笛が響く。劇的な90分が今終
わった。98年の優勝の次の日から始まった鹿島再生の日々が今終わった。若い力を主力
としたチームがベテランの鉄壁に支えられて、どうにか優勝を遂げた。未完成、というか
まだ産まれたばかりのチームだ。彼らが本当に本当に強くなるのはまだ未来の話だ。

幸い鹿島には鬼のようなジーコとそのジーコに育てられた空きたや本田らがいる。たった
一度の優勝に安心する事はないだろう。

ジュビロやレイソルを圧倒するだけの力を育て、ジュビロに先を越されたアジア制覇、世
界選手権出場を目指すのだ。やっと再びこう言える日がきたのだ。我らーJリーグチャーン
ピオン、我らーJリーグチャーンピオン鹿島アントラーズ、忘れていた歌がサポーターの間
に広がる。やっとここに帰ってきたのだ。今までにない苦しさを乗り越えてきたからこそ、
今日の日が嬉しい。本当に嬉しい。


鹿島アントラーズは
ミレニアムリーグ最後の日に
ナショナルスタジアムで
優勝カップを高々と掲げた。

紅く輝くスタジアムは、
未来のチャンピオン達を
祝福しつづけた。
苦しみを乗り越えて。

いつまでも。

いつまでも。
















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