ANTLERS Diary Ant-mark



2000.11.26  2nd.ステージ 第15節 


鹿島アントラーズ vs
         柏レイソル

     The Load-BackU
        厳格なる戴冠






ふと覚えていることがある。太陽王の許しがでたのか、一点の曇りも無い空。じんわり
と汗のにじみ出るほどの陽気、燦燦と輝く太陽。だったはずなのだが、気がつくと既に
空は薄暗くなっていた。メインスタンドの屋根の間からは深紅色の太陽が見えていた。

太陽があまりにも紅かったためなのか、試合に引き釣りこまれて時が経つのを忘れてい
たせいなのか、その瞬間だけはしっかりと覚えている。それがいつの時なのか、試合は?
まるで覚えていないのだが、沈み行く太陽の紅さだけは覚えている。

もしかしたら、その瞬間から黄色く輝いていた太陽は紅い夕陽に、Jリーグ第15節が柏か
ら鹿島に主導権が移った、その時だったのかもしれない。2年前の11月。冬の寒さと熱気
が混じったあの日が帰ってきた時だったのかもしれない。

鹿島、柏ともベストメンバー。がっぷりと四つに組んだ試合が始まった。始まる一瞬前、
不思議に思ったことがあった。普段どのチームもキックオフから攻める方向は変えない。
通常は前半はサポーターを背負い、後半はサポーターに向かって攻める。しかし鹿島は
替えてきた。太陽は高い。フィールドを交換した南は太陽を見ながらプレーしなくては
ならない。柏の選手は太陽光線を真正面に受けながら攻めることになる。

トニーニョセレーゾの指示があったのだろうか。いや試合後のインタビューで相馬は自
分で決めたと言っていた。これもマリーシア。

前半開始から柏の怒涛の攻めがやってくる。鹿島に取っては予想はしていたものの、予
想以上の鋭さだった。速いパス回しで中、外、中とボールを動かす。そして柏らしい、
最後の外がやってくる。大野が速いボールを送り込み、北嶋へ。そして北嶋が落とした
ボールに外のはずの渡辺がペナルティエリアに侵入してきてセンタリング。逆サイドで
はこれも外の平山がフリーで詰めている。しかしミス!高桑がどうにか押さえる。

柏のサッカーはサテライトでもどこでもこの形。サイドを積極的に利用する。中心的な
ゲームメーカーはいなくとも、サイドに速くボールを回し、サイドがゴールに飛び込ん
でくる。柏の中という制限付きだが、Jリーグ屈指の攻撃スタイルだ。充分に練習を積み、
ボランチやディフェンダーのフォローがなくては、あそこまで攻撃的なサイドは創れな
い。代表レベルでは柏の選手はほとんど呼ばれないのは、柏という環境に特化している
からだろう。

鹿島が開始直後のここで失点していれば、この試合はより激烈なものになっただろう。
鹿島の壊滅的な大敗もあったかもしれない。しかしここで柏がゴールを奪えないことが
この試合の緊迫感を高めた。

鹿島は相手ペースになってしまった試合を慌てることなく、しっかりと守ることで崩さ
ずに繋げていく。鈴木までもが自陣に戻って守備を行い、中田、熊谷も引いてきて柏に
自由に攻めさせない。両サイドも渡辺、平山に押されつつも、効果的な仕事をさせない
よう精力的に走りまわる。そして秋田がファビが北嶋を押さえている。

相手は柏。カウンターを狙おうにも激しいプレッシャーをかけて来るために中盤でのミ
スパスが相次ぎ鹿島は攻めに転じることが出来ない。しかし焦ること無く、すぐに自分
のマークに戻り守る事を続ける。ペースは失っていたのかもしれない。しかし自分達は
見失っていない。

焦ること無く自分達の出来る事を続けていく、秋田や相馬からはそんな気概が見えてい
る。大舞台に小笠原や中田は上がっていたのかもしれない。しかし鹿島には何度もこう
いう経験をしたディフェンスラインがある。彼らが決して崩れない事で若手を支え、自
信を与えていた。そしてその自信がやがて力となって表れてきた。

前半35分すぎから膠着状態は微妙に違うものになってきた。柏の攻撃が素早く激烈な事
は変わり無い。鹿島の攻撃が止められることはかわりない。しかし柏り攻撃には焦りか
ら来る単調さと疲れが感じられ、鹿島の攻撃と守備には何故か余裕が感じられるように
なっていった。柏は鹿島を守勢にたたせるほど強い。しかし、鹿島がいちかばちかのギ
ャンブルをしなくてはならないほど強くは無い。そんな感じを感じさせるほどに。

サッカーは何が起きるのかわからない。どんなに実力差があってもゴールは誕生する。
だから緊張感はなくならない。0-0の緊張感。サッカーのもう一つの醍醐味。しかし
柏の選手はそれを恐れ、鹿島の選手はそれを甘受しているように感じた。


ちょうど太陽が沈み出した頃だったのかもしれない。


後半開始。鹿島の反攻が開始される。相手のボールを奪うと一気呵成に相手のゴールを
狙ってくる。自陣でボールを奪って一瞬で前線へ。そして柳沢が怒涛のドリブルで攻め
こむ。30m近い独走はヤナギの影武者・明神の捨て身のスライディングで止められる。

1分後。秋田のロングパスを柳沢が落とす。拾った熊谷が後へ。小笠原、ビスマルクと
繋ぎ。オーバーラップした中田へ。中田がドリブル。ドリブル突破で相手DFの間をすり
抜け、ペナルティエリアに侵入。中田グラウンダーの折り返し。柳沢が反転しながら、
後のフリースペースへ。走りこんだビスマルクがシュート。この間柏はボールに触れて
いない。鹿島の次々と沸いてくるようなオーバーラップに付いていけない。

柳沢のトラップが味方のオーバーラップを引き出す。鹿島は味方がボールを持つとフォ
ローに走り、スペースに走る。ボールは次々とゴールへ目指して動いていく。相手が完
全封鎖、鹿島と同じほどの失点しかしていない柏でなければ止める事はできなかっただ
ろう。それほどいい攻撃の連続だ。

ビスマルクと小笠原はゲームを動かすダブルセンターとして連動して動く。ビスマルク
がボールを持つと小笠原はターゲットとして前に走り、小笠原がボールを持てば、ビス
マルクはフリーな位置へ移動して、小笠原をフォローする。そして二人からオープン
スペースへ走る味方へパスが飛ぶ。

相手が疲れたのか、鹿島のスピードが上がったのか、鹿島のボールが繋がりだすと、鹿
島は次々とフリーなスペースに現れる。それが益々柏のディフェンスを破壊し、鹿島の
攻撃を継続させる。鹿島の流れがきた。

柏の3-5-2は中盤に5人の選手を置く。そのため中盤では攻撃にさける選手が鹿島より
も多い。しかしそのうち二人はサイドに散らばっているため、大野一人がゲームを創
らなくてはならない。明神はいい選手だがゲームをつくるタイプではない。

鹿島は4人で中盤を創るのだが、中央の4人は流動的に動く。ビスマルク、小笠原はゲ
ームを作り、中田、熊谷はオーバーラップして攻撃参加もする。そして空いているサイ
ドからはディフェンダーも攻撃参加する。

柏がサイドを高く保つためボランチが守備的なのに対して、鹿島は中央という限定した
地域を4人で使うため、互いの位置が近くパスを回してフォローしながらの攻撃が出来
る。サイドバックには過酷な労働を強いるが、相馬と名良橋は無尽蔵のスタミナで相手
ウィングを制圧し、逆にイキイキとして攻めあがる。

鹿島は一人づつが少しづつ味方のオーバーラップをフォローする事で、センターバック
の二人以外全員が攻撃に参加する事ができる。

ビスマルクが右サイドでボールを受ける。それを右にいた中田が受ける。中田の右での
ドリブル。柳沢へのパス。柳沢はワンツーで中田へ。中田は一瞬にしてディフェンダー
をすり抜けシュート。右足だったのが悔やまれる。鹿島の秘めたる必殺パターンも不発
だった。しかしスタジアムは沸いた。中田は凄いボランチだ。しなやかで大胆。

しかし得点は動かない。鹿島も柏を圧倒するほど強くない、という事か。一瞬でも気を
緩めた方がやられる。最終戦の緊迫感。0-0の緊迫感。ビリビリと痺れるほどの空気。

後半30分柏は渡辺に代えて砂川。スーパーサブの投入。しかしトニーニョセレーゾは
動かない。

柏は砂川を投入したが、ゲームの流れを取り戻すことはできない。両サイドは前半に全
てを出しすぎた。ほとんど足が止まり、途中から入った砂川は流れに乗ることはできな
い。柏としてはツートップにパスを出してまかせるしかないが、ここには鉄の壁秋田が
いる。秋田のおかげで去年の得点王と今年の得点王は何も出来ない。秋田は全てを弾き
返す。全てを止める。だから鹿島は攻めることができる。

後半40分近くになってついに本山投入。柳沢アウト。トニーニョセレーゾは延長戦を
意識してここまで延ばしたのか。鈴木が前線でフィジカルを活かしてボールキープさせ、
本山で勝負を決める。鹿島は最後の賭けと延長への布石をここで打った。

後半42分。カウンターから小笠原独走。相手三人にゴール前で止められるがFK。ビス
マルクがサイドに流す。小笠原がドライブのかかったセンタリング。ゴールを越して
ファーへ飛んでいく。そこへ走りこんでいたのは中田。しかしシュートは決まらない。
鹿島の必殺パターン2も失敗。90分の終了。最終戦。優勝決定戦は最後の30分に突
入した。

延長の前、相馬はサポーターを背負って攻めるほうを選択。相馬は後半の流れを大切に
したいといった。しかしもう一つ。隠されたわけがあるような気がした。

延長開始。柏の元気は少し回復した。柏の攻勢が復活した。しかし今度は鹿島もペース
を握ったまま。ボールを奪っては本山を使ってのカウンター。攻撃はめまぐるしく変わ
る。選手は疲れている。しかし最後にゴールネットを揺らすその一瞬を信じて、走る。
鹿島のボールを奪った後のスピードは衰えない。相手も最後の1cmまで足を伸ばしてボ
ールを止めようとする。

時間はドンドン経っていく。本山のドリブルも明神が止める。北嶋へのボールは秋田が
弾き返す。ホンミョンボ、秋田、明神、中田。両チームとも守備の集中力は途切れない。
守ることの大変さ、素晴らしさを見るものに与えている。5万人近い観客は誰も帰れな
い。もう完全に夜の闇に包まれる。しかしフィールドは緑と黄色、そして深紅に輝いて
いる。

延長前半終了。今シーズン残りは15分。全てが15分で決まる。苦しい5ヶ月、15
試合。全ての結果は後15分で。

鈴木のヘッドは外れる。ファンのヘディングは高桑が弾く。いつ決まっておかしくない。
しかし、この激闘を100分以上を見ていると得点が入るというシーンが信じられなくなっ
てくる。それぐらい素晴らしい守備の連続だ。

延長後半7分。ビスマルクのスルーパスから本山が抜け出す。明神に止められるがここま
で来て岡田には笛は吹けない。ゲームはまだ終わらない。

刻々と時間がたつ。鹿島には引分けでも優勝という言葉がVゴール勝ちという言葉よりも
鮮明になってくる。柏のアーリークロスは秋田に弾き返される。もう柏には攻めてが無
い。鹿島はほとんど本山と鈴木だけで攻めて、リスクを背負わなくなっている。

そして延長後半10分。小笠原に代えて本田投入。トニーニョセレーゾの意志は全員に伝
わった。鹿島はここに勝利よりも優勝を優先させた。去年のナビスコ決勝の轍は踏まな
い。恒例のボールキープゲームが相手ゴール側で始まった。ここで緊迫感のあるゲーム
はおしまい。鹿島は、この劇的な優勝決定戦を馬鹿馬鹿しいまでのキープで、恐ろしい
までの現実世界に引きずり戻した。

相馬が選択したフィールド。引分けを狙うのならキープが必要になる。柏サポのブーイ
ングではなく、鹿島の地鳴りのような応援の前で。そう考えたのではないだろうか。

鹿島は勝つことの厳しさを知っている。だから勝つために最善の努力をする。98年の鹿
島はジョルジのゴールで緊張感から解き放たれた。2000年の鹿島は緊張感を持ったまま
120分を戦い抜く。今の鹿島は劇的に優勝できるほど強くない。だからこそ強くなるた
めに優勝するのだ。優勝する事で強くなることができる。今鹿島のキープが見にくいと
言う人達は来年の鹿島の強さに畏怖する事だろう。

そしてロスタイムが二分すぎた。岡田の笛が短くなる。岡田が手を上げている。黄色と
深紅色が時を同じくして地面に座り込む。一方は落胆からもう一方は痺れるような喜び
のために。秋田はまるでエイリアンが飛び出すのか、というような痙攣。120分負ける事
なく相手を弾き返しつづける緊張感は常人には耐えられないものだったのだろう。頭は
冷静に余裕を持って戦っていたが、精神は限界にまで張り詰めていたのだろう。

中田が小笠原が柳沢が中心となっての優勝。二年前ジョルジに頼って、その活躍をスタン
ドで見ていた優勝とは違う。自分達の手でもぎ取った優勝。その経験が彼らの血肉に。

鈴木。7回の移籍を繰り返す。数々のチームを昇格させてきた男は、鹿島を新しい領域に
昇格させたのだろうか。鈴木自身、自分のレベルアップを感じているだろう。鹿島が長く
期待した男はやっと開花した。

秋田、相馬、名良橋、本田、鹿島を支えつづけた鉄壁。彼らがジーコやジョルジから受け
継いだものがあったからこそ、鹿島の若手はそれを感じ、成長し、たぐいまれな才能と鹿
島魂という精神を発揮する事が出来た。



2000年セカンドステージ。鹿島は10勝4分1Vゴール負けの成績でシリーズチャンピオン
となった。予定よりも早い、だが強さを感じさせる新しい王の戴冠式だった。


しかし真のチャンピオンではない。まだまだ強くならなくてはならない。そのためにも
横浜を倒し、リーグチャンピオンとしてのプライドを手に入れなくてはならない。鹿島
の2000年はまだ続く。まだ終わらない。





























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