ANTLERS Diary Ant-mark



2000.07.15  2nd.ステージ 第04節 


川碕ヴェルディ vs
         鹿島アントラーズ

        12人目の王様
        






国立、ベルデイ。7年前はリーグの頂点を目指す戦いを繰り広げていた。その緑虫も今年で解散。かと
思わせるようなサポーターの数。どちらがホームかわからない、という言葉をよく使うが、この試合
の場合、彼らにサポーターという人達はいるのか、と逆に興味を持ってしまう。99年大雨の中の広島
サポの方がサポとしては多かったような気がしてしまう。そんな川崎も今年が最後。来年からはベル
ディ多摩としてがんばるらしい。もう等々力にいかなくていいのか。

今日の鹿島はナビスコで退場をくらった柳沢が出場停止。ツートップは長谷川と平瀬。ボランチは中
田と熊谷。

試合開始。序盤はボールを繋ぐベルディ、ボールを奪って速い攻撃を仕掛ける鹿島という展開で始ま
った。鹿島は前節で磐田に勝って以来、カウンターに酔いすぎて、引き気味になっている。夏だから
なのか、成功パターンに浸っているのか。水曜日にナビスコを挟んで疲労しているのか。速い攻撃自
体は鹿島本来の戦いだから悪くはない。しかし、そればかりを使って楽をしていると後で守備的な相
手と当たったときに苦労する。

何よりも育ち始めている新アントラーズのサッカーに悪い影響を及ぼしてしまう。相手は磐田ではな
い。圧倒的に攻めこんでリードを奪ってから引き気味カウンターになっても遅くはない。

もっともそんな状態でも鹿島はゴール前へ多くのボールを供給した。小笠原がゴール前に飛び込んで
きたり、相馬も何度かオーバーラップからのセンタリングを上げていく。ただチャンスは創れていて
も、基本的には長いパスからのカウンターなので攻撃の枚数が薄い。平瀬、長谷川では肝心なところ
でミスがでてしまう。攻撃が単発で終わってしまい、得点に匂いがしてこない。

平瀬と長谷川のコンビは、一見似ているようで似ていない。両方ともスピードがあり得点感覚もある。
身長も高い。しかし平瀬はサイドに流れるタイプ。長谷川はヘディングで勝負するタイプ。長谷川が
ヘディングで競り勝って、そこから平瀬がフォローしてシュートというコンビが見られればいいのだ
が、今日の二人は離れすぎていて、また感じあえなくて個別に戦っているような感じ。

速いロングパスが主体になっているため、一人がボールをキャリーする形になるのだが、そうなると
ターゲットは逆サイドの一人だけ。柳沢ならばキープしたりドリブルしたりして局面を打開できるが
この二人ではそうもいかない。二人がもっと近くでプレーするか、中盤がラストパスまでお膳立てし
てあげて、二つのターゲットで点を取ることに集中する状態でなければ、今日の堅いベルディの守備
は敗れそうにない。

今日のベルディは速いパス回しできれいに足元に繋いでくる。試合のボールキープ率も高い。守備も
堅い。しかしそれだけだった。パスは繋げても足元だけ。小笠原のように信じられないようなパスが
でる事もなく、磐田のように次々と選手が飛び出してきてパスが繋がっていくわけではない。キレイ
にパスを回していく。確実に速く。でもそれだけだった。華もなく、驚きもない。つまらないチーム
が完成しつつある。まだアビスパ豚骨軍団の方がスピリットが感じられて面白い。

唯一の興味いや脅威は和製オーウェン"チビ"飯尾。ゴール前でのドリブルや動きは得点感覚に溢れて
いる。小さいのに力強さを感じさせる。あれで身長があれば・・・と本人ではないのに残念に思って
しまう。ジェフの佐藤寿とベルディの飯尾。日本期待のエースが揃ってチビという事は日本にとって
いいことなのか、壁となるのか。飯尾を見てふとそう思ってしまった。

後半開始。ベルディは才能の墓場の住人・広長、そして桜井をいれてくる。これでベルディの攻撃に
ドリブルというアクセントが加わり、後半20分まではベルディペースになってしまう。

中田から相馬が切れこみ、右足シュートというシーンもあったが惜しくサイドネット。後はミスの連
続。もどかしくいつか見た試合展開になってしまう。

この危機にトニーニョセレーゾが動く。いい攻撃はあったが疲労から動きの少ない小笠原を内田に交
代。内田を右サイドバックへ。名良橋を右サイドのペネトレイターへ。もう誰も想像も出来ない采配。
内田と飯尾のマッチアップはまさにドキドキ。内田はルーキーとはいえ小笠原が見せた図太さはない。
まだ遠慮や気後れが感じられる。優秀なサイドバックだけに早く実力どおりの力を見せてもらいたい。

トニーニョの動きは終わらない。すぐに長谷川に代えて本山投入。トップ下へ。試合はここから急転
直下。溜められていたフラストレーションは一気に解消へ。

ファビが最終ラインで奪ったボールを中田、ビスマルクへと繋ぐ。自陣内のビスマルクは前を向く。
本山はピクッと動き出し、ビスマルクのパスコースを創り出す。ビスマルクのパスが本山の足元へ。
本山はボールがくる一瞬前、後を振り返り平瀬の位置を確認。右足でトラップ。ゴールへ反転するよ
りも早く平瀬へスルーパスを繰り出す。平瀬はサイドに開いてダイレクトでゴール前へ流す。そこへ
走りこんできた名良橋。惜しくもゴールにはならなかったが、素晴らしい攻撃が。

後に2得点よりもこの本山のプレーにもっとも興奮してしまった。まさに才能の塊。単なるドリブラー
では無いことの証明。可能性の中田。ファンタジスタ小笠原。そして本山の才能。ここに柳沢や曽ヶ
端、野沢、根本まで用意している鹿島。いや本当に恐ろしい。

ヴェルディはここにきて、DFラインとボランチの間にスペースをつくってしまった。また疲れから
スペースを消す動きが鈍い。フレッシュな本山からすれば、誰にも邪魔されない、そこは無人のフ
ィールドに等しい。

そして、後半30分。コーナーキックのこぼれ球を平瀬がペナルティエリアでトラップ。中央でフリー
の本山へパス。本山。ディフェンダー二人の間を通すグラウンダーのシュート。本並の指の先をすり
抜けてボールはゴールへ突き刺さる。ゴォォォォーーーーーーール。本山ゴォーーール。1-0。

このゴールにより鹿島は通常の速攻モードになった。相手が中沢を上げて攻撃的にきたため、カウン
ターが前半よりも有効になった。

後半35分、鹿島のゴールキックを中沢が弾き返す。川崎のMFがトラップしようとした瞬間左サイドか
ら中へ飛び込んできた相馬がそのままボールを奪う。相馬はそのまま中へ切れこむ。相手二人に中盤
で囲まれる。前期の相馬ならもう駄目だろうが、後期の相馬は凄い。相手に背を見せてボールをキー
プ、フッとした間が出来る。相馬はその瞬間、再び反転して二人の間をすり抜けて、ドリブルで突き
進む。一瞬フィーゴ。後期の相馬はみていて本当に楽しい。相馬が出したスルーパスは名良橋へ。名
良橋はペナルティエリアへ切れこみ、ファーサイドへ流しこむ。平瀬が飛び込んだが、惜しくも本並
に止められてしまう。しかし美しい攻撃だった。

そしてクライマックスは再び中田。自陣から中田のロングパスが本山へ飛ぶ。正確なロングパス。本
山が抜け出したところにぴったり会う。本山つま先でボールを誘導するようにトラップ。切り返して
DFを置き去りに。シュートか。いや後から相手の足音から聞こえたのか。本山は再び飛び込んでくる
DFをかわす。一発で二人のDFを抜き、そのままシュート。本山らしい押さえのきいたコントロールさ
れたシュート。逆サイドのネットへ突き刺さる。ゴォォォーーーーーーーーールル。2-0。

本山の、本山のためのゲーム。そんな10分間の完勝劇だった。

鹿島には今11人のベストメンバーがいる。そしてベンチには12人目の王様が存在する。夏場疲れ果て
た70分すぎ。王様がやってくる。誰も王様を阻むことが出来ない。王様はその瞬間フィールドにいる
全ての選手を超えた存在感を示す。その昔、グランパスの森山、鹿島の真中、そしてルーキー時代の
中村俊輔が、サブ時代の柳沢が見せた存在感。

しかし本山の王様ぶりはそれらを超越している。トニーニョセレーゾが言うように本山のようなテク
ニックのあるプレーヤーはどこでも出来る。どんな事でも出来る。ゲームを創ることも、ゴールを奪
う事も、敵を完膚無きまで破壊することも。そんな選手が途中から出てくるのだ。ドリブルで本山に
切り裂かれた相手に同情してしまいたい気分になった。

鹿島には12人目の王様がいる。本山がタッチラインに立った瞬間、スタジアムは狂喜し敵は恐怖に慄
くだろう。



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