ANTLERS Diary Ant-mark



2000.06.243  2nd.ステージ 第01節 


名古屋グランパス vs
         鹿島アントラーズ

        相馬、その永き
        不在からの帰還






セカンドステージ開幕。ベベットはもういない。契約解除。いい人の仮面の裏はラテン的根性無し
だったのか(情けない日本的とは違って、いやになるほど明るく気楽な根性無し)。鹿島は浮いた70
00万円で何をするのだろうか?

優勝争いから既に一年近く遠のいている。今まではケガでなかされ、新監督を迎えてのシーズンで
ギクシャクしていた。しかし今や増田をレンタルで放出したとはいえ、長谷川も戻ってきている。
かなり薄い状態ながら、鹿島にはタレントが勢ぞろいしている。

育成中とはいえ、やはり優勝争いをしている鹿島がみたい。それに今季は10試合を国立と鹿島で行
い、中断前までのアウェーと呼べるのは、今日の瑞穂と関東圏の市原だけ。鹿島には十二分にチャ
ンスがある。

相手はグランパス。瑞穂ではここ最近ほとんど勝った事がないのではないだろうか? しかし今日は
朗報もある。ピクシーがユーゴとしてラストダンスを踊りに欧州へ行っているのだ。ピクシーがい
ない試合では実は10割近い勝率を誇る鹿島。やはり今季は恵まれている。

今日のスタメンは、ケガと病気の名良橋と本田のかわりにデビュー2戦めの内田と熊谷。2トップは
平瀬と柳沢。20世紀最後のステージが始まった。

試合は堅く守る両者がしのぎを削る一進一退の攻防からスタート。中盤でのガチガチとしたプレッ
シャーから中々いいボールがFWへいかない。特にグランパスは致命的。ロペス、福田に当たっても、
誰もフォローはいないし、二人にスルーパスが出るわけではない。それでいてあの二人では自身で
突破はできはしない。結局高い身長を活かしたヘディングのみとなってしまう。

やはりピクシーがいないグランパスはニセモノだ。ピクシーに頼りすぎていないと自分達でゲーム
をつくることが出来なくなっている。鹿島のジョルジ症候群と同じだ。いや鹿島は優秀な次代を獲
得し、その成長にかけてジョルジを切ったのだ。今日のメンバーを見れば鹿島の英断は成功しつつ
ある。

しかし攻められないのは鹿島も一緒。中盤でビスマルク、小笠原がボールを保持できなくて組み立
てることが出来ない。それでも無理やりボールをキープして攻め続けようとしているのだが、それ
がより遅攻になってしまい、相手は益々固くなる。

むしろ熊谷や中田らがいい感じで中盤のボランチとして機能している。名良橋がいないスペースを
利用すべく再三右サイドに上がる熊谷。左よりに引きながら、中盤とDFとの間でリンクマンとして
存在感を見せている中田。代表でトルシエ続投が決まって安心したのか、今日の中田は何かが違う。
それが端的に現れたのが前半27分。中央前目から小笠原が中田へリターン。グランパスの守備の
輪は中田へ迫ってくる。

中田はパスを貰う前に全てを認識していた。ボールが足元にくるやいなや、ダイレクトに左前のス
ペースへダラウンダーの滑るようなパス。そしてその瞬間左サイドにはSOMAがいた。

アジア最終予選。国立でウズベキスタンとカザフスタンを、チャムシルで韓国をパニックに陥れた
SOMAがそこにいた。

相馬は石川康の裏のスペースへ出たボールへ目掛け、完全なタイミングでオーバーラップをしてい
た。そのパスとオーバーラップのタイミングは日本の武器とまで言われた名波と相馬のものだった。

ボールはスペースへ出ている。そこへ走るフリーの相馬。そしてセンタリング。落ち着いて狙いす
まして上げたセンタリングはキーパーとDFの間を通る。精密なセンタリング。ファーの平瀬のヘデ
ィングを防ぐためにグランパスはゴールラインへ弾き返すので精一杯。

この攻撃の前、テレビでは再三相馬のディフェンスが目立っていた。いつもなら相手と一緒に止ま
って、ヨーイドンで相手に振り切られ無理やりファールで止めて衰えたのかと嘆かれていた相馬が
石川康や望月に対して自信を持って一発で奪っていたのだ。

相馬はこのオフ、鳥取へ自主トレへ行っていたという。代表戦でフィジカルを整える春のキャンプ
を抜けてばかりいた相馬。そしてほとんど休みなく戦いつづけた相馬。そんな過酷なスケジュール
が相馬の体を蝕んでいたのかもしれない。

この日の相馬はそんな事が「昔はあった」と思わせるほど、イキイキと動いていた。

このフリーキックはクリアされるが、その後のスローイン。サイドでボールを受けたビスマルクが
鋭いセンタリングを上げる。ファーの平瀬までは届かない。しかしニアーに弾丸のごとく飛び込ん
でくる影。ボールはほとんど着地寸前。DFが足でクリアしようと伸ばす。しかし一歩速く影がボー
ルに到達する。柳沢、物凄いスピードと危険なダイビングヘッド。柳沢によって角度を変えられた
ボールはDFに当たりつつ、ゴールネットへ突き刺さる。ゴーーーール!!! 鹿島先制点。1-0。

この後名古屋がやや攻勢に出るが、それをしのいだ前半終了間際、柳沢と平瀬のコンビで、熊谷の
攻めあがりで何度なくいいチャンスを創る。小笠原や熊谷らは中盤でのボールキープでも、しっか
りとした強さを見せ付ける。いいリズムで前半を終了した。しかし柳沢は平瀬のためにポストが出
来るが、平瀬は本当にポストやパスが雑。なんか1点取ったとはいえ、このコンビの限り、柳沢の
得点王はなさそうだ。まぁ柳沢的に言えばチームが勝てばそれでいいんだけどなぁ・・・。


後半開始。グランパスは積極的に攻めてくる。鹿島はやや受けるような感じ。しかしグランパスは
決定的なパスを出せる選手がいない。中盤で回していくうちに鹿島の厳しいプレッシャーで進路と
パスコースを防がれ、ボールを奪われてしまう。

鹿島はカウンターを心がけているのか速い攻撃が目に付く。熊谷、中田、小笠原らが速く低い長い
パスを出して動かしていく。相馬も走る。内田も上がる。柳沢、平瀬がサイドに走る。

そして後半10分。熊谷が中盤でボールを奪う。センターサークル付近から一気にドリブル。グラ
ンパス人はいるのだが誰も当たりに行かない。熊谷、小笠原へパス。小笠原プレッシャーを受け、
倒れながらの足先でループパスを熊谷に帰す。

熊谷、後ろからきたボールを相手DFラインの裏でトラップ。しかしトラップしたボールは中央に
転がってしまう。ここで飛び出してきた楢崎びっくり。足元に止めてシュートだと考え、前へ
詰めてきていたのに、ボールが流れてしまう。一瞬動きが止まる。一度止まった筋肉の再稼動には
時間がかかる。対して熊谷は動いたまま、流れたボールに対して素早く反応し再びシュート態勢に。
日本代表GK一歩も反応できずゴールを献上。ゴォーーーーール。2-0。

切れてしまったのか、グランパス。この数分後、鹿島陣内でのこぼれ球をビスマルクがパス。セン
ターサークル付近で柳沢が中盤でのヘッドで競り合いで勝つ。柳沢、ビスマルクのパスの前に全て
を確認していたのか、逸らすように右サイドでフリーな平瀬へパス。平瀬はボールへ走りこみその
ままドリブル。柳沢絶妙なパス。そして平瀬の独走。こうなると50m5秒台の脚が生きる。楢崎も
出てくるが、平瀬走りながらの一対一は無敵。ペナルティエリアへ侵入、余裕を持ってシュート。
ゴォォォォーーーーーーール。3-0。

鹿島勝利を確定させる。普段は興奮のあまりベンチ裏を見ていないので、交代選手のことを忘れて
いるトニーニョセレーゾ。今日は落ち着いている。というか手堅すぎる采配。柳沢を本田へ交代。
平瀬を本山に交代して中盤を強化、ゼロトップへ。

トレスボランチ気味にして、本山をトップ下へ。トップはいない。

今日の相馬はやはり違う。普段狂ったようにあがる名良橋がいないためか、内田では荷が重いため
か、相馬が何度も何度も上がっていた。普段と違うは気がついたら相手陣内に完全に侵入している
こと、そして味方からもスペースへパスがやってくることだ。

普段の相馬ならば一度ハーフラインで止まってしまう。そこで一度パスをもらい、近くの本田か中
田へ預け、もう一度縦に走って足元にパスをもらおうとする。確実だがスピードはでないし、相手
も寄ってくるので自力で抜けださなければ展開は開けない。

しかしこの日の相馬は果断に相手陣内へ一気に上がっている。そしてチームメイトもしっかりとそ
れを認識していて、相馬の走る先へパスを出していく。相馬は止まることなくセンタリングにだけ
集中していればいい。

相馬のよさは判断力、スタミナ、守備力。自分で打開する力はない。しかしパートナーさえ得られ
れば優秀な猟犬のごとく走りまわり、決定的な働きをする。今日の相馬、いやこのセカンドステー
ジの相馬はチームの左サイドのDFとしてではなく、チームの決定的な仕事をする左サイドバックと
して存在していた。

阿部がその存在を消し、中田はなかなか理解していなかった相馬がそこにいた。

この後も二本、三本と相馬の突破が見られた。ある意味3点取ったゴールよりも私には至福のとき。
年上の人がカズや中山に、年下の人が小野や中田に自身を投影するように、私にとっては相馬が
自分にもっとも近い存在なのだ。だから衰えたと言われていた相馬の活躍は必要以上に嬉しい。

名古屋は攻めてくるが、もともと得点力はない。さらにピクシーもいない。鹿島は今年ディフェ
ンスに関しては充分堅い。決して負ける事はない。そして失点する事もない。

3-0のあと、平瀬に何本もの決定的なチャンスが訪れ、本山も独走からのシュートがあった。熊谷
にも恐ろしいばかりのチャンスがあった。柳沢がいれば5-0くらいのスコアは可能だったのではな
いだろうか? しかしトニーニョセレーゾは手堅い守備とサブメンバーの練習、そして恐らくこれ
から続く連戦に備えてFWを温存したのかもしれない。

試合終了。3-0。まったく危なげない勝利。名古屋の調子が悪くてこの勝ちに調子にのってはなら
ないと反省したくなるような勝利。しかし鹿島とて名良橋がいない状態での勝利。本田が完全で
ない状態での勝利なのだ。相馬がその永き不在から戻ってきての勝利なのだ。鹿島にはやはりまだ
可能性がたくさんある。











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