ANTLERS Diary Ant-mark



2000.05.06  1st.ステージ 第11節 


ジュビロ磐田 vs
          鹿島アントラーズ

  いつまでも果てしなき
        そして、熱く濃密な






98年5月5日。99年5月5日。そして2000年5月6日。対戦カードを作成するJリーグ関係者には
敬意を表したい。ゴールデンウィークの暖かい日差しの中、そしてほぼ快晴が望めるこの日
々に、鹿島と磐田の戦いを用意してくれることを。願わくば両チームの勢力が如何になろう
とも、この日を用意してもらいたい。

そして試合はスケジュール担当者の狙いの如く、見るもの全てにサッカーの面白さ、興奮、
そして残酷さを示すものとなった。

鹿島のスタメンは、出場停止者が全員戻り、恐らく自主的な出場停止者のベベットを除くベ
ストメンバー。高桑、名良橋、秋田、ファビ、相馬、本田、中田、小笠原、ビスマルク、柳
沢、平瀬。個人的には中田ではなく熊谷なんだが・・・。

対する磐田。オール日本人で望む。誰?尾崎、そして最強リベロの福西、田中と鈴木。服部
と奥、藤田。山西と川口のウィング。そして二等兵こと高原と中山。ハンデのGKを除くとこ
ちらもベストメンバー。

試合開始。鹿島は試合開始からいつも以上のスピードで攻めこむ。開始1分の攻撃も鹿島が
パスを速く回し、ファビアーノのロングパスを柳沢が落とし、なんと上がってきた本田がス
ルーパス。失敗するが今日の鹿島は速い。そしてコンパクトだ。小笠原、中田、本田、ビス
マルクがかなり近い位置にいる。近いからパスも細かく速くまわせるし、守備となるとなる
と一瞬にして複数人でプレッシャーをかけられる。

そしてFWも連動するようにプレッシャーをかけにいく。平瀬と柳沢が中盤の人間のように動
き回り、ゲームメイクに参加する。

試合はこの鹿島のペースのまま、一気に動き出す。ファビアーノのロングパスをサイドで受
けた平瀬。下手。下手だが粘る。相手にプレッシャーをかけられ得意のスピードにのったド
リブルが出来ない。しかし前へ進もうとする。無理な態勢。倒れそうになる。しかし踏ん張
る。一度、二度踏ん張る。そして無理やりながら前へ出る。三度目に倒れながら小笠原へパ
ス。

磐田の選手は、平瀬の倒れながらの粘りに、一瞬一瞬取れたと思って動きが止まってしまっ
ていた。小笠原がボールを持った瞬間、フリーになっている。小笠原ドリブルで中央へ切り
こみ、シュート。バーあたり真下へ弾かれる。ゴールインかと思ったがそのまま外へに弾き
返される。しかし柳沢が飛んでいた。柳沢がヘディング。柳沢がゴォォォォォォォーーール。
柳沢ついに今シーズン初ゴール。鹿島1-0。

試合はそのまま鹿島ペースに。磐田がボールを中盤にもってくると一瞬にして本田と小笠原
、ビスマルクに囲まれ、ボールを奪われる。奪ったボールは前線へ即座に運ばれる。柳沢が
ポストで受け、小笠原へ。小笠原から左右に散らされ、ビスマルクとサイドが絡む。速い。
速い。鹿島の攻撃が速い。

その原動力はさきほど0.8点ほどのゴールを記録した小笠原。小笠原は前節の出場停止時に
スタンドから鹿島が0-3で沈んでいくのを見て、勝ちたい気持ちが足りないんじゃないかと
思ったという。そしてその気持ちをこの試合では遺憾なく発揮した。ビスマルクへの遠慮も
ない。ペース配分も無い。高校選手権で見せたお山の大将のようなプレーもない。ダイレク
トパスを出し、即座にスペースに走りこみ、ボールがでなければ後ろに戻ってサポート。そ
して前が開ければシュートを貪欲に狙いにいく。小笠原から闘志が放射されているようだ。

選手は試合前いろいろな手段で精神統一をする。音楽を聴くもの、テーピングや靴の手入れ
をするもの、目をつぶっているもの。小笠原はどうしているのだろうか。小笠原は試合前の
精神統一の時、去年のあの日、鹿島の勝利がほぼ確定されたかと思った瞬間、靭帯負傷でフ
ィールドを去ったことを思い出していたのだろうか。小笠原に期するものを感じる。

磐田の攻撃は両サイドから速い攻めがくるが単発。鹿島のディフェンスラインがきっちりと
押さえている。そして一転鹿島の猛攻が続く。コーナーキックからの3連発シュートは決ま
っていればもっと速く試合を決めていただろう。

鹿島は攻撃を続けるが、だんだんとイヤな雰囲気になってくる。平瀬が前線でボールにタッ
チして落としたボールがほとんどミスで奪われてしまう。小笠原やビスマルクがパスのコー
スを消され、苦し紛れのパスがゴールラインを割る。少しづつ少しづつ鹿島は自分たちのリ
ズムを放棄していく。今日の中盤はダイナミックなのだがフィニッシュが雑すぎる。

前半30分。磐田相手にこのままペースを掴みつづけられたらというのは甘かった。ここまで
死んでいたような山西がオーバーラップ。サイドに高原がきたため、名良橋がマーク。山西
がフリーになりボールが出る。名良橋が必死に追いかけるが間に合わずセンタリング。速く
そしてニアに弧を描くように落ちてくる。そこへ中山動きながらヘディング。ベテラン。絶
妙。見事という言葉しかないゴール。1-1。

このゴールで眠っていた磐田が目を覚ます。磐田の中山の攻めに活気が出てくる。藤田が中
盤を走りまわる。先ほどまでは孤立していたがパスがどんどん繋がっていく。鹿島も懸命に
走り回ってカバーする。前半終了。

後半開始。小笠原のエンジンはまだ火を吹いたまま。小笠原が中田ヒデばりの中央を突き進
むドリブルでゴール前へ。そしてオーバーラップしてきた名良橋へ。名良橋センタリングは
失敗するがいい攻撃。

名良橋、本当にここ数試合はベストの状態。チームも彼のスピードを生かそうとギリギリの
タイミングと距離にわざとパスを出していく。相馬のサイドが川口のためにいい攻撃が出来
ないため、逆に名良橋がガンガンと攻めていく。なぜトルシエは見ていない。山本コーチは
見ているのか。

しかし名良橋が上がっていく分、そして高原をケアするため中央に絞りつつ守るため、山西
がフリーになっていいセンタリングを上げる。山西といえば97年のチャンピオンシップで初
めて見た。そのときは一瞬のフイをつかれて失点した相手という印象しかなかったが、この
試合ではそのキック力と正確なセンタリングに脅威を覚えた。ジュビロはまだいい選手を育
てている。

磐田の攻撃が段々と冴えてくる。服部がいい感じで攻撃に顔を出してくるとパスが繋がる。
そして磐田のパスが繋がりだすと一気にゴール前まで持ってこられる。そのパス、そのスピ
ード、やはり磐田はチャンピオンチームだ。

鹿島の攻撃は形にならなくなってくる。平瀬がポストとしてゲームメイクとして使えないこ
と。そして柳沢があまりにもいいパッサーすぎることが原因だ。平瀬にそういう仕事を求め
るのは無理だ。彼はそのスピードを生かして前のスペースにボールを出してあげるしかない。

逆に柳沢はいいポストプレーができるばかりに攻めに向かっていない。中盤でボールを受け、
ビスマルクに返した後、ビスマルクの後ろをまわってウェーブしてくる。自分がフリーにな
るいい動きかもしれない。ビスマルクのパスコースがなければもう一度受けられる態勢を取
っている。しかしビスマルクにとっては確実にターゲットをひとつ失っている。柳沢にはも
っと鋭い反転をして欲しい。攻撃の最後の受け手になれるよう、動いて欲しい。なぜならど
んな状態でもゴール前で鹿島一鋭い動きが出来るのはやはり柳沢なのだから。

磐田がペースを支配する。シュートも何本も撃ちこまれる。高桑がファビが秋田が必死に耐
えている。川崎戦のようなキレタプレーは決して見せない。そういう意地が感じられる。

そうしてその耐えた事が報われる。柳沢がしっかりとキープ。柳沢のうしろを名良橋がオー
バーラップ。柳沢中央のビスマルクへパス。ビスマルク、ダイレクトで名良橋へスルーパス。
名良橋、福西に付かれながらセンタリング。福西に邪魔されてゴールを割る。いや割らない。
ボールは急激なドライブで落下してくる。尾崎の手の先を超えてなんとゴールイン。
鹿島幸運なシュートで2-1と再びリード。

しかしリードは一瞬。磐田のコーナーキック、福西がゴール前でトラップ。後ろへ流す。高
桑飛び出すが、既に中山シュート。これがきまって2-2。再び激闘は続く。

少しつづプレッシャーがルーズになってくる。同点に追いついた磐田の方が消耗している。
連戦の疲れか。鹿島のパスが再び回り出す。試合はまさしく五分と五分の展開。そしてノー
ガードの撃ち合いに。柳沢一人を除いて。

38分。ビスマルクから名良橋へロングパス。オーバーラップした名良橋。低いマイナスのセ
ンタリング。中央で平瀬がサイドへ流す。サイドには柳沢。柳沢は撃たない。ディフェンダ
ーを抜きにいってシュートを撃たず相手に奪われる。一瞬だけ柳沢を殺したくなった。

40分。鹿島陣でビスマルクがボールを奪う。一気に駆け上がる。3対2。両サイドに柳沢と平
瀬が広がる。ビスマルク、ぎりぎりまで引き付けて柳沢へパス。柳沢。距離はあるがフリー。
なんとパス。平瀬が受けてヘディングでそのまま折り返す。中央へきたビスマルクがシュー
ト。ゴォオオオオオーーーーーールと思いきや、バーに当たって真下に。開始4分と同じ位置
で同じ状態。副審はゴールを認めるが主審は流す。柳沢、熊谷と交代。

トニーニョが柳沢より平瀬を買っているとは思えない。柳沢はひざをアイシングしていたが
アレだけ走っていたのだ。負傷とも思えない。得点が取れないFWを下げたのだ。初得点を取っ
ただけにここからの爆発を期待したが、柳沢はまだ復活してくれない。

もう中盤でボールを奪う体力はない。そして両チームが攻撃的なチームだけに一瞬でゴール
前までやってくる。恐ろしく派手な、恐ろしく緊張するシーンが続く。そしてその雰囲気が
衰えないまま、一時中断のホイッスル。90分終了。延長へ流れ込む。

延長開始。鹿島はなんと平瀬までを降ろす。そして今季初出場の本山を投入。本山がFW。小
笠原が前目に。ビスマルクが中央に。熊谷と中田と本田がトレスボランチの格好。恐るべし
トニーニョセレーゾ。4-6-0を実現。大丈夫か。

同点に追いつかれてから延長開始、そして試合終了までの時間はまるでスペインサッカーを
見ているような攻めぎあい。まさにサッカーの醍醐味を感じさせる。それをみてサポーター
も興奮する。悲鳴と歓声が交錯する。空間は熱気を含む。濃密な濃密なフットボールのため
の空間。

そう去年の5/5。あの日とまったく同じ感覚。そして98年のチャンピオンシップでも感じた空
気。ゴールが決まれば終わる。そんな一瞬で終わる空間だというのに永遠に続きそうな錯覚を
してしまう。サッカーの面白さ、攻撃の興奮。守備の恐怖。カウンターの快感。セットプレー
前の静寂。全てがつまった空間だった。磐田にきて良かった。これからもこの試合だけはライ
ブで見ていたい。

FWに入った本山。スペースがこれだけあって、本山のスピードがあれば充分通用する。しかし
ワントップ。常に相手のDFの方が多い状態。一人はかわせても二人目でひっかかる。そのかわ
り鹿島は全員でオーバーラップを繰り返す。名良橋、熊谷、そして名良橋。名良橋はこの時間
になっても、まだトップスピードで走り込んでくる。後ろから走ってきてまるで本山とツート
ップのようにシュートを狙う。恐るべし名良橋。

磐田も最強リベロ福西が上がってくる。福西の攻撃センスは凄い。一番後ろで見ているからな
のか、ここぞという時に出てきて、きっちりとフィニッシュまで持っていく。磐田も恐るべし。

トニーニョ、この撃ち合いにラテンの血が騒いだのか、頭にきたのか、なんと三人目の交代。
しかも相馬と増田。中田を下げて3バック。これで、3-7-0。増田は左ウィングに。名良橋は
右ウィング。本田と熊谷のボランチ。ビスマルクが中央。小笠原と本山が前線を走りまわる。

増田と本山が絡む。いつかは見たかったダブルドリブラー。ふたりの関係がこなれれば、凄い
サッカーを見られるのだが。あまりにも短すぎた。キープできて裁ける増田。スピードとセン
スの本山。これに名良橋を加えた0トップの攻撃は恐ろしいドリブラー達の競演となった。

延長前半終了。残りは15分。ここで磐田の足が止まり出す。ボールを鹿島陣へ運べなくなる。
鹿島が中央で奪い、一気にドリブルを掛ける。中盤を厚くしているためでもあるが鹿島が試合
を支配している。しかし逆にトップは一枚。いいフィニッシュが出来ない。このまま引き分け
なのか。

延長後半7分。試合を動かしたのはまたも山西。磐田陣から一気にロングパス。山西絶妙なト
ラップ。低いセンタリング。それを中山トラップして前にいた交代で入ったラドチェンコへ。
山西を追いかけて歩いていた名良橋のためにラドチェンコ、オフサイドを免れる。ラドチェン
コ、フリー。高桑必死に追いかけて手で足とボールを払う。

主審、倒れたラドチェンコを見て笛を吹く。・・・・ペナルティアークを指差す。PKだ。ゲー
ムは一気に動く。鹿島サポ側だけに怒号のような叫びが。磐田側からは歓声が。

ラドチェンコ、ボールをセット。しかしベンチの指示は中山。メインで磐田サポに囲まれてい
たにも関わらず「中山、いつもの調子でたのむぞ」と思いっきりいってしまう。

いつも、は中山だけではなかった。インファイトはいつものようなネットを揺らす暴虐な行為。
主審も注意するが、聞くわけも無し。磐田はいい加減ネットを改修すればいいのに。そしてビス
マルクはいつものように中山に纏わりついて何を言っている。彼はクリスチャンだけどアマゾン
奥地に伝わる呪いの言葉でもしっているのだはないのか。

そして中山、いつものように豪快なキック。そして高桑が飛ぶ。去年の夏、まるであの時と同
じように中山のボールを弾く。怒号と歓声が入れ替わる。脳みそが真っ白になるような感覚。
秋田がタックルのような勢いで高桑に抱きつき、喜びを示す。

プレーは続く。延長後半10分すぎ。名良橋からのクリアボールをビスマルクがトラップしよう
とする。しかし一瞬遅く左ストッパーに下がっていた服部に取られそうに。ビスマルク肘を出し
て止めに行く。服部退場。しかし延長になってラドチェンコ、清水、三浦と交代を出していた磐
田は選手交代ができない。

このプレー、ビスマルクは確実に肘を出していた。負傷させるために肘撃ちを狙ったのではない
が、肘を出してまでも攻撃を遅らせようとしたのだ。そこへ全速力が服部が。ビスマルクの行為
はレッドカードもの。しかしなぜかイエロー。この日の主審、激しいプレーを流しつづけて本田
や福西、奥のラフプレーにもカードを出さなかった。プレーが止まらず流れはよかったが、その
ためか、イエローのみ。鹿島は助かった。

ビスマルク、悪逆なのは肘を出したことだけではなかった。

プレー再開後、ビスマルクはボールを受けると服部がいなくなった磐田左サイドのボールを出す。
名良橋が全速力で走りこみ、前方をルックアップ。巻くようなスルーパスを前線へ送る。これを
本山が受ける。DFがくる。GKが飛び出す。本山渾身のフェイントでこれをかわす。スピードに乗
っているため、もう目の前はゴールライン。しかし本山は躊躇することなくゴールへ向けてパス
を出す。

ゴールへのパス。その言葉を実践するような正確で綺麗な弾道を描いたボールはファアサイドの
サイドネットを揺らす。ゴォォォォォォォォォォーーーーーーーール。鹿島Vゴール勝ち。そして
本山J初ゴール。熱戦に濃密な空間に終止符を打つ、素晴らしいゴール。

赤と青のクラシコ、息苦しいばかりの戦いはここに終わった。酸素欠乏症に陥りそうな午後だった。
鹿島は服部の負傷も含めて、幸運な勝ちを手にした。川崎戦の敗戦を忘れたくなるような戦いを見
せた。小笠原のフルタイムの出場とそのパフォーマンス。ファビアーノは足を攣りながら中山を押
さえつづけた。本田もビスマルクも名良橋も素晴らしいプレーを見せた。

しかし本当の真価は次の試合。この試合で見せた闘志が本物だという事を、次のレイソル戦で証
明して欲しい。そしてホーム鹿島スタジアムでも。今日のような試合をみせてくれれば、4万人
を埋めることができると断言できる。

また鹿島のサッカーが見に行きたい、そう言われるような鹿島であって欲しい。



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