ANTLERS Diary Ant-mark



2000.04.29  1st.ステージ 第09節 


ヴィッセル神戸 vs
            鹿島アントラーズ

  ビスマルクのいない土曜日
        鹿島ハポネスの戦い






市原戦。今季初の無得点試合。そしてビスマルクの累積警告。また天佑かベベットも負傷のため
欠場。おまけに試合途中でトニーニョセレーゾが退席という事態。ビスマルクのいない土曜日、
ではなくブラジル人のいない土曜日となった。(ファビアーノの立場は無い)

今日のスタメンは増田投入という予想を裏切って、本田、中田、熊谷、小笠原という中盤。小笠
原一人が前目で、残り三人はトレスボランチという形。ツートップは平瀬と柳沢。U23代表4人で
攻撃を彩る。

試合はビスマルクのいない土曜日に戸惑っているのか、慎重なのか、平瀬が合っていないか、ボ
ールが落ち着かず、ヴィッセルに再三奪われゲームを支配できない。おまけにベルコーラはイエ
ローカードが好き。小笠原とファビアーノが出場停止となるイエローをもらう。

しかし試合は徐々に鹿島ペースになっていく。キーになったのは小笠原と中田、そして平瀬。彼
らはブラジル人のくびきを逃れる事で、自由にフィールドを走りまわった。普段ならばビスマル
クに渡してお終い、の中田が積極的にパスを前線に送っていく。柳沢へ通したロングパスは通り
はしなかったが、中田らしい糸を引くような美しい弾道のパスが出た。そして、ゴール前へサイ
ドに上がって、ダイレクトでショートパスを通していく。ボールを持つ瞬間ビスマルクを探して
はいない。中田は中田の意志でパスを出していく。

小笠原も自分のペースでプレーしていく。今日は消えることは許されない。積極的にボールに絡
んでいく。今日は自分が一人ボランチとフォワードをつなぐ役目。横パスも出せない。小笠原は
囲まれても半身だけ相手の前に出す。そして正確なパスを前線に出していく。

そのボールを追うのは平瀬。今日が最後のチャンスと腹に決めたのか、前半から何も考えないス
プリント。走って走って走りぬく。オリンピック代表に呼ばれたばかりの頃、試合終盤になると
必ず足をつっていたあの平瀬がいた。ポストプレー駄目。トラップ駄目。急げば急ぐほど雑に
なってシュートに結びつかない。それでも平瀬は走りぬいてチャンスを作ろうとしていた。

前半20分過ぎ、その平瀬から右のオープンスペースにパスが出る。オーバーラップしてきた名良
橋ボールをトラップしてドリブル、強烈なセンタリング、柳沢惜しくも届かないが、この一連の
攻撃が今日の鹿島の攻撃を象徴していた。

いつもはトニーニョの足元に正確な繋いで運んでいけという指示、そしてベベットやビスマルク
といった遅い選手がいるため、スペースへのパスではなく、足元へ繋ぐ攻撃になっていく。しか
し今日は違う。ヴィッセルは右に偏っているのか、鹿島の中田、小笠原らに引きずられたのか、
右サイドをほとんどオープンスペースにしてしまう。そこへ小笠原のロングパス。受けたのは熊
谷。熊谷もこの試合、ビスマルクの欠場でチャンスを得た人間。しかし彼のプレーからは、少な
いチャンスに焦る感じがない。落ち着いて足元でボールを止める。相手が近づいても急がない。
ゆっくりと中を見つつ、上がりを待つ。そしてパス。・・・右サイドに。

恐らく名良橋の声が聞こえていたのだろう。決定的なタイミングのパス。そしてそのパスは相手
に取られそうなほど名良橋からは遠い。しかし名良橋の速さを十分に理解したパス。名良橋は
減速することなくダイレクトにセンタリングを上げる。

それに反応していたのは平瀬。GKとDFの間を通す速いセンタリング。平瀬はファーからダイビン
グ。その長い体を完全に伸ばす。渾身のジャンプ。体ごとゴールに飛び込むような勢い。ボール
は平瀬に激突し、ゴールへ突き刺さる。ゴォォォォォォーーーーーーーーール。1-0。

試合は後半へ。鹿島の日本人たちは益々活き活きと動きだす。無得点の柳沢もゴールには嫌われ
つづけたが、強引なドリブル、局面を一気に変える速いダイレクトパスで最前線で起点となる。
そのボールを小笠原が繋ぎ、中田が、相馬が、熊谷が飛び込んできて絡む。名良橋は何かに取り
つかれたかのようにペナルティエリアに侵入してきてフィニッシュに絡む。

これほど活き活きとした名良橋はひさしぶり。普段は守備で苦しい中を必死に守っている姿が多
い。ボランチのように中盤にしぼってまで守るシーンも多かった。しかしこの攻めこそ名良橋本
来の生き方。トルシエは右サイドにアタッカーが欲しかったら、名良橋か中西を呼べばいいのに。

ちなみに名良橋、小笠原、平瀬からは柳沢への過剰なラストパスあり。柳沢に点を取らそうとい
う意志が見え見え。

バテきった神戸。怖いのは和多田と黒崎くらいか。しかし鹿島も点が取れない。1点リードしてい
るので、それほど焦りはないがそれでもキツい展開。小笠原に飼えて増田を投入。しかしパッサー
がいなくなっては増田もいきない。中田にその役目を求めたのかもしれないが、中田はわかって
いない。

後半30分過ぎ。日韓戦での疲れの見える柳沢を金古と交代。金古は次節ファビアーノの出場停止
でスタメン。ここで試合に慣れさそうというトニーニョの考えか。センターバックに入った金古。
ファビアーノがボランチに。中田が更に前に上がる。

日韓戦では柳沢を代えた途端に相手DFに上がられて失点。しかしここ日本では柳沢を代えた途端に
追加点。代えてメンバーがよくなったわけではない。おそらくこの時間から出てくればベベット
でも点を取れたろう。

コーナーキックのこぼれ珠を相馬がシュート。GKが弾くがペナルティエリアの中田の前へ。中田し
っかりと落ち着いて、なぜかフリーの平瀬の前へ。相手が一人上がりそこねたためオフサイドはな
い。平瀬完全にフリーの状態でゴールへ叩き込む。ゴォォォォーーーーール。2-0。

神戸の白昼夢は終わらない。その1分後、中田に持って上がられてシュート。GK弾くのがやっと。
しかも正面に。再びなぜそこにいるのか平瀬。再びフリーでゴールを決める。平瀬なんとハット
トリック。3-0。

柳沢と平瀬。なんという運の違いか。数値で表せれば全て柳沢の方が上。しかし平瀬のここ一瞬
にかける気持ちは柳沢を大きく超えるのだろう。そこにいる、それだけで得点を取る。まさにFW
の鏡のような男。伊達に大きなT田と呼ばれてはいない。(って私だけがそう思っているのか)

鹿島3-0。今季ひさびさの快勝。そして鹿島らしい勝利。何よりもチームの雰囲気を一気に上げる
勝利。あとはこの流れをトニーニョが大切にしていけば「勝つことで自信がつく。自信を持つ事
で勝利する」という鹿島が持っていた王者のポジティブシンキングが復活する。

次節はついにホーム、鹿島スタジアム。相手はベルディ。圧勝の舞台は整った。







Back