ANTLERS Diary Ant-mark



2000.04.08  1st.ステージ 第06節 


鹿島アントラーズ vs
            ガス東京

  実力以前の勝利
        実力以下の戦い






昨年夏の清水戦では鹿島も全然駄目だが清水もどっこいどっこいの出来、という印象だった
アウェーでの清水戦。しかし今季の清水にはスコア以上の完敗。優勝ラインが3敗で磐田戦
を残す今、もう1敗で今季の優勝は無くなる。

そんな時期の富山巡業。相手はなぜか首位のFC東京。鹿島のスタメンは現在トニーニョセレ
ーゾのベストメンバー。相手はツートップに都知事と副知事ツィットを要し、右サイドには
日本のベッカム、俺たちのユキヒコもいるらしい。あぁ恐ろしい。

試合開始。開始五分。鹿島ゴール前に入ってきたボールを高桑がスライディングで押さえる。
しかしその瞬間ボールへ走ってきた副知事と衝突。ファンブルしてボールを奪われる。副知
事難なくゴールを決める。0-1。

高桑。温和な顔でせいでよくわからないが、物凄い気合がはいっている99-2ndのような試合
もあれば、今日のような一瞬気が抜けてミスをするような試合もある。曽ヶ端の存在が危機
感となっていないのか。もし優勝戦線から離脱するような事があれば、鹿島もGKの並立を考
えた方が今後10年のためにはいいのではないかと思う。

1点は失ったが、その後は完全な鹿島ペース。日産ラグビー部のスタントオフの中村俊輔に
「部活サッカー」と言われた東京ガス陸上部がどのくらい走りまわって守備をするのかと思
ったが、攻撃にも守備にも磐田や名古屋を破ったという輝きは感じられなかった。得点した
事で省力モードに入っていたのだろうか?

中盤ではビスマルクが激しくマークされ存在感が薄くなるが、逆それ以外の選手がほとんど
プレッシャーを受けることなくプレーが出来た。小笠原は自由自在にゲームをつくり、今ま
で下がり気味から飛び出すというポジションではなく、ほとんど1.5列目というプレーで攻
めこみ、(あいかわらず宇宙へ向けて)シュートを連発する。名良橋は中盤まであがってきて
は中に絞ってほとんどMFとしてプレーを行う。

ボール扱いに難があり、磐田からは殆どの試合でターゲットになる本田でさえ自由にパスを
出していく。ビスマルクさえ押さえれば後は自由にやらせてもよい、という判断だったのだ
ろうか。現実に失点は無かったし、それは当たっていたのかもしれない。

しかし鹿島と東京との差は、そんな適当な戦い方で勝てるほど少ないわけではなかった。

鹿島のツートップは柳沢とベベット。ベベットは日増しにコンデションと試合感が上がって
いくのがわかる。この日はチーム一のシュート5本。DFに当たる惜しいシュートも何度かあっ
た。そして必要な場合は一生懸命走ってプレスに参加していく。前半20分すぎには見事なシ
ュミレーションからPKも獲得。恐ろしい、とか世界一という称号には程遠いが、一応FWとし
ては存在していた。

去年8番にはあまりに動かなく地蔵と言われたマジがいた。そのマジよりも頑張っているよう
に感じてしまうのは、やはりその甘いマスクと、悔しそうな顔からか。マジはほとんど苦笑
いだったしなぁ。ただスペースメイキングの力はマジとは比べ物にならない。マジは自分で
ボールを要求しドリブルで突っ込んでいくタイプ。パスする事はあってもそれは空いている
スペースへ味方が入ってきた場合。マジがストライカーらしい9番だとすれば、ベベットは
もっと幅広い11番。

後半バテて最前線に残るベベット。中盤でボールを受けた柳沢。柳沢がドリブルでゴールへ
向かう。ベベットは柳沢の前を横断するような斜めに移動する。相手DFも引き寄せられるよう
に。柳沢、ベベットへパス。ベベットはダイレクトで自分がいたはずの場所へ。そこには完全
にシンクロしていた柳沢が既に待っている。シュートは惜しくも外れたが、ベベットと柳沢の
可能性を感じさせるシーンだった。

チャンスメーカーとストライカーが組むとか、ポストプレーとシャドウストライカーという話
ではなく、柳沢とベベット、お互いのプレイイメージのシンクロによって二人のFWの動きが、
まるで三人目のFWが存在するかのようなプレイを見せてくれるのではないか。ブラジル人の本
番、そして柳沢がもっともギラギラするはずの夏に期待は行ってしまう。

前半はこのまま終了かと思われたロスタイム。中盤でビスマルクが蹴ったFKを、こっそりとト
ップに上がっていたファビアーノがバックヘッド気味に叩き込み、同点で前半を折り返す。

ファビアーノ。開幕戦の時は「リカルドよりは全然使える」という程度だったが、この試合ま
での落ち着いて破綻のない守備、つまりアクロバチックなプレーを必要としない守備は、少な
くと室井を放出した傷はほとんど無いといえるものだ。

この試合でも都知事を完全に押さえきり、(一説には開始直後に秋田が潰していたという話も
ある)またバックラインからのいいパスも出していた。次節セレッソ戦を無失点で押さえきれ
ば、本物といえるだろう。まだレンタルなのが残念。しかもロドリゴのレンタル未払金のため
只というおまけつき。金古、羽田らの成長次第だが移籍でもいいのではないか。

後半開始早々、東京は喜名を投入して中盤を活発にしようとする。48分、名良橋がほとんど直
線にゴールへ向かってドリブルを開始。珍しくかましたフェイントが利いたのか、二度にわた
って相手守備陣をぶち抜く。

そしてゴール前へ流し込む。キーパー飛び出すが間に合わない。ファーサイドで待っていたベ
ベット、後は触るだけ。ゴールへパス。しかしワールドクラス。ゴール前1メートルあるかな
いかというタッチで、ボールをクロスバーへぶち当ててしまう。信じられないプレー。小笠原
がヘディングで飛び込み、額を強く打ちながらもゴールに叩き込まなければ切腹していただろ
う。

小笠原の気迫のこもったプレーで鹿島ついに逆転。2-1。この後も攻めこむが追加点は無し。
しかし、横浜戦の悪夢はなく、東京も名古屋、磐田に見せた強さを見せることなく90分が過
ぎ、鹿島の勝利。富山では二戦二勝。これで来年も3月とかに巡業しそうな気がする。

しかしツートップを完全に押さえ込み、中盤ではビスマルク以外はほとんど自由、ツートップ
はさすがに後半はバテバテだったが(ベベットはガス切れ、柳沢はそのカバーで)、それでも
何度もチャンスを創ることは出来た。

そんな状況でも辛勝のようなスコアしか残せない。原因はいくつかある。FWの得点力不足、
相馬のサイドのビルドアップがほとんど無いこと、しかし何よりも中田の淡白過ぎるプレイが
鹿島の中盤の可能性を狭めていると思う。

トニーニョセレーゾがあれほど中田に肩入れするのは、5人目のDFとしてではない。代表のフ
ラットスリーのような遅らせるプレーと奪うプレーを期待してでもない。ボランチとしての中
田の可能性を信じ、その恵まれたフィジカルとパス能力にあるいは自分自身を投影したいのか
もしれない。

しかし実際の中田は本田の後ろで本田の上がったスペースをカバーしているか、中盤でボール
を受けて、ビスマルクへ渡しているだけ。ゲームへの参加が希薄なのだ。中田の実力ならば、
深い位置から正確なロングパスを繰り出すことができるはずで、それは秋田の蹴るロングパス
よりも使えるもののはずだ。

中盤でボールを持ったままフリーならば、スライドの大きいドリブルで中へ切れこみ、左の相
馬のオーバーラップを誘発してもいいだろう。右サイドのナラがロングパスを繰り出すならば
ファーでターゲットとなって、柳沢を助けることも出来るはずだ。

中田は唯一何でも出来るスーパーマン、リベロになれる可能性を持っている。守備もパスも、
フェイントはないが迫力はあるドリブルもある。ヘディングもある。なのに今は自分の力を
単純なディフェンシブハーフで留めてしまっている。守備は確かに向上した。しかしそれ以外
のものを失って向上しても意味はないのだ。

中田がゲームを創れれば、ビスマルクはもっと上がってフィニッシュに近い仕事が出来る。そ
うなれば柳沢のポストする時間も減って、シュートの体制を作りやすい。鹿島の攻撃はジョル
ジがいた時のようにふたつのセンターを持つことが可能になるのだ。

強い鹿島の復活には、強く中心となれるボランチは不可欠なのだ。それを中田が認識しない
限り、鹿島は今日のような実力以下の戦いで勝利を得ていくしかない。



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