ANTLERS Diary Ant-mark



2000.03.11  1st.ステージ 第01節 


鹿島アントラーズ vs
       名古屋グランパス

  あの日のサッカーを思い出した
        





90年代最後の名古屋戦から4ヶ月。2000年最初の戦いは、あの戦いで頂点を極めた名古屋
が相手だった。舞台は鹿島が苦手とする国立。ユニフォームも監督もそして多くのメン
バーを新しくした鹿島の2000年が始まった。

今日のスタメンは、高桑、名良橋、秋田、相馬、本田、ビスという去年から面々に、DFフ
ァビアーノ、ボランチに中田、中盤に小笠原、そしてツートップにはオリンピックの舞台
で花開くはずの柳沢と平瀬のコンビ。ベテランは全員日本代表、残りはすべてオリンピッ
ク代表。鹿島の層は確かに薄くなったが、そのレベルは高い。市原やガンバの「若手のレ
ベルは高い。育てばチームも強くなる」とはレベルが違う。一級品のタレントに経験とい
う得がたい物を与えるために、あえてベテランを売り飛ばしたのだ。

試合は序盤いきなり動いた。前半11分。左サイドからのビスマルクのFK。ファーで待つ秋
田の頭を超えて流れる。名古屋は秋田にばかり気を取られて、さらにファーにいた中田を
フリー。中田のヘッドは力はないが何故か決まる。ゴーーーーール。2000年ファースト
ゴールは中田。いまや鹿島で数少ない代表様だ。

鹿島がこの一点を守りきって、名古屋を下した。結果を書いてしまえば一行でおしまいだ
が、この試合スコア以上に鹿島k強さをサッカーの面白さを教えてくれた。

この試合、もっともすばらしかったのはビスマルク。ついで本田だ。この二人すでに30歳
だというのに、その気配は微塵も感じさせない。本田は全盛時の本田よりもうまく、ビス
マルクは7年前に来日した時のように躍動的で強かった。

ジョアンカルロスはあえてビスマルクをマークする戦術を取らなかったという。真偽はわ
からないが、それほどビスマルクはドリブルで相手を突き破り、果敢にゴール前に飛び出
してきた。そして強いキープ力、見事なダイブ。今日の22人。もっとも華麗でうまいのは
ピクシーだが、もっともゲームを支配していたビスマルクだった。

そして本田。度重なる怪我で今年は帰するものがあったのだろう。しっかりとフィジカル
を鍛え、カバーに走りまわっていた。そしてシンプルで速い球捌きで鹿島の攻撃にリズム
を創っていた。

一度など、中盤でボールを受け、ディフェンスにきた相手をフェイントで軽くかわしてド
リブルでゴール前へ。やっているのが増田ならなんでもないが、本田だけにスタジアムは
多いにどよめいた。

そして奇跡でも見ているのだろうか。本田の何度かのシュートはしっかりとした力のある
シュートで、なおかつ枠に飛んでいた。

彼らベテランが動けば残りのメンバーが走らないわけがない。鹿島が中盤でしかけるディ
フェンスは美しい。ひさしぶりにそう思えた。去年ならば複数で囲んでもミスで取りそこ
ない、ポッと気を抜いてドリブルで中央突破。人はいるが見ているだけ、無理やり取りに
行っているという感じがあった。

しかし今年の集中力は違う。相手がボールを持つと一人一人がパスコースを封じながら
円のような動きでエリアを狭めてくる。そして限定されたパスコースにパスを出すと
円の外には既に誰が押さえていてインターセプト、持ちつづけていれば奪う。なぜかボー
ルが鹿島の選手に出るのはそれだけ力強くあたっているからだろう。

中盤が囲い込み、DFが奪う。中盤がサイドに追い込めばサイドバックがインターセプト。
面白いようにボールを奪っていく。名古屋が悪いというよりも鹿島が変わってきた、いや
もう一度全員の意志がトレーニングによって統一されてきたのだ。ジュビロからも鹿島は
ボールを奪っていたのだ。それはそう、名古屋のジョアンカルロスが鹿島で見せた全員守
備、まさにその光景が再現された。より洗練された形で。

ディフェンスでいえばファビアーノも安心してみていられた。とはいっても前任者がリカ
ルドなだけに誰でも安心できるだろうが。しかし彼はリカルドのように「アブナイ」とい
う日本語を一番に覚えるような感じはないし、モゼールのように赤いユニに赤いカードが
よく似合うという感じでもない。少しは期待できそうだ。

そして小笠原、柳沢、平瀬。小笠原はこの試合、ビスマルクの代役ではなく、ビスマルク
と並ぶプレースタイルを見せた。ビスマルクが"中田"のように中盤を支配すれば、小笠原
はゴール前でFWを助け、攻撃を創っていく。

かと思えば守備の時にはディフェンスラインまで下がってボールを奪い、FWに正確なロン
グパスを供給する。ビスマルクを押さえれば押さえるほど小笠原のよさが見えてくる。
小笠原とビスマルク、そして本田と中田とサイドバックが奏でるハーモニーは、忘れかけ
ていた鹿島アントラーズのパスだった。攻撃的で素早く、そして何よりもわくわくする
パスがFWへと繋がれていく。鹿島の試合で勝って面白い、戦っていてドキドキする、とい
う試合はあっても、パスとアタックにこれほど楽しさや美しさを感じたのはいつ以来だろ
うか。

平瀬と柳沢、天国と地獄を見たコンビ。そして観客席にはベベトがいる。その中で開幕戦。
そして0点。FWとしてこれだけすばらしい中盤がいて0点とは誉められたものではない。相
手が代表GKの冷静な方というのが唯一の慰め。実際伊藤だったらと思うシーンが何度あっ
たことか。

彼ら二人で有能で速く何度裏切られても期待させる何かを持っているのは確かだ。
平瀬のスピードはやはり武器となり、何度も何度も相手の左サイドを突き破っていた。
そしてそのスピードを生かし、ゴール前に飛び込んできてゴールを襲った。

柳沢。もっとも心配だった。しかしそれは杞憂だった。何度かポストプレーでミスがあ
った。が前半縦のクロスした平瀬に出したラストパスといい、その動きは"往年の"といい
たくなるものがあった。コンディションと自信さえあればこのぐらいは出来て当然。柳沢
なのだから。

得点にこそならなかったが、試合終了間際のカウンター、平瀬が左サイドから出した低い
センタリング、ゴール前に飛び込んでくる一陣の風。DFを引きつれたまま柳沢がスピード
に載ったままダイレクトボレー。

惜しくもGKに弾かれたが、それはまさにあの日のサッカー。世界一のACミランをより攻撃
的でより自由なサッカーで打ち破ったサンパウロ。センタリングはレオナルド。ゴールを
決めたのはトニーニョセレーゾ。

そんなことをあのシュートは思い出させてくれた。柳沢と平瀬、ビスマルクと本田、小笠
原と中田。そしてDF陣。かれらが全員で奏でたハーモニーは美しい。鹿島の試合をみてひ
さしぶりに、そんなことを思い出させてくれた。




それにしても名古屋はしょぼい。ピクシー孤軍奮闘。来年も現役続けさせる作戦か。






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