7月13日:Cassis 予定より1時間以上遅れてマルセイユ空港に到着した。 マルセイユ空港の2階のガラス張りの回廊を通りエスカレータで到着ロビーに降りる。 娘が飛び上がって手を振っている。実に10ヶ月振りの再会である。 お互いに「お父さん!元気?」「おまえこそ元気だったか?」の掛け声でまったく昨日まで一緒にいたようなそんな感じ・雰囲気である(毎日電話をかけていたので当たり前か?)。 自分の持ってきた重たい荷物を娘が引っ張りながら空港の正面玄関近くにある高速バスの乗り場へ行く。ここで10分程度バスの来るのを待つ。来た路線バスに乗りそのままエクスに向けて出発。 飛行場から離れるとすぐに高速道路に入る。 丘陵地帯が広がる田園風景の中を100km/hでバスは走る。景色を見ていてすぐに気がつくのは、切通しとなって土が露出している部分は赤い土と白い土が層を成していることである。赤いといっても真っ赤ではなくかなりくすんで白っぽくなった土壌で、赤と言うよりはピンクといったほうが良いくらいの土である。 30分も走るとエクス・アン・プロヴァンス市街に入る。 高速バスの停留所で下車する。 娘は再び荷物を引っ張って、エクスの街を先導して歩く。 道路は裏道に入るとかなり狭い。 しかも天然石を砕いて平らにした石畳となっている。ある程度・・・何世紀にもわたって・・・踏み固められたのだろう、歩いていてそれほどでこぼこ感はないのだが、我が怠け足には結構きつい。 そのため、車輪のついたスーツケースを転がしていくためにはどうしても良い道を選ぶことになり、そのために遠回りとなる。 バス停から30分も歩いたところで、やっと娘のアパートに到着した。 外観はかなり古く汚れも付いているのだが、入り口のドアを開けると、実に綺麗に手入れされており、娘の部屋も想像していたよりもずっと綺麗で広いのに驚いていしまった。 やっと着いたことでここで少し休んだのだが、時間はまだ午前11時である。 シャワーを浴びて疲れを洗い流し気分を一新し、すっかりリフレッシュして眠気を一掃した。 今日はこれから娘の建ててくれた見学スケジュールに従って行動することにした。 最初にマルシェ(朝市)を見学することになっているらしい。 マルシェは午前9時頃から始まり午後1時までやっているという。 娘のアパートからマルシェが開かれている市庁舎前までは歩いて数分の距離である。 マルシェではいろいろなものが売られているが、その中でも食料品の売り場は圧巻である。新鮮な野菜や果物が豊富にあり、しかも、いかにも美味しそうに整然とディスプレイされている。トマトやパプリカやイチゴの赤とバジルやアスパラやズッキーニの緑がよく調和して、この色を見るだけでもこれらの食材そのものの新鮮さが伝わってくる。嬉しいのは食材を小分けして発泡スチロールとラップで包んでいないところである。直接手にとって感触を確かめることもできるし、香りも嗅ぐことができる。 もちろん野菜ばかりを売っているわけではない。肉屋やハム・ソーセージ専門店、チーズだけ扱っている店、あるいは、オリーブオイルとハーブだけを扱っている店などがある。 これがみんな簡単な仮設テントや車の荷台などを利用して行っているわけだ。活気はあるし客は多いしで、毎日でも買い物に来たくなってしまうのではないかと思った。 野菜も肉もみんな新鮮なので自分の家に冷蔵庫なんて要らないんじゃないかと思えるほどである。また、この食料品の売り場から少し離れた場所では、日用雑貨や服なども売っている。観光としてゆっくり楽しもうと思えばとても1時間や2時間では回りきれないほどである。 しかし、今日はそんなにゆっくりとは見学ができない。腹が空いているからである。見学より先ずはお腹を満たすことが必要だ。娘の提案でサンドイッチを食べることになった。 先ず、マルシェのパン屋さんのところで大きく切り出してもらったフランスパンを求めた(おいおい、バゲットを客のリクエストに応えて切り売りしているよ!)。そしてそのトイメンにある肉屋で大ぶりの厚いハムを2枚購入してパンにはさんでもらった。そして最後にチーズ専門店に行き、日本で言えば市販のカマンベール程度の大きさのハーブ(ローズマリー)チーズを2つ購入した。 つまり大ぶりのフランスパンに厚手のハムをはさみ、更にその中にこのハーブチーズを挟んで食べようということになったのである。 マルシェの傍らにある公園のベンチでこのボリューム満点のサンドイッチを食べてみた。 美味い。 歯触りが良い。 カリカリのフランスパンとハムのしっとり感が実によく、これにハーブ(ローズマリーが中心)たっぷりのチーズの香りが素晴らしい。 ハーブチーズはミスマッチと思っていたのであるが、そんなことは全くなく、まさに杞憂であった。 バクバクと食べてしまう。が、さすがに全部が大ぶりであるため食べきれる量ではない。 「じゃぁーこれはおやつに」 ということで半分ほど残ったサンドウィッチを紙袋に包んでバックに仕舞うことにした。 あとでお腹が空いたときに、もう一度食べる心算である。 ここは街の観光案内所みたなところである。 中に入ると、案内窓口がいくつかあって、その周りの棚には、エクスや近隣観光地のパンフレットや割引入場券などが置いてある。 国内外の旅行者は最初にここに来るということが常識らしい。 フランスのどんな小さな町にもOffice du Tourismeはあって、その地区の宿泊・観光等についていろいろな情報を丁寧に教えてくれるという。 また、バスなどのチケットを予約したり、あるいはその場で買うこともできる場所なのである。 シンボルマークは「 i 」、つまり、インフォメーションの頭文字である。 今日は既に予約してあったCassisまでのバスの切符を受取りに立ち寄ったという。 つまりこれからCassisへ行き、そして戻ってくるという。 そのOffice du Tourisme前からバスに乗りカシに出発。約1時間のバスの後、今度はバスを降りてプチトランに乗る。バスの止まったところから港近くまではかなり急な下り坂で距離もある。バスの到着に併せたかのようにプチトランが待っていてこれに乗って数分で港の入り口に到着するのである。このプチトランを降りるときに、ここに戻ってくる時間を決めることになり、午後4時半に集合ということで合意した。 今度はプチトランを降りて、歩いて港まで行く。 海の香りがする。 港を囲むように建つ家々は明るい色の建物が多い。 港町特有の魚の匂いがしない。 港には漁船もあるのだがヨットやクルーザーなども沢山留まっている。 最初に立ち寄ったのがアイスクリーム屋。 真っ赤な木いちごのアイスクリームを食べる。 甘味と酸味が効いていて日本ではなかなか食べられないアイスクリームである。 岸壁の前にあるベンチで涼みながらアイスクリームを食べる。 今日は暑く、アイスクリーム屋の周りに人が群れている。 ベンチに座りながら前を見ると、時刻表らしきものがある。娘に聞くと、遊覧船の出発時刻と料金表だという。 最長は2時間15分で17ユーロ 次が1時間30分で14ユーロ 1番短いのが45分で11ユーロである。 海の方を見るとチョット荒れているようだ。それでも地中海クルーズ初体験をすることにして、プチトランの集合時間などの関係から、最短の45分のコースを選んだ。実はこれが大正解だったのである。 船が港から出るとコバルトブルーの地中海の真中に放り出されたようになる。 遠くに切り立った岩山ががそのまま海に突き刺さっているような大景観。波を掻き分けて進む船のしぶきがすごい。 このため往路は頭から波を被りずぶ濡れ状態になる。 さすがに他の観光客も閉口しているようだ。 ところがいくつか小さな入り江に船が入るとまったく外海の影響を受けず、波静かの入り江にヨットやクルーザーが停泊している。 その船上や周りの岩場にある平らな場所では皆が日光浴を楽しんでいる。 さすがフランスと思ったのは、若い女性達がトップレスで日光浴を楽しんでいることだった。目の毒(「保養」になったと書くべきか?)ではあったが、長旅に疲れた体にはフォッと寛ぐ一瞬でもあった。 紺碧の海から引き上げてきて今度は、喉の乾きにつられて小さなカフェに入った。 ここで生ビールをぐびぐびと飲んでしまった。 結局、Cassisを出発下のは午後5時半過ぎに・・・エクスには午後7時過ぎに到着した。 エクスからCassisの往復路ともセザンヌで有名なサントヴィクトワール山を見ることができた。 エクスに帰り着いた午後7時過ぎにビクトルユーゴー通りでは警察官の観閲式に遭遇した。 時間は7時を過ぎていたのだがまだまだ明るいのである。 20分ほど見学後食事へ。 サラダ、バゲットにサーモンのクレープ包みと次々と出てくる。 ワインは2000年プロヴァンス産のロゼ、これは別料金ということになる。 この名産ワインを飲む前に、プロヴァンス名物のアニス酒を一杯飲んでみる。 「パスティス」という名前らしい。 これは娘からのリクエストで、日本人では好みが分かれるが、お父さんはどう思う?ということらしい。 冷たい水とともに運ばれてきたものは4分の1ほどしかグラスに入っていないのだがこれは常識とのこと。 そのままでチョット生ので呑み、強い酒の風味を確かめてから、水を注ぎ自分好みの濃さに薄めて飲むということらしい。 透明な酒に水を注ぎ入れることで白濁する。 そのまま飲んでも十分に美味い。 水を加えたものは口当たりが柔らかになってもっと飲みやすい。 実に個性的な味と香りで本当に美味い。癖になりそうである。 料理は多すぎるくらいで前菜が終わってすでに腹は8分目まで達している。 ワインを飲みながらメインを食べて腹12分目。さらにデザートで腹14分目となって食事は終了・・・そのままアパートへ帰る。 ところが午後9時を過ぎても空に太陽が居残っていて昼間のような明るさである。 明るいというよりは昼間の時間がすごく長いのである。 レストランからの帰り道、あちこちにあるレストランでは外に張り出した食事席は満員で、明るい中、ワインやらビール、パスティスを飲みながら賑やかな食事の真っ最中であった。 こんな風景を見ていると、自分がまだプロヴァンスのゆったりとした時間の流れに溶け込んでいないことに気が付く。 とりあえず今日は娘のアパートに帰り、再度シャワーを浴び疲れを取ろう。 |